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41話 智を以て愚に説けば必ず聴かれず
〜人道主義自己防衛軍 日向荒野〜
置いてきたラプーを回収し再び荒野を走り続ける輸送車は、風化した岩の間を土煙を上げて車体を大きく揺らす。
慣れない揺れにハピネスは顔を真っ青にしながら窓に頭をもたれ、水筒から伸びたストローを力なく
「うう……も、もう少し振動を抑えて……」
運転席に座るジャハルは小さくため息をついて減速するが、すぐさまラルバが運転席をバンバンと叩いて急かす。
「遅い!もっと速く!!」
ジャハルは
「仲間が苦しんでいるんだぞ。お前には
「早く到着すればその分ゆっくりさせてやれるだろう!そういう気遣いだ!」
「うう……ほ、本当にゆっくりさせて貰えるのか……?」
「んー保証はしかねる」
皆が諦めたような呆れたような
「そういえば今はどこに向かっているんだ?」
「“グリディアン神殿”だ。軍事力はそこまで高くないが、差別思想が強く攻撃性が高い。他の国にも差別思想が
「ラルバはいいのか?自分で決めなくて」
「んー?悪者がいればそれでいいよ」
「そうか。ジャハル、グリディアン神殿はどんな国なんだ?」
「そうだな、一言で表すなら“
「待て、女性が男性より上という風潮?俺の認識が正しければ元々世界的には
するとイチルギが小さく
「あー、それは
ラデックがイチルギの方へ振り向く。
「そういえば……確か世界ギルドでも言っていたな。使奴とのハーフが増えて女性中心の社会になったと」
「ええ。どういうわけか使奴の子供達のうち女性は肉体的にも魔力的にも強くなって、男性は特に影響が現れなかったの。そのせいで筋力によるヒエラルキーは逆転して世界には軽微な女尊男卑が根付いていったわ」
ラデックが小さく「なるほど」と
「グリディアン神殿は元々ただの宗教色の強い集落だったらしい。使奴が
イチルギが悲しそうに
「ええ。バイモンとペルスタック外交官ね。心苦しかったけど、憎しみを連鎖させないために全てを揉み消したわ。そのせいで世界ギルドへの不信感は大きくなったけど、なんとか戦争だけは回避できた」
「……我々、人道主義自己防衛軍は世界情勢に関わってないから資料が残っているが、この件は
2人の間に悲哀の情が流れ空気を重たくするが、
「その外交官はどんな殺され方をした!?なあなあ!!殺されたのだろう!?どう
心の底から嫌悪しそっぽを向く2人に代わって、
「……グリディアン神殿からの
ジャハルはハンドルから片手を離し、強く噛み締めた歯を隠すように口元を
「知らず知らずのうちにグリディアン神殿の怒りを買って滅ぼされた国も少なくない。それぐらいに無茶苦茶で恐ろしい国なんだ。あそこは」
話の重苦しさとはかけ離れた楽観的表情のラルバは、頭を左右にゆらゆらと揺らして
「盲信者ってのは怒らせると怖いからねぇ。イっちゃんさっさと皆殺しにすればよかったのに。
イチルギはラルバの
「はぁ〜あ。ちょっと人間育成ゲーム失敗したくらいでそんな落ち込むなよぉ。…………うん?」
ラルバは何かに気づきイチルギを押しのけて窓を開ける。窓から頭を突き出し
「おいラルバ!!」
ラデックの呼びかけに返答はなく、代わりに未だ
「……面白いものを見つけた……すぐに追いつくから先に行ってろ……だそうだ……」
するとハザクラが助手席の
「みんなは待っていてくれ」
ジャハルが慌てて引き止めようと手を伸ばすが、ハザクラは時速100km近い輸送車から構わず飛び降りた。
『ラルバの後を追う』
ハザクラは地に足をつけると同時に人間離れした
「なるほど……自分の命令に自分で
「…………今回の
「
〜
意外にも、砂漠における死因は
ここ大蛇砂漠では砂丘のような大量の砂こそないものの、地表付近まで
そのためこの大蛇砂漠を通る時には“
今まさに愚者の道の
商人の老婆は肩で大きく息をしながらゆったりとした歩みで女性に近づき、ぐらぐらと煮え
預言者の女性は必死に頭を両手で守り身体を丸めるが、老婆は親の
この預言者は
予期せぬ大蛇の
誰にでも起こる低確率の事故。その手番が今回偶然この老婆に当たっただけで、預言者が手を抜いたわけでも、
しかし老婆にはそれが気に食わなかった。商人である老婆にとって金とは保証であり、金銭を払った対価がハズレくじに変わることなど到底許せなかった。
今回の商売で得るはずだった大金に
「あーあーいっけないんだぁーっ!!!」
砂漠には場違いすぎる明るくあどけない女性の声。老婆が振り向いた視線の先には、
「何があったのかは知らないけど……見た感じ商人?でもってその子が腹いせにぶん殴られてるわけだ!いやあ
老婆はラルバの敵意に気が付き、すぐさまメイスを捨て両手を上にあげて
「うん?もしかして私がその子を助ける為に手を出すと思ってる?まっさかぁ。私にそんな正義心も善意もないよ!」
ラルバは老婆の真似をして両手を上にあげて数歩下がる。しかし老婆は用心深く、
「んー信用してないねぇ……まあそっか。怪しいもんねぇ私」
ラルバは残念がるように肩をすくめて首を振る。
「いい
老婆が
「おいラルバ、これはどういう状況だ。何をしている」
ラルバが振り向くと、遅れて走ってきたハザクラが荒くなった呼吸を整えながらこちらを
「んえ?悪者退治。この婆さんったら酷いんだよー。怪我人を鋼鉄のメイスで何度も」
『酷いのはお前だラルバ。彼女を離せ』
「やだぴょーん」
ラルバはハザクラを挑発する様に老婆を大きく揺らして見せびらかす。その度に老婆の身体は節々で骨折を起こし激痛が走る。
ハザクラはこれ以上の会話は無意味と判断してラルバに接近し、その手首を短剣で切り落として老婆を救出した。
「いったぁーい!!!なんてことすんの仲間にぃー!!!」
ラルバは
「すみません魔法が苦手で、今は痛みを
ハザクラは老婆に背を向けて寝っ転がったまま動かないラルバに近寄る。
「おいラルバ。ラデック達を呼ぶか怪我を治すかどちらか手伝え。お前にとっても今ここで死人を出すことは得策じゃないだろう」
「
「は?」
ラルバがハザクラの手を引いて地面に引き倒すと、先程までハザクラがいた場所を2発の銃弾が通過した。ハザクラは驚いて老婆の方を見ると、老婆はいつの間にか立ち上がっており、
「なっ……何故……!?」
「クラぽん分かってないなぁ……バカってのは自分に優しくする、つまり見下してくる相手は憎むべき攻撃対象なんだよ」
「見下してるわけじゃない!!」
「いや君はそうでも向こうはそう思わないよ?想像力想像力ぅ〜」
ラルバは再び飛んでくる銃弾を指先でキャッチしながら老婆に近寄り拳銃を取り上げる。老婆は顔を真っ青にして
「怒ったり泣いたり、恨んだり怖がったり……元気だねぇおばあちゃん」
そう言ってラルバは老婆の足を掴み、大きく振りかぶって
「親切な若者から空中散歩のプレゼントだよっ!!良い旅をっ!!」
老婆は最後の最後に
満足そうに空を眺めて
「……あのご婦人には、言葉が通じていなかったんだろうか」
「いんや?ばっちし通じてたよ?ハザクラが回復してあげた時の伏せた目!あれは間違いなく弱者を演じる悪者の目だったねぇ」
「……そうか」
「いんやーこんな節穴小僧が世界を
「
2人は老婆に殴られていた女性に近づき、回復魔法で怪我を治した。大怪我の激痛に苦しんでいた女性は、全く痛みがなくなった両腕を驚いた顔で見つめラルバに抱きついた。
「うわあ離れんか気持ち悪い」
「なぜ好意に反射で
女性はラルバに
「もし、失礼なことをお聞きしますが、貴女は言葉を発せないのでしょうか?そうであればこの先何かと不安でしょう。我々が安全圏まで護衛します」
するとラルバが女性の顔をマジマジと見つめて顎を
「いや……コイツは“話せない”んじゃなくて“話さない”んだな。おい、なんか
あまりに失礼な物言いにハザクラがラルバと女性の間に手を出して割り込む。しかし女性は少し考えたような
「鞍替え日の雨垂れ!精神ファンファーレの滞留縄文は青葉が如き!還元!」
突然の狂った発言に2人は顔を見合わせて固まる。
「ハザクラ、え?何これ?え?暗号?法則性あった?」
「密売投稿は真逆奉公?咲いてもミステリアス?」
「んんんチミはちょっと黙ってろ」
ラルバは
「なあハザクラ。これどういうことなんだ?」
「…………喋り方からして、多分だが“なんでも人形ラボラトリー”の国民かもしれない」
「ああ、あのクソみたいな名前の国」
「天元鹿の電話日記!!簡単森が!!麗し!!」
「喋るなっつーに!!」
国名に反応した女性をラルバが再び抑えつける。ハザクラは困ったように髪を
「困ったな……なんでも人形ラボラトリーはグリディアン神殿のずっと先だ。一旦門前で別れて……」
「その“なんでも人形ラボラトリー”とはどんな国なんだ?」
「俺もよく知らない。知っている人間が言うには……まあ……“不思議な国”だそうだ」
「行こう!!」
「は?」
「グリディアン神殿は後回し!!そっち先行こう!!」
「いや、だからそうすると効率が――――」
「はー!?人助けに効率もクソもあるかこのアンポンタンのすっとこどっこいナメクジ野郎!!」
「……はぁ。どうせ逆らっても無意味か」
ハザクラは諦めたように大きく溜息を吐くと、ラルバと共にラデック達の元へ走り出した。預言者の女性を背負ったラルバは、上機嫌のあまりハザクラをどんどん引き離して独走していく。
「んふふ……いやぁ不思議な国かぁ……楽しみだねぇ」
「パズル鰐も峠!ありのまま掬い瓶、雁字搦めで用途!!」
「喋るな。気が狂う」
【不思議な国】