Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか? 作:ウェットルver.2
「……リバースカード、オープン。
通常魔法、《化石調査》を発動。」
「化石調査?」
恐竜族専用の《増援》。
そう言っても過言ではない通常魔法カードだが、あまり舞網市では有名ではない。
旧き遊戯王のゲーム環境において、恐竜族の歴史は古くも特徴が薄く、高い攻撃力による盤面征圧においては残念ながらもドラゴン族に見劣りする。
質の良い戦闘力ではなく、質の良い全体攻撃や多様な展開手段で恐竜族が差別化された現代、このカードを知らない決闘者とは恐竜族を知らないに等しいが、舞網市においては恐竜族が未だ「ドラゴン族に及ばないパワータイプ」の一種でしかない。
そんな中で、わざわざ恐竜族専用の《増援》を発動してまで恐竜族を要求するコンボを使う有名な決闘者は、残念ながら舞網市にはいなかったのである。
権現坂昇が《化石調査》を知らないのも無理はない。
「……デッキから、
レベル6以下の恐竜族モンスターを1体、手札にくわえる。
この効果で手札にくわえられるのは、《ヴェルズ・サラマンドラ》。」
「俺のターンに、《侵略の侵喰感染》でデッキに戻したカードか!」
つまり、舞網市で《化石調査》を発動する、ということは。
舞網市では未だ開発されていない、恐竜族を活かすコンボを発明するに近い。
「……続けて、《侵略の侵喰感染》の効果。
今、手札にくわえた恐竜族の《ヴェルズ・サラマンドラ》を、
デッキの《ヴェルズ・カストル》へと書き変える…………、」
その意味に、蛇喰遊鬼は気づいていない。
たしかに彼は舞網市で可能な範疇で、かつての世界のコンボを再現してはいる。
だが、「舞網市でもできる」と、「舞網市民が思いついて実行に移せる」は違うのだ。
「……さらに続けて、リバースカード、オープン。
2枚目の通常マジック、《化石調査》。……もうわかるよね?」
「まさか、おまえ。
そのコンボのために《化石調査》を!?」
「……『ヴェルズ』モンスターにとって。
『特定の種族』を持ってくる魔法カードは、
そのまま任意の『ヴェルズ』モンスターを導く万能魔法にできる。」
「…………馬鹿な。」
できて当然でしょ?
などと不思議がり、気取らず、つまらなさそうに疑問へ答えても。
その疑問の主、権現坂昇には理解できても納得ができないのだ。
再現可能な技術ではあれども、思いがけない発明なのだから。
できて当然なわけがない。
「……デュエルの基本戦術、その極み。
決闘者の知識がそのまま『ヴェルズ』モンスターへの強化になる。
そのすべてを奥義に昇華する
……ボクの大切なカード…………!」
「それほどの、カードへの
だれにでも再現できるとしても、「思いつけない」から発明は苦難の道なのだ。
回答方法すら明示されない問題を、ただ「ヴェルズの為に」探し求めた結果の産物。
「これが、『LDSの首席ではない』というのか……!?」
勝利に貪欲な、これまでのLDS塾生とは何かが違う。
技量ひとつで精神性をも察した権現坂は、少年の一挙一動に目を配る。
「……手札から《ヴェルズ・カストル》を通常召喚し、その効果を使用。
通常召喚権にくわえて召喚権を獲得し、その召喚権を消費して、
手札から《ヴェルズ・ケルキオン》を表側表示で召喚。」
またもや、レベル4のモンスターが2体。
ランク4の
同じ動きをされれば、武道でいう「型」なのだと理解はできる。
「……ここで《ヴェルズ・オピオン》の効果を発動。
最後の
通常トラップ、《侵略の侵喰崩壊》を手札にくわえる。」
これで、《ヴェルズ・オピオン》による呪縛は消える。
おそらく《超重武者ダイ―
アドバンス召喚が可能となる現状で《ヴェルズ・オピオン》による特殊召喚制限は意味をなさない。そう判断して
「……《ヴェルズ・ケルキオン》の効果を発動。
墓地の『ヴェルズ』モンスター、1体目の《ヴェルズ・ヘリオロープ》1体除外し、
墓地の『ヴェルズ』モンスター、2体目の《ヴェルズ・ヘリオロープ》1体を手札に戻す。
この効果を発動したターン、さらに《ヴェルズ・ケルキオン》の②の効果による召喚を行うことができる。よって2枚目の《化石調査》で手札にくわえた、
たった1枚の《ヴェルズ・サラマンドラ》を効果で召喚する!」
これまで志島北斗、蛇喰遊鬼の両名が
「3体、……レベル4のモンスターが3体だと!?」
「……ああ。」
これまでの観戦でも見たことがない、3体。
光津真澄が《ジェムナイトマスター・ダイヤ》の融合召喚に要求された素材の数と同じ。
「やっと、君を呼べる。」
エクストラデッキの一番上のカードに触れ、息を吐く。
「……ボクは、
レベル4の《ヴェルズ・サラマンドラ》と、
レベル4の《ヴェルズ・カストル》に、
レベル4の《ヴェルズ・ケルキオン》で、オーバーレイ!」
みっつの魂が渦巻き、空高く飛んで天を貫く。
リアル・ソリッドビジョンで表現された夕焼けの空に現れた“孔”は銀河を
「
果てなき
銀河の渦より覗く、首がひとつ。
黄昏の空を眺める、首がひとつ。
大地を睥睨する龍の首がひとつ、三つ首で三界を睨む破壊の槍。
「我を、勝利に導け!
ランク4!
《ヴェルズ・ウロボロス》!」
かつては《氷結界の龍トリシューラ》と呼ばれたドラゴン。
破壊神の槍の名を抱く龍は
地を這う《ヴェルズ・オピオン》を見下ろしながら、あるべき名を失ったそれは敵影を見下ろす。
「こ、こいつは、」
残るひとつ首は、まっすぐに権現坂昇を見つめていた。
《ヴェルズ・オピオン》の全長に勝るドラゴンは、彼の友人である榊遊矢の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》にも勝る。赤い竜とくらべて血色を感じさせない青い龍はただ、黒い鎧に蛇喰遊鬼の顔を映しながら獲物に狙いを定めていた。
「エクシーズ素材を取り除き、
《ヴェルズ・ウロボロス》の効果を発動!
1ターンに一度、三つの効果のうち、ひとつを選択して適用する!」
蛇喰遊鬼の宣言を聴き、“オピオン”へ向けていた首を振り返らせる。
「……ひとつ、相手の墓地のカード1枚を選択して除外する。
ふたつ、相手の手札のカード1枚をランダムに選んで墓地へ送る。
そして、」
指折り数え、蛇喰幽鬼が選ぶ効果はひとつ。
「……最後の、みっつ!
相手フィールドのカード1枚を選択して、持ち主の手札へ戻す!」
「馬鹿な!?
ということは、俺のフィールドの、
戦闘破壊されない《超重武者ダイ―8》は!」
「当然、権現坂、君の手札へと戻される!
選択して発動する効果は当然、《超重武者ダイ―8》を手札に戻せる効果!」
己の周囲を浮遊するオーバーレイ・ユニットを噛み、呑みこもうとして、
「……とはいえ、君の墓地には《超重武者カゲボウ―C》がいる。
墓地から除外し、『超重武者』モンスターへの対象を取る効果を無効にして、その効果を発動したカードを破壊する効果。このままなら《ヴェルズ・ウロボロス》の効果は無効になり、破壊される。」
宣言に「待った」をかけるように続けた蛇喰遊鬼の言葉に、つい喉を詰まらせた。
ひとつ首だけが息をできないとはいえ窒息しかける“ウロボロス”。「相変わらずせっかちだな」とでも言いたげに同胞を見あげた“オピオン”は口を大きく開くと、伏せた姿勢のまま背を伸ばす。
己の醜態にあくびをされたと気づいたのか、“ウロボロス”の首のひとつが硬直した。
ちょっと心が傷ついたのだろうか。
そんな昔馴染みの交わりに興じたドラゴンらを見て、“カゲボウ―C”は頬を人差し指で掻く。
なにやっておるのだ、こやつらは。
「墓地から、……もしや!」
モンスターたちの困惑など気づかず、決闘者たちは対戦相手を睨みあっていた。
「だったらこうする。
手札の《DDクロウ》を捨て、効果を発動!
君の墓地の《超重武者カゲボウ―C》を除外し、『超重武者』モンスターを守る効果を発動できなくさせる!
続けて、《ヴェルズ・ウロボロス》の効果!
戦闘破壊されない《超重武者ダイ―8》を手札に戻す!」
やっとかと喉を唸らせ、“ウロボロス”はオーバーレイ・ユニットを呑みこんだ。
オーバーレイ・ユニットに宿る《ヴェルズ・サラマンドラ》の魂を、
死体を連れ去るカラス《DDクロウ》が慌てて立ち去り、怨念の炎を避けた。
“ダイー8”を強襲する火炎放射に“シャイン・クロー”が身を
『うそ、フィールドがガラ空きにされた!?
このままじゃ権現坂が!』
『いいや、まだだ!
俺は知ってる、権現坂には―――!』
心配する柊柚子。信じて拳を握る榊遊矢。
(―――俺の手札には、《超重武者装留ファイヤー・アーマー》があった。
だが、この効果は対象モンスターへの戦闘・効果による破壊を無効とする。
『手札に戻す効果』にまでは対処できん……!)
受ける眼差しに、権現坂昇の背は熱く
「……バトルフェイズ。
まずは《ヴェルズ・オピオン》で攻撃。」
(―――だが!)
「このまま負ける俺ではない!
なにより、不甲斐ないではないか!」
五臓六腑の隅々にまで染みわたり、丹田より気力を
「俺が戦闘ダメージを受けたとき!
俺の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、
手札から、
《超重武者ココロガマ―
いでよ、《超重武者ココロガマ―
「……やっぱり!」
「我が友の居場所を、遊勝塾を!
ほかならぬ仲間に任された手前、俺は倒れるわけにはいかん!」
どれほど敵が強大であろうとも、権現坂昇は背を向けない。
柊柚子の家を、榊遊矢の居場所を守るために戦うのだと決めた時より、すでに覚悟は終わっている。
これはデュエル塾のひとつが潰れるか、榊遊矢の所属が変わるかという話ではない。
エンタメデュエル、権現坂流“不動のデュエル”。
それぞれの道を歩むものが、そのための道を見失わぬための戦いなのだ。
「奇遇だね、」
―――だからどうした。
異次元よりの決闘者とて同じこと。
大会環境における一時の勝利を目指し輝き、一所懸命に勝利と刹那の道を貫く一条の星が如き者をもいれば、愛するカードと共に勝つために研鑽を積み、さざれ石で巌を為すまで究める道を選ぶ者もいる。
大会環境における勝敗の「ガチ」と、カードの研究をする愛好の「ガチ」。
どちらかが劣ることはなく、いずれの道も好きだから続けられるものだ。
そんな決闘馬鹿たちでも、己の道を一時忘れる理由がある。
あえて忘れ、新たな自由を選べる意志がある。
「このデュエル、
『
『―――ッ!』
光津真澄は息を呑んだ。
敗北さえも成長の糧と割り切る蛇喰遊鬼。強く喜べるものは決闘者の成長だけ。
その彼に「勝ちたい、負けが悔しい」と思わせる原因が少女にあるとまで、彼が言わしめたのだ。
光津真澄の気持ちに応えたい、だから叶わず負けるのが悔しい。
「……っ!
それが貴様の、いや、おまえの仁義か!」
「…………”そういうの”じゃないんだけどな。」
これが意味する蛇喰遊鬼の気持ちに気づけない彼女ではない。
ぺたりと床に座り込み、ただ少年を見つめていた。
・《ヴェルズ・ウロボロス》
「ヴェルズ」
《侵略の汎発感染》の恩恵を受けられる最高攻撃力のモンスター。
手札・場・墓地に干渉する効果を持つものの、いずれの効果にも比較対象として上位互換となるモンスター、汎用性や自由度の高い魔法罠カードがあり、それらと比べれば《侵略の汎発感染》の効果で魔法罠による妨害を無視して効果を発動できるとはいえ、これ単体ではそれらの代替物になれるかどうかといったところ。
必要な素材もレベル4モンスターが3体とゆるいことはゆるいが消費するカード枚数が多い。
あえて語られがたい強みを挙げるとすれば、
①
②「3体以上を素材とする
③一部の魔法罠カードで消費枚数を抑えて
④汎用性あるカードと異なり、メインデッキを圧迫せずEXデッキに採用できる
⑤一度に複数の「X素材に使われた場合」の効果を持つX素材の効果を受けられる
という点であり、遊戯王のカードの中では一癖ある強みであること。
汎用性あるカードと異なり、禁止制限やドローに左右されないため④が活かさせる場合が多く、このカードを出しやすいデッキは総じて【光天使】デッキのような①②⑤も同時に満たしやすいデッキであるためか、上位互換ながらも属性や種族が異なり攻撃力が2000と低めの《塊斬機ラプラシアン》とは別の運用をする前提で古参の
とはいえ通常の【ヴェルズ】デッキでレベル4モンスターを3体も場に用意するなど簡単なことではなく、採用されるとしても④を意識した運用である。
かなり特殊なゲーム環境ゆえに「ナンバーズ」Xモンスターの所持または採用ができないか、上記の強みを意識しないかぎりは【ヴェルズ】デッキにおいて採用するのも呼び出すのも、活躍させるのも一苦労がいるだろう。
デュエル部分がとんでもなく長くなったので分割します。