Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?   作:ウェットルver.2

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光津真澄はわからない(9話)

「立てる?」

「え、ええ、だいじょうぶよっ!?」

 

 どこか挙動不審な柊柚子。

 彼女の様子に首を傾げ、その去る背中を追うように、光津真澄はデュエルコートを後にする。

 勝利者の凱旋と呼ぶには、いささか敗者にこそ報いるべき、労わるべきものが多い試合ではあったが、それでもLDS融合召喚コースの塾生として、選ばれたエリートとして、なんら恥じるものがない戦いである。

 そのはずである。誇ってよいはずなのだ。

 胸の高鳴りに落ち着きはなく、焦りに似た乱れが混ざる。

 

「柚子、大丈夫か!?」

 

 負けた少女を迎え入れる、少年の案じる声。

 

「遊矢っ、えっ、あっ……?」

 

 くらりと立ち眩みを起こして、柊柚子が榊遊矢に寄りかかる。

 過度の緊張状態から解放されたためであろう疲労の見える声色、足取りは、駆け寄る少年の目だけでなく真澄の目にも色眼鏡なく映っていた。

 ましてやデュエル中の事故で頭を打ちかけたのだ、恐怖心からも解放され、柊柚子が「身を預けてよい」と思える人物へと甘えるのは自然な話ではある。

 その人物は榊遊矢なのだろう。

 

「へえ。」

 

 そうだ。

 このデュエルは敗者が報われるべきもの。

 であれば、彼女が意中の殿方へと甘えて休むのも、決して悪いことではない。むしろ「よくぞ私相手に戦いきれたものだ」と、真澄は思う。

 だとしても、あくまでも。

 勝者は私なのに、と。

 

「……真澄。」

「遊鬼?」

 

 思ったところに。

 蛇喰遊鬼は語りかける。

 さきほどのデュエルに熱中した彼は、血圧があがりすぎてこぼれた熱血をテッシュでふいたあと、ウェットティッシュで血脂をふき取り、濡れた肌をテッシュで乾かしたあと、アルコール消毒ができる除菌ウェットティッシュにより追加で肌を洗浄した。

 自分の血で汚した遊勝塾の床も同様に。

 この男、意中の女性に嫌われないことへ必死である。

 そこまで真澄を意識する少年が、語りかける。

 

「かっこよかった。」

「そ、そう?」

 

 女性にとっての男性への「かわいい」は。

 ほかの男性への気持ちとくらべても類を見ないほどに意識してしまった、ツボや俗に言う「沼」にハマった、という、一種の告白にも近い言葉となるケースがあるのだが。

 そもそも男性が男らしさを、「かっこうよさ」を意識して目指すからこそ、記号じみた「かっこうよさ」があるだけでは足りない、媚びのない愛嬌という「かわいい」を女性が感じ取ってしまった場合に多い。

 なにかを極める男がふとしたところで見せる、自然体の遊び心、茶目っ気などが最たる例だ。

 イケオジ、と呼ばれる部類の男性も持つものでもある。

 これだけ語れば女性だけの話のようにも聞こえるが、実は男性の話にも当てはまる。

 

 男性にとっての女性への「かっこいい」は。

 ほかの女性よりも意識してしまった感想でもあるのだ。

 よりにもよって「かっこうよさ」を意識して目指す男性ともあろうものが、女性の「かっこうよさ」を受け入れてしまう、ある方面の解釈では「わからされてしまう」という「沼」にハマってしまった、という自白にも近い言葉なのである。

 女がハマる「かっこいい」女とは。

 男の場合、恋愛面で致命傷にも近い意識を抱かせやすいのである。

 

 心に恋の致命傷を受けた者たち。

 ひとは紳士淑女らの傷を、ときめき(わからせ)と呼んだ。

 ……かもしれない。

 

「ふうん、そう。」

「……おつかれさま。」

「ええ。ありがと。」

 

 知って知らずか。

 まんざらでもない気分で微笑む真澄。

 わずか数回の言葉の交わりでも、「かわいげのある」赤らむ頬と笑みを見せられたからだろう、思わず顔を背ける真澄。

 素直になりきれない真澄を見て、言葉が足りなかったのだろうかと迷いながらも、先刻のデュエルと普段の態度を思い返しては、「かっこうよくて」「かわいいなあ」と、内心でぼやく遊鬼。

 傍から見れば双方、おそろいに顔を照れさせて微笑んでいるのだが、これでまだ付き合っていないんだよなあコイツら、と思わされること、おおよそ二年間。

 いつもの光景とくらべても、どことなく甘ったるい仕草と雰囲気。

 思わず、志島北斗と刀堂刃は顔をしかめた。

 わりと見慣れていても、今日は極めてひどい。

 

 榊遊矢と柊柚子の語らいつきだ。

 そのせいで、とにかく、余計に雰囲気が甘い。

 各々の雰囲気が似た色合いならば、異物は浮いた話がない自分たちなのだから、やたらと居心地が悪い。そんな気持ちの北斗と刃から、呆れと諦めの目で少年少女の世界を鑑賞される最中、

 

「ん?」

 

 真澄は違和感に気づいた。

 なにやら柊柚子が、恋愛モノで見覚えがあるやり取りを始めている。

 少年に抱かれる少女が身を預け、少年へと愛をささやくように後悔を告げている。もはや罪の告白かなにかのようで、その罪を責めることなく少年は受け止めている。

 柊柚子の身体ごと。

 

「あら?

 ……あら。

 ずいぶん見せつけてくれるじゃない。」

 

 困惑。

 わずかな嫉妬と、称賛。

 他人事の楽しめるメロドラマ。

 自分も無関係ではない、焦る現実。

 なんか私が告白しあぐねている間に、私の対戦相手が男といちゃいちゃし始めているのだけれども、これって私が恋のキューピットなのかしら、それとも私とのデュエルは(普段通りの)いちゃいちゃのためのきっかけづくりでしかなかったのかしら。

 などという、複雑な気分。

 決闘者として、女としても腹立つ。

 と、同時に微笑ましくも感じて、

 

「きゃあっ!」

「うわっ!?

 いきなり何すんだよ!」

 

 目を疑う。

 

「ごっ、ごめんなさい!」

 

 なんと柊柚子、奥手らしい。

 真澄の反応を聞いたからなのか。

 はじらいで想い人を突き飛ばして、せっかくの楽しみを中断させたのだ。

 やれやれといった表情で見つめる小学生三人からうかがえる様子からして、榊遊矢と柊柚子の恋愛関係は発展せず、今の現状を維持してしまう状態が常らしい。

 

「は?

 えっ、ええぇ……?」

 

 ありえない。

 まさか、あれで付き合ってないのか。

 ほかの女の子に奪われたら、どうするつもりだ。

 

 あれほどのお熱い関係なのに。

 

「いや、おまえも似たようなもんだろ。」

「言わぬが花だよ、刃。」

 

 ふと振り返る。

 刃と北斗が愚痴を言いあっているらしい。

 

「もう食っちまえばいいだろ、なあ?」

「いやいや、据え膳とは言うけれどもね。

 据え膳だと思いこまれて『マジで食いつかれる』とか怖いぞぉ。実は、この前に粘着してきたファンの子がさあ……?」

「あん?

 なんだ、モテ自慢かよ!」

「ちがう!

 あれはマジで怖いんだ!

 男も然りだぞ、君!」

 

 ふたりそろって疲れたかのような、呆れたかのような、いらだっているかのような顔つきで、一瞬だけ遊鬼を見つめては雑談に戻り、また遊鬼を見ては愚痴りあい、を繰り返している。

 なにを思ったのか、遊鬼は。

 くしゃり、と、困ったような笑みを浮かべた。

 

「ねえ、なんの話よ?」

「……ただのファンが綺麗なアイドルに、恋をする話。

 …………ほら、……ファンからの気持ちを断る権利も、恋をする相手を選ぶ権利も、いつだってアイドルのほうにあるよね、っていう。」

「当然の話じゃない。」

「うん。だよね。」

 

 なんだ、そんなことか。

 聞き飽きて、柊柚子たちの戯れを見る。

 もし彼に勝利できても、彼が私の告白を受け取るかは彼の自由でしかない。私の努力に恋が報うわけではなく、また彼が報いるわけでもない。

 デュエルでの疲労や苦労を労わってくれても、けっして、柊柚子にとっての榊遊矢のようには抱きとめない。少なくとも、今の関係のうえでは。

 女を躊躇なく抱ける人間ならば、おなじことを他の女にもできただろう。

 そうやって恋のライバルが増えたり、男が数多くの女性に手を伸ばしておきながら恋を語ったり、とにかく距離感がゆるくて恋愛も軽くて、女性の肌や純情をなんだと思っているのだ、と思うような真似をされるよりは。

 よっぽど彼の線引きは好ましいものだ。

 物足りないけれども。

 ああいう真似をする男のほうがモテるのだろうが、しかし。

 この私には関係のない、縁のない話。

 私が好きな相手は「モテる男」ではなく、「隣の彼」なのだし。

 

 榊遊矢の抱擁をみて「いいなー」とは思っても。

 あれは蛇喰遊鬼から私だけにやってほしいのであって。

 まちがっても榊遊矢にされたいわけではない。

 この体は、できれば彼に預けたいのだ。

 

 結局、恋とは。

 自分で()()()()恋愛対象があってのもの。

 求める愛を満たす相手を()()()叶うわけではないのだろう。

 

 

 

 

「君らの場合は、

 恋愛馬鹿(ただのファン)と綺麗な真澄(アイドル)じゃなくて、

 恋愛音痴(ただのファン)と危険な真澄狂い(アイドリング)だろっ……!

 男性側(アイドル)にブレーキがあるだけ幸運(ラッキー)だろっ、君らのはっ……!」

「落ち着けよ北斗、マジで聞こえちまうぞ。」

「いいから早く告白しろよっ……!」

「おまえもな。

 さっさと相手を選んじまえ。」

「そういう話じゃなくてだね!?」

 

 ぎゃあぎゃあと小声で騒ぐ声が響く。

 その様子を遠目に、紫雲院素良はキャンディーを噛み砕いた。

 

「さて、どうしたものかな。」

 

 LDS塾生の刃と呼ばれた剣道家らしき少年。

 彼と対戦するのであれば、おそらく自分の相性は悪い。

 相手ターンでのバウンスと堅実なビートダウンが主軸のエクシーズ召喚使い、志島北斗。

 自分ですら舌を巻く連続融合召喚とワンキルが主軸の融合召喚使い、光津真澄。

 刃なる少年の戦術が二人と被らない、なおかつ二人と対等に戦えるほどのものであるとすれば、おそらくは十中八九、相手フィールドのモンスターを戦闘や効果で対処せず、なおかつフィールド以外の二人の優位性を奪うもので間違いない。

 こちらのライフポイントを効果ダメージで奪うのか。

 あるいはデッキ枚数を削り落とすのか。

 もっとも最悪なケースは。

 

「ハンド・デストロイ。

 手札破壊のハンデス戦術……って、ところかな?」

 

 ハンデスは融合召喚使いにとって鬼門だ。

 融合召喚に必要な融合素材、融合召喚を行うカードのすべてが墓地へ埋葬されてしまう。

 素良の知らない、果て知れぬ戦いのロードを待つ異次元世界、蛇喰遊鬼の故郷では、墓地に送られた場合に融合召喚が可能とする”ティアラメンツ”なるカードこそ誕生するものの、あれらは例外中の例外だ。

 ほとんどの融合召喚を行うカードたちにとって、自分たちの召喚者が手札を失えば、それは召喚者のために戦えない無為の死を宣告させるに等しい。デュエリストとモンスターの絆を絶つ残酷ながらも王道の戦術、ハンデスに最も苛まれるのが融合召喚使いなのである。

 であれば、紫雲院素良の腹積もりは決まる。

 

「ふぅむ、……ねえ、権ちゃん。

 次やりたいならさあ、代わりにやってくんない?」

「ご、権ちゃん?

 って、俺が出てもいいのか?」

「ぼくさ、あのひとに向かない気がするんだよねぇ。」

「うむ。そういうことならば!

 権現坂道場が跡取り、権現坂昇。

 我が友の義によって助太刀いたす!」

 

 遊勝塾の存亡には関われない立場の友達でも。

 自分の師匠、榊遊矢の友達であり、おなじ人間への情をわかちあえる仲間ではある。自分の生まれ故郷、育ちの故郷である”融合次元”の”アカデミア”での生活とくらべれば、ああ、こうやって仲間に頼れるというのは、どこか楽しいものがあるなあ、と、素良は思わず眉の険しさをゆるめる。

 

 しかし、彼らがそれを許容する、ということは。

 ある少年にとっても、友への義を貫く口実になり得るのであった。

 

 

【Q,恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?】

【A,抱擁に問題なければ可能でしょう。恋心からの抱擁であれ愛情からの抱擁であれ、また友愛からの抱擁であっても、体臭と口臭のケアを意識しましょう。一生も続ければ諸費用がえげつないことになりますが、カードショップで再録されていないカードは欲しいけれども、財布を痛めて単品買いして間もなくに再録されてしまいカード価値が暴落するかも、と気にするくらいならば始めましょう。】

 

【Q,あまえればよかったのかしら。】

【A,男は甲斐性を求められると、なけなしの甲斐性でも捧げてしまう場合があります。金銭の関わらない範疇であれば、個人差はありますが問題ある女性とは判断されません。ただし、男を使い走りにしようとする、肉体労働を無償でさせようとする場合の「あまえる」は話が変わるので気をつけましょう、男の片想いをこじらせる原因になるケースがあります。】

 


今日の最強カード

ティアラメンツ

 墓地からの融合召喚を得意とするカードたち。

 融合召喚の為に墓地に送る必要こそあるものの、融合召喚を行うカードもまた墓地に送られることで発動するため、《融合》や「融合」「フュージョン」魔法カードを採用する必要性があまりない……と、手札事故を念頭に置いても誤解されがちなカードでもある。

 下記のカードたちへの対策が難しいため、彼女たちの使い手は《融合》や「融合」「フュージョン」魔法カードが何枚かは必要となるのだ。

 

①墓地にあるカード、または墓地に行くカードを除外するカード

②墓地での効果の発動を封じるカード

③墓地での効果の発動を無効にするカード

 

 の、すべてが墓地融合の弱点となる。

 ランク4のXモンスターをX召喚できるデッキであれば、②に該当する《深淵に潜むもの》をX召喚し、相手ターンのドローフェイズ、スタンバイフェイズに効果を発動させることで、墓地で発動する「ティアラメンツ」カードの効果と効果による融合召喚のほとんどを封じてしまうので、EXデッキに余裕があれば1枚は採用しても困らないだろう。

 

 レベル5以下の闇属性のモンスターを特殊召喚できるデッキならば、速攻魔法《マスク・チェンジ・セカンド》の効果で①に該当する融合モンスター《M・HEROダークロウ》を特殊召喚し、ついでにカードの効果によって別のカードを手札にくわえる効果への対策も行ってしまうのも手だ。代用としては、自分も効果を受けてしまうが永続魔法《次元の裂け目》や永続罠《マクロ・コスモス》も悪くない。

 

 ③を自分が受けても問題ないデッキであれば、手札にくわえやすいフィールド魔法《王家の眠る谷-ネクロバレー》もよい。墓地からの効果発動は許しても「墓地からカードを動かす」効果であれば無効にするため、墓地からデッキに戻す、または墓地から除外する方法での融合召喚をさせないことができる。

 

 これら①~③に該当する速攻魔法《墓穴の指名者》は最大の脅威となってくれるだろう。彼女たちの使い手同士がデュエルで使用する場合、自分のカードによる融合召喚も封じてしまう場合があるため、【ティアラメンツ】環境では【ティアラメンツ】デッキでは採用しづらい点、「ティアラメンツ」モンスターは闇属性のカードゆえに上記の《マスク・チェンジ・セカンド》も採用を検討できるがゆえに対戦相手は《抹殺の指名者》で同カードを対策できうる点にも注目すると、思いがけない”いいこと”があるかもしれない。

 

 先攻1ターン目から《ヴェルズ・オピオン》でレベル5以上の融合召喚や「壊獣」カードによる除去を封じれば一方的に勝てることに着目し、「幻影騎士団」カードを採用したデッキに《RUM ― 幻影騎士団ラウンチ》を採用して、X素材を持たないランク3の闇属性Xモンスターに《ヴェルズ・オピオン》を重ねて呼びだしてしまうのも対策としては悪くない。

 ついでに速攻魔法《侵略の汎発感染》を手札にくわえてセット、魔法罠による効果無効への対策も終えれば完璧か。

 


次回予告

かくして、物語が変われども。

 

運命は変わらず。

ただ、玻璃の星を見あげて待つ。

今は流れ堕ちぬ夜に微睡もう。

ひとつ、星が瞬いた。

 

「ちょっと運試し しようぜ!」

 

……刃? コイン? うん?

 

次回

YA☆I☆BA

お楽しみは、これからだ!

 

 




 副題はコミック・アンソロジー「藤丸立香はわからない」から。
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