Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?   作:ウェットルver.2

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決闘者(デュエリスト)に憧れて(8話)

「私のターン! ドロー!」

 

 柊柚子は長考する。

 自分を守る盾となるモンスターは召喚できる。

 ただし、問題は相手の伏せられた2枚のカード。

 盾を剥がされれば、次のターンで敗北する。その考えが妄想ではなく、また恐怖に囚われた考えすぎでもないことは、最初のターンの光津真澄の立ち回りで実感しつつある。

 具体的な敗北のビジョンは、単純に融合召喚を繰り返されて、大量の融合モンスターに袋叩きにされる、という程度の簡単なものでしかないが、融合召喚への理解がないデュエリストにも想像にやすい単純明快なもの。

 そうとわかれば、答えはひとつ。

 

「私は、

 《幻奏の歌姫ソロ》を特殊召喚!

 《ジェムナイト・アンバー》を攻撃!」

「ふうん?

 攻撃力は同じ、相打ち狙いか。」

 

 なるほど、ならば伏せカードは発動できないな。

 柊柚子の身構え方を眺める真澄は、発動はできたがするべきではない、と判断し、ある罠カードの起動を宣言せずにデュエルディスクから手をひく。と、同時に。

 足をこわばらせる柚子を尻目に走り続けている。

 ついに2枚目のアクションカードを拾った。

 

「……あっ、そっ、そうよ!

 アクションカード!」

 

 その瞬間を視認して、ようやく「自分が呆けている」と気づいたのか、あわてて柚子もアクションフィールドを走り始めた。

 

「緊張しすぎじゃない?

 私は手札から、アクションマジック《奇跡》を発動。

 《ジェムナイト・アンバー》が受ける破壊を、このターンの間、無効とする!」

 

 軽口を叩きながらも、「自分には軽口を叩く余裕があるのだ」と挑発と精神的マウントをとりながら、柊柚子の対処したい真澄自身のコンボをふたたび実行するべく、自分のモンスターを守ってみせた。

 

「あなたのモンスターと攻撃力はおなじ。

 おなじ攻撃力同士の戦闘では両方とも破壊されるけれど、私の《ジェムナイト・アンバー》は戦闘では破壊されない《奇跡》の恩恵を受けている。

 破壊されるのは柊柚子、おまえのモンスターだけだ!」

「でも、私の狙いはそれよ!

 《幻奏の歌姫ソロ》の効果、発動!」

「このタイミングで?」

「そう!

 戦闘で破壊された場合、デッキから同名カード以外の『幻奏』と名のつくモンスターを1体、特殊召喚することができる!

 おいで、《幻奏の歌姫アリア》!」

「効果は……嘘でしょ?

 『戦闘で破壊されない効果』!?」

 

 この歌姫に、舞台を降りることはない。

 柊柚子の狙いは、最初から彼女を呼び寄せることだ。

 どれほどの高い攻撃力を誇る融合モンスターを並べられても、戦闘ダメージを通さない盾を用意できれば問題ない。その盾が戦闘で突破されなければ、なおのこといい。

 真澄は困惑した。

 効果が強力だからではなく、

 

「そんなモンスターを簡単に出せるのか……!」

 

 なんらかの召喚法で呼び出された大型モンスターではない、そのくせ効果による除去でしか対処できない小型のモンスターをあっさりと呼び出せる、相手のカードの潜在能力に困惑した。

 この手のモンスターのために、わざわざモンスターを破壊する効果を持つカードを消費してしまえば、次にどんな大型モンスターを出されて効果で対処しなければならなくなるのか、その際に対処できるカードを使い切らしていないのかの次第で追いつめられてしまう。

 ゲームの勝敗が決まりかねないのだ。

 

「面倒なモンスターを使うのね。」

「私は、カードを三枚伏せてターンエンド!」

「なら、……いや、あっちだな。

 私のターン、ドロー!」

 

 やはり、あれはまだ発動できない。

 真澄は焦らされながらも、セットしたカードに意識を向ける。

 向けて、はっ、と正気に戻る。

 今もなお注がれるもの。

 観客席からやってくるもの。

 ふと思い出す、蛇喰遊鬼の目つき。

 彼は確か、相手のデュエリストが男だろうと女だろうと、相手の視線や所作に意識を向けてはいなかっただろうか。彼に負けてからの志島北斗の視線も、だんだんと彼のものに近づいていた。

 てっきり、あれらは「女の自分」を見る目かと思っていたが。

 意識を柊柚子の目に向ける。

 

「な、なによ?」

 

 気圧される彼女の視線。

 どのカードにも向いていない。つまり。

 どれかが防御に使われるカードではない。

 どれもが柊柚子の防御に回されるカードだとすれば。

 くすんだ目は答えをさらしていた。

 

「私は、

 《ジェムナイト・アレキサンド》を召喚。

 そのままリリースし、効果を発動!

 レベルを問わず、通常モンスターの『ジェムナイト』を、私のデッキから特殊召喚できる!」

「今度は融合素材を呼ぶモンスター……!」

 

 紫雲院素良はキャンディーをかじる。

 特定の融合素材を必要とする融合モンスターは数多い。

 単純明快な効果を持つものの、対応力のあるカードがほとんど。

 たとえば彼が愛用する《デストーイ・シザー・ベアー》は一見すると「除去能力がないうえ攻撃力も低い」弱いカードに見えるが、実際には、戦闘で倒したモンスターを自分の装備品にすることで墓地から蘇生をさせず、墓地で発動する効果の一部を使わせないことができる。

 わかりやすい強さがないように見えても、いわゆる《墓穴の指名者》や《D.D.クロウ》のような扱い方も可能なモンスターなのである。効果の発動に戦闘は要するが、エクストラデッキから出せる4枚目以降の先述二種類のカード扱いで、ダメージ計算後に発動するため効果が阻害されにくいと考えれば、決して採用の余地がないわけではない。

 それを愛用する彼だからこそ、察した。

 今の《ジェムナイト・アレキサンド》は、任意の名前を持つ「ジェムナイト」通常モンスターに入れ替わることができる岩石族・地属性モンスターでもあるのだ。

 前のターンに融合召喚した《ジェムナイト・ジルコニア》は岩石族と「ジェムナイト」モンスターを要求する融合モンスター。そう、融合素材に共通の名前を要求する融合モンスター。

 ジルコニア以上のなにかを呼ぶのだとすれば。

 

「気をつけて柚子!

 ”そのフィールド”を突破してくる!」

「ええっ!?」

「出てきなさい、《ジェムナイト・ガネット》!」

 

 炎の拳を掲げ、輝石の騎士が立ちあがる。

 

「そして、今墓地に送ったアレキサンドを除外し、墓地の《ジェムナイト・フュージョン》の効果で、《ジェムナイト・フュージョン》を私の手札に戻し、このままフィールドの《ジェムナイト・アンバー》の効果を発動!

 《ジェムナイト・フュージョン》を捨て、除外されている《ジェムナイト・オブシディア》を私の手札に戻す。ふたたび《ジェムナイト・フュージョン》で墓地の《ジェムナイト・アイオーラ》を除外し、《ジェムナイト・フュージョン》を私の手札に戻す!」

 

 酷使される輝石の力。

 《ジェムナイト・アンバー》の力で失われていく「ジェムナイト」たちの魂を取り戻すも、それでも間にあわずに消えていく輝石の騎士アイオーラ。

 このたびに使えなくなる、前のターンに準備をした戦術のいくつか。

 

「手札から、

 《ジェムナイト・フュージョン》を発動!

 フィールドの、

 《ジェムナイト・ガネット》と、

 手札の、

 《ジェムナイト・オブシディア》を融合!」

 

 真澄は心が裂かれるような感覚を抱きながらも、前に進む。

 

「紅の真実よ、鋭利な漆黒よ。

 光渦巻きて、

 新たな輝きと共に、

 ひとつとならん!

 融合召喚!」

 

 父親の仕事。

 自分の居場所。

 大切な異性への思い入れ。

 

「情熱を貫く勇士、

 《ジェムナイト・ルビーズ》!」

 

 己のデュエルの道を歩むこと。

 

「《ジェムナイト・オブシディア》の効果!

 墓地の《ジェムナイト・ガネット》を復活させる。

 今回は守備表示で特殊召喚させてもらう。

 ここで、ルビーズの効果を発動する!」

 

 槍を掲げる赤騎士。

 ジルコニアの胸の宝石が熱を帯びていく。

 

「1ターンに一度!

 ほかの『ジェム』モンスター1体を吸収し、エンドフェイズまで、その攻撃力を得る。《ジェムナイト・ジルコニア》の攻撃力は2900、《ジェムナイト・ルビーズ》の攻撃力は2500、あわせて攻撃力は5400となる!」

「5400ですって!?」

「あっ。」

 

 愕然とする柚子。

 なにかを察し、思い出して頬を引きつらせる素良。

 ついに燃えあがるジルコニアは炎の塊となり、ルビーズの槍へと火継がれていく。

 いにしえの三幻神。

 究極のドラゴン。

 デュエル流派の極意。

 ある学園の名教師が誇るエース。

 北欧の最高神。赤き痣を持つ神官たちの絆の結晶。

 伝説をも上回る情熱の神槍が今、ひとりの少女のもとに顕現する。

 

「………………、さいっ、……こうっ…………!」

 

 蛇喰遊鬼は噴きあがる熱血を抑えこみながらも、光津真澄の姿を一瞬たりとも見逃すまいと、炎の色を反射して赤らむ黒髪の一本も余さず、また紅玉のような瞳のまぶしさに胸を打たれたまま、もはや気でも狂ったかのように、食い入るように見つめている。

 

「ねえ、大丈夫なのかな遊鬼は!

 気持ち悪いを通り越して心配になってきたんだけど!?」

「ほうっておけって。

 ただの惚気とデュエル馬鹿だろ。」

 

 ぼたぼたと鼻血を流しながら。

 デュエリストの魅力と。

 デュエルの魅力と。

 異性の魅力で、脳味噌がゆであがらせて。

 遊鬼へ刀堂刃は呆れながら、志島北斗を落ち着かせた。

 

「《ジェムナイト・ルビーズ》で、

 守備表示の《幻奏の歌姫アリア》に攻撃!」

「そ、そうよ、私のモンスターは守備表示!

 そんな攻撃力で攻撃されても、私にダメージは通らない!」

 

 光津真澄の瞳は揺るがない。

 紅玉の騎士の槍が、止まらない。

 無意味などないのだと訴える。

 

「《ジェムナイト・ルビーズ》は、

 相手の守備力をうわまわるぶん、戦闘ダメージを与えられる!」

「守備貫通能力!? そんな!」

「想定内だけど、でも、これは!」

 

 紫雲院素良が思い出したもの。

 機械仕掛けの歯車巨人たち。彼の故郷では見慣れたカード。

 あれらの効果は想定内だが、いざ戦闘となれば避けられない効果ばかりだ。

 ましてや、攻撃力が高すぎる。 

 

「《幻奏の歌姫アリア》の守備力は1200。

 受けるダメージは4200、ワンショットキル!? 柚子!」

 

 思わず榊遊矢は叫ぶ。

 冷ややかな鳥肌に熱が戻る。

 遊矢の気持ちに応えよう、そう柊柚子は努めるも、

 

「ない!

 ダメージを防げるカードが、ない!」

 

 伏せたカードは、モンスターを特殊召喚するカードばかり。

 戦闘破壊されない《幻奏の歌姫アリア》を手札に戻されても、墓地に送られても、すぐさまフィールドに戻せるように用意したカードが2枚。

 残りの1枚は《幻奏の歌姫アリア》の効果が無効にされても、対処できるように伏せた、戦闘や効果による破壊を防げる速攻魔法《オスティナート》。

 カードたちは確かに、柊柚子、ひとりのデュエリストに応えてはいた。

 ただ、光津真澄は、カードたちが応えるべき主、柊柚子の想定をも超えてきたのだ。

 このままでは負けてしまう、その時。

 

 きらり、と、視界の端でカードが光る。

 

「見つけた、アクションカード!」

 

 一目散に飛びあがり、デュエルフィールドの四角い輝きへと近寄る柚子。

 ぎょっとした顔で振り向く、《幻奏の歌姫アリア》の様子に気づきもせず。

 希望を見出す。

 受ける戦闘ダメージを軽減できるのであれば、守備力を高めるアクションカードでも、相手の攻撃力をさげるアクションカードでも、なんでもかまわない。4200の戦闘ダメージを300でも削れれば、自分のライフポイントは残せるのだと。

 

(はあ? ……えっ?

 どこに行っているのよ、あなたは!?)

 

 真澄は目を凝らす。

 視線の先にアクションカードなどない。

 そこにあるものは美しく舞台を照り返す、立体映像の柱だ。

 

「え?」

 

 よく見れば、四角い輝きが不自然なほど小さい。

 立体映像の柱の鏡面に映る輝きに、思わず柚子は振り返る。

 視線の先には、太陽光にも負けない輝きを得た神槍に照らされる、光津真澄の手札のカード。いつの間にか彼女が握りしめていたもの。

 アクションカードからの反射光。

 

「あ、」

 

 決死の思いで飛びあがったせいだろうか。

 柊柚子の頭へ、だんだんと硬質の柱が近づいていく。

 

「ガネット!」

 

 咄嗟の命令に従い、柊柚子へと駆け寄るモンスター。

 多感な子供には過剰すぎるストレス。

 彼我の実力差がありすぎたがゆえの緊迫。

 精神が追い詰められた状態での、判断ミス。

 

「あ、ありがとうっ……!」

 

 嫌な予感が的中した。

 くすんだ瞳の見間違えは、自分の輝きが強すぎて深刻なものになっていた。

 掴んだ足を起点に、柊柚子を柱から引き離し、背を翻して、少女と柱の間の緩衝材となるように《ジェムナイト・ガネット》が身を挺する。

 頭をあげた柚子の目の前で、安堵した《幻奏の歌姫アリア》が《ジェムナイト・ルビーズ》の槍に貫かれ、燃え尽きる。

 

「アリア、」

「これで()()()の勝ちね。」

 

 勝利への喜びを欠かせ、眉をひそめる真澄。

 やはり、デュエルの強さはカードだけではない。

 戦術だけではない。カードを愛するだけでも届かない。

 知識だけでも足りない。洞察力が備わってもまだ惜しい。

 そのすべてを積み重ねて、まずは己の心を蝋燭のように静かに灯す。

 場の空気を支配できるエンタメデュエリストの境地は脅威だが、どのような実力があろうとも、使い手の心が迷っていては輝きを損なってしまう。

 さて。勝者が敗者に手を差し伸べるなど、考えようによっては侮辱かもしれないが。

 そう念頭に置いて、騎士に抱えられていた少女へと腕を伸ばす。

 

「あなた、立てるの?」

「あ……、」

 

 惚ける柚子は、真澄の手を取ることよりも。

 まっすぐに自分を案ずる、瞳の紅玉に魅入られていた。

 

 

【Q,恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?】

【A,最低限のエチケットとして、清潔を保ちましょう。なんらかのトラブルで鼻血が出た場合は、まず鼻血をぬぐい、血で汚れた服を着替えて、両手と顔を石鹸で洗い、手はアルコールで消毒し、血で汚れた個所を近づけなければ、スタートラインには立てるはずです。汗で服が湿気て濡れる場合も着替えましょう。】

 

【Q,ますみかっこいい。】

【A,落ち着いて自分の顔を見ましょう。顔を洗え。】

 


今日の最強カード

《ジェムナイト・ルビーズ》

 「ジェムナイト」融合モンスター。

 攻撃力2500の主役級モンスターでもある。

 融合召喚の素材として要求される《ジェムナイト・ガネット》は、

 

①融合素材を特殊召喚するカード

②通常モンスターを特殊召喚するカード

③「ジェムナイト」モンスターを特殊召喚するカード

 

 の、すべてに対応する。

 よって融合召喚は容易だが、その代わりに「ほかの特殊召喚の方法」には対応せず、召喚条件を無視して特殊召喚する方法でしかエクストラデッキからは直接場に出せず、墓地からの特殊召喚もできない。

 

 効果は1ターンに一度、かつ「ジェム」「ジェムナイト」1体をリリースして発動する効果と限定的だが、リリースしたモンスターの攻撃力ぶんアップするという《E・HERO ジ・アース》に似た効果。

 さらに守備貫通の能力も持ち、守備表示の相手でも相手へ戦闘ダメージを与えられる。

 やろうと思えば攻撃力強化済みの「ジェム」「ジェムナイト」1体の攻撃力をまるごと攻撃力増強に使えるため、なんらかの全体強化の効果で事前にパワーアップさせるのも面白いだろう。

 

 光属性の巨大生物を送りつけて《シャイニング・アブソーブ》でパワーアップさせ、適当なモンスターをリリースし、強化値を倍加させてワンターンキルを狙うのも通な戦術か。

 


次回予告

「ずいぶん見せつけてくれるじゃない。」

戦乙女は羽を休める。

デュエルに疲れた私たちの安寧の裏、

ひとりのデュエル戦士が策を練る。

「あのひとに向かない気がするんだよねぇ。」

 

視線の先には、……刃?

 

次回

光津真澄はわからない

お楽しみは、これからだ!

 

 




 副題は漫画「魔法少女に憧れて」より。
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