シドの国   作:×90

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278話 いざ勝負!

〜ダクラシフ商工会 国会議事堂“ダクラシフ商工会議所”〜

 

 大統領ガナタアワシャが、国刀である眠姫(みんき)ヤクシャルカを引き連れて閣議室へと向かう。目的は、夜に控えているイチルギ元総帥との会談に向けての内容の擦り合わせ、もとい対策会議である。

 

 廊下を進みながら、ガナタアワシャは隣をフラフラと歩くヤクシャルカに咎めるように訊ねる。

 

「起きてるか? 周囲の様子はどうだ?」

「ん〜……。使奴は……いないっぽいっすけど……」

 

 ヤクシャルカは寝ぼけ眼を擦り、真紅のポニーテールを振り子のように揺らして眠気に抗う。

 

「ぽいでは困る! どっちなんだ!! いるのか、いないのか!」

「い〜……ない。いない……かも……」

「っ……。全く……!! 国刀の自覚を持て!! ヤクシャルカ!!」

「あい〜……」

「クソっ……。カーガラーラと言いお前と言い……!! どうしてそうも暢気でいられるんだ……!!」

 

 怒りで早足になるガナタアワシャ。廊下の角を曲がると、そこには2人のメイドが立っていた。

 

「……“ピスカリテ”と“トマ”か。随分待たせるな」

 

 ガナタアワシャの文句に、ピスカリテと呼ばれた女性は悪びれる様子もなく朗らかに微笑む。

 

「呼ぶのが急なんですよぉ〜ぅ。こっちもお仕事あるんですからぁ〜、もっと余裕を持って呼んでくださいよぉ〜。ねぇ? “坊っちゃま”?」

 

 坊っちゃまと呼ばれたメイド姿の“大男”は、長い黒髪の隙間から光る眼鏡のズレを直して無言で頷く。そこへ、少し遅れてヤクシャルカがフラフラと追いつく。

 

「あーっ! シャルカさん! お久しぶりですぅ〜! 会いたかった〜!」

「んぐえ」

 

 ピスカリテがヤクシャルカに抱きつくと、ヤクシャルカは呆気なく押し倒される。

 

「あれ? ちょっと太りました? ダメですよぉ〜ぅシャルカさん綺麗なんだからぁ〜。またインスタントとかファストフードばっかり食べてるんでしょぉ〜!」

「苦しい……離して……」

「あはははー! お腹もちもち〜!」

 

 ヤクシャルカに続き、余りに暢気なピスカリテ。そして無言で棒立ちのままのトマ。ガナタアワシャはとうとう我慢出来ずに声を荒らげた。

 

「お前ら!! ことの重大さが分かっているのか!! 相手は使奴なんだぞ!! それも1人や2人じゃない!!」

 

 その怒号に、ピスカリテがへらへらと笑って振り向く。

 

「分かってますよぉ〜ぅ。もう」

 

 鞄から書類を取り出し、ヤクシャルカに抱きついたまま読み上げる。

 

「境界の門からは獄帥イチルギさん。他には、ラルバ・クアッドホッパーさん、バリアさん、カガチさん、ナハルさん。使奴は5人ですねぇ。人道主義自己防衛軍からは嵐帝ジャハルさんと、ヒダネの総指揮官のハザクラさん。他にも強そうな人が3、4人……。頭数では負けてますねぇ。あはは」

「……し、調べがついていたのか!? 何故もっと早く報告しない!!」

「じゃあもっと早くに呼んで下さい〜。自分にできないこと他人に強いるの、やめた方がいいですよ〜」

 

 終始黙っているトマも、仁王立ちのまま深々と頷いている。

 

「〜っ!! もういい!! それで、勝算はあるのか!?」

「ん〜。まあまあそこそこってとこですかねぇ」

 

 ピスカリテは指折り数えながら明後日の方に目を向ける。

 

「向こうが一方的に襲って来てくれれば返り討ちにはできますよ〜。私も坊っちゃまもシャルカさんも防衛向きですしね〜。探し出して仕留めるってなると〜私達はいいですけど、多分大統領さん達死んじゃいますよ〜。どうします〜?」

「……どうもこうもないだろう」

 

 ガナタアワシャが鷲鼻を鳴らす。手汗が滲む手を強く握り、真っ直ぐと前を睨む。

 

「必要があれば出てもらう。元より、使奴相手では退路に活路はない!!」

「へー。次の大統領さんに挨拶しておいた方がいいですか?」

「こちらから出向く必要はない。次が誰になろうとも、どうせ彼らの方から墓参りに来るだろう」

 

〜ダクラシフ商工会 国会議事堂“ダクラシフ商工会議所” 閣議室〜

 

「皆、忙しい中ご足労頂き感謝する」

 

 ガナタアワシャが頭を下げる。円卓には防衛大臣、財務大臣、司法大臣、その他十数名が席についている。

 

「聞いている通り、現在我が国に、境界の門から、イチルギ元総帥が滞在している。また人道主義自己防衛軍からはジャハル総指揮官とハザクラ総指揮官。ブランハット帝国からボブラ・ブランハット国王。訪問理由は観光とのことだが、東方諸国の惨状を見るに秘密作戦であることは間違いない」

 

 改めて告げられる事実上の侵略行為。しかしどの面々も漫然とした態度で、慌てる様子のも者はいない。

 

「この2ヶ月奴らの監視を続けていたが、ヘレンケル皇太子と接触があったことと、先日”玉座陥落“のプレイヤーとしてボブラ国王が現れたことから考えるに、奴らの狙いは我が国の経済崩壊ではないかと推測される。ハグヴァルラさん」

 

 その呼びかけで、経済産業大臣がせせら嗤いながら資料を読み上げる。

 

「あー、どうも最近、貧乏連中相手に金をばら撒いてる奴がいる。素性は判明してないが、まあイチルギの手下だろうな。どっから持ち出した金かは知らんが、とんでもない額だ。カーガラーラが飛んだのを見るに、カジノから盗まれた金だろうな!」

 

 当て擦るかのような物言いに、財務大臣が思わず立ち上がって口角泡を飛ばす。

 

「何を証拠に言うかこのハゲ!! おたくらの見積もりが甘いんじゃねぇのか!?」

「馬鹿言うなよ百貫デブ!! 通し番号が最新の紙幣を、なーんで貧乏人が溜め込んでんだよ!!」

「お二方」

 

 大統領の一声で、2人は不満そうに鼻息を荒らげつつも口を閉じる。

 

「カーガラーラのことに関しては、ひとまず置いておく。喫緊の課題は、来る経済混乱への対応――――」

「あーガナタさん、経済面は問題ない。元より給付金を配る予定ではあった。こんなドカンと配られちゃあ多少の暴動は起こるだろうが、いずれにせよ死ぬのは貧乏人連中だけ。適当に強盗事件でもでっち上げりゃあメンツは保てる」

「……不本意だが仕方がない。感謝します、ハグヴァルラさん」

「問題はイチルギが何を言うかだ! あのお節介、まーた人様の政治に文句つけるだろうな!」

「その点は問題ない」

 

 ガナタアワシャが合図を送ると、閣議室の扉が開かれる。

 

「国刀、“眠姫(みんき)ヤクシャルカ”の他に、“ピスカリテ”と“トマ”にも護衛についてもらうことにした」

「おはざ〜す……」

「おはようございまーす!」

「…………」

 

 3人の勇士の登場に、閣議室は少しの静寂を挟んで笑い声が上がり始める。

 

「大統領の心配性も困ったもんだな。そこまでせんとも、ヤクシャルカ1人でどうとでもなろうだろうよ」

「念には念を、だ。現に、ピスカリテから新たな情報が入っている。ピスカリテ」

「はいはい〜」

 

 ピスカリテは大臣らに資料を配り始める。そこには、イチルギの他に4人の使奴の写真が挟まれている。

 

「これは?」

「イチルギさんサイドの使奴ですね〜。調べた限りでは全部で5人! シャルカさん1人には厳しい相手ですよ〜」

 

 場が凍りつく。自分達の見通しが甘かったことに、誰もが冷や汗を浮かべた。しかし、ピスカリテはひとり笑顔で話し始める。

 

「と言うわけで! 私達3人が会議所に常駐することになりました! 最悪戦争レベルの大乱闘になるので、最上級の待遇をお願いします!」

「取り敢えず寝てていいですか〜……。なんかあったら起こして……」

「………………マンゴースムージーを下さい」

 

 静まり返った閣議室で、ガナタアワシャが咳払いを挟み再び口を開く。

 

「診堂クリニックから貰った例の機械もある。その他にも、“なんでも人形ラボラトリー”から譲り受けた使奴除けの呪術もある。安心して欲しい。私は常に最悪を想定して動いている」

 

 その自信と気迫に満ちた眼差しに、大臣らは割れんばかりに拍手を送る。賛辞の洪水を浴びながら、ガナタアワシャは決して頬を緩めず虚空を睨む。

 

「さあ、勝負だイチルギ……!!!」

 

 その時、閣議室の扉が唐突に開かれる。拍手が止み、皆がその方向に目を向ける。

 

「あっつ。クーラーぐらい点けろ馬鹿がよ」

 

 そこにいたのは、スヴァルタスフォード自治区、悪魔郷の皇太子。ヘレンケル・ディコマイトであった。

 

「なっ、ヘ、ヘレンケル皇太子……!?」

「とっくに帰国したはずじゃ……!!」

 

 驚愕に固まる大臣らを待たず続けて入ってきたのは、スヴァルタスフォード自治区国刀、闇妃(あんき)ヤクルゥ。

 

「おいヤクルゥ、クーラー点けろ」

「は、はい」

 

 思わぬ実力者の登場に、ピスカリテとトマが姿勢を変える。しかし、さらに続けて来客が現れる。

 

「なんだこのクーラーは。48年製? 金持ちは家電もヴィンテージを好むのか。理解し難い」

 

 三本腕連合軍、東薊農園工場長。ティスタウィンク。

 

「冷えればなんだっていいよ! てか換気しよ! 加齢臭すごいよ!」

 

 グリディアン神殿、大統領ザルバス。

 

 3人は言葉を失って固まる大臣達には目もくれず、閣議室の壁際に置いてある椅子に勝手に座り始める。そこで、ガナタアワシャが冷静を装って低い声で威圧する。

 

「……入国連絡を受けた覚えはないのだが。情報の行き違いだろうか」

「ヤクルゥ飲みモンくれ」

「あ、はい」

「私はコーヒーを。ペットボトルのがあったはずだ」

「あ、はい」

「おい勝手に入れんな片メガネ」

「私ビール!」

「あ、はい」

「テメーも自分で持ってろザルバス!」

 

 ガナタアワシャを無視してワイワイと騒ぐ3人。大臣らはとっくに我慢の限界を迎えているが、ガナタアワシャの選択を待って口を噤んでいる。ピスカリテが怒りに震えるガナタアワシャに耳打ちをする。

 

「どうします?」

「お帰り頂け……!!」

「やめときな」

 

 いつのまにか、ピスカリテの隣に茶褐色のローブを被った女性が立っていた。ピスカリテは驚いて腰の武器に手を掛けるが、ローブの女性は全く物怖じせずに言葉を続ける。

 

「と言うより、早く逃げたほうがいい」

 

 ローブの女性はヤクシャルカとトマの前を堂々と横切ってヘレンケル達の方へ向かう。その時3人は気が付いた。自分達がこの女の接近に気が付かなかった理由を。

 

「シャルカさん、あの人……」

「……うん。“一般人”だね」

 

 使奴の奇襲を警戒し過ぎていたために、非戦闘員である武の欠片もない女を警戒できていなかった。しかし、それでも納得はできない。ただでさえヤクルゥの登場で気を張り詰めていた3人の懐へ潜り込むなど、並の人間ではない。

 

「……結局、利口なのはカーガラーラだけだったな」

 

 ローブの女はザルバスの隣に腰掛けると、ビールの缶を受け取って目深に被っていたフードを捲り上げる。

 

 その年老いた相貌は、大臣らどころか、ピスカリテ達の記憶にもなかった。

 

「はあ、めんどくさ……。やっぱ早めに死んどくべきだったか」

 

 爆弾牧場、宰相。ヒヴァロバ。

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