シドの国   作:×90

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72話 運命の奴隷

〜真吐き一座 国議馬車一階 (バリア・シスターサイド)〜

 

 シスターがバリアの肩から降ろされて振り返ると、一階への出入り口はラデックの虚構拡張(きょこうかくちょう)により真っ黒な硬い壁となって塞がれていた。有機質とも無機質とも言い難い真っ黒な壁からは一切の音も波導も感じることができず、シスターの耳には馬車の不愉快(ふゆかい)(きし)む音だけが(むな)しく聞こえていた。シスターは壁をそっと指先でなぞると、決意したように背を向けバリアの前を素通りする。バリアは置いてきたハザクラ達の様子を気にかける素振りなど一切見せず、黙ったままシスターの後に続いた。

 

〜真吐き一座 国議馬車二階〜

 

 狭い階段を上り切ると、真っ暗な廊下の奥の扉が少しだけ開いており、そこから光が漏れているのが見えた。2人は何の躊躇(ためら)いもなく真っ直ぐに扉まで歩いていき、その取っ手をゆっくりと引いた。書斎(しょさい)のような部屋の中では、奥の壁に設置されている机に向かって座っている1人の男性――――“シガーラット“座長の姿があった。シガーラットはシスター達の気配に気がつくと、2人に背を向けたまま手元の本を閉じた。

「……よく来ましたね」

 シガーラットは振り向かず、壁を見つめたままシスター達の行動を待っている。シスターはシガーラットの不気味な態度に得体の知れぬ威圧感を抱きながらも、部屋の中央へと歩みを進める。

「ラルバさんを助けに来ました。彼女はどこですか?」

 シスターとバリアがシガーラットのすぐ後ろまで近づくが、シガーラットはそれでも背を向けたまま会話を続ける。その顔がどんな表情をしているのか、無機質で(おだ)やかな声色から想像することはできなかった。

「さあ……隣の部屋に居るんじゃないでしょうか。それとも、もうどこかへ行ってしまったかも知れませんね……」

「……どこかへ行った?……一体……貴方の目的は何ですか?」

「そう言うあなたの目的は何ですか?」

「え――――」

 予想外の質問に、シスターは言葉を詰まらせる。

「ラルバさんを助けに来たんでしょう?なら、私の世迷言なんかに耳を貸さずに探すべきです……あなたは……彼女を助けに来たんじゃないんですか?」

 シガーラットはゆっくりと椅子(いす)を回転させてシスター達の方へ目を向けた。入国時と変わらぬ優しそうな微笑(ほほえ)みだが、その眼は一切の感情を失っており奈落(ならく)の底のような虚無感だけが(ただよ)っている。シスターはこの(あきら)めと絶望を煮詰(につ)めたようなシガーラットの眼に気圧(けお)され、再び言葉を失う。そこへ追い討ちをかけるように、シガーラットが口を開いた。

「あなたの目的は何ですか?仲間の救出?それとも……私の真意を探りに来た?」

 互いに手を伸ばせば届く距離。使奴であるバリアにとっては、(まばた)きをするよりも早く命を刈り取れる即死の間合い。当然、事前に使奴の実力を聞いていたシスターもそれを理解している。

 そんな圧倒的有利な状況にも(かかわ)らず、シスターは己の喉元(のどもと)に蛇が絡み付いているような威圧感と窒息感を覚えていた。

「わた……私、は……」

「怖がらないで下さい。私には、君達を害する力も意図もない」

 シガーラットの言葉は真実であった。その証拠に、シガーラットは使奴の目の前であるにも拘らず、深く椅子に腰掛けたまま身体の力を抜いている。しかしその(うつろ)な態度が、シスターにとっては死を覚悟した手負いの魔物のようで余計に恐ろしかった。そして何よりも、自分の問いが“何か取り返しのつかないこと”を気付かせてしまうような気がしてならなかった。そんな2人の様子を見ていたバリアが、シスターを守るように一歩前に出る。

「シガーラット。私にもあなたがラルバを誘拐(ゆうかい)した理由が分からない。何もかもがあべこべ過ぎる。ラルバの悪事を知っておきながら、ハピネスという巨悪の総大将に触れない理由。ラルバの使奴という危険性を知っておきながら、誘拐に踏み切った理由。ラルバがあなたを殺していないということは、きっとあなたは悪ではないんだろうけど……」

 バリアは一拍だけ間を置くと、立板に水を流すが(ごと)(まく)し立てた。

「もっと言えばこの国の慈善活動(じぜんかつどう)だってチグハグ。裏で義賊(ぎぞく)をしているなら、何でその情報が外に漏れないの?何で圧倒的強者の怒りを買って襲撃(しゅうげき)されないの?()らしめた悪党が毎回自分達より弱かったってこと?尚且(なおか)つ、全員が全員後ろ盾のない(はぐ)れ者だった?そんな都合のいいことばっかり?シガーラット、あなたには“何が見えている“の?」

 バリアがシガーラットの(ひとみ)を探るように見つめる。すると、シガーラットは少し嬉しそうな顔をして眼を閉じた。

「全て、私のギフトによるものです。異能とも言いますか……」

 シガーラットは(ふところ)からリボルバーを取り出し、弾を一発だけ込めてシリンダーを回転させる。

「茶番に見えたらすみません」

 そう言ってシガーラットは自分の頭に銃を突きつけ、連続で4回引き金を引いた。

「なっ――――!!!」

 シスターが慌てて止めようと手を伸ばすが、弾は発射されることなく「カチン、カチン」という無機質な金属音だけが部屋に響き渡った。シガーラットはリボルバーをシスターに微笑みながら手渡す。

「簡単に言うと“危険予知”の異能です。自分や仲間達にとって受け入れ難い恐ろしい未来、そこへ到達する運命の分岐点が星の(またた)きのように(かがや)いて見える……」

 シスターが半信半疑でリボルバーを確認すると、6発装填(そうてん)のシリンダーは丁度次で弾が発射される状態になっていた。

「星の瞬きは様々な場所に現れます。地図の上や道の先。失言や行動が分岐点になっている時は脳裏に。危険な人物の周りや、危険な行動をしようとしている仲間……その星を見ると、私には何となく避け方が分かるんです。バリアさんの問いには全て、“異能の(みちび)き”の一言で説明が付きます。何故情報が外に漏れないのか。強者に滅ぼされないのか。懲らしめる悪党に負けないのか。復讐(ふくしゅう)されないのか。それは、手を出してはならない巨悪を事前に察知して避けているだけです」

 シガーラットがにこりと笑顔を作るが、その笑みには吐き気を(もよお)すような自嘲(じちょう)と嫌悪の念が渦巻いている。

「昔からこの国は偽善者ぶって勧善懲悪(かんぜんちょうあく)()してきました。私の曾祖父(そうそふ)さんの頃まではひっそりとやっていたらしいんですけどね。それが段々エスカレートして……かつて奪った分だけ人を助けるという贖罪(しょくざい)慈善活動(じざんかつどう)から、悪を懲らしめる英雄気取りの私刑集団に成り下がりました。そこで先々代の座長、私の祖父は舌先三寸で道化を演じ始めたのです。国を守り、かつ国民の行き過ぎた正義心を消化させる術……今の愚かな英雄ごっこの雛形(ひながた)、を作ってくれました。今朝の演劇……“詭弁(きべん)英雄譚(えいゆうたん)”もその一つです。そして父に座長が引き継がれ、次は私。私がこの異能を得たことに、父は心底安心していました。“この力があれば、きっと国を正しい方向へ導ける――――!!”と……残念ながら、未だにこの国は正義のヒーローを気取っていますがね。放浪者(ほうろうしゃ)を保護し、そこに(まぎ)れる悪党を(しいた)げ、敵わない巨悪には気付かぬフリで()れず(さわ)らず……ふふ、滑稽(こっけい)でしょう?(まこと)を成そうとかなんだとか偉そうなことを言っておいて、やっていることは出来レースの茶番劇ですよ。言うなれば、ここは“茶番劇の国”……演劇も茶番なら勧善懲悪も茶番。嘘を真と成すなんてちゃんちゃら可笑(おか)しい。嘘を真と言い張る“真吐き一座”ですよ」

 シガーラットは少し困ったような笑顔でせせら笑う。シスターは彼の心中を察して、何も言えずに立ち尽くしていた。彼は壊れているのではない。壊れるしかなかったのだ――――と。戦うことに、立ち向かうことに、向き合うことに疲れ果て、自分の心を守る為に狂うしかなかった。しかしそれでも、シスターは震える手を強く握り締める。

「ちゃ、茶番でもいいじゃないですか……偽善も善です――――!貴方達の行いで、どれだけの人命が救われたか――――!」

「救われたからなんですか?」

「救えたら……救えたなら……えっ?だ、だって……」

「私たちの知らぬところで、困る(はず)だった人が困らなかった。その事実が一体私に何をしてくれるんですか?」

 シガーラットの問いに、シスターは答えることができなかった。それ以前に、言っている意味が理解できなかった。

「だ、だって、弱気を助け、強きを(くじ)いたならば……何が、問題だと……」

「それが、私に、何を、してくれるんですか?」

 シスターは気付いた。自分に理解できないのではなく、自分が理解したくないということに。シガーラットの目的は“人助け“だと勘違いしていたことに。

「例えば、将来的に商人を襲う盗賊がいたとして。私たちが事前にその盗賊をやっつけたとしてもね、将来的に襲われる筈だった商人は何も言わないんですよ。だって襲われてないんですから。私たちが見知らぬ誰かに降りかかる火の粉を払ったところで、誰も”ありがとう“などとは言わない」

 シガーラットの発言に、シスターは再び言葉を詰まらせる。

「そ、そん、な。みか、見返りの、為に……為じゃ、善行は……見返りの為じゃ……!!」

「シスターさん」

 シガーラットが再び落ち着きを取り戻してにこりと微笑みを作る。

報酬(ほうしゅう)がなければ、人は動けないんですよ」

 空気が泥のように冷たく、重く、(まと)わりついて()し掛かる。

「親の愛は無償の愛などと言われますが、それは子供を愛したいという自分勝手なエゴに過ぎません。人助けも、他者を助けたいという自分勝手な欲求に(したが)っているだけです。それを悪とは言いませんが……己の独善的思想が、偶然他者の価値観と一致した状態を“善”と称するなど、思い上がりだとは思いませんか?善など存在しないんですよ。子供を暴漢から助ける……そんな当然のように見える行為にさえ、“善行を為したいという欲求の解消“という報酬がなければ、人は動けない。シスターさん。あなたはそれの反証の為にラルバさんを助けに来たのではありませんか?」

 シガーラットの言葉が、シスターの心を(するど)(つらぬ)いた。

「使奴の身を誰が案ずるでしょうか。誰が助けたいと思うでしょうか。実際、あなたのお仲間は誰一人救出に乗り気じゃなかったんじゃないですか?だって、必要ありませんもんね……使奴は自力で解決できるんですから。でも、シスターさん。あなたはこうして助けに来た。ラルバさんの身を案じて。案じていると自分に言い聞かせて。周りに言い聞かせて。“人助けに理由は要らないという持論を、より強固なものにしたい”という独りよがりで厚かましいエゴの為に!仲間の救出を利用した!」

 段々と興奮気味に声を荒げ語気を強めるシガーラットに、シスターは息を乱れさせて瞳孔(どうこう)を小刻みに揺らす。その横で、バリアが吐き捨てるように(つぶや)いた。

「……だからラルバを誘拐しておいて救出を邪魔しなかったんだ。あなたは、自分の思想が正しいと信じたいが為に、今のセリフを言いたいが為に私たちをここへ誘導した」

 シガーラットは最早落ち着こうとする素振りすら見せずに、鬼気迫る表情で語り続ける。

「そうです!ウェンズには態と情報を漏らしました!あの世話焼きなら必ずあなた達に知らせに行くと思いました……彼は自分のとこの役者にも舐められるほど弱くて利他的ですからねぇ……予想通りです!」

 シスターは必死に呼吸を落ち着け、自分の中に忌々しく燃え盛る怒りを鎮めるが、その声は荒ぶる感情に飲まれかけ辿々(たどたど)しく震えながら(つむ)がれていく。

「そ、そんなことの為に……ラルバさんを……?」

「いいえ?これはあくまで副次的なもの……ついでですよ。本当は――――」

「ラルバに殺されたかった」

 シガーラットの言葉をバリアの推測が(さえぎ)ると、シガーラットは一瞬だけ動きを止め、すぐに笑顔で話し始めた。

「そうです……もう終わらせて欲しかった…… 行き過ぎた正義感は心を腐らせます。最早この国は弱者を救うより、悪を(しいた)げることを目的にしています。罪滅ぼしを言い訳に罪を重ねているんですよ?面白いですよね。彼らはこの悪党(いじ)めという娯楽(ごらく)を報酬に生きている。正義側から悪を虐げるのは楽しいですからね……でもね、私にはそれすらないんです。この生き地獄を……耐えるための”ご褒美(ほうび)“がない……!!!」

 シガーラットは笑顔を両手で(おお)う。もうその顔が笑っているのか泣いているのか、シスター達には分からない。

随分(ずいぶん)昔に自殺しようとしました……でも……!!警告するように異能の光が私の視界を埋め尽くした――――!!それでも私はナイフを自分の首に突き刺そうとした!!そしたら……そしたら……!!妻が、私の自殺を止めようと……私からナイフを取り上げて……それが……それが妻の胸に……!!!」

 シガーラットは(ひざ)から崩れ落ち、(ふところ)から一枚の写真を取り出して(うつむ)いたまま眺め始める。涙が、ぽたりぽたりと、写真の女性へと(したた)り落ちる。

「私には……私には自死も許されない……!!この光は私の不幸だけでなく!!仲間の不幸も報せる――――!!!気を抜けば仲間があの忌々しい異能の光に埋め尽くされる……!!終わらない生き地獄だ――――!!でも……!!あなた達が来た時に世界が変わった――――!!私の目の前から光が消え失せたんです……!!!最初は自分の異能が消えたのかと思いました……しかし!!それは違った……!!あの方……ラルバさんが来たことにより、私の目の前から“危険行為”が無くなったんです!!私がラルバさんを襲おうとしても!仲間に殺させようとしても!何を(たくら)もうと!あの不快で鬱陶(うっとう)しい運命の光が現れることはなかった――――!!」

 目を見開いて顔を上げるシガーラット。バリアはそれを軽蔑(けいべつ)するように(にら)みながらボソリと独りごちる。

「……確かに、ラルバなら何されても面白がって一回止めそうな気はする」

「私はチャンスだと思いました――――!!今を逃したら、一生(おとず)れないであろうチャンス――――!!仲間を巻き込まない自死への最初で最後の機会!!この地獄から抜け出す唯一の機会!!!タリニャにラルバさんを誘拐させ、2人きりになった時に、ラルバさんに私の殺害を懇願(こんがん)しました!!しかし……!!!ラルバさんは受け入れてくれなかった――――!!私を、この地獄を終わらせてはくれなかった……!!!」

 シガーラットは倒れるように前のめりになってバリアの両肩を(つか)む。

「光が出ない……!!お願いしますバリアさん……!!私を、私を殺して下さい……!!!お願いします――――!!!どうか、どうか終わらせて下さい!!!」

 石像のように動かず一言も発さないバリアに、シガーラットは懇願し続ける。

「お願いします!!!もう、もう運命の奴隷で居続けたくない!!!助けて下さい!!!この光から、異能から!!!私を救って下さい!!!お願いだ!!!もう、もう頭がおかしくなりそうなんだよ!!!地獄を避け続ける人生に気が狂いそうなんだよ!!!頼む!!!私を殺してくれぇ!!!」

「道理で違和感だらけな筈だ」

 唐突に会話に混じってきた声。シガーラットとシスターが声の方を向くと、部屋の入り口にラデックとハザクラ。そしてラデックに身体を支えられている足を引き()ったタリニャの姿があった。シスターは戦ってきたであろう3人の身を案じて小走りで駆け寄る。

「ラデックさん!ハザクラさん!ご無事でしたか!タリニャさんは大丈夫ですか!?」

 ハザクラが(あき)れるように溜息を吐く。

「ラルバを誘拐したからどんな強者かと思えば、異能を使うまでもなかった。実力は精々ジャハルの半分ってトコだな。数秒でケリが着いたから、話は大体聞いていた」

 タリニャが気まずそうに目線を逸らす。そして半身を支えているラデックから離れて、足を引き摺りながらシガーラットへと近寄る。

「座長……ごめん。負けた」

「タリニャ……す、すまない――――」

「…………別にさ、偽善でもいいじゃん」

 タリニャの呟きに、シガーラットは重苦しい表情を浮かべる。

「タ、タリニャ……私は……」

「座長が辛い思いしてるのは皆知ってる。奥さんを亡くす前からね。でもさ、アタシは今までの旅を茶番劇だなんて思ったことはないよ」

「…………茶番だよ。タリニャ。現に、君は呆気(あっけ)なく負けたじゃないか。私が、君達を危険から遠ざけ続けた所為だ。失うことを恐れて、成長を阻んだ……」

「アタシはヒーローになりたかった訳じゃない」

 タリニャは未だ力の入らない足で姿勢を支え、堂々と胸を張る。

「今まで私が義賊をやってきたのは、座長の思いを無駄にしない為だよ。座長が、アタシ達が辛い思いをしないように必死に頑張ってくれている。だから私は意を唱えず、誰にも唱えさせず座長に着いてきた。私も、皆も、座長にしか見えない道を信じて着いてきたんだよ。今まで歩んできた道は、決して茶番劇なんかじゃない」

 言葉を失うシガーラットに、ハザクラが補足するように付け加える。

「……星が見えているアンタも辛いだろうが、それに着いていく連中も気が気じゃなかっただろうな。なにせ、アンタが気を抜いた瞬間に災難が確定するんだ。言わば、目隠しで奈落の(ふち)を歩かされている状態……案内役のアンタが見た景色を盲信する他ないんだ」

 脱力して椅子にもたれかかるシガーラットの前で、タリニャは毅然(きぜん)とした態度で言葉を続ける。

「座長。座長が地獄を歩き続ける限り、アタシも座長を信じて着いていく。誰にも文句は言わせない。偽善でもいい。本心を隠して、体よく振る舞ってくれて構わない。座長がどんな考えを持っていても、座長が座長を演じる限り、アタシも舞台からは降りない。だから、まだアタシ達と一緒に生きて欲しい」

 シガーラットは魂の抜けたような表情で吐き捨てる。

「……残念だが、タリニャ。私は……もう疲れてしまったんだよ。もう……もう前には進めない……星が蔓延(はびこ)るこの世界で生きていくのは……余りにも、余りにも苦しい」

「じゃあさ。全部辞めちゃおうよ」

「…………タリニャ?」

「終わらない罪滅ぼし、ここで終わりにさせちゃおうよ。どっか安全そうな国に亡命してさ。今までの義賊ごっこはぜーんぶ忘れて暢気(のんき)に暮らそうよ。ていうか定住した方がお客さん来そうな気しない?“ヒトシズク・レストラン”とか“ダクラシフ商工会”とかの方がさ。あーでも安全に暮らすなら“世界ギルド”か“狼の群れ”とかかなぁ……」

「な、何を今更……!他の皆は納得しないだろう……!!」

「アタシが納得させる。ていうか、自殺しようとしてた癖に何を心配してるのさ」

「いや、だ、だって――――」

「で、アタシの案に“星”は見えてんの?」

 満身創痍(まんしんそうい)にも(かかわら)らず満面の笑みで問いかけるタリニャ。シガーラットは今まで泳がせていた目を恐る恐るタリニャの方へと戻す。

 シガーラットの視界には、この国一番の美女の優しく暖かな笑顔だけが映っていた。

 

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