シドの国   作:×90

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318話 選手交代

 クラウン・サルファドット総帥によるテロ等準備罪の疑いが、公に向け発表された。内容は、クラウン総帥は地下闘技場にマスクド・パゥワとして潜伏し、狼の群れのラルバ・クアッドホッパー及び百機夜構総長ピンクリークと共に国家転覆を狙う計画を立てていた。とのこと。

 

 “事務所から押収された大量の銃火器や魔導兵器や爆薬はサルファドット私軍から盗み出されたものであることが判明し、それに協力したサルファドット私軍の関係者達は逮捕後情報を吐くことなく自決した。また、マスクド・パゥワが賃借していたニシカワ第8訓練所の賃貸料は偽札で支払われており、通貨偽造罪の疑いもあったと見て操作が続けられている。

 

 

 

〜愛と正義の平和支援会 南河地方 ビットの自宅〜

 

「何で俺ん家なの!!」

 

 追われる身となったラルバの潜伏場所に自宅が選ばれ、ビットは頭を抱えて絶叫する。

 

 キャンディ・ボックスの仲間たちとパーティができるようにと少し無理をして拡張した広いリビングには、ラルバ達15人の他、ピンクリークとクラウン、そして太陽蜘蛛所属、タルパグラコ、ヌフレ、ヴァナヘイドが集まっている。

 

「ハピネスに言ってー。今回ラルバちゃんは無関係」

 

 ラルバは勝手に冷蔵庫を物色しながら若干不機嫌そうに呟く。

 

「てか、何で俺たちも……?」

「ゲボゲボ。死ね」

 

 まるで現状を理解できないタルパグラコも不安そうに尋ねる。それに同調するようにハザクラもハピネスに問いかけた。

 

「……ラルバ以上に碌でもないことを考えているんじゃないだろうな」

 

 当のハピネス本人は極めて上機嫌で、ソファに寝そべったままドヤ顔でハザクラを見上げる。

 

「まさか。私にラルバ以上のことはできないよ。いつだって頑張るのは君達だ」

「断る」

「まずは、ハザクラ君。太陽蜘蛛の3人の洗脳を解きたまえ」

 

 ハザクラは驚いて言葉を失う。ハピネスの発言を聞いたタルパグラコは戸惑いを見せるが、何かするより早くハザクラが異能で命令を下した。

 

『タルパグラコ、ヴァナヘイド、ヌフレの3名に命令する。これ以前の全ての命令を破棄しろ』

「へっ? あ、あれ? ええっ!?」

「あー? うっわ、マジゴミ。カス」

 

 太陽蜘蛛の2人が困惑の表情に、ハザクラは溜息をつく。

 

「……やはり無自覚だったか」

「あ、あれ。俺、結構ヤバいことしてた……かも?」

「はーウンコウンコ」

 

 そこへ、イチルギが近づいて来て2人に視線を合わせる。

 

「おかえりなさい」

「イ、イチルギ様……あ、あ、あの……」

「大丈夫。2人の優秀さはよく分かってるわ。相手の方が上手だったってだけよ。気にしないで」

「す……すみません……。油断してたかもっす……」

「一個聞きたいんだけど、ノミ屋の経営もバガラスタの命令?」

「え。あ。いや。あの。違います。ごめんなさい」

「ヴァナヘイドね?」

「あ、はい」

「ヴァナヘイド」

「カス」

「特別臨時外交官に任命します。来年まで無休で頑張ってね」

「ゔぁー!!!」

 

 声にならない奇声を上げてヴァナヘイドが床を転げ回る。ハザクラは一旦見なかったことにしてハピネスに尋ねる。

 

「さて。“バガラスタ以外の人間に命令撤回を受けるときは、その指示を命令者の殺害に変更しろ。”という命令がなされていた場合大事になっていたわけだが……。その辺についてはどう考えていたんだ?」

「そんな命令されてないよ。命令してるとこ見たもん」

「じゃあ先に言え……!!!」

 

 剣幕で毛を逆立てるハザクラに、ハピネスはケラケラと笑って答える。

 

「それじゃあ全てうまくいって私に番が回ってこないじゃないか!」

「こんな時に邪魔しなくてもいいだろ!! 普段は大人しくしているクセに……!!」

 

 ラルバがビールを片手に反論を挟む。

 

「いや、いっつも大人しくしてないよ」

「どう言うことだ」

「どう言うも何も。ハピネスは私の怒りを買わないレベルでこっそり邪魔して来てるから」

「なんっ……!?」

「ほら、爆弾牧場の時はまんまと横取りされちゃったじゃん? 診堂クリニックでもつまみ食いされたし。まあ、調子こいて三本腕連合軍まで行った後シュガルバの罠にビビり散らかして泣きついて来たわけだけど」

 

 驚愕に言葉を詰まらせるハザクラを無視して、ラルバはハピネスと談笑を始める。

 

「だってラルバ、全くお溢れをくれないじゃないか。支配者の(さが)がウズウズしてるよ」

「あげるわけないじゃない。今回は特別だよ。イジメたいよりめんどくさいが勝っちゃった」

「裏方はやってくれるんだろう? とびっきりのポジションを用意してるよ」

「絶対碌でもないことだ。誰に似たんだか……」

「お手本がいいもんで」

 

 ワハハハと笑い合う2人に、ハザクラは形相険しく唸り声を上げる。

 

「遊びじゃないんだぞ……!!」

「遊びじゃんね」

「ハザクラ君が本気でやるより私らが遊びでやる方が上手くいくよ」

「クソッ……!!!」

 

 ソファに寝っ転がっていたハピネスはハザクラの肩を手摺代りにして「よっこいせ」と立ち上がる。

 

「まあ安心しなさい。手加減できる相手でもなし、やるからには本気で行くよ」

「きゃーハピネスさんかっこいいー!」

 

 つい先程目が覚めたらばかりのクラウンは、状況が一片も理解できずピンクリークに尋ねる。

 

「……何の話!?」

「碌でもない話。理解する必要はねーぞ」

「またかよ!!」

 

 

 

 

〜愛と正義の平和支援会 南河地方 バガラスタ王宮〜

 

 自室で勉強をしていたセレスタ・サルファドットは、何か人の声が聞こえたような気がして意識を外に向けた。どうやら庭の方から聞こえてくるようで、気になって窓を開けてみた。

 

「こんにちは、セレスタ君」

「……どなたでしょうか?」

「俺はラデック。怪し……怪しい者だ」

「……はあ」

 

 セレスタの自室は2階。声のする方向は自分の目線の高さ。とすれば、このラデックと言う男は庭に生えている木によじ登って話しかけて来ているのだろう。植木屋か、虫の駆除業者か。目の見えない彼にもその程度の推測は出来た。そんなことを考えていると、ラデックは更に続けた。

 

「毎日勉強ばかりで疲れただろう。少し息抜きをしないか?」

「息抜き? ……いえ、母様に叱られます」

「どうして?」

「どうしてって……。最近、課題が難しくなって……試験の点数も良くないんです」

「辛くないか?」

「……いえ、早く母様の役に立ちたいです。そのために、もっと頑張らなきゃ」

「なるほど……」

 

 その時、少し強めの春風が吹いた。木の葉を揺らす心地よい風だったが、それがセレスタにとっては地獄の苦しみになる。音を拾うために伸ばした波導糸が絡み合い、傷口を紙やすりで擦られるような激痛が走るのだ。

 

 セレスタは身構えた。あくまでも、目の前の彼に悟られないように。

 

 しかし、痛みは感じなかった。窓から吹き込んだそよかぜが、緊張で湿った額を優しく乾かす。

 

「間に合ったか……。波導糸が肉体扱いでよかった」

 

 ラデックが安堵するように言い、窓枠に飛び移って来た。その時漂わせていた波導糸が引き千切れるが、またしても痛みは感じない。

 

「教科書……? ……君は盲聾者(もうろうしゃ)だろう? どうやって読んでるんだ?」

 

 セレスタは体を強張らせた。自分が盲聾(もうろう)であることは国家機密。これを知るのは両親と、教育係のムカラマツ上級大将。そして数名の関係者のみ。「バガラスタ国王の嫡男(ちゃくなん)盲聾(もうろう)であると知れたら国家の恥である」そう言われて育って来たセレスタにとって、自身の障害は決して知られてはならない(けが)れの烙印であった。

 

「あ、あ、えっと、あ、あの、あ」

「うわっ、このライト眩しっ」

「あのっ、わ、私は、その、も、もう、盲聾(もうろう)なんかじゃ、……」

 

 ラデックはセレスタの方に顔を向けた。

 

「……じゃあ、俺が着ている服は何色だ?」

「えっ――――」

「意地悪を言ってすまない。だが、俺は決して君に悪さをしに来たわけじゃないんだ」

「あ、あ……」

「俺は生命改造の異能者。君が苦痛の中この波導糸だけを頼りに生きてると聞いて、苦しみを取り除くためにやって来たんだ。……嘘は言ってないな、うん」

「え……」

「君の秘密をバラす気はない。味方になりたいんだ。……これも嘘じゃないな、よし。いいぞ、俺」

 

 セレスタは暫く呆然とし、躊躇(ためら)いと葛藤の中ゆっくりと口を開く。

 

「あ、あ……あの……あ……」

「うん。何だ?」

「あの……ラ、ライトで……も、文字を……照らして……その……」

 

 セレスタが波導糸で本の表面をなぞる。その様子はラデックには見えないが、彼が何をしようとしているのかは理解した。

 

「……そうか。黒い文字と、白いページの温度差を波導糸で……。こんなもの、音読機か点字本でも買ってやれば済むことを……。これじゃあ、数行読むのに何時間かかると……!!」

 

 ラデックはセレスタの手を引き、強引に抱きかかえて窓から飛び出した。

 

「わっ! え、えっ!?」

「気が変わった! 無理にでも連れて行く!」

「ど、どこへ!?」

「あの王宮以外ならどこへでもだ!」

「ちょっ、ちょっと! あの! これって誘拐――――」

「ああそうだ! 俺の役目は君の誘拐だ!」

 

 体が浮き上がるような感覚。景色を見ることができないセレスタにとって、空を飛ぶというのは理解の外の行為であった。

 

「ただの誘拐じゃないぞ! 楽しいことも美味いものも、これ以上ないってくらい味わわせてやる! 人生初の家出、遊び尽くすぞ!」

 

 

 

 空の彼方に消えて行く羽付きラデック(バケモノ)を、王宮の庭からゾウラとラルバが眺めていた。

 

「すごいすごい! もう見えなくなっちゃいました!」

「ラデックってああいう子絆すの得意よね……。詐欺師とか向いてそう」

「じゃあ、私も行って来ますね!」

「あ、行ってらっしゃい。私もエアコンのドレンホースにゴキブリ詰めたら帰るね」

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