Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?   作:ウェットルver.2

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最強(サイキョー)デュエリスト遊鬼!(後編)(14話目)

「俺の《超重武者ココロガマ―A》は特殊召喚に成功したターン、

 このカードへの戦闘や効果による破壊をすべて、無効とする!*1*2

 

 権現坂流“不動のデュエル”。

 それは決闘中の油断や慢心を招かぬ、無駄な動きをしないデュエル。

 わかりやすい盤面征圧ではなく、対戦相手にとって非公開情報である手札を残し、墓地には相手ターンでも効果を発動できるカードを置き、盤面以外を満遍なく堅牢にする。

 なまじ強力な効果を持つがゆえに突破されれば戦線維持できず次がない、というカードや戦略に依存するわけではない権現坂昇のデュエルは、異次元人ながらも舞網市民と変わらぬ出自ゆえに特別なカードを使えない蛇喰遊鬼にとって戦いにくい形勢を作りあげていた。

 

「ましてや守備表示、俺にダメージは通らん!

 さあ、どうする!?」

「……バトルフェイズを終了。

 ボクはカードを1枚セットし、ターンエンド。」

 

 権現坂昇の「超重武者」カードは総じて、手札や墓地から効果が発動される「超重武者装留」カードを一時(いっとき)装備カードとして扱いながら、なんらかの効果処理で墓地に送ることが多い。

 彼の手札に非公開情報が増えれば増えるほど、どんな「超重武者装留」カードで「超重武者」モンスターを補助して殴りかかってくるのかが読みきれなくなるのだ。

 ましてや遊戯王OCGにおける公開情報とは相手の墓地や除外状態のカードを含むものの、舞網市のデュエルにおける公開情報とはデュエルディスクでテキストの確認ができる範疇のカードを指す。

 場の永続魔法や装備魔法の効果を確認できても、場に出されることもなく効果も発動させずに墓地へと送られたカード効果までは確認できないのだ。

 

「俺の、ターンッ!」

 

 よって、相手の立ち回りの合間を狙って、場に出されたカードのテキストを熟読するしかないのだが、ここでアクションデュエルならではの課題点が浮上する。

 アクションカードを拾いに行けば、その間はデュエルディスクから目線を離してアクションカードを探し回ることになり、相手のカードさばきを視認できなくなってしまう。

 権現坂昇のデュエルを警戒するならばデュエルディスクから目を離せないが、アクションカードによるアドバンテージを得ようとすれば権現坂昇のカードさばきを把握しきれない。

 

「俺の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、

 俺は手札から、

 《超重武者装留ダブル・ホーン》を、

 《超重武者ココロガマ―A》に効果で装備し、効果を発動できる!

 装備された《超重武者装留ダブル・ホーン》を武装解除し、俺のフィールドにモンスターカードとして特殊召喚できる! 俺は守備表示で特殊召喚する。」

『これで、フィールドにモンスターが2体!』

『いっけえ、権現坂!』

 

 この点において、アクションカードを拾わずに墓地へ魔法・罠カードを置かぬ権現坂昇のデュエルは、アクションカードに目を奪われることなく対戦相手と盤面を直視し続ける、己の視線さえも不動をつらぬく心技体のうち心技を備えたデュエルなのである。

 さながら寺院へ近づく参拝客を睨む仁王像。

 この舞網市において、異次元人の慣れ親しんだ大会環境でのカードテキストの確認に最も近い視野を権現坂昇という男はデュエルディスクにおける公開情報の機能限界をも活かして体得したと言えよう。

 

「……リバースカードは、発動しない!」

『そうか、遊鬼の《侵略の侵食崩壊》は、

 フィールドの「ヴェルズ」モンスター1体を代償に、相手フィールドのカードを「2枚」手札に戻す効果! でも、権現坂とかいう彼のフィールドのカードはどれも、』

『相手ターンに特殊召喚したカードと、装備魔法扱いで場に出せるカードか!

 アドバンス召喚に成功すれば、今度は場のカードが「1枚」だけ!

 あの野郎、気づいちゃいねえだろうが、

 遊鬼に対処しづらいコンボを使ってやがる!』

『……遊鬼。』

 

 権現坂昇がカードさばきを止めるまでは、すなわち対戦相手が権現坂昇の盤面から目を逸らしていい無駄な言動、余計な隙を権現坂昇が作ってしまうまでは、生まれが舞網市民とは呼べぬ異次元人の蛇喰遊鬼とてアクションカードを拾いに行けないのだ。

 そのうえでの今の立ち回り。

 とてもではないが、「権現坂昇のターン中にアクションカードを拾えばいいじゃん!」などと気軽に思えるような対戦相手などではなく、見逃したカード1枚で何をされるのかが読みきれない。

 カードではなく、権現坂昇という人間の戦術家としての強さゆえに。

 

「さあ、今度こそ!

 俺はフィールドの、

 《超重武者装留ダブル・ホーン》と、

 《超重武者ココロガマ―A》を、リリース!」

 

 よって蛇喰遊鬼は許容するほかなくなってしまう。

 

「いざ出陣!

 《超重武者ビックベン―K》!」

 

 最上級モンスターのアドバンス召喚を。

 権現坂昇の切り札となる僧兵が現れてしまったのだ。

 

「このカードは召喚・特殊召喚に成功した場合、

 表示形式を変更することができる。

 俺は『表側攻撃表示』でアドバンス召喚を行った。

 よって、《超重武者ビックベン―K》を表側守備表示とする!」

 

 軽く座り込むだけで地面を鳴らすほどの重量を誇る、レベル8のモンスター。

 数多の武器を背負って龍を睨む姿は、戦友を守るべく立ちはだかる権現坂昇の現身か。

 

「このままバトルフェイズ!

 《超重武者ビックベン―K》が俺のフィールドに存在するかぎり、俺の『超重武者』モンスターは表側守備表示のままで攻撃宣言を行える!

 その際の『超重武者』モンスターの守備力は、

 ダメージ計算の間でのみ『攻撃力』として扱う!」

 

 地を殴り砕き、その衝撃波により飛び散る石の散弾で龍を狙う僧兵“ビックベン―K”。

 

『《超重武者ビックベン―K》の守備力は3500、』

『ってことは、……攻撃力3500でバトルできるの!?』

『痺れるゥ~!』

 

 子供たちの驚嘆と歓声。

 黙して応援しないLDSの面々と比べて、なんと蛇喰遊鬼のアウェイなことか。

 まるで味方がだれ一人もいないかのようである。

 

「ゆけ、《超重武者ビックベン―K》!

 やつの《ヴェルズ・ウロボロス》を攻撃!」

『……遊鬼っ!』

「…………ダメージ計算前。

 リバースカード、オープン!

 通常トラップ、《ライジング・エナジー》!」

 

 否、ひとりだけいた。

 たったそれっぽっちの応援のために、少年は気を奮い立たせる。

 

「このカードは、手札を1枚捨てて発動できる。

 効果対象モンスターの攻撃力をターン終了時まで、

 1500ポイントアップする!

 ボクは手札からアクション・マジック《回避》*3を捨てる。

 効果対象は当然、《ヴェルズ・ウロボロス》!」

 

 気合を入れられた邪竜も昂り、眼前の愚かな僧兵を喰らわんと牙を晒す。

 いつぞやの氷原のうえでの戦いでも思い出したのか、僧兵を見る目は怒りに満ちている。

 過去の亡霊に囚われ曇る同族の眼に、地を這う“オピオン”は呆れて首を振った。

 

『これで攻撃力が、……えっと、』

『いくつだこれ?』

『4250よ。

 ……なによ、その顔。簡単な計算じゃない。』

『端数の“50”がめんどくせえんだよ!』

『(えっ、真澄(きみ)、遊鬼相手のダメージ計算、慣れてるの……?)』

 

 ある意味では、観察眼において志島北斗も刀堂刃も目が曇っていた。

 戦況を把握しようと努める観客がいるからといって、その目線があっても「応援されている」と選手が納得できるわけではない。選手からすれば観戦はされていても応援はされていない。

 対戦相手と比べれば己の活躍を期待されていない、待ち望まれていない、共に悲しんでも喜んでもくれないとなれば、よほどのゲーム愛好家や冷徹なプロでなければ孤独に精神が耐え切れず、プレイングミスや意気込みの減退を招きかねない。

 彼らには競争主義のLDSならではの問題点、観客からの声援を知らない経験のなさがあった。

 それらとまったく似た状況で自分が意識する相手に応援されたとあれば、たとえやることが変わらずとも気合の入れようは変わる、やれる気力は増やせるというものである。

 遊鬼に応援された真澄然り、真澄に応援された遊鬼然り。

 男や女が単純というより、人間は単純なのだ。

 

 どうしようもない単純さ以上に、男女間の情緒が強すぎるだけで。

 

「ならば、今使うしかあるまい!

 俺の墓地に魔法・罠カードが存在しないことで、

 手札から《超重武者装留バスター・ガントレット》を発動!

 俺の場の『超重武者』モンスター、《超重武者ビックベン―K》の守備力をターン終了時まで、元々の守備力の倍の数値とする。これにより、俺の“ビックベン―K”の守備力は3500から、

 2倍の守備力、7000へと上昇するッ!」

「《ヴェルズ・ウロボロス》を越えた!?」

 

 投石の類など我に通じぬと突貫する“ウロボロス”めがけて、ガントレットを装備した“ビックベン―K”が即座にガントレットをミサイルとして発射する。

 そんなの我知らんと顎を外した邪竜の顔面に叩きつけられる、故郷の異星では見覚えなどあるわけがないロケットパンチ。どこかの(しん)精霊(しょうれい)が親指を立てて僧兵を讃える幻覚すら邪竜には見える。

 ああ言わんこっちゃない、こいつすぐ調子に乗るからと顔をしかめる相方(オピオン)に、無限の名を持っていたはずの邪竜のわずか2ターンに渡る活躍は見届けられた。

 

『ビックベン―Kの守備力が7000になって、

 相手の攻撃力は4250で、戦闘ダメージが……えっとぉ……?』

『2750。こんな計算もできないの、師匠(遊矢)

 先に端数を気にするから、ワケわかんなくなるんだよ。』

 

 ちょうど《ヴェルズ・ウロボロス》の攻撃力と同値のダメージ量である。

 自分の力をそっくりそのまま受け止めた邪竜の無念がいかほどのものかはともかく、見慣れない高い攻撃力と守備力のぶつかりあいに落ち着いて計算できない榊遊矢を見る紫雲院素良の目は冷ややかだ。

 もっとも実質攻撃力7000の守備力を得たモンスターと、一時であれ祖国における最大級の融合モンスターの攻撃力に届きかけるほどの瞬間火力を得たモンスターの衝突を見て、さすがの素良も興奮しないわけではない。「やっぱり師匠の周りのデュエルも見飽きないな」と内心歓喜してさえいる。

 

「……仕留めそこなった。」

「俺の《超重武者ビックベン―K》は倒れん。」

 

 わいのわいのと観客も精霊も盛りあがるなか、当の決闘者たちは冷静だった。

 

(…………だが、俺の手札は。

 すでに残り『3枚』。)

 

 《超重武者ビックベン―K》。

 《超重武者装留バスター・ガントレット》。

 《超重武者装留ダブル・ホーン》。

 《超重武者ココロガマ―A》。

 《超重武者カゲボウ―C》。

 これら以外の、いまだ発動できぬ手札の《超重武者装留ファイヤー・アーマー》、いちどは“カゲボウ―C”の効果で特殊召喚した《超重武者ダイ―8》、“ダイ―8”の効果でデッキから手札にくわえて装備し墓地に送られた《超重武者装留シャイン・クロー》を除けば。

 

 権現坂昇が手札から消費したカード枚数は、初期手札とおなじ『5枚』。

 

 うち《ヴェルズ・ウロボロス》で手札に戻った《超重武者ダイ―8》をくわえ、これまでに行った通常ドロー『2枚』ぶんで、ちょうど権現坂昇の手札『3枚』と場と墓地のカード枚数の合計が等しくなる。

 なんらかの方法で《超重武者ビックベン―K》をフィールドに維持できなければ、いや、あとで手札の《超重武者装留ファイヤー・アーマー》により維持できたとしても、たった1250の戦闘ダメージか効果ダメージで通ってしまうだけで、権現坂昇は敗北する。

 かろうじて蛇喰遊鬼に《超重武者装留ファイヤー・アーマー》を得たと気づかれていないとはいえ、手札の通常ドロー『2枚』ぶん以外は場も墓地も手札も正体を晒しており、手札を1枚でも使えば権現坂昇の守りが手薄になる。もはや余力はない。

 《超重武者ビックベン―K》の高い守備力のおかげで、かろうじて生き延びている。

 こうも絶体絶命の苦境であればこそ、なおさらアクション・マジックを取りに行くことは舞網市のアクションデュエルの基礎戦術、だれもが知る王道の戦術なのだが、

 

(……俺は、無駄に動かん。)

 

 男、権現坂はちがう。

 アクションカードに依存せず、最後まで「権現坂流“不動のデュエル”」を貫く。

 権現坂道場が跡取り息子にして、この権現坂昇とおなじく父親のデュエル「エンタメデュエル」の後継者たる少年、()()()()()であるならば、

 

(……ヤツの目。)

 

 彼らにとっての敗北とは、「デュエルに負けること」などではない。

 

(確実に、なにかを仕掛けてくる!)

 

 己の流派の理念を。

 己の誇りであり、揺るがぬ親子の絆でもあるデュエル道を。

 すなわち、()()()()()()()()()()()()()()

 権現坂道場での、長きに(わた)る精神修練。

 榊遊矢を誹謗中傷から守る為に得た、人間性への審美眼。

 男、権現坂昇を権現坂昇あらしめるすべてが。

 

「俺はこれで、ターンエンドだ!」

「……っ!?」

 

 少年、蛇喰遊鬼の罠を読んだ。

 通常トラップカード、《侵略の侵喰崩壊》。

 効果は(小声で)LDSの塾生たちが語ったように、自分フィールドの「ヴェルズ」モンスターを犠牲とすることで、相手の場のカードを2枚手札に戻す効果。

 そう、『2枚まで』、ではなく、『2枚ちょうど』を。

 今、権現坂昇のフィールドには、

 

『権現坂!?』

『うそでしょ、「超重武者装留」カードは!?

 なにか装備しないの? ねえっ、権現坂!?』

 

 モンスターである《超重武者ビックベン―K》の『1枚』しかない。

 であれば、『2枚』なければ発動できない通常トラップ《侵略の侵喰崩壊》の効果を受けない。蛇喰遊鬼の罠に囚われることはない。

 

「うろたえるな!」

 

 決闘者(デュエリスト)の直感か。

 警戒を解かない蛇喰遊鬼を見て、男、権現坂は動かない。

 

「この男、賭博で番を譲られただけはある。

 いたずらにモンスター効果をもてあそび、

 《超重武者ビックベン―K》を突破するような軽い男などではない!」

 

 (いな)、彼の慧眼(けいがん)は、蛇喰遊鬼の策略を上回ったのである。

 さきほどの《ヴェルズ・ウロボロス》、もしも似た効果で攻撃力が劣るX(エクシーズ)モンスターであった場合、いくら《ライジング・エナジー》で攻撃力を増強しても守備力3500である《超重武者ビックベン―K》との戦闘を行えば、間違いなく逆襲される。

 よくて相討ち。だが権現坂昇の手札には、守備力を倍加するカード《超重武者装留バスター・ガントレット》があるので相討ちにならず、受ける戦闘ダメージ3500前後の次第によっては、蛇喰遊鬼の残りライフが風前の灯火となる。

 X召喚するカードが悪ければ、あの瞬間に彼の敗北は確定してしまうだろう。

 いちおうは攻撃を無効とするアクション・マジック《回避》を拾っていたとはいえ、そちらを発動する場合では権現坂昇に《超重武者装留バスター・ガントレット》などを使わせられずにターンを跨ぐ。

 

 すなわち、権現坂昇の手札を減らせない。

 

 確実に《超重武者ビックベン―K》を戦闘破壊し、権現坂昇の手札を1枚でも多く使わせるためには、あの瞬間に防御たる《回避》を捨てて《ライジング・エナジー》で反撃するしかないと踏んだのだ。

 元より権現坂昇が《超重武者ビックベン―K》で突破できなければ、あのまま蛇喰遊鬼は《ヴェルズ・ウロボロス》で権現坂昇の手札も墓地も奪う算段だったのであろう。

 であれば、《ヴェルズ・ウロボロス》をみすみす相手に倒させるなど、ましてや《ヴェルズ・ウロボロス》以外をフィールドに出すなど言語道断。

 

(―――あの殺陣(たて)は間違いなく、意図的なもの。

 俺へ、『逆転の一手(ドロー)なぞ許さぬ』と、立ち向かったのだ。)

 

 権現坂昇はそう読み取った。

 ましてや、眼前の男は「相手を不動に陥れるデュエル」の使い手。

 こちらが無駄に動けば動くほど、着実に盤面の差を埋めてくるはず。

 

「俺を信じろ。

 男が『ターンエンド』と決めたならば、二言(にごん)などない。」

「…………ぉ、ォ!?」

 

 絶句。

 蛇喰遊鬼は血の気を(たかぶ)らせた。

 もはや、心の中でいたずらに権現坂昇を語るなど不要。

『権現坂昇は権現坂流“不動のデュエル”の継承者である。』

 これで充分だ。不動のデュエルが何たるかなどの定義の問題ではない。

 己の戦いのロードを手放さず、今は(ただ)、交錯するデュエルに全力を注ぐ。

 

「……そのエンドフェイズ!

 場の《侵略の侵喰感染》の効果で、手札の《ヴェルズ・ヘリオロープ》を手札に戻し、デッキの『ヴェルズ』モンスター、《ヴェルズ・ケルキオン》を手札にくわえる。

 もう憶えたよな、これで再びX(エクシーズ)召喚が狙えることを!」

「ぬうっ……!」

「ボクのターン、ドローッ!」

 

 決闘者(デュエリスト)(ただ)、それだけでよい。

 蛇喰遊鬼は「ヴェルズ」モンスター使いである。

 LDSなる枠組みに感動などない。

 OCGを騙る現実主義に熱狂などない。

 網膜を焼く熱量を乞い、憧憬により(うごめ)くもの。

 決闘者(デュエリスト)にだけ興味がある。本物を探す未練(ヴェルズ)

 あらゆる決闘者(デュエリスト)の情熱を求める、彷徨える亡霊。

 

「いくよ。」

『――――ッ!』

 

 あるじの魂の冷気に従い、《ヴェルズ・オピオン》は地を這う龍でありつづける。

 決闘(デュエル)の破壊を。

 決闘(デュエル)への破滅(敗北)を!

 決闘(デュエル)への終焉(勝利)を!

 終わらぬ滅びたるヴェルズをもって、終わらぬ成長と戦いを望む主に仕え。

 異次元の決闘者と異星の精霊は今、デュエル・フィールドを駆ける竜騎兵となった。

 

『――――ッ。』

『え? オッドアイズ……?』

師匠(遊矢)

 どうしたのさ?』

『あ、ああ、いや! なんでもない!

 (カードの気持ちが伝わるとか、言っても変だしなあ。

  柚子とか、権現坂は(わら)わないでくれるけども……。)』

 

 かの《覇王龍ズァーク》の悲嘆とは似て非なる、情熱を乞う飢餓。

 かの“未来王Z-ONE”をして、最も純粋で危険と指した“赤帽子の男”に近しい。

 相手や精霊が傷つく決闘を忌避する榊遊矢(“ズァーク”)とは異なり、自分や精霊が傷つこうとも、共に傷つく過程にこそ意義と浪漫と情熱を求めていた。

 

「……()()()()()()()()()。なら!

 《ヴェルズ・ケルキオン》を通常召喚。

 効果発動、墓地の《ヴェルズ・ウロボロス》を代償に、

 墓地に眠る《ヴェルズ・ケルキオン》を手札にくわえる。

 これにより、場の《ヴェルズ・ケルキオン》は、通常の召喚とは異なる『効果による召喚』を行う効果が発動可能となる。」

 

 心の熱きだと言えば粋な話だが、切望は最期までは叶わなかったと言えば別。

 勝利のために現実を選び、効率だけを尊び、憧憬を捨てる。

 己の原点への諦観をもってして勝利を得る異次元世界の大会環境において、最後の現実への抵抗がサイドデッキへの最愛のカードの投入であれば、新規の強豪カードを愛した良縁恵まれし決闘者がいたとしても、憧憬は過去ゆえに現在が叶えてくれるわけではないのだ。

 夢破れた熱量は、現実を呪うように「変えたい」と望む冷徹と執着に変わっていた。

 

「……続けて、場の《侵略の侵食感染》の効果。

 手札の《ヴェルズ・ケルキオン》を戻し、

 デッキの《ヴェルズ・カイトス》を手札にくわえる。」

 

 夢ある現実を待つ娯楽など、夢である義務を他人に要求して強いるだけの「なにもしない」娯楽など娯楽ではない。()()()()()()()と周囲へ命じるに等しい。

 いっそ、憧憬の同志と共に叶えるべきだ。よって彼もそのようにする。

 同志との集いをもってして、同志との決闘の間だけでも理想を現実にした。

 だが、強さを最善とする部外者にとって、集いは弱者の巣窟でしかなかった。

 どれだけ腕を磨いても、日が暮れても飽きず決闘に明け暮れても、結局は運営公式が新規カードを刷らなければ、決して強さで無関係な部外者を認めさせることなどできない。

 過程を、物語性を積み重ねても、もはや舞台劇も同然。

 劇場の外にある現実では、人間性の感情を楽しませる物語性よりも結果だけが尊重される。

 娯楽を充実させる技術やパフォーマンスの研鑽ではなく、娯楽で合理的に勝利する楽しみばかりが喧伝される。舞台の外を見渡してみれば、原作の台詞など悪ふざけでしか聞かなくなってしまった。

 

「……、あぁ、」

 

 口惜(くちお)しくも。

 「ひとそれぞれの遊び方」なんて言葉で頷く良識人など、現実多くはない。

 本気で大会環境での刹那の栄光へとめがけて心輝く決闘者とて、そう出会えるものではない。勝負事は相手が嫌がることをできてこそ強く、対戦相手への良心やリスペクトのかけらもなければカードへの愛着もない半端な実力者ほど初心者も古参も出会いやすい。

 映像記録に残りがたいカードゲーム界隈ほど、己の悪意や浅はかさへの後悔がないプレイヤーに出会いがちなのだ。原作もゲームも愛する被害者が大会環境から離れ、ゲーム環境を嫌い、いつしかゲームそのものを坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに「くだらない遊び」と唾棄するのも避けられなかった。

 かくしてゆっくりと、カードゲーム界隈は縮小していく。

 

 憧憬は過去へ。研鑽は未来へ。

 されども刹那の輝きにも劣る刹那の快楽は、愛された物語ごと時間を貶める。

 原作を熱く語る憧憬の士はどこにいるのだろう。舞網市に現れる前から彼は、決闘者と呼べた誰かとの記憶だけを頼りに、ただ憧憬と研鑽を続けるだけの亡霊になっていた。

 

「……ここで、場の《ヴェルズ・ケルキオン》の効果を発動。

 『効果による召喚』を行い、《ヴェルズ・カイトス》を召喚する!」

「これで、レベル4のモンスターが2体……!」

 

 かの無念は、敗北を恐れて覇道を求めた四天の竜とは真逆。

 憧れた未来(デュエル)への道を求め、“意義や浪漫ある現在”を求めていた―――

 

「……これで、手札は2枚。いいや、」

 

 浪漫と意義には舞台を問わない。

 通常のデュエルでも、アクションデュエルでも変わらない。

 たとえ、地面の上や枯れ木の枝の間などにおたがいが使えるカードを散らばらせ、デュエル中であれば何度拾って使ってもよい、という通常のデュエルにあらざる要素に勝負が左右されるとしても。

 

「アクション・マジックを拾うことで、3枚。」

 

 ()()()()()()が求められるのであれば、()()()()()()に応じて、己のカードと共に勝つ。

 ましてや、憧憬や研鑽では得られないものが。

 たったひとりの少女からの応援(きずな)が今、ここにあるのだ。

 

 こいつに負けてなど、やれるものかよ。

 

「……手札から通常魔法、《手札抹殺》を発動します。

 お互いのプレイヤーは、すべての手札を捨て、

 捨てた枚数分だけドローできる!」

「ならば、……()()だ!

 俺の墓地に、魔法罠カードが存在しない場合!

 手札の《超重武者装留ファイヤー・アーマー》は発動できる!

 このカードを捨て、このターンの間、戦闘を行う《超重武者ビックベン―K》の守備力を800さげることで、あらゆる破壊を無効とさせる!」

 

 権現坂昇は動いた。

 《手札抹殺》の効果が適用されるよりも前に、相手のカードによって捨てられる前に発動する。

 新しくドローできる枚数は減るが、《超重武者ビックベン―K》を破壊から守れる。発動しなければドロー枚数が1枚増えるが、たった1枚に目をくらませてはいけない。

 

「ボクは2枚捨て、2枚ドロー!」

「俺は、1枚捨て、1枚ッ……ドロォォーッ!」

 

 ドローするカードに《超重武者装留ファイヤー・アーマー》と似た効果のカードを引きこめるか否か。

 引きこめたとしても、結局は1枚のカードを使ってしまう。2枚のドローに運を任せるよりは手札にある1枚で確実に防いだほうがよい、そう権現坂は判断した。

 

「……よし。

 手札から通常マジック、《忍び寄る闇》を発動。

 ボクの墓地から闇属性モンスターを2体除外し、デッキからレベル4の闇属性モンスターを1体、手札にくわえることができる。除外するモンスターは、

 《ヴェルズ・カストル》と、《ヴェルズ・サラマンドラ》。

 手札にくわえるカードは、

 二枚目の《ヴェルズ・カストル》!」

 

 眠れる骸よりヴェルズは(あふ)れ、デッキを侵食してまで新たな死者を呼び起こす。

 異星の精霊界にて伝説に語られる災害が災害たる所以(ゆえん)。死者が生者を殺めて死者を増やし、うごめく死者を眠らせても骸が無念から邪念を生みだし、邪念ひとつで新たな怨霊を作り出す。

 もはや伝染病。腐敗する肉を栄養源に繁殖するウイルスがごときもの。

 

「……ボクは、

 レベル4の《ヴェルズ・ケルキオン》と、

 レベル4の《ヴェルズ・カイトス》でオーバーレイ!」

 

 すべては生への執着、現世への妄執、世界の滅びを求める邪念のため。

 生きながらにして邪念の病に蝕まれる“ケルキオン”は杖を掲げ、新たな命を編みださせる。

 

『相手の守備力は3000。足りないものは攻撃力。

 でも、あのフィールドと今の手札なら「あっち」を出したほうが、

 ……遊鬼の手札にだって《ヴェルズ・カストル》が、』

 

 光津真澄は知っている。

 敵陣がひとりだけならば問答無用で勝てる「ヴェルズ」モンスターを知っている。

 しかし、権現坂昇が心変わりを起こしてアクションカードを拾いに行くかもしれない、そう疑るLDSの塾生としての知識と経験、蛇喰遊鬼とのデュエルの思い出ゆえに、その「ヴェルズ」モンスターの効果を無効にされて無防備を晒す可能性はゼロではないとも気づいている。

 であれば、なるほど必要なものは効果の対象を取らず、あの高い守備力を上から殴り倒せる攻撃力なのであろうとも納得はできている。それでも、どんなモンスターを出すのかがわからない。

 

『いえ、「戦士族」モンスターが、……1体?

 彼が気にしなきゃならない()()()って、……あっ、…………っ!』

 

 なにを想い至ったのか、真澄は目を見開く。

 LDS塾生の中でも、最高の攻撃力を誇るモンスター。

 その名前は「ヴェルズ」ではなく、「セイクリッド」でもなく。

 当然ながら、「Xセイバー」ですらない、もっと別の名前を持つ。

 

「……ボクは、

 レベル4の《ヴェルズ・ケルキオン》と、

 レベル4の《ヴェルズ・カイトス》で、オーバーレイ!」

 

 蛇喰遊鬼が超えたかった攻撃力の持ち主は。

 今ここで座り込んでいる、ひとりの少女の「ジェムナイト」カード。

 

「……現れろ、ランク4!

 比肩(ひけん)なき外套(がいとう)よ、はためけ。

 己の逆風へ(つど)い、さあ、(とき)の声を()げよ!」

 

 蛇喰遊鬼の決闘を観戦し、応援した光津真澄のカード。

 たったひとりの真のエース、《ジェムナイトレディ・ブリリアントダイヤ》。

 ()()()()を超えるため、彼が採用を考えたモンスターの名前は、

 

「エクシーズ召喚!

 これぞ最強(サイキョー)《ズババジェネラル》!

 

 未来都市に住まう希望の決闘者が使いこなしたカードのひとつ。

 斬撃のオノマトペを冠した将軍は今、背に仲間を携えて立ちあがる。

 

「……X(エクシーズ)素材を取り除き、効果を発動!

 1ターンに一度、手札の戦士族モンスターを装備する。

 ボクが装備状態にするモンスターは、《ヴェルズ・カストル》。」

 

 やがて星の戦士の亡霊“カストル”が並び立ち、将軍の剣に異星の力を託す。

 

「……戦士族モンスターが装備状態であるとき、

 自分の効果で装備状態である戦士族モンスターの攻撃力ぶん、

 《ズババジェネラル》の攻撃力はアップする!

 元々の攻撃力2000に《ヴェルズ・カストル》の攻撃力1750をくわえた、

 攻撃力3750だっ!

「馬鹿な!

 俺の“ビックベン―K”を超えた!?」

 

 武装携え立ち向かう僧兵へと睨みを利かす、階級の名に恥じぬ一将軍。

 

「……最後にリバースカード、オープン。」

「むう、最初のターンから伏せていたカードか……!」

「装備魔法、《ジャンク・アタック》! このカードを、

 君の、《超重武者ビックベン―K》に装備する!」

「なんだと?」

 

 将軍に目を奪われた僧兵へと押しつけられた、新たな武装。

 わけもわからず背に増えた重みに意識を奪われかけ、はっ、と目を見開き、敵軍の将へと視線を戻す“ビックベン―K”。LDSで再現された異次元の力と異星の力、ふたつをあわせた大剣をゆるりと持ち上げ、“ズババジェネラル”がにじり寄る。

 

「バトル!

 《ズババジェネラル》で、《超重武者ビックベン―K》を攻撃!

 このターンは戦闘で破壊されないとはいえ、

 攻撃力3750と守備力3000なら、750の戦闘ダメージは通る。

 受け取れ、権現坂昇ッ!」

此方(こちら)のライフは1450、

 700ポイント、俺のライフが残る……!」

 

 些細なダメージ。

 されども剣戟は重く、わずかに“ビックベン―K”が押され地に軌跡を刻んだ。

 

「……バトル続行!

 《ヴェルズ・オピオン》で《超重武者ビックベン―K》を攻撃!」

「なにッ!?

 其方(そちら)の攻撃力は2550。

 此方(こちら)の守備力は(いま)だ3000、一体なにを……!」

 

 “ビックベン―K”の効果により、守備表示で戦闘しても“オピオン”は戦闘破壊できる。

 仮に効果を無効にされていても、守備力が上回るかぎり戦闘では破壊されず、無駄に蛇喰遊鬼がダメージを受けるだけになってしまう。アクションカードによる攻撃力の増強をしないと意味のない攻撃。

 このとき、権現坂昇は理解が追いつかず、デュエルディスクの確認を怠ってしまった。

 

『これで遊鬼のライフは、1250から、ええと、

 ……800か。やっとキリのいい数字になったよ……うん?』

『ん? どうした、真澄。』

 

 不思議そうに同じ塾生を見つめる男子ふたり。

 LDSの威信、恩師への敬意をめぐった勝負でもあった以前までの決闘では知り得ない想いを胸に抱き、感極まった真澄は立ちあがることもできぬまま、少年を見つめ、見守り、

 

『~~~っ!

 やりなさい、おねがい、やって、遊鬼っ!』

 

 叫ぶ。

 光津真澄のためだけに用意されたカードで、光津真澄のために勝とうとする。

 そんな少年へと気持ちを伝えるには言葉ひとつでは足らないが、応援ひとつでなら、と。

 心だけでも蛇喰遊鬼のそばにいようと、恋する少女は言葉足らずに想いを叫ぶ。

 

「この瞬間!

 《ヴェルズ・オピオン》を破壊したことで!

 《超重武者ビックベン―K》に装備された、《ジャンク・アタック》の効果発動!」

 

 応える彼の狙いは、かつて光津真澄を打ち負かしたコンボと似て非なるもの。

 連続攻撃できる《カチコチドラゴン》のようなモンスターで、いちどに複数体のモンスターを戦闘破壊した後のダメージ量を増幅するのではなく、

 

「装備モンスターが戦闘でモンスターを破壊し、墓地に送った時!

 墓地に送られたモンスターの『元々の攻撃力』の半分の効果ダメージを、この装備魔法をコントロールしているプレイヤーから見て相手に、権現坂に与える!」

 

 己の肉を切らせて敵の骨を断つ、自爆特攻で《ジャンク・アタック》の発動条件を強引に満たすというもの。元々の攻撃力が端数により高めで仲間を並べやすい「ヴェルズ」モンスターだからこその賜物だ。

 さらに、X召喚できる「ヴェルズ」モンスターの攻撃力もまた高い。元となったS(シンクロ)モンスターの攻撃力よりも端数分上回り、ランク4のXモンスターの中でも高い数値を誇っているのだ。

 その半分が些細な数値に収まるはずもない。

 

「戦闘で破壊された《ヴェルズ・オピオン》の攻撃力は2550。

 その半分は当然、1275ポイントだ!」

『権現坂のライフは700!

 これが通ったら、……権現坂っ!』

 

 砕かれた血肉から零れ出る邪念。

 宿主の意志を写し取るヴェルズは朽ちる“オピオン”の分身となった。

 

「死者の無念(ヴェルズ)は滅びない。

 肉体を失おうとも、魂ひとつで喰らいつく。

 ……行こう、《ヴェルズ・オピオン》!」

 

 ヴェルズは昂る。

 死せる精霊の声なき声、音なき悲鳴や怒号を取り込み、無念ゆえの執着に従い。

 “オピオン”の意志に染めあげられ、“オピオン”そのものとなり、

 

「権現坂へ!

 《ヴェルズ・オピオン》の魂で!

 ダイレクト・アタック!」

 

 取り込んだ死霊の討たんとした敵軍の将をめがけて、喉元へと飛びかかった。

 

「……見事(みごと)だ。」

 

 権現坂昇は感嘆を零す。

 蛇喰遊鬼の抱く、デュエルへの貪欲な姿勢。

 愛されたモンスターが放つ、主君への忠義あるからこその気迫。

 たった1回の勝利にではなく、愛したカードとの勝利にこだわったからこその戦術。

 これほどまでの情熱をもってして、さらに女の想いに応えようとする漢気。場所がデュエル塾の室内ではなく観衆にめぐまれた環境でさえあれば、このプレッシャーは蛇喰遊鬼を応援する声とあわさり、俺は並々ならぬ精神の苦境に立たされていたかもしれない。

 権現坂昇は敵の強さを認めて、

 

「だが、ただでは負けん!」

 

 己が勝利を掴めぬならまだしも、と、踏みとどまる。

 

「俺の墓地に魔法罠カードが存在せず、バトルフェイズ中に、

 蛇喰遊鬼、おまえが装備魔法の『効果』を発動したことで!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「俺は墓地の、

 《超重武者装留ビッグバン》を発動!」

()?」

 

 そんなの、いつ墓地に送られたっけ。

 思わず聞き慣れた言葉を脳裏に浮かべた蛇喰遊鬼は、数秒ほど呆けてから顔を蒼褪めた。

 そう、聞き慣れたもの。遊戯王のアニメーションを嗜んだ異次元人であれば、なにかと聞き覚えがある典型的な台詞。遊戯王作品における御約束、あるいは、

 

「……あっ!?

 まさか、さっきの《手札抹殺》で……!?」

「蛇喰遊鬼よ。

 あれは確かに無駄のない戦術だ、見事だった。

 だが同時に、対戦相手である俺に塩を送ったのだ……!」

 

 現実のカードゲームでも稀に決闘者同士の間で起きるもの。

 たとえば対戦相手の手札を破壊することで「相手ターンに手札から発動する効果」を持つカードを処理しようとしてみたら、対戦相手にとっての「墓地に送りたかったカード」が送られてしまったというような。

 

「これが俺の秘策だ。

 おまえの発動した『効果』を無効とし、

 フィールド上のすべてのモンスターを破壊する。

 その効果処理のあと、おたがいに効果ダメージを受ける。受けるダメージは、」

 

 

 

 

 

「1000ポイントだ。」

 

 

 

 

 

 蛇喰遊鬼のライフポイントは、800ポイント。

 権現坂昇のライフポイントは、700ポイント。

 

「え、それじゃあ、これって、」

 

 見覚えのあるカード、見覚えのある展開。

 知っているから回避できるかもしれない、と思っていたもの。

 だが、舞網市のカードでの「ドローできる効果」を持つ魔法罠カードの中でも引いてすぐに発動できるカード、さらに損失する手札の枚数が少ないものは《手札抹殺》のような、おたがいに手札を捨てるものが多い。

 知ってはいても、舞網市のカードで勝利を願えば、それは舞網市でのデュエルを前提としたデュエル流派を受け継ぐ権現坂昇に慣れたデュエルの流れを行ってしまう。

 そんな権現坂昇が異次元人に見慣れたカードを仕込ませる瞬間もまた、舞網市民とおなじく特別なカードなど使わない蛇喰遊鬼が《手札抹殺》のたぐいを発動させた時にしかない。

 

 そう、異次元人として物語をわかっていても。

 蛇喰遊鬼が舞網市民であらんとすれば避けられない。

 異次元人が異次元人でありつづけようとできれば、回避できたかもしれない運命。

 

『相討ち?

 引き分け!?

 そんな、……遊鬼っ!』

「…………っ、」

 

 強力なカード。

 対戦相手を圧倒する戦術。

 すなわち、「ジェムナイト」モンスターが好きでデュエルを続けているのに、ジェムナイト使いを辞めなければ決闘者としては勝負に勝てない、元も子もない敗北を光津真澄に強いる強ささえあれば。

 彼が「ヴェルズ」モンスターを捨てて、べつの強いカードをたまたま持っていれば。

 蛇喰遊鬼は異次元人として勝利できていた。

 光津真澄と想いを交わすこともなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 少女にとっては他人ごとでしかなかったはずの勝負へ、意中の少年を慕った願いを抱かれず、応援もされず、逃す勝利を惜しまれることもなく、その気持ちを声色に出されることもない。

 しかし、そうはならなかった。

 かつては決闘馬鹿であり、今や恋愛馬鹿でもある。

 ゆえに蛇喰遊鬼は()()()()()()()()であり。

 だから蛇喰遊鬼は引き分ける。

 

「そうだ、決着はつかん。

 一勝一敗一分け、三本勝負は(これ)にて終わり、

 遊勝塾は負けん!」

 

 そして、たとえ権現坂昇が地に伏せても。

 《超重武者ビックベン―K》は《超重武者装留ファイヤー・アーマー》の効果により、あらゆる破壊を無効にして倒れない。権現坂の魂のカードは残り、デュエルに決着はつかず。

 榊遊矢と柊柚子たる居場所を、遊勝塾を守りつづける。

 

 蛇喰遊鬼と権現坂昇の決着はつかず。

 己の道を守り、得た縁もまた損なわれず。

 デュエル・フィールドには(たお)れずの僧兵と、死してなお変われぬ亡霊(ヴェルズ)のみ。

 

「これが、俺の、」

 

 源義経が忠臣、武蔵坊弁慶の討ち死に。

 それは義経の住まう屋敷を守りつづけ、雨の如き数多の矢で肉を貫かれた末の、

 

「―――(たましい)の、権現坂流“不動のデュエル”、だ……!」

 

 (たお)れずの逝去(せいきょ)であったと()う。

 やがて民草は弁慶を(たた)え、(これ)(ひと)の伝説とし、名をつけた。

 

 《仁王立ち》。

 

 

【Q,恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?】

【A,自分の気持ちを応援であれ態度であれ、素直に言えないなりに素直に伝えようとする努力をすれば、受け取る相手の間のよさ次第で気づいてもらえることもあります。

 決闘者ならば、応援もひとつの好意の表し方でしょう。】

 

【Q,……。】

【A,Don't mind.

 考えすぎ、気にしすぎは心に毒です。

 回復のむずかしい、精神の健康を損なう場合があります。ポテトチップスの塩分の濃さで思考停止を意図的に起こす、市民プール内での運動で普段使わない部位の筋肉を苛め抜くなどの年相応のストレス解消法を推奨します。】

 


今日の最強カード

《仁王立ち》

 権現坂昇の《超重武者ビックベン―K》が描かれた通常罠。

 フィールドの効果対象モンスターの守備力を倍にでき、エンドフェイズに守備力をゼロにする①の効果と、墓地から除外することで発動ターンのバトルフェイズ中での攻撃対象を効果対象とした自分モンスターへと限定する②の効果を持つ。

 墓地で発動する②の効果により、墓地の魔法罠をゼロにできるため【超重武者】デッキでも難なく採用できるだけでなく、相手の直接攻撃を防げる。

 また①の効果もわざと発動させることで、次のターンでの相手のモンスターの守備力をゼロにできるため、戦闘面では攻防一体の効果とも言える。

 かつては《PSYフレームロード・Ω》の効果と組み合わせて、相手に一切の戦闘を許さない無限ループのコンボが成立していたが、肝心の当カードを墓地に送らないとコンボは成立しないことから《おろかな副葬》の制限化と共に見受けられなくなった。

 

 効果内容はおそらく、

「武蔵坊弁慶が数多の矢を受けても倒れず、そのまま亡くなった」

 という同名の伝説に由来する。

 ①の効果で守備力を高めれば主君を守る盾として、②の効果を使えば倒された途端にバトルフェイズでの戦闘を妨げる守護霊として、効果対象モンスターは文字通りの《仁王立ち》で主君を守る。

 

 

 夏草や、(つわもの)どもが、夢の跡。

 

 


次回予告

全身全霊をかけた、権現坂と蛇喰の激しいデュエル!

勝負が引き分けになった今、遊勝塾は何も奪われずに済む。

みんなで勝てなかったのは残念だけど、

本当にありがとう、権現坂!

 

……え、ちょっと?

ねえ、あのふたり、なにやっているのっ!?

 

次回

恋なるもの

お楽しみは、これからだ!

……って、恋!?

*1
アニメ遊戯王シリーズでの「戦闘や効果による影響を受けない」効果類への言語表現。

*2
表現の例:「戦闘では破壊されない」または「戦闘破壊をされた後に墓地から特殊召喚される」という効果の場合、「戦闘による破壊を無効にする!」

*3
相手モンスターの攻撃を無効とするアクション・マジックカード。




 副題は漫画「最強デュエリスト遊矢!」から。

 https://x.com/8vulture8/status/1660216889950498816?s=20
 ↑今年2023年の10月29日の【強欲で謙虚なイベント】より、vulture氏の合同誌「鉄獣×旅合同」にて作品を寄稿いたしました。よろしければ一冊どうぞ。
 鉄獣戦線のグッズもあるらしいよ。

 一般枠のチケット必須なので、チケット購入と10月の予定変更はお早めに。
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