シドの国   作:×90

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293話 幽霊屋敷

〜カナデヤ一門 呪いの森 幽霊屋敷 門前 (ハザクラ・ラデック・ボブラサイド)〜

 

 

 森の中にぽつんと佇む木造の屋敷。かつては純白に塗られていたであろう壁面は無惨にひび割れ、今は蔦がその表面の大部分を覆っている。素焼きの屋根材もボロボロに崩れて、下からでも屋根の崩れ落ちた部分が見える。庭は背の低い雑草が一面を覆い、苔生した屋外用家具が寂しそうに取り残されている。

 

「ここが……幽霊屋敷……」

「人は住んでなさそうだな……」

「テラスにラウンジャーがある。シスター達を寝かせよう」

 

 屋敷の裏手側にある木製の寝椅子にシスター達を寝かせる。ハザクラは屋敷を暫く見上げた後、テラス全体に結界を張った。

 

「隠蔽主体の防壁魔法だ。もし探索中に何かあったら、ラデックが防壁を割って皆を連れて逃げてくれ」

「俺は残ろうか?」

「いや、俺かお前1人じゃボブラを守りきれない。かと言ってボブラ1人を置いて行っても意味がない。もし異変があれば感知できるようにしておく」

「そうか」

「すまねぇ。足手纏いで……」

「あ、いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。ハピネスよりか100倍マシだ」

「ハザクラ、それはどっちかって言うと(けな)してる」

「……すまない」

 

 3人は再び入口の方に回り、扉に手をかける。

 

「……罠はないようだな。鍵も開いてる。……いや、開いてるんじゃなくて壊れてるだけだな」

「ハザクラ、少しやってみたいことがあるんだが、いいか?」

「どうした?」

 

 ラデックは後ろを振り返り、珍しく自信に溢れた笑みを見せる。

 

「……碌でもないことじゃないだろうな」

「まあ見ていてくれ」

 

 すると、彼は唐突にその場で服を脱ぎ始めた。ボブラがギョッとして一歩後退(あとずさ)る。

 

「うおっ。気ぃ触れてんのか?」

 

 だが、ハザクラは何かに気付いて問いかける。

 

「……まさか、もうモノにしたのか?」

 

 全裸のラデックはニィっと笑って脱いだ服を手渡す。

 

「まだまだ不完全だ。でも、これくらいはできるようになったぞ。さあ刮目しろ! “変身”ッ!!」

 

 ラデックが両手を大きく広げて天を仰ぐと、全身からわさわさと黒い体毛が生えてくる。骨が歪み、筋肉が蠢き、やがて一羽のカラスの姿になった。

 

「お、おお……! これは、すごいな……!」

「た、確かに……。すげぇ……けど、よ……」

 

 ボブラは変身したラデックを“見上げて”言う。

 

「デカくねえか? 鳥にしては」

「仕方ないだろう」

「うわっ! その姿で流暢に喋るな!」

「変身後はどうしても体積が増えてしまうんだ。元の姿に戻る以外での減量は厳しい。ただでさえ真似してるだけで鳥そのものを模倣してるわけじゃないんだ。変身とは言ったが、実際は擬態に近い」

 

 ラデック鳥はバサバサと羽を羽ばたかせる。その羽も、よく見れば羽毛ではなく被毛であり、(くちばし)もカジキのように硬く突き出ただけの(ふん)である。その嘴の奥に人間の口のようなものが見えた気がして、ボブラはこれ以上観察するのをやめた。

 

「……それで、そっからどうすんだよ」

「森の方で見ている歌う影の仲間にしてもらう。探索を手伝ってくれるかもしれない」

「……お前が? そのナリで?」

「任せろ。人間とはあまり仲良くなれないが、動物の生態なら少しは詳しい」

「ダメそー……」

 

 ラデックはひょこひょことステップを踏みながら歌う影に近づき、すぐさま寄って(たか)って(ついば)まれ逃げ帰ってくる。

 

「うわー! 助けてくれー!」

「やっぱダメだ」

「警戒されているっていうよりイジメられてるな。鳴き声が同族にする威嚇(いかく)だ」

 

 ハザクラを警戒して歌う影が逃げて行くと、ラデックはカラスの姿のままメソメソと涙を溢して悔しがる。

 

「何もしてないのに……! 何もしてないのに……!」

「なんか出てるんだろうな。オーラが」

 

 ラデックの変身を解かせ、3人はハザクラを先頭に幽霊屋敷へと入って行った。

 

〜カナデヤ一門 呪いの森 幽霊屋敷 1階 (ハザクラ・ラデック・ボブラサイド)〜

 

 朽ちた床板。ひび割れた壁、カビと埃の臭いが充満している。玄関の天井は崩れ落ち、ひしゃげた金属とボード材が散乱している。

 

「床がぐずぐずだ。根太(ねだ)の上を歩け」

「こりゃひでぇな……」

「おわ!!」

 

 ラデックが早速床板を踏み抜き転倒する。

 

根太(ねだ)の上を歩けと言っただろう……!」

「ネダってなんだ?」

「分からないなら聞け……! 床板を支える材木のことだ。ほら、大引きから横に伸びてる木があるだろう」

「オオビキってなんだ?」

「…………ボブラ、もしかしてこれは俺が悪いのか?」

「さあな……。それはそれとして、ラデックは床抜けそうなところを歩くな」

「む」

 

 ラデックが「よっこいせ」と床に足をかけると、再び腐った床板が、メシャ、と湿った破砕音を上げて足を飲み込んだ。

 

「お前……!!」

「マジかよ」

「ご、ごめんなさい」

「……もういい。先を行こう」

 

 メシャっ。

 

 

 

 廊下、リビング、ダイニングキッチン。どの部屋にも人が生活していた痕跡はなく、カラスの羽だけが(まばら)に落ちている。

 

「荒らされてるっつーほど荒らされてはねぇな。歌う影の巣って訳でもなさそうだ。 ハザクラ、そっちどうだ?」

 

 ボブラが呼びかけながら冷蔵庫を開けてみるが、中は薄くカビが張っているだけで何も入っていない。

 

「戸棚も食糧庫も空だ。長いこと生活はしていなかったのかもしれないな。……それにしては綺麗だが」

「床は抜けてたけどな」

「ボブラ、ハザクラ、ちょっと来てくれ」

 

 ラデックの呼びかけで、2人は寝室へと向かう。

 

「ベッドに寝ている機械。恐らく奉仕ロボットだ」

 

 二つ並んで置かれているシングルベッド。そのうち一つに、人間を模したであろう機械が仰向けに安置されている。頭部にはLEDディスプレイが搭載されており、脚部には移動に使うローラーがついている。埃などは被っておらず汚れも少ないが、顔面にだけ水垢の跡がついている。

 

「……壊されたのか? 水がかけられている。ボブラ、修理できるか?」

「防水仕様だろうけど、耐用年数がどうだかな……ちょっと見せてくれ」

 

 ラデックがその横で、少し楽しげに思い出話を始める。

 

「俺のいた使奴研究所にも似たようなロボットがいた。顔の部分が表情を模して光るんだ。ボブラのとこはどうだった?」

「ウチにはこんな旧式なかったよ」

「えっ」

「これ、人工知能開発初期の代物だろ? オレが研究所に入った時はもう魔導人形に取って代わられてたぜ。使奴ほどじゃないにしろ、そこそこコミュニケーションも取れるしな」

「……俺のいた保育所じゃ人気だったんだけどな」

「子供騙しには丁度いいかもな」

「俺は今でも好きだ。しりとりしてくれるんだぞ」

「この会社のなら確か変圧器あたりに非常スイッチが……ここか? ラデック、ここ開いといてくれ」

「む」

 

 ボブラが雷魔法でロボットの非常スイッチを起動させる。すると、頭部のディスプレイが数回点滅し、音声を発する。

 

「ネットワークエラー、オフラインで起どどどどどどどど、ピーッ」

「あー、流石に劣化してんな」

「ピー、ピー、ピー」

「何かデータは見れそうか?」

「わからん。イカれてるっぽい」

「おおおおおおおはようごごごございます。ほほほ本日は、予定が、一件。ございます」

「予定? 何の予定だ?」

「本日、ディナーの、予定が入っています。楽しみですね」

「うわ何の手がかりにもならねぇ」

 

 そこまで発すると、ロボットはディスプレイを消灯させ動かなくなった。

 

「壊れちまったか」

「直せたら中のデータも復旧できるだろうか」

「無理だとは思うが……まあ見るだけ見てみるか。親機がどっかに――――」

 

 ボブラが部屋を出ようと振り返ると、入る時は死角になっていたクローゼットの中に巨大な歌う影がいるのに気がついた。

 

「どわあ!!」

「ああ、言い忘れてたが、いるぞ」

「先言えラデック!!」

「大丈夫だ。相当弱っている」

 

 クローゼットの中で猫のように丸まって、目を瞑ったまま微かに呼吸音を響かせている。

 

「怪我してんのか?」

「いや、寿命だろう。襲ってくる気配はない。そっとしておいてやってくれ」

「あーびっくらこいたぜ。デカい声出して悪かったな」

 

 3人は寝室を出て、再び屋敷を探索し始めた。しかし依然として(かつ)ての住人の痕跡は掴めず、やがて二階の呪いの人形がいた部屋にやってきた。

 

「……ここも空か」

「ハザクラー、サーバーあったけどやっぱ動かねー。データ抽出は無理だ」

「そうか」

 

 ハザクラが窓辺に座っている人形を手に取る。見かけは可愛らしい塩化ビニールの人形だが、触れることで内側に魔力の流れを感じることができる。

 

「やはり呪いの人形か。ここのはまだ魔法式が生きているみたいだな」

「ハザクラ、それちっと貸してくれ」

 

 ボブラは呪いの人形を手に取ると、すぐに深く溜息をついた。

 

「……やっぱりだ」

「何か分かったのか?」

「ああ。こりゃ間違いなく“使奴研究所で使われる魔法”だ」

 

 そう言って彼は、人形に少し魔力を流してから窓の外に投げ捨てた。

 

「あっ! おい!」

「まあ見とけ」

 

 人形は森の中に飛んでいき、茂みに落下して見えなくなる。

 

「ちっと式をイジった。変えたのは再出現条件」

 

 それから程なくして、窓際に紐状の波導体が集まり人形の姿を構成する。そして、さっきと全く同じ姿の人形が再び姿を現した。

 

「これは……!」

「捨てても戻ってくる呪いの人形。正体は、使奴研究所で使われてた“自己治癒機能付きセキュリティゴーレム”だ」

「セキュリティゴーレム……? 監視カメラか!」

「波導濃度の許容値を上げて、人が近くにいる場合でも戻ってくるようにした。デフォルトじゃ、普通の人形に擬態するために人が見てたり近くにいると動かない設定になってる」

「それがエネルギー切れで普通の人形になってしまったのか……」

「本来ならその時点でボロボロに崩れちまう。だがこいつは、波導体を維持する最低限の波導は供給されてたみてーだな」

「ハザクラ! ボブラ! これ見てくれ!!」

 

 別の部屋を探索していたラデックが、血相変えて飛び込んでくる。その手には、2枚の紙片が握られていた。

 

「これは……!」

「やっぱしな……」

 

 1枚は、見たら死ぬ絵によく似た不気味な色彩の絵。

 

 そしてもう一つは、“多目的バイオロイドの取り扱い説明書”の1ページ。項目は、“停止信号とコードパターン図”。

 

「あの絵は……使奴の緊急停止装置……!!」

「幽霊屋敷の家主は、使奴研究所の顧客だったみてーだな」

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