Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?   作:ウェットルver.2

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YA☆I☆BA(10話)

 紫雲院素良が、刀堂刃を観察していたように。

 

「しっかし、奇妙な話もあるもんだぜ。」

 

 観察される刀堂刃とて。

 対戦相手となる他塾の塾生を観察していなかったわけではない。

 多種多様なステータス操作により、強烈な一撃を叩きこもうとする榊遊矢。

 戦闘破壊耐性の付与による戦線維持で身を守る、柊柚子。

 おそらくは榊遊矢の戦術では突破しきれない、耐久性の高い戦術を選んでいる同塾の塾生こそが柊柚子なのだとすれば、この遊勝塾とやらは榊遊矢の戦術か、柊柚子の戦術のどちらかを前提に偏重したものだろう。

 残念ながら、相性の問題で光津真澄に軍配こそあがったが。

 前者であれ後者であれ、こちらが先攻で手札を奪ってしまえば問題はない。後攻で手札を奪えず、持久戦に持ち込まれれば、突破能力の物足りない自分では勝てない対戦相手が柊柚子に似た戦術の塾生なのだろう。

 榊遊矢に似た戦術の塾生が相手であれば、難なく勝てるはずだ。

 

 などと、あたりをつけながらも。

 では、”そいつ”は誰なのか。

 選ばれる対戦相手はどれなのか。推察へと挑む前に。

 なにやら暑苦しい大男と冷ややかな小男が語らっているではないか。

 なんでも大男は遊勝塾とは異なる他塾の塾生で、その塾の跡取りなのだと聞く。

 

「ほかの塾と仲いいのかよ、遊勝塾。」

 

 あいつが出たなら、さすがにどんなデュエリストなのかは読めきれないだろうな、と、さすがに大男への洞察を諦め、アクションデュエルのためのストレッチを続ける前に。

 ここで刀堂刃、

 

(あん?

 ……これって、よお。

 俺が辞退して遊鬼が出ても、よくねぇか?)

 

 気づいてしまう。

 他塾の塾生が参戦する。

 参戦資格のない塾生が参戦する。

 これでは、もう塾対抗戦の意味がなくなってしまう。デュエル塾同士での対戦カード、デュエル戦術の読みあいが成立しないのだ。暑苦しい情熱は嫌いじゃないが、いざ冷静に考えると醍醐味もクソもない。

 大男と小男の語らいを「塾同士の絆」と思えばLDSにないものだ、遊勝塾の力だとは間違いなく、贔屓なしに言えなくもない。どこかうらやましい、憧れるものだってある。

 だが、この感情論を抜きにすれば。

 チーム戦にはチーム戦の醍醐味と粋があるのに、外野から感情論で醍醐味と粋を台無しにされては、まっとうな勝負と聞かされてきた者の気持ちは反故にされ、どこか退屈な試合になってしまう。

 こちらの同意なく話が進むから、試合中に気づいたら反則じみたチーム移籍っぽい真似をされているからだ。それを情熱ひとつで遊勝塾がやっていいなら、LDSだって同じ真似をしてもよくなってしまう。

 ルールは破るためにあるものではない。

 終わりのない応報を認めないためにある。

 さて、理事長である赤馬日美香は気づいているのかいないのか、権現坂昇や紫雲院素良、柊修造塾長をとがめもしない。いや対戦相手の動向くらい観察しろよ監督役だろアンタ、と思いはするが、当の監督役が気にも留めていない。

 

 つまり、蛇喰遊鬼が。

 赤馬日美香に、LDSの理事長に認められなかったLDSの塾生が。

 自分の代わりに出てしまっても、この現状であれば「よい」のでは。

 

(いやいや。

 そいつは筋が通らねえだろ!

 ほかの連中の面子はどうなる!)

 

 シンクロ召喚コースの代表としては認めきれない。

 相手が横紙破りとも思える判断をしても、「ならば」と自分が横紙破りをしてもよい理由にはできない。

 因果応報だの、やったらやり返されるだの以前に、真剣勝負の場に立つほどの、立つまでの頂点の、選ばれたエリートの、三位一体の矜持は自分だけの矜持ではないのだ。

 ひとつ、真剣勝負への挫折をした者。

 ふたつ、頂点に立てなかった者。

 みっつ、選ばれなかったエリート。

 この場にいないすべての、この場にたどり着けなかった者たちの矜持のためにも、最後まで戦うべきものが各召喚法コース代表、すなわち、赤馬日美香に選ばれた自分たちなのだから。

 

(いやでも、……なあ。)

 

 光津真澄。蛇喰遊鬼。志島北斗。

 彼女らの友人としては、話が別だ。

 LDSのエクシーズ召喚使い最強の座どうこうは興味がない。使う召喚法が自分とちがうのだから、ちがう分野で最強とか名乗られても興味がわかない。

 気に食わないのは、真澄が不機嫌になった理由とおなじ。「大人」に遊鬼の、「子供」の実力を低く評価されたことだ。その子供は、自分が下した同門の塾生たちをも下せる実力者でもあるのに、と。

 真澄や北斗、……あと沢渡とちがって付き合いは浅い。彼らほどの思い入れはないが、彼の実力を知る以上、それなりに思い入れはある。

 勝者は敗者の思いを背負わなければならない。

 のちに”シンクロ次元”の”デュエルキング”、”ジャック・アトラス”が口にする言葉だが、刀堂刃の気にするところも同様の思い。

 かつて蛇喰遊鬼に負けたなりの情熱。

 

『自分に勝利したのだから、それなりの結果は残せ。』

 

 と、いう期待だ。

 敗者ならではの憧憬や執念とも言える。

 そう、ひとりのデュエリストとしては納得できない。

 かりにもシンクロ召喚コースのエリートに選ばれるほどの、この自分の敗北を差し置いて、「エクシーズ召喚コースの代表者になる資格と枠はないから」などという合理的すぎる理由だけで、勝利者である遊鬼を選考から除外されることが。

 この情熱と不満が燻ぶる以上、受け入れきれない合理に従い、シンクロ召喚コースの看板を背負って戦えば、自分の心が技の冴えに差し障るだろう。

 かといって、シンクロ召喚コースの塾生仲間に不義理な選択も許せない。

 いきなりデュエルで白黒つけても、待つ相手側の時間を無駄に使わせるだけ。こちらへの対策だって取られてしまう。

 

「よし。」

 

 さて、刀堂刃が取り出しますは、一枚のコイン。

 

「おい、遊鬼。

 ちょっとした運試しをしようぜ?」

「……え?」

 

 賽の代わりの銭博打。

 丁半勝負改め、表裏勝負。

 

「表が出たら、次の勝負は俺が出る。

 裏が出たら、おまえが行ってこい。」

「…………えっ?」

「なにを言っているのです!?」

 

 赤馬日美香の叫びが耳に触る。

 この博打は不義理ではある。

 三本勝負に選ばれなかった、すべての塾生への不義理である。

 しかし、博打の相手を同格と認めるならば、この場の三人全員が「強い」と認める四人目が相手であるなら、はたして賭ける義理に対して「不等だ」と言えるのか。

 自分たち三人と凌ぎを削りあう相手である以上、(あの沢渡がエリート扱いされている)総合コースをのぞく、すべてのLDS塾生でも勝率を上回れない、「負けることがめずらしい」LDS塾生であることは疑いようもない。

 いくらエクシーズ召喚コースの塾生との今年度の春期勝率が、志島北斗に対しては高くないとしても、志島北斗以外に対して高くないわけではない。あくまで志島北斗の成長が著しいだけなのだ。

 たかが春期の結果だけで判断されても、前年度までの戦績を見れば、どちらが先に強さの質を完成させているかなど、当事者としての実践による実感も必要ないほどに明らかだろう。

 そもそも自分たちを選考した赤馬日美香理事長は、データを重んじるわりに見るデータが偏っているうえに、塾生をデータでだけ判断していて、実際のデュエル中のやりとり、遊鬼が裏で語る「デュエリストの本能」までは観察できていない疑いがある。

 権現坂昇は権現坂道場の跡取りでしかなく外部の塾生である、と気づいて注意していないあたりも含め、さすがの刀堂刃も理事長の観察能力や調査能力に疑いを持たざるを得ない。

 あるいは権現坂道場の跡取り、将来のライバル塾の長となる権現坂昇をあまく見ているのか。

 そんな姿勢で「大人」に、「子供」が何度も軽んじられるのだ、と先を見据えれば、刃の矜持は、LDS塾生全員の「子供」の矜持は、一枚のコインですべてを決めるに値した。

 矜持が軽いのではない。「大人」からの扱いが軽すぎる。たしかに不義理ではあるが、「大人」の軽薄な思惑通りにもてあそばれるより、「子供」の意思で反抗できるだけ、まだ博打のほうがマシだと思えた。この瞬間にも、「子供」から「大人」への信用は軽くなりつつあるのだ、とも理事長は気づかれていないだろう。

 自分で対等と認めたデュエリストと、次の試合でデュエルをする権利を賭けあうなら。

 この博打は、やるに値する価値がある。

 

 デュエリストの誇り。

 勝敗の数では語りきれないもの。

 かならずしも、他人に理解できる感情論とは言い切れないもの。

 対戦相手にすら、かならずしも共感や同情を招くわけではないもの。

 プロやアマチュアの垣根を問わない、自分が自分であるがゆえに譲れないものが、たしかに、刀堂刃の心臓を熱くたぎらせる。

 

「それじゃあ、いくぜ!」

「……え、ちょっ、」

「ああっ!?」

 

 そんな決断(データ)、自分は知らない。

 キン、と、強く親指の爪で弾かれたコインの音は響き、「もう止められない」と悟った少年と理事長の顔が一瞬で青ざめた。驚愕の表情は彼らだけではなく、その場に居合わせた権現坂昇も同様であった。

 横目で様子を見守る北斗と真澄だけが、納得のいった表情で目を伏せた。

 

 運命のコイントス。

 宙を舞う光沢が楕円(アーク)を描き。

 刀堂刃の手の甲に収まる。

 

「さあて、御開帳!

 表か、裏か。てめぇの相手は―――!」

 

 

 

「……ボク? えっ、」

 

【Q,恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?】

【A,ひとの言葉やデータを優先せず、恋愛対象を最優先にできるなら可能です。どんな事前調査も恋愛対象本人から直接得た情報がなければ、あまり参考にならないケースもあります。噂と風説は当てにするべからず。】

 

【Q,遊鬼の裏っ……よしっ……!】

【A,恋って、ときに残酷ですよね。】

 


今日の最強カード

・《 みんなのキング

 遊戯王ARC-Vの世界とは異なる世界での、伝説のカード。

 シンクロ召喚が主流となる世界での先代デュエルキングを讃え、応援する、ひとりの新聞記者が授けた占いの内容にして、使用不可能な夢のカード。

 

①攻撃力・守備力・種族

②フレーバーテキスト

③レベルや属性がない

 

 このすべてが、カードイラストに描かれた決闘者(デュエリスト)の人物像を元にしたデザインであるためか、モンスターカードとしての使用が不可能なカードとなっている。

 アニメ本編でのみ出番があった、(全世界のホビーアニメを含めても)唯一無二の登場経緯を持つ、公式デュエルでの使用が不可能などころか、レベルをもたないがゆえに通常召喚もできない(※レベル0ですらないのでレベル4以下の通常召喚を適用できない)遊戯王の公式カードとしても使用困難なカードという点でも、当カードが収録されたストラクチャーデッキの歴史的価値は高いだろう。

 

 (もっと)も、使えても、使うだけ野暮なカードではあるだろう。

 使うだけ野暮であろう、現実世界に知られた伝説のカードの類例では、現実世界で本当に1枚しかなく公式デュエルでも使用可能な《偉大なる戦士タイラー》が有名か。

 


次回予告

LDSとの三本勝負。

この権現坂昇が相対するデュエリストは、

 

「……お初にお目にかかります、蛇喰遊鬼です。」

 

こんな線の細い、柔そうな男だと!?

否、刀堂刃なる男に認められるほどの(つわもの)だ、油断はできん!

 

「……最強デュエリストのドローは、すべてが必然。」

 

「ドローカードさえも、みずからが導く!」

 

次回

男にモテて どうすんだ。

お楽しみは、これからだ!

 




 副題は原作【遊☆戯☆王】と、漫画・アニメ【YAIBA】から。
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