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〜スヴァルタスフォード自治区 廃棄された森 ゾウラ邸 (ラデック・ハピネス・シスター・ラプーサイド)〜
「ぶはぁっ!!!がはっ!!!げほっ!!!」
暗く深い海の底から脱するようにハピネスは目を覚ました。その横で治療にあたっていたであろうラデックとシスターが、
「おお、生き返った」
ラデックが淡白な反応をする。ハピネスは大きく咳込み続けながら、顔を伏せたまま低く
「シスターくぅん……、借りイチだからねぇ……」
シスターは
「あーあ、気を失ってたからラルバ達を見失ったよ」
ハピネスが目玉をギョロギョロと動かしながら文句を吐き出した。
「大体今何時?もう真夜中じゃん。この暗闇じゃあ見つかりっこないねー。残念だけど、ラデック君の大戦争作戦は中止ぃーっ!」
「決行するが」
ラデックの拒否にハピネスは分かりやすく馬鹿にした変顔をして
「暗闇で見えづらいなら暗視の魔法でもかけたらどうだ」
そうラデックに指摘されると、ハピネスは手をぶんぶんと左右に振ってせせら笑う。
「ラデック君、私が盲目だから勘違いしているかも知れないけれど、私の異能はあくまで“視聴覚を有した思念体を遠隔操作する能力“だ。私に暗視だの遠視だのの魔法をかけたところで異能自体に影響はない。逆はあるがな」
「不便だな」
「不便で役立たずのハピネスお姉さんは一足先に寝させてもらうよ。明日は
そう告げると、ハピネスは2階へと階段を登って行ってしまった。ラデックが首を傾げていると、シスターが手帳を取り出してペラペラとページを
「ええと……、Dr.ヒューリィ。昨日私達がコモンズアマルガムの酒場で出会した老人です」
「ああ、
「……因みにラデックさん。旧文明の技術を用いれば、霊皮症を後天的に発症させたり感染力を持たせることは可能なんですか?」
「う〜ん……。できなくはないだろうが……研究に長い年数と設備を要するだろう。できたとしても、誰もやらなかっただろうな」
「そうですか……」
「もしかして、シスターは今回も使奴研究員絡みだと思っているのか?」
「え、あ、いや、なんとなく……ですけど。なんだかこう、作為的なものが感じられるような気がして。だって、不自然じゃありませんか?この肌の色による差別が何年も続いているってことは……、
「……そもそも、使奴の無彩色の肌は霊皮症じゃない。恐らく、使奴寄りの白い肌も霊皮症とは無関係だろう」
「え?じゃあどうして使奴の肌は白いんですか?」
「ええと……なんだったかな。確か“素体のメインギア”の異能で細胞が変質して……。すまない、よく覚えていない。だが、それにしたって変だ。使奴の子供が使奴寄りとして肌が白化するのは分かった。だが、それならばコモンズアマルガムには使奴寄りがいるのは不自然だ。使奴の血を引いていないのに髪や目の色が変質することはまず無い」
「そうですよね……。じゃあやっぱり誰かが意図的に……」
「……偶然、旧文明では説明できない霊皮症。それこそDr.ヒューリィの言っていた“悪魔病”が実在する可能性もある。まだ結論は出せない」
「そう、ですよね……」
「……シスター。先にハピネスと2人で逃げることもできる。無理に俺について来なくても平気だ」
「……いえ、大丈夫です。あ、でも無茶はしないでくださいね」
何か見えないものへの恐怖を払い除けるように、シスターは優しく
「信じよう。……遅かれ早かれ、通る道だ」
翌朝、ラデック達は朝食がてら作戦を練っていた。その席にはエドガア、ゾウラ、カガチの3人もいたが、主に会話に参加しているのはラデック、シスター、エドガアの3名だけであった。ハピネスが
「――――で、ラルバ達の奇襲が来週ってことは……先に悪魔郷にちょっかいをかけてから、
「待った」
ラデックの言葉を
「どうしました?カガチ」
「お前等。何故この男を無視して――――」
「お邪魔しまーす」
カガチが何かを言いかけた瞬間、ゾウラ邸の玄関の扉が開かれた。カガチは突然の侵入者に驚き、
「こんにちは。私は世界ギルド元総帥のイチルギ。後ろにいるのが……」
そう言ってイチルギが振り返ると、遅れて2人の人影が玄関からやってきた。
「人道主義自己防衛軍の幹部、手前の赤髪がハザクラで、奥の銀髪がジャハル。よろしくね」
カガチとエドガアが3人を厳戒して睨み続けていると、ラデックがイチルギの隣に立ってゾウラ達の方へ振り返った。
「安心してほしい。俺達が言っていた“協力者”だ」
カガチは
「いやあ悪いね総帥さん。私はエドガア。よろしく」
「元総帥よ。あんまり難しいことは期待しないでね?」
イチルギとエドガアが握手を交わしたところで、ラデックとシスターは今までのことをイチルギ達に説明した。
スヴァルタスフォード家の生き残りであるゾウラが、世界ギルドの武力介入の口実になること。世界ギルドへの亡命を本人も望んでいること。そして、ラデックのスヴァルタスフォード自治区を敵に回すという話を。
前半のゾウラの亡命の話は3人とも黙って聞いていたが、いざスヴァルタスフォード自治区を攻撃するという話になると、ハザクラとジャハルが困惑と怒りを足して2で掛けた様な形相で非難してきた。
「……俺の聞き間違いか?何をどうするって?」
「一体どういうつもりだラデック!!ラルバの予定を狂わせるためだけに奇行に走るなど……!!」
ラデックは詰め寄ってくる2人に深々と頭を下げる。
「頼む」
全く譲る気のないラデックに、2人は顔を見合わせて
「わかった」
この承諾に、ハザクラとジャハル驚いてイチルギを見た。イチルギは2人に何か言われるよりも早く
「と言うより、否が応でもそうなる」
イチルギが言い終わる瞬間、カガチが何かに反応して天井に手を広げる。カガチの掌から打ち出された光弾は天井を突き破って空へと飛んでいき、上空から降ってきた火炎弾を弾き飛ばした。
「ゾウラ様!!お逃げください!!!」
カガチが叫ぶと、ゾウラはニコリと笑った。
「はい。ではお先に」
ゾウラが小走りで風呂場の方へ向かっていき、イチルギとカガチは家の玄関の方に顔を向けた。カガチはエドガアを睨みつけて恨む様に
「貴様っ……!!尾行されたのか……!?」
「まさか!!カガチだって一緒にここまで来てたでしょ!?」
「
イチルギが手を叩いてカガチとエドガアの喧嘩を仲裁する。全員は急いで身支度をして、エドガアを先頭に家を飛び出した。しかし、シスターは家を出る直前に
「ゾ、ゾウラさんは!?」
カガチは無言のままシスターを睨み、「早く行け」と舌打ちを鳴らす。シスターの疑問は晴れることなくイチルギに担がれ、全員は森の方へと走り始めた。
森を走り抜ける最中も、背後からはけたたましい爆発音と銃声が鳴り響き、ゾウラ邸が襲撃されているのだろうと言うことだけが分かった。先頭のエドガアは
「ハピネスとシスター以外お前より強い。気にせず急いでくれ」
エドガアは一瞬だけ面食らうも、すぐにニヤッと笑って力一杯地面を踏みつけ加速する。
一行の殿を務めていたカガチが後方に向かって手を広げ、影で造られた
〜スヴァルタスフォード自治区
森を抜けると、一行は広い砂浜へと辿り着いた。地平線まで続く砂浜はまるで砂漠の様であるが、終始吹き付ける凍てつく海風と海水に覆われ
全員がその雄大な自然に気を取られる中、先程までラデックの背で遠慮なく揺さぶられていたハピネスが、フラフラと
「うっ……おげええええぇぇぇ!」
そして、急激な環境の変化に耐えられず盛大に胃の内容物を吐き出した。
「ううっ……さ、寒い……苦しい……助けてくれ……」
腰を大きく曲げ、杖に全体重を預ける様な情けない姿勢で震えるハピネス。そして、その近くの茂みから1人の人影が出てきてハピネスに近づいた。
「寒いですよねぇ、ここ。あったかい紅茶ありますよ。飲みますか?」
人影の正体はゾウラだった。ゾウラは分厚いコートの内側から水筒を取り出し、カップにトポトポと紅茶を注いでハピネスへと差し出す。
「あ、ああぁあ……嬉しい……優しい……。ああ、美味しい……ゾウラ君、結婚しない?」
「いいですよ」
ハピネスが紅茶を
そんなゾウラ達を見て、ラデックはエドガアに尋ねた。
「ゾウラは異能持ちなのか?」
「ん?ああ、そうだよ」
エドガアの返答にカガチが眼光鋭く睨み付けるが、エドガアは小さく笑って首を振る。
「別に隠すこともないじゃない。それに、イチルギさんの前で隠し続ける方が無理あるでしょ」
話を聞いていたゾウラは
「……驚いた」
「うふふっ。私の異能、当ててみてください」
ラデックは森の中へと入って行き、辺りを見回す。そして、隣に生えていた木にふと手を触れる。
「……塩生植物?海辺に適応したハンノキか……」
ラデックが足元を見ると、森の中にまで海水が侵入していることに気がついた。その背後で、ハザクラがゾウラの方へ振り返って
「……水の中を移動する異能か」
ゾウラは両手を合わせて
「惜しいっ!正解は、液体と一体化する異能です」
その直後、ゾウラの全身が一瞬にして消え去った。それとほぼ同時に、浜辺の
「
説明しながらあどけなく笑うゾウラ。そんな彼の隣で、ラデックは
「……風呂場の水を海から引いているのは、ただの節水じゃなかったんだな。いざという時の逃げ道……。しかし、海と一体化出来るとなると、一歩間違えば二度と同じ場所に帰って来られなくなるんじゃないか?」
「そうですね、それは訓練を積んだので大丈夫ですよ!昔ゴウカさんが――――」
「今後のことについて話がある」
ゾウラの言葉を遮ってカガチがイチルギに詰め寄る。
「何かしら?無茶なことはやめてね」
「この後無事に脱出できたとして、ゾウラ様の処遇はどうなる?」
「ん〜……そうねぇ。数年の間は少し窮屈な生活になるかしら。スヴァルタスフォード自治区への提出書類作成に会議出席、人道主義自己防衛軍との意見の擦り合わせと……」
イチルギの話を聞いていたゾウラは、少し考えた後に手を叩いてイチルギに提案をする。
「じゃあ、私イチルギさん達について行っても良いですか?」
「うぇっ!?」
驚きの声を上げたのはイチルギだけではなく、その場にいたカガチとラプー以外の全員が目を丸くした。中でもジャハルは顔を左右に激しく振りながらゾウラに詰め寄る。
「ばっ馬鹿なことを言わないで下さい!!何の意味が!?」
「いやあ、何だか皆さん楽しそうなので」
「我々の旅は危険極まりないものです!!何よりその目的を決めているのはラルバとかいうトチ狂った頭のおかしい傍若無人で人面獣心の快楽殺人使奴です!!百害あって一理なし、いや、億害あって千害あります!!」
「それはそれで面白そうですね!」
「話が通じない……!」
酷く狼狽して目を白黒させるジャハルと入れ替わり、イチルギがしゃがんで背の低いゾウラに目線を合わせる。
「ゾウラ。私達世界ギルドは、貴方の生存を理由にスヴァルタスフォード自治区を治めたいの」
「でも、イチルギさんはラデックさん達と暫く別行動だったのでしょう?他の理由も用意してあるんじゃないですか?優秀な使奴が別のプランを立てていないとは思えません」
ゾウラの指摘に、イチルギは
「確かに用意してあるわ。それどころか、たった今ゾウラの家が襲撃されたことで、それを理由にゾウラ・スヴァルタスフォード殺害の容疑でコモンズアマルガムに干渉する大義名分を作れる」
「じゃあ私は世界ギルドに行かなくても良いわけですね!」
「ゾウラ……どうしてそこまで私達について行きたいの?」
「私はね、
ゾウラはラデックやシスターの顔を見てうっとりと目を細める。
「ラデックさんやシスターさんの、誰かのために戦おうとする姿がとても素敵でした。ハピネスさん。ラプーさん。ハザクラさん。ジャハルさん。そしてイチルギさん。ここにいる皆さんの姿は、どれも今まで見たことがないほど輝いていました。きっと、今まで色んな世界を見てこられたんだと思います。私もその隣に立ちたい。同じ景色を見てみたいんです」
まるで宝石を眺める少女の様に
「……最終決定権はラルバにあるわ。あんまり期待しないことね」
「ありがとうございます!」
ゾウラが満面の笑みでカガチに目を向けると、カガチは黙ったまま目を
「どこまでもお供します」
そしてゾウラがエドガアの方に顔を向けると、彼女は眉を
「ん〜……私は遠慮しとく。カガチ、ゾウラを頼むね」
【元皇太子 ゾウラ・スヴァルタスフォードが加入】
【使奴 カガチが加入】