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53話 清く正しく美しく
少年の名前はテルリック。朝は畑仕事に精を出し、昼は牛の面倒を見て、夜は家事をこなす働き者の少年だった。村人はこの働き者のテルリックを可愛がり、父親も自慢の息子だと胸を張っていた。
しかし、そんなテルリックにも人並みに欲望があった。
いつか大きな街にいってみたい――――
沢山の人、自分と同年代の人に会いたい。水や塩も好きなだけ使いたい。本も沢山読みたい。そんなことを毎晩妄想して気を
高い丘に登ると
そんなある日、テルリックは畑仕事中に1人の女性と出会った。その美しい女性は
街からやってきたという“ヘラン“と名乗る女性はテルリックの働き振りを
それからと言うもの、テルリックは畑仕事の途中で何度もヘランと会った。しかし街を嫌っている村の人間にヘランの存在が知られたらどうなるか、テルリックは想像することも恐れて誰にも話すことはなかった。
そんなある日、ヘランは自分が医者の娘だと言うことをテルリックに話した。そしてある提案をする。
「アナタの目玉を片方売ればいい」
ヘランが言うには、目玉は高い金額で売れるから街へ行くお金が手に入る。そして目玉は二つあるから片方売っても生活には困らない――――と。
この言葉には流石にテルリックも
このチャンスを逃せば二度とそんな大金は手に入らない。そして何より自分の愛した女性も片目を失っている。テルリックはここで断ればヘランの
突然いなくなったテルリックに、村の人間は
その1週間後、テルリックは突然戻ってきた。両目を失った状態で――――
父親が
テルリックが言うには、最初は右目だけの予定であったが、ヘランの母親は何を思ったのかテルリックの両目を
「どこの誰か知らないけれど、このお金は大切に使わせてもらうよ!ありがとう!」
人違いなのか、ヘランの伝え間違いなのか、テルリックが
〜名も無き集落 ジルリックの家〜
「そ、それが……つい先週のことです……」
テルリックの父親、ジルリックは目一杯に涙を溜めて震えながらそう話す。
目の前に座る
「……それはお
美しい黒髪を後ろで結った白肌の女性、イチルギがジルリックの
「いやあ〜それはそれは
ジルリックは
「……ここ最近はずっと塞ぎ込んでいます。何せ初めてできた同年代の友人……
「ふむ……ハピネス。どう思う?」
家の外で聞き耳を立てていた短い金髪で細身の男性、ラデックは
「あれ?それ私に聞いちゃのかい?」
「ん……まあ……」
ラデックは少し離れた場所に待機している2人の方を見る。
1人は小柄でラルバ達と同じく真っ白な肌と額に黒い痣をつけた白髪の少女、バリア。もう1人は小柄なバリアよりも背の低い丸々太った中年男性、ラプーがまるで石像のように
「あの2人に聞くと機械的な模範解答が返ってきそうだ。まず人間味のある不確定な感想を聞きたい」
「ふむ……まあ私はこの件、“覗き見”したわけじゃないから推測しかできないけど……」
ハピネスは一切の光を感じることのできない両目を、さも見えているかのように動かしてジルリックを眺める。
「……この辺の人間は皆、“グリディアン神殿”から逃げてきた被差別民だろう。しかし、この孤立した集落で生き残るにはどうしても貿易は
「なるほど、どこかの国の法律の
「だが、少々遊びが過ぎる」
「遊び?」
「
「……と言うことはこの村の士気を下げることが目的か?」
「いいや……士気を下げるならさっさと
ハピネスが鼻で笑いながら明後日の方向に視線を向ける。既に彼女はこの惨事に興味を持っておらず、
ラデックは再び家の中を覗き込み、悲しみに震えるジルリックを見て呟く。
「……確かに、運がないな」
「それどっちに言ったの?息子を
「これからラルバに
「……まあ確かに、一番不幸かもね。ふふふ」
〜
「おい!お前アタシのシャブ
「あぁ?盗ってねぇよ!キメすぎで
「んだとテメェ!!」
「うっせーな人が飲んでんだろうが!!静かにしろ馬鹿共!!」
「
ダイヤよりも貴重な化石が大量に眠る地層を乱暴にくり抜き作られた隠れ家では、グリディアン神殿を追われた荒くれ共が盗品を
その騒ぎの奥、ソファに
「やあヘラン。今日はあのボーイフレンドのとこに行かないのかい?」
へべれけになった別の1人がヘランの横へ乱暴に腰掛ける。
「……?あのボーイフレンド?私に“オタケ“の知り合いなんかいないわよ……」
「えー?なんか最近熱心に会いに行ってたじゃん!ほら、先週なんかうちのアジトにまで連れてきてた……」
ヘランは細かく刻んだ薬の粉にストローを近づけ、勢いよく鼻で吸い込み
「…………あー……いたわねそういえば」
「いたわねって……もしかして
「…………いや…………目ん玉くり抜いて巣に返した…………」
「あはははっ!そういやグイーンに何かやらせてたわね!あの変態が
「うっさいなもう……ただの暇潰しよ……殺すと後始末がめんどいし……死体には歩いて帰ってもらったほうが楽でしょ……」
「なるるほどねぇ。一理あるわぁ」
「どうせ殺したって“オタケ”の臓器なんか
すると突然アジトの入り口が
「全員両手を上げて動くな!!!」
室内からは逆光で見えづらいが、入り口に立つ2人の人影のうち背の高い方が
その意匠の意味を知っていた荒くれ共の1人が大声を上げる。
「“
さっきまで
「……全員逃したか」
軍服を着た背の高い色黒の女性、ジャハルは長い銀髪をかきあげて
「これで良かったのだろうか?ハザクラ」
ハザクラと呼ばれたもう1人の人影――――赤い髪の青年は、前髪で顔の右側を隠しているせいでジャハルの方からは表情が読み取れなかったが、明らかにこの状況を
「良かったんだろう。ラルバの作戦……もとい
「……クソッ。こんなこと、
「レイ……か、あの馬鹿共には
「
「……今の俺達は、悪の裁き方に文句を言える様な立場じゃない。黙って受け入れるしかないんだ」
〜
「はぁっ……はぁっ……」
アジトを逃げ出したヘランはいち早く谷を超え、グリディアン神殿へ向かう商人が利用する道に到着した。後ろを振り返ると仲間は誰一人としてついて来ておらず、皆途中で捕まったのだと予想した。そこへタイミングよくやってきた車両、見るからに高級そうな流線型のホバーハウスを見て、ヘランは大きく
ホバーハウスは突然目の前に倒れ込んだヘランのギリギリ手前で急停止し、運転手と思しき男性が中から降りてくる。
「おいおい危ねぇ〜じゃぁねぇ〜か〜……ん?」
中から降りてきた中年男性、もといラルバの仲間であるラプーは、素行が悪そうな
「おい姉ちゃん……こんなとこにいちゃぁ危ないぜぇ〜?どれ、俺が面倒見てやるよぉ〜」
ラプーは
ヘランが何かを話そうと息を吸った途端、全身の力が抜け今度は演技などではなく本当に
「はぁ〜いヘランちゃん。具合の方は
そこへ降ってくる
「私の名前はラルバ・クアッドホッパー。あれ、後半は言わないほうがいいんだっけ……まあいいや!テルリック君の目玉分の代金、
その言葉にヘランは顔を真っ青にして口元を
ラルバはヘランの身体を担ぎ、食事用のテーブルに乗せて包丁を手に取る。
「大丈夫大丈夫。麻酔は効いてるでしょ?痛くないよ〜」
そう言ってラルバはヘランの服を切り裂き、腹に思い切り刃を突き立てた。
ヘランは一切の感触なく自らの腹部が切り開かれていくのを、絶望と恐怖に染まりながらただ見届けるしかない。
「恐怖で
ヘランは自らの臓器を眼前に突きつけられ、心の底から一刻も早い死を
「あらぁ肝臓も汚ったないねぇ。
ラルバは臓器を一つ一つ取り出す度にヘランに見せつける。
「でもでも〜こんなんじゃテルリック君の両目の代金には届きませんなぁ。次はどこを抜こうかなぁ〜っと。心臓は死んじゃうし……脳味噌も無理……やっぱ肺かな?ヘランちゃんどこから先とって欲しい?」
ヘランは
「返事がないってことは希望ナシってことだよね。じゃあ肺から取っちゃおうか。多分すっごく苦しいけど
肺を抜き取られたヘランは
ヘランの思考はここで途切れた。
〜名も無き集落 村の出口〜
ラデックは村の方を振り返る。そこには両目でしっかり
「
その言葉に、横にいたラルバが不満そうに
「私がやれば数時間で済む。イチルギは仕事が遅すぎる!我々使奴は完璧な人造人間なんだぞ!」
「数時間なんかで治療したら痛みで先に死んでしまうだろう。体にも負担がかかる」
「治してあげるのに文句言うのか」
「言うだろう」
ラデックは先で待っている仲間達の方へ歩き出し、ラルバも小走りでラデックに並ぶ。
「まあでも楽しかったねぇ。ああいう変に善悪の
「巨悪はそうでもないのか?」
「んー……楽しいっちゃ楽しいんだけど、中には自分の悪行を本気で善行だと信じてたりする奴が多いからねぇ。当たり外れが
「そうか」
「次は“
「しかし明確に悪がいることは確実だろう。そう気を落とすな」
「それはそうだけどさ」
快楽殺人鬼の使奴、ラルバ。
謎多き情報屋、ラプー。
使奴部隊の
元世界ギルド
世界平和の担い手、ハザクラ。
人道主義自己防衛軍No.2 ジャハル。
これは使奴――――“使”い捨て性“奴”隷達が生きるこの世で、悪とは、そして正義とは何かを問い正す物語である。