シドの国   作:×90

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314話 新たな刺客

〜愛と正義の平和支援会 地下闘技場 選手控室〜

 

「何負けてんだこのバカーっ!!!」

「ぎゃーっ!!!」

 

 ラルバがクラウンの脳天を引っ叩く。さっきピンクリークに殴られてできたたんこぶを攻撃され、クラウンは激痛に絶叫して控え室の床に倒れ込んだ。

 

「やめてやれよ。死ぬぞ」

 

 いつもならクラウンが座っているソファには代わりにピンクリークが腰掛け、試合直後だと言うのに汗ひとつ流さずアイスココアを飲んでいる。

 

「お前もだこの筋肉おっぱい! 世界平和の邪魔しやがって!」

「いや知らねぇよ」

 

 三本腕連合軍の暴走族、百機夜構の総長。ピンクリーク。ティスタウィンクとの契約によって自警団の立ち位置にはいるが、紛れもない反社会勢力。本来であれば、平和な国への入国など叶うはずもない。

 

 近くにいたバリアがピンクリークに尋ねる。

 

「どうしてここに?」

「暇だったから」

「そうじゃなくて。百機夜構の総長なんか、普通入国ビザ発行してもらえないでしょ」

「いや、ビザ自体は普通に取れる。ムズイのは給冥(きゅうめい)エージェンシーへの立ち入りだ。でも今回はお前さんらのお陰で普通に入れたからな。折角だから遊びに来てみた」

「……地下闘技場のことはどこで?」

「その辺歩いてたらスカウトされたんだよ。先週ぐれーかな」

「そう」

「お前らは?」

「私達は――――」

 

 それから事情を聞き、ピンクリークは顔を歪ませ、けったいなものを見るような目でラルバを睨んだ。

 

「……まーた変なことやってんのか、お前ら。歩く災害だな」

「悪いヤツがいなきゃ素通りするよ。救いの女神って呼んでほしいな」

「おい救いの女神、オレが対戦相手って分かってんなら何で試合組んだんだよ。殴り合いじゃクラウン総帥に勝ち目ねーだろ」

「だってコイツが勝てるって言うから」

 

 ピンクリークは気の毒そうにクラウンを見る。クラウンは拗ねてそっぽを向き口先を尖らせる。

 

「……まあ、この抗争も碌にない平和な国で、よく頑張った方だと思うぜ。基礎はできてるっぽいしよ」

「お世辞は結構です。無理に褒められるよりか、正直に罵っていただいた方がまだマシです」

「分かった。クソザコ」

「あぁ!?」

 

 挑発に乗ったクラウンの頬にピンクリークが平手打ちを浴びせる。更にムキになったクラウンが反撃しようとするが、パンチもキックも軽く往なされ、その度に軽く小突かれ叩かれ揶揄われる。

 

「あだっ、このっ、がっ、痛っ、ぐっ、むきぃーっ!!」

「猿皇クラウン。異能、逆ギレ」

「みきゃぁーっ!!!」

「うるさ」

 

 トドメと言わんばかりに脳天チョップを叩き込むと、あまりの激痛にクラウンは倒れ込んで動かなくなった。他人事と言わんばかりにラルバがケラケラと笑いながらピンクリークの肩を叩く。

 

「あーあ! ウチの看板娘死んじゃった! 直してくれるよね?」

「……まあ暇だからいいけど。オレ厳しいよ?」

「暴走族の頭が軍の総帥より厳しいってことないでしょー! じゃ、頼んだよ! ロケットパンチとかできるようにしてくれると嬉しいな!」

「よし総帥起きろ。工場と病院、どっち行きたいか選べ」

「うぎぎぎぎ……」

 

 翌日から、ピンクリークによるクラウン総帥の猛特訓が始まった。

 

 

 

〜愛と正義の平和支援会 地下闘技場 宿場“sleep is power” (ラルバ、ラデック、レシャロワークサイド)〜

 

「――――ってワケ」

「どういうことだ?」

「どういうことかを今言ったんじゃないの」

 

 ラルバの説明を受けて尚、ラデックは頭に浮かぶハテナで思考が止まる。

 

「要点が分からない。何も。もう一回全部最初から教えてくれ」

「言わなきゃダメ? どうせラデック言ってもわかんないでしょ?」

「分かるか分からないかではなく、一度全て説明を受けたい」

「まあいいけど……」

 

 ラルバは怪訝そうにしつつも、ビール片手に話し始める。

 

「クラウンに地下闘技場を認めさせてバガラスタ国王に喧嘩を売る。そしたら多分シャドが出てくるだろうからそっちは上手いことどうにかして、恐らく抱えているであろう切り札を切らせて完封して面白おかしくぶっ殺す。おしまい」

「切り札? 切り札はシャドじゃないのか?」

「寧ろ真逆だと思うよ」

「真逆……切り札の真逆って何だ?」

「見せかけの戦力。だってシャドは笑顔の七人衆として出張行ってたんだよ? 常に切り札が手元にないの怖くない? だから、シャドとは別の切り札があるんだろうなーって思ってる」

「それは……そうだな。じゃあその切り札ってのは何なんだ?」

「多分シャドがボブラの国からかっぱらってきたハザクラの異能音声入り録音機とかだと思うけど……」

 

 ラデックは暫く考え込んでから声を絞り出す。

 

「……それ、マズくないか?」

「何で?」

「だって……それを使ったら、ここら辺で暮らしてる使奴を片っ端から支配できるわけだろ?」

「できる、じゃなくて、されてる、ね」

「されてる。されてる!?」

「この国の犯罪率が異様に低い理由は、使奴が陰で犯罪者をぶち殺して隠蔽してるからだよ」

 

 ラデックは仰天してレシャロワーク達の方を向く。レシャロワークは全く微動だにせずゲーム画面を注視しているが、代わりに隣のビットが眼前で激しく手を振って否定している。

 

「いやいやいやいや知らない知らない知らない知らない。嘘でしょ!?」

「いーや、絶対やってる」

「てかそれだけじゃ支配されてるか分かんなくない!? ラルバさんみたいに悪者ぶっ殺すのが趣味の変人かもしれないじゃん!」

「はっはっは。否定しづれ〜」

 

 そう笑いつつもラルバは続ける。

 

「でも、なーんかアイツら動きがアビスっぽいんだよね〜」

「誰?」

「ヒトシズク・レストランで同じく隷属化喰らってた使奴だよ。アビスはゼムドールに支配されて、情報隠蔽を命じられてた。アビスはそれを利用して情報を外部に伝える方法を探してた。例えば、絶対公にしないつもりで証拠集めるとか、今から殺す奴には何でもべらべら喋っちゃうとかね」

「……今回も殺されそうになったの?」

「いや? 多分この辺の使奴は、可能な限りバレないように犯罪者を処分しろって命令を受けてるんじゃないかな。だから、バレないようにする以外のことはしない。どれだけ私が近くで警戒してようと、使奴が犯罪者を処理してるって証拠を残さないことしかしない。本気で隠蔽するなら疑ってる私を襲いにきてもいいはずなのにね」

「……死なない使奴を殺しに行くのは逆に危ないからじゃない?」

「向こうが私を使奴だって断定する方法がないもの。99パーまでは絞れても、確定はムリ。私だってできてないんだから」

 

 ビットはこれ以上の反論が見つからずに口を噤む。

 

「話戻すけど、支配下にある使奴がこの国の治安維持だの労働力だのになってるのは確定。もしそれに録音使ってたら面倒だねーって話」

 

 ラデックが再び口を開く。

 

「ハザクラが向かえば解決するんじゃないのか? 録音と本人なら本人の方が効力があるだろう?」

「あのね、1番難しいのはね、使奴の支配を知ったブチギレモードのハザクラからどうやってバガラスタ処刑の権利を勝ち取るかなんだよ」

「心配して損した」

「ジャンケンはしてくれないだろうなー……」

 

 その時、レシャロワークがボソリと呟いた。

 

「あー。無理ゲー」

 

 彼女はゲーム機をベッドの上に放り、倒れるようにラデックにしがみつく。

 

「どうした? レシャロワーク。またゲームの話か?」

「残念ながらリアルの話」

「何が無理なんだ?」

「ラデックにいちゃん守って〜」

「よし任せろ。……何から?」

 

 レシャロワークの反応を見て、ラルバがさっきまでの薄ら笑いを止める。

 

「……もう一つ懸念していることがある」

 

 その視線が部屋の出入り口の方に向けられる。

 

「ピンクリークの参戦が早すぎる。我々がクラウンとチャンピオンの試合を組んだ後に、ピンクリークがスカウトされチャンピオンを打ち倒している。そのせいでクラウンはチャンピオンになる機会を逃し、代わりに新チャンピオンであるピンクリークと試合を組むことになった。何者かが邪魔をしてきている」

 

 部屋の鍵が開けられ、赤ん坊を抱いた銀髪の女が無遠慮に入ってくる。

 

「ピンクリークにクラウンを押しつけたのは、一度我々と距離を取るためだ。我々のことをよく思わない何者かは、恐らく我々の企みに気が付いている。なので、今は挑発をしているのだ。今なら我々のことを簡単に消せるぞ、とな」

 

 銀髪の女は恨めしそうにゆらゆらと身体を左右に揺らしながら近づいてくる。

 

「っか〜クソクソクソクソうんこうんこうんこうんこ」

 

 女はラルバを睨み上げ、罵倒と文句をごちゃ混ぜに呟く。

 

「マジゴミクソ野郎が。お前みたいなビチグソのせいで賭けが台無しだうんこ死ねやホント馬鹿ゲボ下痢売女がよぉ」

 

 ただでさえ悪い目つきをより鋭く細め、敵意を剥き出しに稚拙な罵倒を繰り返す。腕の中で寝息を立てている赤ん坊などまるで気にせず、殺意を剥き出しにして波導を激らせる。

 

「マジホント死ねやうんこハゲクソ女」

 

 バリアが地面を蹴って女に襲いかかる。しかし、それより早く部屋の壁が”生地が張り裂けるようにして“消え去り、崩壊した都市の姿に切り替わる。

 

 そして、バリアが彼女に到達するよりも前に、押し潰されるようにして体を地に伏せた。

 

「バリア!?」

 

 思わずラデックが叫びながら走り出そうとするが、突如激痛が身体を貫いて倒れ込む。

 

「がっ……!? な、なん……だ……!?」

 

 周りを見れば、レシャロワークも、ビットも、ラルバでさえも、皆地面に倒れ込んで悶え苦しんでいる。バリアが盛大に吐血し地面を赤く濡らす。

 

「死ね死ね死ね死ねドカスのクソボケゴミうんこ野郎共」

 

 銀髪の女が力強く歯軋りを鳴らし、憤懣を爆発させ咆哮する。腕の中で眠っていた赤ん坊が、ぐずり始める。

 

「よくも、よくもアタシを働かせてくれたな……!! このっ、アタシにっ、労働をっ!!」

 

 地面から無数の影が伸びて人の形を成し、女と赤ん坊を守るようにして立ちはだかる。

 

「余計な仕事増やしやがってゲロカスゴミブス共がっ!! 休出手当はテメェらの香典から強制徴収だ!!」

 

 愛と正義の平和支援会、地下闘技場ノミ屋統括。“ヴァナヘイド”。異能“思い出(リフレイン)”。

 

 

 

〜愛と正義の平和支援会 西河地方 “サルファドット私軍本部” (ハザクラ、ジャハルサイド)〜

 

「証拠の隠蔽は上手くやっているようだな」

 

 サルファドット私軍を訪れた帰り道、ハザクラは遠くなる門の方を振り返りながらジャハルに言う。

 

「ラルバはともかく、クラウン総帥は真面目な方だ。身内に迷惑のかかるようなことはしないだろう」

「会ったらなんて謝罪したらいいもんか……」

「ハピネスの話では、本人は以外と乗り気だと言っていたが……」

「だといいんだが、いや、良くないか……」

 

 交互に溜息をつき合う2人の後ろから、1人の男が声をかける。

 

「ハザクラさんとジャハルさんですか? ちょっといいですかね!」

 

 2人はバッと振り返り戦闘体制を取る。つい数秒前まで、人の気配などまるでなかった。

 

「俺、“タルパグラコ”って言います! “ラルバ・クアッドホッパー”さんのことでお話があるんですけど! 時間いいっすか?」

 

 愛と正義の平和支援会、地下闘技場ノミ屋顔役。“タルパグラコ”。異能“念動”。

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