シドの国   作:×90

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315話 ヴァナヘイド対……

〜愛と正義の平和支援会 地下闘技場 宿場“sleep is power” (ラルバ、ラデック、レシャロワークサイド)〜

 

 崩壊した都市の様相をした虚構拡張内部。銀髪の女“ヴァナヘイド”は、赤ん坊を抱いたままラルバ達を睨みつける。

 

「クソカスゴミうんこがよぉ……!! テメェのせいでこっちは散々だハゲタコドブネズミが……!!」

「うにゃぁぁぁあああああっ!! びえええええええっ!!」

 

 赤ん坊が大声で泣き始める。しかしヴァナヘイドはあやす様子などまるでなく、それどころか怒声を張り上げて威圧する。

 

「良い機会だ!! これを機に人の苦しみってモンを学べ出来損ないの産廃ラブドール!!」

 

 ラルバ達の苦痛がより深く、重くなっていく。喉は無数の蜂を飲み込んだかのように鋭く痛み、胃袋にかけて焦げ付くようで、腹の中にホースを突っ込まれたかのように強烈な膨張感を覚える。

 

 ヴァナヘイドの足元で這い(つくば)るバリアが魔法を放とうとするが、魔力不足によって魔法式は形を成さない。ならばせめてと手を伸ばしヴァナヘイドの足を掴もうとするが、黒い影で作られた騎士がその腕を切り付ける。だが騎士の剣はへし折れ、バリアの腕は傷一つつかない。

 

「死んでろボケカス」

 

 それを見たヴァナヘイドがバックステップで飛び退き、未だ地に伏せるバリアを睨みつける。その瞬間、バリアの下半身が見えない何かに押し潰されて地面の染みとなった。

 

 赤ん坊が泣き叫ぶ。

 

「びゃああああああああっ!!!」

「うるせっ」

 

 それに呼応するようにして、黒い影の騎士達がラルバ達に襲いかかる。防御魔法を発動しようにも、ラデックどころかラルバすら発動に失敗して斬撃を受ける。レシャロワークに向けられた大楯の殴打をビットが庇うが、2人とも昏倒して地に伏せる。

 

「ビッド……!! レジャロ……!! ぐ、ぐぞ……!!!」

 

 ラデックが何とか反撃をしようと自己改造を施すが、麻痺した体はそれ以上言うことを聞かず、影の騎士達にも改造はまるで効かない。

 

「あークソクソクソクソ。マジゴミカスボケうんこ。何でアタシは休みの日に働かされてんだ?」

 

 身動ぎしかできないラデック達を尻目に、ヴァナヘイドは空に向かって愚痴を溢す。

 

「労働はこの世で最もクソでゴミでウンコだ。そんなウンコをアタシに押しつけたお前らは万死に値する。値するが、殺すのも労働だ。舌でも噛み切って勝手に死んでくれねーか?」

 

「ガボッ……ダイジダ……がぽっ」

 

 呻くような声に、ヴァナヘイドは視線を向ける。

 

「大した……げほっ……もんだ……」

 

 辛うじて立っているラルバが、自ら喉を裂いて食道に溜まった血を抜いていた。

 

「はぁ? 何で生きてんだドベダボドブ女。早く死ねよ」

「……これは……思い出(リフレイン)、“ロゼ”と同種の異能だな」

 

 ヴァナヘイドの目が訝しげに細くなる。

 

「200年前の……大戦争の再現……。ロゼ(あっち)が物体対象なら、ヴァナヘイド(こっち)は生命対象……。あの大戦争の苦痛、病気を、怪我を……再現する異能だな……」

 

 辛うじて発せられるラルバの推理に、ヴァナヘイドは深い溜息をつく。その苛立ちを代弁するように、黒い影の騎士が得物を構える。

 

「その……黒い影は……別物……。赤ん坊が持っている異能だろう……。バリアを圧壊させるなら、それに合わせて動きたいはずだ……。まだ、連携が出来ていない……げぽっ」

「……あーウゼェ。ダルすぎ。べっちゃくっちゃうるせーんだよドブスゴキブリがよ」

 

 ヴァナヘイドがひと睨みすると、ラルバの半身が真っ黒に焦げ弾け飛んだ。

 

「ぐっ……爆撃……か……」

「そこまで分かってんなら勝ち目ねーって分かってんだろゲボザコウンコ」

 

 バランスを失い倒れ込んだラルバは、それでも怪しい笑みを消さない。

 

「ククク……使奴を使奴と知って尚、人として見ているのか……。存外、可愛げがあるじゃないか」

「キッショ。ゲボゲロキショドブカス。人間モデルに作られてんなら人だろうが」

「そうか……。じゃあ、“アレ”は人か?」

「あ?」

 

 ヴァナヘイドが振り返る。荒廃した都市の景色の半分が、“タイルがひっくり返る”ようにして切り替わり、多種多様な無数のスイッチに覆われたコックピットが現れる。

 

「成程。人対象なら、人でなくなれば対象から外れると言うことか」

 

 哺乳類の皮膚だけを纏った蠢く肉塊。ラデックの声を発するそれが、脈動しつつ膨らんでいく。

 

「ボケカスッ……!!」

 

 ヴァナヘイドが波導体を弾丸のように射出するも、肉塊には傷ひとつつかない。その間にも、表皮は黒く変色し、突起物を幾つも生やして見上げるほどに大きくなっていく。

 

「あーゴミゴミゴミゴミ……!! ゲロブタビチグソドベアホカスゲボ野郎っ……!!」

「変ッ身ッ!!」

 

 大きく翼を広げ、堅牢な鱗に包まれた全身で猛々しく咆哮を轟かせた。

 

「顕現せよ!! デビル・ゴッド・ドラゴンッ!!!」

 

 当然ながら、200年前にデビル・ゴッド・ドラゴンは存在しない。故に、思い出(リフレイン)の対象にならない。

 

 黒い影の騎士が一斉にデビル・ゴッド・ドラゴン・ラデックに襲いかかるが、漆黒の鱗は傷一つつかない。

 

「無駄だ!! さあ降参して虚構拡張を解け!! さもなくば、デビル・ゴッド・キャノンブレスがお前を消し炭にするぞ!!」

「やれるもんならやってみろよゲボキショクソトカゲ」

 

 そう言ってヴァナヘイドは赤ん坊を盾にして掲げてみせる。

 

「……それはズルだろ」

「殺し合いにズルも卑怯もあるかビチグソウンコ」

「それもそうか」

 

 突然、ヴァナヘイドは前後不覚に陥りその場に崩れ落ちる。

 

「なっ……!?」

 

 一瞬だけ背中に感じた鋭い痛み。ヴァナヘイドの目には映らないが、髪の毛程の細さの糸がデビル・ゴッド・ドラゴン・ラデックの方に巻き取られていった。

 

「デビル・ゴッド・デススピアだ。ちなみに原作には無い」

 

 デビル・ゴッド・ドラゴン・ラデックが長い首を下ろし、地に伏せ苦しむヴァナヘイドを見下ろす。

 

「さて、異能を止めて虚構拡張を解け。さもなくば首の長さを1mにしてしまうぞ」

「………………」

「その次は腕と脚の位置を入れ替えてしまうぞ」

「ぐぞ……」

 

 

 

〜愛と正義の平和支援会 地下闘技場 ノミ屋事務所 (ラルバ、ラデック、バリア、レシャロワーク。ハザクラ、ジャハルサイド)〜

 

「ごめぇぇぇぇぇぇんっ!!!」

 

 応接室の床で、爽やかな黒髪の男“タルパグラコ”が土下座をしている。

 

「ヴァナヘイドも謝って!! このバカ!!」

「ウンコウンコウンコ〜」

 

 ヴァナヘイドは本来客が座るであろうソファに寝っ転がり、だらしなく手足を放り出している。その腹の上では、この喧騒の中赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てている。

 

「どうしてちょっと人呼んでくるだけのことができないのさ!!」

「ウンコウンコ、ウンコウンコウンコ」

「ラデックさん!! もうヴァナヘイドの顔とお尻の位置入れ替えちゃって!!」

「え、そ、それは嫌だ……」

 

 滑稽な彼らを軽蔑しつつ、バリアはハザクラに尋ねる。

 

「何でハザクラとジャハルがいるの?」

「お、俺達はそのタルパグラコって男に呼ばれて来たんですが……。バリア先生達は何故ここに? 何があったんです?」

「殺されかけた」

「えぇっ」

 

 バリアはより軽蔑の眼差しを強め、彼ら“3人”を睥睨する。

 

「コイツら多分、イチルギの下僕だよ」

「何……!?」

 

 イチルギの名を聞いて、タルパグラコがハッとした顔でハザクラ達の方を向く。

 

「そうそう! 紹介遅れてごめんなさい! 俺、世界ギルド“太陽蜘蛛”所属、タルパグラコです! 異能は念動! こっちの口が悪いのがヴァナヘイドで、上で寝てる赤ちゃんが“ヌフレ”!」

「あ、赤ん坊まで……!?」

 

 そう言われると、タルパグラコはバツが悪そうに頬を掻く。

 

「あ、いやー。この子実は“護衛”の異能者で、自動で動く黒い影を出しちゃうんす。知能がめっちゃ高いからこっちの言葉は理解してくれるっぽいんですけど、一般人に預けるのは危険だってんで、イチルギさんが俺に預けてくれたんすよね。でも、俺よかヴァナヘイドの方に懐いちゃって……」

「ゲボカス。オメーが碌に面倒見ねーからだろ」

「見てるってば! 察するのが下手なだけ!」

「ゲボカスウンコ」

 

 部屋の端ではビットが「俺、巻き添えであんな苦しんだの……?」と呟くと、タルパグラコは慌てて謝罪をする。

 

「いや、ほんっとごめん!! ほんとそんなつもりなくて!! てかヴァナヘイドが謝ってよ!!」

「ザコウンコ」

 

 成す術をなくしたタルパグラコは、再びバツが悪そうに話を戻す。

 

「え、えーと。あ! そうそう! それでラルバさんに言いたいことがあって!」

「私は無い」

「バガラスタ国王殺しに来たと思うんですけど、ちょっと勘弁してほしくて!」

「勘弁しない」

「いやいやいや! あの人別に悪者ってわけじゃないんですよー! 確かに独裁感めっちゃあるけど!」

 

 それからタルパグラコは、自分達がここへ来た経緯から話を始めた。

 

「自分らも最初はバガラスタ国王怪しんでここに潜入したんすけど、密入国した直後にバレちゃったんすよね。で、そん時なんでか国王にお会いできたんすけど、結構話の分かる人だったんすよ! 自分らの任務のことも理解してくれて、滞在も許可してくれたんすよ! そっからはたまに抜き打ちで監視とかしてるんすけど、怪しいところはなーんもないです! だからラルバさんが来るって聞いた時、ヤバいかもなーって思ったんすよね! 真面目に政治頑張ってるのに、雰囲気で殺されちゃったらかわいそーだなーって!」

 

 彼が饒舌に話す間、誰も返事どころか相槌すら打たなかった。彼は焦ったのか、より早口になって弁明を続けた。

 

「いやマジなんすよ! 自分らもさんざ疑って色々調べて見たんですけど、それこそ世界ギルドにだって資料送ってますよ! 検閲とかされないように、自分がダクラシフ商工会まで行って直で世界ギルドの人に渡してます!」

 

 ラルバがぼやく様に口を開く。

 

「……じゃあ何で“ノミ屋”なんかやってんの?」

「うっ……。そ、それは……まあ、ヴァナヘイドの口車に乗せられたっちゅーか……そもそも違法行為だから違法もクソもないっちゅーか……」

 

 ノミ屋とは、個人で馬券などを販売する違法行為である。ノミ屋自身は馬券を買わないので、客の馬券が当たらなければ賭け金全てを収益にできる。反社会組織の収入源や、正規の販売所の売り上げ減少となるため、多くの国で固く禁じられている違法行為である。

 

「それ、イっちゃんは知ってるの? 報告書に書いた?」

「へへ、へへへ。ない、内緒にしてもらっていいすか?」

「ふーん」

 

 ラルバは徐に踵を返し、去り際に言い残す。

 

「ま、いいよ別に。面白ないなら次行くわ」

「あざーす!!」

 

 素っ気なく立ち去ったラルバに続き、ビット含め他の面々も次々に部屋を出ていく。

 

「ジャハル、飛行機の時間調べておいてくれ」

「え? あ、ああ」

「ラデック兄ちゃーん。デビル・ゴッド・ドラゴンやってぇー」

「あれ虚構拡張しないとできないから、また今度な」

 

 

 

〜愛と正義の平和支援会 南河地方 鈴風町鈴風空港〜

 

 空港の上級ラウンジにて、ラルバがリクライニングシートにどっかりと腰をかける。

 

「どうだった?」

 

 質問の意図が分からず、ラデックやジャハルは顔を見合わせる。しかし、ハザクラだけが口を開いた。

 

「赤ん坊含め、全員」

「やはりな」

 

 ラルバの口角が楽しそうに吊り上がっていく。何の会話をしているのか分からないジャハルが狼狽えながら2人を交互に見る。

 

「な、何があったんだ? 全員って?」

 

 ハザクラがラルバに目配せをすると、ラルバは両手で口元を隠してクスクスと笑う。

 

「太陽蜘蛛全員、バガラスタに洗脳喰らってるってよ。アビスみたいにね」

「なんっ……!!!」

 

 ジャハルはハッとして辺りを見回す。ラウンジの客達は誰もこちらを気にする様子はないが、もし支配下にある使奴に聞かれでもしたら大事である。だが、ラルバは全く意に介さずに楽しそうに溢す。

 

「いーひひひひひ。酷い奴だねぇ。悪い奴だねぇ。どうやって懲らしめてやろうかなぁ? 溺死、焼死、窒息、失血……いやぁ迷っちゃうなぁ〜」

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