シドの国   作:×90

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294話 不幸を呼ぶ呪いのダイヤ

 “停止信号とコードパターン図”。

 

 “多目的バイオロイドの意識を一時的に遮断されたい場合には、停止信号を用いて自我システムを停止させることができます。付属の停止信号をお持ちの波導発生機にセットしていただいた上で、多目的バイオロイドにコードパターン図を視認させてください。”

 

「信号が発せられている間は停止状態を保ちます。意図しない解除にご注意下さい……」

「っはぁああああ〜!! よかった……!! ラルバ達は戻るんだな……!!」

 

 ラデックは全身の力が抜けてその場に寝転がった。しかしハザクラは書類をボブラに渡し、暫く考え込む。

 

「だが待て。それはあくまでも、ここの家主が購入した使奴の停止信号だろう? それがどうしてラルバ達にも効くんだ?」

「そもそも停止信号の類いはとっくに無力化されてたはずだぞ。他でもない、ハザクラの手で」

「何?」

 

 キョトンとした顔で固まるハザクラに、ボブラはパターン図を眺めながら言う。

 

「お前が使奴解放時に言った「生き延びろ」って命令。あれのお陰で使奴は(あら)ゆる停止命令を聞かなくなってた。停止信号とパターンだってその一つなんじゃねぇのか?」

「まあ、そうか。確かに」

「それに使奴部隊を含めた全使奴の停止信号なんざ、使奴研究所にとっちゃこの世にあっちゃならねぇ代物だろ。少なくとも使奴部隊には効かないように作ってるはずだ」

「それをここの家主は、汎用の停止信号に改造した……?」

「実際そうなっちゃいるが……マンションの鍵一本だけもらって全部屋のマスターキー作るようなもんだ。100パー裏技使ってる。異能か、協力者がいたのか。丸く考えるなら後者だが……」

「俺の異能を上回ったとしたなら、異能持ち……」

「……今考えても仕方のねぇことだがな。オレ達の知らねぇ技術でどうにかしてるって可能性もある」

 

 ハザクラは説明書に目を這わせていると、ボブラがその横をすり抜けていく。

 

「この停止信号というのはどこから……、ボブラ?」

 

 呼び止められるも、そのままボブラは背を向け部屋を出て行く。

 

「呪いの森とダイヤについても、多分わかった。こっち来てくれ」

 

 

 

 彼は一旦外に出ると、テラスの方から更に裏手へと回って行く。

 

「放置されてる割に部屋が綺麗に見えたのは、多分あの奉仕ロボットが暫く動いていたせいだ。だが、今はエネルギー切れでダウンしてる。呪いの人形……セキュリティゴーレムもそう。その理由が……こいつだ」

 

 屋敷の裏手にあったのは鋼鉄の機械。貯水槽のような大型のタンクが2つ。片方からは太いケーブルが幾つも伸びており、そのうちの一つは空に向かってアンテナのように伸びている。

 

「錬魔式原動工魔っぽいな。平たく言えば、電気を魔力に変換する機能のついた家庭用発電機だ。さっき廊下の窓からチラッと見えた」

「このアンテナは?」

「結界魔法の波導放射器……だと思う。オレも詳しくねぇ。オレらがここに辿り着けなかったのはこの機械のせいだろう。で、恐らく停止信号もこっから出てる。ええとスイッチは……これか」

 

 錆びついたレバーを力一杯に押し下げると、不快な金属音を立てて辺りの波導が霧散する。

 

「これで大丈夫なはずだ。後でシスター達を起こしてやろう。ラルバ達もそのうち目が覚めるとおもうぜ」

 

 ボブラは隣のタンクの方に目を向ける。側面についていた金属カバーが外されて、中が覗けるようになっている。ボブラはその中を覗き、眉を顰めて溜息をつく。

 

「やっぱり……。アンテナはともかく、このバッテリーは市販品を改造しただけだな」

 

 ハザクラとラデックも中を覗く。そこには、容器の三分の一ほどまで“呪いのダイヤ”が詰まっていた。

 

「の、呪いのダイヤ?」

「これは、一体……」

 

 思わずラデックがダイヤに手を伸ばす。

 

「あっつい!!」

 

 が、すぐに手を焼かれて引っ込める。代わりにボブラが耐熱魔法で手を覆いダイヤを一つ取り出す。

 

「オレらのいた時代じゃただの魔力ゴミだが、ここにいた奴は上手いこと考えたみてーだな。ハザクラ、“サンドバッテリー”って知ってるか?」

「ああ。電気で保温性の高い石を熱して、長期的にエネルギー保存をしておくシステムだな。効率は良くないが、余剰電力を長期保存するという点においては重宝したと聞く」

「そうだ。でもって、恐らくこれはその魔力バージョン。呪いのダイヤの正体は“レッサースフィア”。ラルバ達の言っていた通り、ただの産業廃棄物だ」

 

 ボブラがレッサースフィアに魔力を込めると、ほんのりと熱を持ち始める。

 

「魔力を吸収して熱として蓄える性質を利用して、その熱で発電をしてんだな。サンドバッテリーと同じく効率は最悪だろうが、産廃の再利用方法としては悪くない」

 

 ラデックが火傷した手をプラプラと振りながらピリとの会話を思い出す。

 

「ダイヤの呪いってもしかして、アクセサリーとして身につけると魔力が吸われるから衰弱しやすいってだけの話か?」

「多分な。死んだのもジジババ中心だったんだろ? ただでさえ弱ってる老体にこんなもんつけてたら、常時軽い脱水症状になってるみたいなもんだ。そりゃ早死にもするさ」

「持った感じ全然吸われてる感じしないな。これだけ微量しか吸われないなら気付かないのも仕方ないか」

 

 ダイヤをお手玉のようにしていたラデックは、上手くできずにうっかり足元に落としてしまう。すると、発電機の周辺だけ草木が枯れているのに気がついた。

 

「雑草が枯れてる……。ダイヤの熱でやられたのか」

「歌う影がイタズラしたんだろ。寒さを凌ぐためか、単純に光ってんのが好きなのか、いずれにせよ機械からダイヤを引っ張り出した。システム優先度の高い結界維持の方にエネルギーを持ってかれて、奉仕ロボは電力不足で機能停止。持ち出されたダイヤは歌う影が森に持っていって、それがカナデヤ一門の連中に発見された。分かってたことだが、呪いなんつーもんはハナからなかったわけだ」

「そうか……。ん? なあボブラ」

「何だ?」

 

 ボブラはラデックの声を背中で聞きつつ、発電機の中に上半身を突っ込んで中を調べ始めた。

 

「これは発電機なんだろう? じゃあ、結局のところ動力源は何なんだ?」

 

 その質問に、ハザクラの方が顔を顰めた。

 

「え、俺、また何か変なことを言ったのか? だって、レッサースフィアは魔力を当てなきゃ温まらないんだろう? じゃあその魔力はどこから……って話になる、よな?」

「……いや、ラデックは悪くない。当然の疑問だ」

 

 ボブラは発電機のタンクに体を捩じ込んだまま、質問とは無関係な話を始める。

 

「張られてた結界は相当高レベルだ。術式はアホみたいに複雑で、それでいて魔力効率がバカ高い。一度発動しちまえば、あとは自転車と一緒で少しの力で稼働し続ける。こんなもん、動かすだけでウン千万稼げるぜ。

 

 呪いの人形とか停止信号分の魔力も、実際は一般家庭で賄えるレベルまで省エネ化されてるんだろうな。じゃなきゃこんな家庭用発電機の容量で暮らせるわけがねぇ。屋敷ん中にあった奉仕ロボットだってアホみたいに電気食うんだ。ただそれでもあのオンボロボットを使ってたってことは、魔法の省エネ化も片手間でやっちまうんだろうな。

 

今の所ヤツについてわかってるのは、相当優秀な魔術師ってこと。結界で人を遠ざけていたってこと。使奴の購入者ってこと。他の使奴を封じようとしてたってこと。そんでもって、今はここにはいないってことだ。

 

 結界点けっぱのくせして家には個人情報の一欠片も残してねぇし、使奴なんて高級品持ってる割には奉仕ロボットなんて時代遅れのオンボロを使ってるし。頭のいいやつの考えることはまるでわからん」

 

 ボブラは発電機からレッサースフィアを取り除き、中身をハザクラとラデックに見せる。

 

「……やはりか」

「こ、これが……動力源……!?」

 

 タンクの底面に残されていたのは、断面から絶え間なく波導を放出し続ける、“使奴細胞で構成された悪魔の角“だった。

 

「まあ、分かりたくもねーな。こんなことする奴のことなんざ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャハル、シスター、ゾウラ、レシャロワークの4名を起こし、一行は屋敷を後にした。森を抜ける道中、屋敷で見たことや推論を話すと、シスターは大きく胸を撫で下ろした。

 

「よかった……! ナハルは無事なんですね……」

 

 今にも泣きそうな彼に、ラデックはハンカチを手渡す。

 

「全てわかった後で言うのも無意味な話だが、そもそも使奴の停止なんてことができるなら使奴研究所が死の魔法なんて探すこともなかった。最初から復活は見込めていたのかもしれないな」

「でも、それは絶対的な処分を目的としたらの話です。数十年単位の停止くらいはできるのかもしれませんし……」

「それもそうか。もしそうなったら俺がみんなの寿命を100年延ばしてやる」

「……そんなことできるんですか?」

「分からない。やってみる価値はあるだろう」

「それ、できるようになっても黙ってて下さいね。普通に怖いので」

「長生きしたくないのか……?」

 

 先頭では、ハザクラがジャハルに使奴の停止パターン図を見せている。

 

「確かに、サンキォン邸にあった見たら死ぬ絵にタッチが似ているな」

「俺が思うに、あの絵はパターン図を分割したものなんじゃないかと思っている」

「分割? ハサミで切り分けるような感じか? 絵の雰囲気からして同じ絵には見えなかったが……」

「直線でも波線による切り取りでも。もしかしたら透明度を上げて重ね合わせるとか、乗算的な重ね方かもしれない。使奴レベルの精密な目と思考力を以て脳内で組み合わせた時、初めてあの絵は見たら死ぬ絵として機能するんじゃないだろうか」

「ラルバ達が4枚見ても平気だったのはそのためか……?」

「使奴くらい優秀なら、5枚目を見て何かのギミックに気付くんだろう。だが、それを解決してしまうと途端に停止パターン図を見ることになってしまう。発動までにラグがあるから、複数人の使奴が同時に見ても引っかかってしまう。後から来たイチルギがかかったようにな」

 

 暫く進んでいると、地面が崩れて登れなくなっている小さな崖にぶつかった。しかし、特に一行にとって問題はなく、皆魔法や身体能力で軽々と超えていく。

 

 レシャロワークもひとっ飛びしようと足を踏み込んだ時、足元で何か異様に固い感触がしたのに気がついた。

 

「む」

「どうしたレシャロワーク」

 

 不審に思ったボブラ近寄ると、その真横でゾウラがしゃがみ込んで何かを拾い上げた。

 

「ボブラさん! 骸骨ですよ!」

「うわっ。汚ねぇから触んな!」

 

 ボブラがゾウラの手から骸骨を叩き落とす。あたりにはまだ骨と思しき固形物が散乱しており、レシャロワークはその一つを踏んづけていた。

 

「レシャロワークは呪われてしまった! でろでろでろ〜ん」

「バカなこと言ってねぇでさっさと登れよ。骸はオレが回収しとくからよ。ゾウラ触んな!」

 

 3人が崖を登りきると、その後ろで声が聞こえてきた。

 

「遊ぼう」

「遊ぼう」

「遊ぼう」

 

 見れば、数匹の歌う影がこちらに向かって声真似をしている。

 

「あ〜。そう言えばカラスって死体食べるイメージありますよねぇ」

「オレらを滑落死させようとしてたのか……」

「カラスさんさよーならー!」

 

 ゾウラが笑顔で手を振ると、歌う影達は首を傾げて声を発する。

 

「助けて!」

「お母さん〜」

「救急車! 救急車!」

「さよなら〜」

 

 それから一斉に飛び立ち、森の奥へと姿を消していった。

 

「全く、どこで覚えたんだかあんなもん……」

「崖から落ちた人の真似でもしてたんですかねぇ」

「ここまで救急車両は入ってこれねぇだろ」

「来てくれるかと来て欲しいかは話が別じゃないですかぁ?」

「別じゃねぇだろ。森だぞ」

「ほら、マルチプレイで救援欲しいかって言われたら欲しいけど、実際にそれで失敗リスク上がるのは許容できるのかってなると……」

「分かった分かった。それでいいよもう」

「帰ったら3人でケモ牧のSクエ行きましょうねぇ」

「はい!」

「やらねぇ」

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