シドの国   作:×90

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毎日23時~24時の間に続きを投稿します。ストック分がなくなり次第毎週日曜日0時投稿に切り替わります。

途中からフォーマットや誤字脱字ルビ振りが修正されていないことが増えますが、現在修正中です。しばらくお待ちください。


4話 肉欲のツケ

~第四使奴(シド)研究所 実験棟~

 

「追い詰めたぞ……すばしっこいやつだ……」

 

 疲労困憊(ひろうこんぱい)の研究員の群れの中、一人が肩で息をしながらよろよろと前に出る。

 

「はあっ……はあっ……クソッ……上手くいってりゃ俺らのモンだったのに……」

「抜け駆けなんてセコいことしようとするからだ……ぜえっ……ぜえっ……」

 

 走り疲れた研究員達は疲労を露わにしながらも、目の前のご馳走に爛々(らんらん)と目を輝かせている。そうして疲れ切った体と武装を引き()って突き当りの角を曲がると、大きな扉の持ち手に、使奴の少女”バリア”がしがみついていた。

 

「はあっ……? こいつ……!」

「ふざけんなよ……ふざけんなよぉっ!!」

 

 あまりの怒りに研究員が背負っていたガスボンベをバリアに投げつける。ガスボンベは衝撃に(ゆが)み跳ね返ったが、バリアには傷一つ付いていない。

 

「ガス! ガス撒け!」

「馬鹿やめろ! こんな狭いとこで撒くな!」

「知るかクソが!」

「死ね死ね死ね死ねこのクソ女がぁっ!!」

「誰かカッター持ってこい! 扉切るぞ!」

「こんな換気悪いとこでどうやって切んだよ!」

 

 あまりの怒りと疲れにパニックになった研究員達はガスを撒き散らし、他の者は鬼の形相(ぎょうそう)でバリアを殴りつける。バリアは怪我こそしないものの、研究員達に引っ張られ両手は今にも扉から引き剥がされそうだった。

 

「引っ張れ引っ張れ! 引き剥がせ!」

「離せクソ女ぁぁああっ!!」

 

 必死にしがみつくバリアだったが、次第に指は一本一本と外され、ついに両手が離れてしまった。研究員達はバリアを扉の反対側へ蹴とばすと、我先にと扉の制御端末に群がる。

 

「よしよしよしよし!! 開けろ開けろ!」

「ロックナンバーいくつだ!?」

「馬鹿! 覚えとけ!」

「おい! 手の空いてるやつ22番を押さえろ!!」

 

 扉が短い電子音を発して、赤いランプが青に変わる。研究員達は涎を垂らし下品な笑みをガスマスク越しに(のぞ)かせ、そして――――――――

 

 

 白目を剥いて次々に倒れ込んでいった。

 

 

 その様子を見たバリアは(おもむろ)に手をついて立ち上がり、扉を数回不規則にノックする。(わず)かに扉が開き、隙間からラルバが目を覗かせた。

 

「全員眠ったか?」

「うん」

 

 ラルバがゆっくりと扉を開け、床に倒れ込んでいる研究員をみてニヤつき監視カメラに向かってVサインを掲げる。一拍置いてスピーカーからノイズが漏れ、ラデックの声が響いた。

 

「まだ息はするなよ。換気が終わってない」

「流石にもうそろキツいぞー」

「2人の性能ならあと5分は止めていても問題無い。3分だけ我慢してくれ」

 

 ラルバはむすっとした顔で監視カメラを(にら)みつけ、横にいた研究員の頭を軽く蹴る。

 

「間抜け共め」

 

 ラルバが細工したガスマスクが割れ、中から穴だらけになったフィルターが転がった。

 

「バリアよくやったなーお手柄だぞー、えらいえらい」

 

 ラルバの頭を乱暴にわしゃわしゃと()で回す。

 

「俺も頑張ったぞ」

「この程度でか? 馬鹿言え」

 

 ラデックの抗議に悪態をつきながら、ラルバは研究員達を実験室に引き摺り込んでいった。

 

 

 

「おはよう諸君! 気持ちのいい朝だなぁ! 崇高なる神は今日も我々を見守ってくれているぞ!」

 

 実験室のスピーカーからけたたましく鳴り響くラルバの挨拶に、研究員達は飛び起きる。

 

「な、なんだ?」

 

 両手を後ろで縛られた研究員達は、自分たちの置かれた状況が理解できずに狼狽(うろたえ)る。

 

「これからは君たちにゲームをしてもらう! とっても楽しいゲームだから期待した方がいいぞ!」

 

 ブザー音と共に実験室の四方からガスが噴射され、実験室に充満する。

 

「ゲホッ! ゲホッ! な、なんだこれは!」

「ど、毒ガスだぁ! たっ助けてくれっ!」

 

 1人が扉に駆け寄るが、破壊された電子ロックが火花を散らして黙り込む。監視カメラ越しに様子を見ていたラルバが手を叩いて喜び、大声で嘲笑(あざわら)う。

 

「毒ガス? 否! これは媚薬(びやく)ガスだ! はっはっはー!」

「正確には生殖機能増幅ガスだ。精神的な作用はない」

 

 後ろでラデックが訂正する。

 

「だっ出してくれっ! 何でもする!」

「俺は商工会会長の弱みを知ってる! 俺を助けてくれたらアゼルバンの街で一生遊んで暮らせるぞ!」

 

 研究員達が監視カメラに()(へつら)ってアピールをするが、スピーカーからはラルバが暢気(のんき)に酒を(すす)る音だけが返ってきた。

 

「えーと……なんだったか……そうそう!!」

 

 ラルバは大きく手を打ち鳴らすと「ヒッヒッヒ」と不気味な笑い声を(こぼ)す。

 

「今君達はとっても元気だろう? 主に股間が。媚薬でそれはもうギンッギンの(はず)だ」

 

 後ろでラデックが資料を見ながら解説をする。

 

「元は男性器を有する特殊な雌型使奴を対象とした薬だが、元々の性別が雄なら問題があるほど効果が発揮される」

 

 そして前屈みになってモニターと資料を交互に見つめる。

 

「とは言うものの、強制的に生殖機能、主に血流や海綿体及び精巣に影響を及ぼすだけで大したことはない。精巣上体に生成された粘液を排出し切れば症状は収まる」

「と言うことだ! 放っておいてもまず()えることは無いだろう!」

 

 ラルバがラデックを押し除けマイクを握る。

 

「しかし出してしまえばそれまで……そこで! 君たちの中で萎えてしまった奴から殺していくことにする!!」

 

 研究員達はラルバの言葉を理解できずに呆然(ぼうぜん)とモニターを見つめ、口から漏れ出た唾が(あご)を伝う。そんな研究員達に向かって、ラルバは少し声のトーンを落として――――

 

「今から全員で互いのモノをしゃぶり合え」

 

 マイクのノイズと、ラデックが書類をめくる音だけがスピーカーから小さく漏れ出している。いつもなら研究員達は余りにも馬鹿げた発言に嘲笑と怒号の入り混じった抗議をぶつけただろうが、モニター越しにこちらを睨む怪物に物言いは出来なかった。そして、その自分たちの沈黙が正しい選択であったことを知る。

 

「両手は後ろで縛られているから無理だろうとは思うが、一応言っておく。”求愛行動”に手や足を使うのは禁止だ。相手のモノに触れていいのは首から上のみとする。そして」

 

 甲高い金属音。突然鳴り響いた聴き慣れない音に皆情けない悲鳴を上げながら屈み、恐る恐る音のした方を向く。

 

「萎えた奴からこのように殺していく」

 

 視線の先には、股間から大量の血を流し白目を剥いて(もだ)える男の姿があった。全身を縛られ、口には猿ぐつわを付けられており声は一切漏れてこない。

 

「安心しろ、こいつは個人的にムカついたから“ちょん切った”だけだ。しかし萎えてしまったやつは同じように、腰に装着してある”ギロチンマシーン”でモノをズタズタにして失血死するまで嘲笑ってやろう」

 

 重たいラルバの声が研究員達の後ろから擦り寄る。

 

「……まあまあまあそんな暗い顔をするな!! 楽しいゲームだって言っただろう!! ちゃーんとご褒美も用意してあるぞ!!」

 

 打って変わってニコニコしながら明るく話すラルバは、彼らには一層(おぞ)ましく見えた。ラルバが鼻歌を歌いながら手元のパネルを操作し、満面の笑みで両手を広げる。

 

「最後まで生き残っていた奴にはー……、じゃじゃーん!」

 

 合図とともに実験室の隅のカーテンが落下し、ラルバ達が手に入れた金銀財宝が露わになる。

 

「こちらの財宝を差し上げまっしょーう!」

 

 突然現れた目も眩む財宝に研究員達は唾を飲む。

 

「ほ、本物か? コレ……」

 

 一人の男が恐る恐る近寄る。

 

「わからん! ラデック、どうなんだ?」

 

「盗賊の国から手に入れた財宝だ。質はかなり良いと思うが……いかんせん物価がわからないことには相場もわからない」

 

 研究員達は見たこともない宝の山に、今までの恐怖など忘れて見入る。

 

「せ、世界ギルドの紋章入りだ……! 間違いねぇ!」

「こんだけあったら一番いい女を何百回も……いや娼館(しょうかん)ごと買い取れる……!」

「使い切る方が難しいぞこんな大金……」

 

 舐めるように見つめる研究員達に、ラルバは満足してニカっと笑う。

 

「もちろん生き残れば逃してやる。ルールは簡単! 手足の使用と暴力禁止! お宝目指してレッツラゴー!」

 

 

 陽気なGOサインを最後に実験室は静まり返り、少しずつ不安と焦りに(どよめ)き始める。

 

 

 ラルバの後ろでラデックはマイクのスイッチを切り、モニターを眺めながら問いかける。

 

「上手くいくのか? これ」

「まあ見ていろ……ひひひっ」

「……俺はいい」

 

 ラデックは資料を棚に戻し、鞄を担いで振り向く。

 

「終わったら教えてくれ」

「終わったと思ったら来い」

 

 操作パネルに行儀悪く両足を乗せ、背もたれを大きく倒して鑑賞準備が整ったラルバを一瞥(いちべつ)して、ラデックは閉まる自動ドアに勢いよく肘をぶつけて出て行く。

 

「俺は少しせっかちかも知れない……」

 

 独り言を溢しながら肘を(さす)るラデックの後ろでドアが閉まる瞬間、隙間からラルバの下品な笑い声がけたたましく鳴り響いた。

 

 

 

【使奴の生き残り バリアが加入】

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