毎日23時~24時の間に続きを投稿します。ストック分がなくなり次第毎週日曜日0時投稿に切り替わります。
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世界中を旅する移動型国家“真吐き一座”。その総裁である“シガーラット”座長の
〜真吐き一座 夕暮れの宿泊馬車〜
「ひぃっ……!!ひぃっ……!!」
馬車が出発する揺れと共に転がり込んできた男を見て、ジャハルは思わず声を上げた。
「あなたは……確かアネモネ劇団の監督……!そんなに慌ててどうした……!?」
アネモネ劇団のウェンズ監督は、大きく深呼吸をしてからジャハルに駆け寄り、部屋をぐるりと見渡してから小声で叫んだ。
「あっ……貴方達のお仲間……!!あの赤い角の方が……!!座長に監禁されているっ……!!!」
その言葉に、馬車内は一瞬凍りついた。誰一人として微動だにせず、車輪が
「…………どうした。ハピネス」
「トイレ行きたい」
「……………………勝手に行け」
全員に
「えー……だって今何も言わずに立ったらさ、絶対皆私に何か考えがあるって思うだろう?ないよ。ないない。そんなことより、今日の食事当番がいなくなったんだからさ、誰が何作るか決めておいてよ」
その言葉にラデックが小さく「ああ」と
「順番で行けば次は俺か。皆何がいい?」
ラデックの
「あ、あの〜……」
「ん?一緒に食べていくか?なら人数はいつも通りか……」
「あっ、いやっ、け、結構です……って言うかそれよりもっ」
「なんだ?」
「あ、あの、つ、角の方の……」
「ああ、ラルバは一食ぐらい抜いたって平気だ。丈夫だからな」
全く話が噛み合わないラデックに困惑するウェンズ。その横で、ハザクラが
「あー……一応聞いておくが、救出に向かいたい者。挙手」
ハザクラが部屋をぐるりと見渡すが、誰一人反応はなく皆重苦しい表情のまま押し黙っている。そして今度はラデックが口を開いた。
「今夜のメニュー、魚がいい人。挙手」
ジャハルとイチルギとラプーが手を挙げた。
「それ以外に希望ある人」
「牛ハラミ!!!」
トイレの方から強い主張が飛んできた。
「……牛は貴重だ。今夜は
ラデックがキッチンの方へ向かうと、シスターが
「どうした?シスター。残念だが牛ハラミは無いぞ」
「私、助けに行きます」
シスターの呟きに全員が彼の方を見た。ラデックはシスターの挙げた手をゆっくりと下げさせ、同時に手を引く。
「助けて欲しいのは俺だ。鯰
しかし、シスターはラデックの手を振り払って目を伏せる。ラデックは困った様に頭を
「俺は今回ラルバから何も聞いてない。助けが欲しいなら事前に何か指示があるはずだ。下手に関わればどやされるぞ」
「……私は……私の正しいと思うことをしたいんです」
冷たく
「ウェンズ監督、ラルバを
「…………へ?あ、は、はい……でも、なんでそれを……」
ハピネスがトイレから戻り、ラデックにヘラヘラと笑いながら肩を寄せる。
「ラデック君も中々察しが良くなってきたじゃないか」
「そりゃどうも。バリア、ハザクラ。手を貸して欲しい」
「いいよ」
「待て、何をする気だ?」
一つ返事で
「ラルバを連れ戻す。おそらく戦闘になるだろうが、イチ……チル助は参加できないだろうから、ジャハル達と一緒にここで待っていて欲しい。その代わり、拘束力に長けたバリアとハザクラに同行を頼みたい。恐らく、俺の異能だと手加減が出来ないと思う」
そう言ってラデックがイチルギの方へチラリと目を向ける。ローブのフードを深く被ったイチルギは自身の呼び名にただならぬ不満を表しながらも、ラデックの策に賛成して数回
「あの
「……助けにいかなかったところで俺もラルバも気にはしないが、シスターが助けに行きたいと言っているんだ。説得するなら俺よりシスターの方だろう」
ラデックがシスターの方へ目を向けると、シスターはそのルビーの様に美しい瞳を一瞬伏せるが、すぐに決意の
「お願いできませんか、ハザクラさん」
「真意を聞きたい」
「人助けに理由は要りません」
「人助けに理由は必要だ。元より人助けでもないがな……」
「理由が必要ならば後付けをします。善行とは、善き心を持った健全な人間の義務です。必要なのは助ける理由ではなく、助けない理由です。ハザクラさん。善き心を持った健全な人間が他者に手を差し伸べなくていい理由を聞かせて下さい」
シスターの
「わかったよ。手伝う。…………頑固者が増えたな」
ハザクラがチラリとナハルの方を見ると、ナハルは気不味そうに深々と頭を下げた。使奴と言うことをシスターに隠しているナハルにとって、今回のシスターの行動は到底受け入れ難い申し出だった。しかし、シスター本人の強い希望を
「なあに心配要らないよ。今回は安全が”保証“されている」
ナハルはハピネスの
〜夕暮れの
馬車の大群は既に移動を開始しており、コウテイラクダ達はそれぞれ群の先頭へと向かって歩みを進めていた。ラデック達は馬車から飛び降りると、辺りをぐるりと見回してウェンズ監督に教えてもらった座長のいる赤い馬車を探し始めた。コウテイラクダの歩みはそれほど速くはなく、問題は見張りの目を
「意外と見張りが多いな……」
ハザクラは宿泊馬車の車輪の傍に張り付きながら辺りを警戒する。幸いコウテイラクダの指揮を取る御者は先頭に1人いるのみであったが、見張りが数台に1人の割合でついているため、堂々と歩き回るわけにはいかなかった。
「後ろはあの2人だけ注意すれば十分か……?なら……」
ハザクラが見張りの視界から外れると同時に隣の馬車へと移動し、コウテイラクダの足の隙間に身体を潜らせた。しかし――――
「ハザクラ。そこどいた方がいい」
ラデックの警告の直後、コウテイラクダは
「ぐっ……!?」
ラデックは自分が
「コウテイラクダは賢くプライドが高いそうだ。きっと自分を隠れ
「あ、甘く見ていた……」
そんな2人を、コウテイラクダは馬鹿にするように鼻を小刻みに鳴らして甲高く
「しまった――――!!」
ハザクラが見張り目掛けて魔法を打ち込もうと指を向けると、ラデックが射線を塞いで立ちはだかる。
「ラデック!?どけ!!」
「いや、多分大丈夫だ」
ラデックはそのまま隠れることなく見張りの方へ歩いていき、見張りもまた、ラデックの方へ近づいて来た。
「こんばんは」
「こんばんは旅のお方。危ないので、移動中は出歩かない様お願いします」
「座長に用がある。うちのメンバーを
ラデックの発言に、ハザクラとシスターは驚きの余り言葉を失った。しかしそれは見張りも同じようで、ラデックの言葉に目を見開いて一瞬固まるも、何も言うことなく背を向け立ち去っていった。ラデックはそれを見送って、
「ほら、大丈夫だった」
ハザクラは理解が追いつかず、思わずラデックに尋ねる。
「……根拠はなんだ?ラデック、何を知っている……?」
「ただの推測だったが、さっきハピネスに「察しがいい」って言われたお陰で、俺の考えが正解だと確信した」
ラデックはハザクラ達に背を向け、座長の馬車を探しながら説明をする。
「ハザクラ、昨日の劇を見ていて気付いたことはないか?」
「昨日の劇……“
「……多分ラルバは演技を褒めたんじゃない。俺もあの劇、特に殺陣は相当下手だと思った」
「何だと?」
「演技を褒めていない……?」
「俺はこう見えて演劇が好きでな。保育施設では暇さえあれば映画や演劇を見ていた。ジョウデン・シリョウって役者が一番好きで――――って、知るわけないか。まあ演劇の裏方のことは少しだけだが分かるんだ。例えば、殺陣での斬られ役の動きだな。客席やカメラの間に入らないようにするとか、目立ちすぎず地味すぎない退場の仕方とか、舞台から退場して一瞬で着替えて別人としてまた斬りかかるなんてのもある。あの一瞬には、見る側からは到底考えられない程に
ハザクラは再び
「あの乱闘が演技じゃなかったら何だと言うんだ」
「ただの乱闘だ。強いて言うなら即興の乱取り……
「……そんなわけ――――」
「そんなわけあるんだ。暗器の
「……リアルを追求しているんだろう」
「リアルとリアリティは違う。事実は小説よりも奇なり、だが、事実は奇すぎて小説よりも分かりづらくつまらない。自殺に見せかけたであろう密室殺人は本当にただの自殺でしたーなんてオチの本、面白くも何ともないだろう。創作で現実のルール全てを適用するのは悪手も悪手。それを理解していない時点で、この国は“演劇の国”を名乗る資格がない」
「……仮にそうだったとして、演劇下手とラルバの誘拐がどう関係するんだ」
「
「…………誠?」
「“詭弁の英雄譚”の一節だ。あの劇によると、この国は元々悪党の集まりで、その罪滅ぼしの為に嘘をつき旅をしていると言う。恐らく、“役者”と言うのが嘘で、本職は戦士なんだろう。あの殺陣はどう見ても“現実”を知っている者の動きだった。あれは演技ではなく、アドリブの乱取り。最も優秀な戦士である花形が、自分より弱い者の攻撃を難なく躱す。だからリアルで面白みがないんだ。小説よりも奇で分かりづらくつまらない現実を
「役者が嘘だと?考えすぎじゃないのか?」
「昨日会った劇団の人が、花形女優に対して“
「戦士か………………“これは終わらない罪滅ぼし。喜びで支払う憎しみの代価”……ラルバを誘拐したのは罪滅ぼし……
「その勧善懲悪が、さっきの見張りが見逃してくれた理由だ。俺たちは悪を
ラデックが少し離れたところにいる見張りの人間に目を向ける。すると見張りは慌てて視線を背けて気付いていないフリをした。
「何故だか、この国は俺達がラルバを救出することを望んでいる」
ラデックの推測に、シスターは恐る恐る口を開く。
「ラルバさんは自身の
「そこは正直言って消去法で導き出した答えだから不確定だ。この面子で勧善懲悪の為に誘拐するなら十中八九ハピネスだと思ったが、そこを外してラルバだけ連れ去ると言うことは、どこかで情報が漏れたと考える他ない。あとは何かしらの異能持ちがいるかどうかってトコだが……その辺は考えても仕方がないことだからな。今はっきりわかっていることは、この国の役者は全員戦士であるということと、誰かがラルバの悪行を見抜く力を持っているということ、そしてラルバの救出までが黒幕の作戦であるということ……ぐらいか」
辺りを見回しながら歩いていたラデック達の前に、ウェンズから教えてもらった赤い座長の馬車が映る。
「……ただ、誘拐したと言うことは、向こうはラルバが使奴だと言うことは知らないようだ。油断は禁物だが……べらぼうに敵わない相手でもないだろう」
そう言ってラデックが乗降口に手をかけて馬車に乗り込む。入り口から見える場所には不自然なほど見張りの姿は見えず、馬車を引く2頭のコウテイラクダのだけが時折ラデック達を
ラデックが馬車の
「……バリア先生。先生は……黒幕の真意について、どうお考えですか」
「………………特に」
「私達の救出は……何故妨害されないんでしょうか」
「悩むだけ無駄」
「先生は…………先生はどうしてラルバの旅について行っているんですか」
ハザクラの
「おーい。ハザクラー?」
暗闇からラデックの声がする。
「呼んでるよ」
「……はい」
ハザクラは少し悲しそうな眼差しを足元に向けた後、バリアと共に暗闇に足を踏み入れた。
〜真吐き一座 国議馬車〜
一歩進むごとに、床板の軋む音が暗闇を
目を
「……階段だ……微かに物音もする。座長は恐らく2階だろう……」
そして再び歩みを進めようとすると、ラデックは背後で微かに声が聞こえた様な気がした。ラデックが背後を振り向くと、すぐ後ろにいたシスターもラデックの視線を追って同じように振り向いた。視線の先にいたハザクラは歩みを止め、じっと身を固まらせて耳を澄ませている。その数秒後、ラデックは突然叫んでハザクラの方へ駆け出した。
「上だっ!!!」
ラデックがハザクラに体当たりをして突き飛ばすと、ハザクラが立っていた場所の床板が突然弾け飛んだ。ラデック達と分断されたシスターが
「バリアさん!?」
「舌噛むよ」
「バリア!!そのままシスターを奥へ!!」
バリアが階段を登り出すのと同時に、背後から人影が
「
バリアとシスターの後ろ姿は“タイルがひっくり返る”様にして消え去り、タイルはそのまま周囲の景色に
「おいラデック。下だったぞ」
「おっかしいなぁ……まあ俺の虚構拡張が間に合って良かったじゃないか。一発成功だぞ」
「ああ、すごいすごい」
「だろう」
バリア達を追いかけていた人影は、静かにラデック達の方へ振り向いた。ハザクラは服についた
「こんばんはタリニャさん。今思えば、花形女優の顔に傷があるのは確かに不自然だな」
タリニャは顔を
「正義に
パーティ現在位置
国議馬車一階 ラデック、ハザクラ
国議馬車階段 バリア、シスター
国議馬車2階 ラルバ?
宿泊馬車 イチルギ、ハピネス、ラプー、ジャハル、ナハル