Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?   作:ウェットルver.2

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決闘馬鹿が啼く頃に(旧5話)

 そして、現在。

 《ヴェルズ・オピオン》の猛威を受け、『レベルの高いモンスターを召喚すればよいというわけではない』、という認識がLDSに広がり続けること二年。

 “オピオン”の影響を受けないレベル4以下のモンスターを駆使するエクシーズ召喚コースこそ「当たり」のコースである、などという風潮が一時生まれたものの、そのエクシーズ召喚コースでは「ヴェルズ」使いの蛇喰遊鬼、「セイクリッド」使いの志島北斗による主席……実際には只の勝率の奪いあいが繰り広げられており、現実は真逆。

 双方の席へ他の何者も座れず、成りあがるうえでは「一番の外れ」だと気がつくのは、エクシーズ召喚コースに所属した、もしくはしてしまった当事者のみである。「ヴェルズ」使いの鬼才だと思われがちな遊鬼と、その彼と真正面から勝負ができる北斗を相手に、割って入ってトップを狙うことが夢物語になってしまい、結果的にモチベーションを失った塾生が現れるようになってしまったのだ。

 転じて総合コース、融合召喚コース、シンクロ召喚コースでは、《ヴェルズ・オピオン》という具体的な天敵(※身内)だけではなく、《虚無魔人》のような特殊召喚封じを持つカードへの対抗論もまた講義内容に含まれるようになり、むしろ他校とのデュエルを含めた勝率、個々の技量だけで言えば、エクシーズ召喚コース以外に所属した塾生がとんとん拍子で成績を残すようになっていた。

 

 とはいえ、他校のデュエル塾との対抗戦においては、《虚無魔人》*1のような特殊召喚封じを積極的に使う決闘者が多いわけではなく。

 実践で使える技術論として実感している生徒は、蛇喰遊鬼の悪名を知る当時のジュニアユース、ジュニアの生徒のみ。であれば、二年前から新しく入塾した小学生、中学生にはなぜ特殊召喚封じ対策が必須なのかを理解できているわけではなく。

 LDSの塾生ではない学校のクラスメイトたちに勝てればそれでよい―――そのような認識で終わってしまう者が多かった。挫折から、LDS内部での己の成長を諦めたのだ。

 特にシンクロ召喚コースの塾生は、シンクロ素材に使用するモンスターとの連携で特殊召喚封じを突破できる者がそう多くはなかった。

 

 だからこそ。

 シンクロ召喚コース・ジュニアユースに所属する少年「刀堂刃」が最優秀のシンクロ使いの塾生となるのは、原作でどのような立場にあったから、という運命論ではなく、彼の人物像からして必然であったと言えよう。

 

 ほんらいの彼の戦術は短期決戦を目論むものだ。

 そうであった。いかなる勝負においても、遅延行為や妨害行為など意に介さないほどの行動速度と攻撃力、特に花拳繍腿(かけんしゅうたい)には留まらない戦闘面でのリーチや迎撃手段の多さ……ある漫画での表現に近寄るが、拳や腕、足や脚などを届かせ、または取られぬように意識するべき肉体の制空権を奪いあう「制圧」が求められる。

 

 これはカードゲーム、ボードゲームにも言えることで、総合格闘技において最強とはなんたるかを語られれば「関節技がかけられる格闘技である」と語られる時があるように、「いかにして相手の動きを奪えるか?」が重要となる。

 同様に、殺傷性の高い武器を持つ人間とは、接近戦における殴打や関節技を凶器で牽制できるから強いのだ。武器が強いからではなく、武器を携えた瞬間から、すでにカードゲームで言うところの制圧、遊戯王で言う「手札誘発を構えた状態」が始まっている。

 

 ゆえに、カードゲームと武術には通ずるものがある。

 刀堂刃が竹刀を持ち、敵の手札を破壊するモンスターを主力とするのも、竹刀でアクションカードを叩いてメンコのようにめくりあげ、そのまま拾おうとするのも。

 

 舞網市においてのアクションデュエルという決闘形式に武術の理を持ち込んだ、動揺せぬ精神性を重んじる権現坂流“不動のデュエル”とは別流派と言っても過言ではない、立派な武術的カードゲーム戦略論のひとつなのだ。

 

 その彼が瞬発力と制圧速度を取らず、ただカードを伏せるだけ。

 《ヴェルズ・オピオン》の脅威にさらされ、シンクロ召喚ができず、手札破壊もできずにターンを渡すしかなくなったから? ……ちがう、そうではない。

 

 そんな男ではないことを、蛇喰遊鬼は知っている。

 

「……なるほど、()()()()()、のか。」

「――――っ!?」

 

 自分の戦略の弱点。

 各種妨害効果すべてを掻い潜る戦略が、まさに()だ。

 刀堂刃の選ぶ方法なのだ。かつて遊鬼が暴れまわったデュエルフィールドで、かつて打ち倒した少年が選ぶ、遊鬼に打ち克つための対抗策なのである。

 

 刃のフィールドには、セットされたモンスターが1体。

 魔法罠も複数枚セットされた、彼の目論見を読ませない布陣である。

 

 こちらの制圧に穴を空ける。そのための戦術が実用可能になるまで時間を稼ぎ、限界ギリギリまで攻撃を耐え、連撃を凌ぎ、一瞬の隙を逃さず逆転し、逆境を切り拓かん。

 そう胸に刻み、眼前の脅威へと挑む。まさしく決闘者の魂のありかたである。

 潔い。心地よい。好ましい。遊鬼は噛み応えを確かめるようにうなずく。

 

 そして、なによりも、

 

「……楽しく、なってきた。」

「……っ、おいおい、もう気づきやがったのかっ……!」

 

 そんなに、いじらしく。

 とても懐かしく、正しく、自分と同じような永続的な制圧を戦略に選んだ決闘者に対する最適解を叩きつけてきた、強敵になりつつある友人に対して、

 

「……『Ⅹ-セイバー』の特徴は、閲覧済み。

 …………伏せカードは《激流葬》? なんでもいい。

 ………………モンスターがどれかも、だいたいわかる、けど……!」

 

 ああ、どうしよう、と。

 真澄や北斗に感じるものを、刃にも感じてしまいそうで、

 

「……外れちゃったら、どうしよう?!

 …………どっちでもいいや、『楽しくなってきた』……!」

「この、デュエル馬鹿が!

 こんな序盤から熱くなりやがってっ!」

 

 脳内麻薬が、花からあふれる蜜のような甘露が彼の脳を満たす。

 心の震えが歓喜だと気づいて、やはり感じきってしまうのである。

 

「………見せてよ、君の強さを。

 ……オピオンの支配に負けない、君の強さを。

 そのうえで、君に勝つ……! めちゃくちゃに!!!」

「やっぱ気持ち悪いな、おまえ!?」

 

 ああ、たまらない。遊鬼は歓喜の吐息を零す。

 真澄の時が一番楽しいけれど、真澄の域に彼まで至るなんて。

 好敵手が使うカードなんて、興味さえあれば何度でも調べるし、自分の知識にある《ヴェルズ・オピオン》の突破手段を思い返して、そもそもの戦略から好敵手(ライバル)がデッキを再構築してくる可能性なんて何度でも思いつく。

 ただ、真澄のそれは想定外だった。彼のこれは想定内だ。

 だから、知らないものを楽しむのとは違う。

 知っているからこそ。

 彼の内面性が滲み出る“差異”、想定外(サプライズ)が楽しみでしょうがない。

 

 ガンギマリの瞳孔のままで迫る遊鬼を見て、刃は一言。

 

「そういう()()はっ!

 真澄だけに向けやがれっ!」

 

 

 

 

 観戦席。

 

「うわぁ。」

 

 志島北斗は額に手を当て、口を歪ませて一歩さがる。

 ―――ことはできず、椅子に座ったまま身(じろ)ぎをする。

 

 またかよ。彼の悪い癖が、またも表に出てきた。

 

「相変わらず、わけのわからない趣味を……」

 

 想定外を楽しむ趣味。

 相手が想定内の戦術を取ってきたことを「己が上回った証」であると認識する自分にとって、まさしく彼の趣味は想定外で共感できる性癖ではない。

 己の認めた好敵手の使用カードを調べあげ、己への対処法がどれであるのかを研究し、即座に己のデッキに対処法への対処法を仕込むさまは熱狂的だ。

 真澄の前でも自重しない彼の性癖は、転じて真澄への恋慕にも繋がっている。

 彼女がわかりやすいほどの攻撃力重視であるのに対して、彼は奇策を含む戦術を好むせいもあって、実は、互いに互いの成長がまったく予想できない関係にある。

 

 自分は「彼らはそういうものだ」と把握する程度に留めているが、彼はそこで留まらず、より相手を深く知ろうとするせいで、己の脅威を秘めた相手には惚れっぽい。

 

 このうえで想定を越えられると。

 今、刀堂刃にむける態度では済まないことになる。

 あれはまだ、(想定内だから)多少の想定外を楽しんでいる段階なのだ。

 

 まあ、元から自分のように強いと。

 なかなか今ほどの情熱的な態度はならないが。

 想定内に強いと、かえって冷めてしまうのだろう。

 強者であれば惚れるわけではないとは、なんとも偏屈な。

 

「見慣れた姿とはいえ、あれに潰れた子は多いよねぇ。

 強くなるたびに『想定内だから頑張れ』『もっと楽しませろ』とかされたら、そんなの頑張った先から心を折られるだろうし。認められても、ねぇ?

 刃はそうならない気がするけど、真澄はどう思、う…………?」

 

 振り返り、息をのむ。

 感情に温度があるとするならば、彼女の表情は氷点下といった感じだ。

 

 嫉妬? ではないはずだ。

 彼が想定外へ恍惚とするのは、真澄だって知っているはずだ。身をもって。

 己を凌ぎうる好敵手に対して、情熱的な狂気を注ぐのも見慣れたはずだ。

 なのに、どうして、そんな表情になるのか。

 

「………あいつも?」

「はい?」

「だいじょうぶ、遊鬼は強い、から。

 そう簡単に刃には負けないはずなのよ、だから、だいじょうぶ……」

「真澄?」

 

 じわり、と、真澄の肌にダイヤモンドのような、ワンカラットほどもない汗が伝う。

 感情が戻ってきたのか、焦りや恐れのような眉の動きがみられる。

 

「先に私が勝たなきゃ、まさか、あいつに、」

「いや、そんなことにはならないと思うけど……?」

 

 なるほど、先を越されるのが怖いのか。

 ………いや、彼、同性愛者じゃないし、どっちの意味でもそうはならないだろ。

 

「なんで、あんたにそれがわかるのよ!?」

掴みかかるな顔近寄らないでほら遊鬼が凄い目で僕ら見たッ!

 確かに彼は想定外が大好きだけど!

 あれはまだ『想定内』なんだよ、わかるかい!?」

 

 決闘者として。

 彼の性癖は想定外から、「より想定外なことをされる」のが一番好ましいのだ。

 それを何度もやらかして食い下がる真澄を決闘者として惚れなくなるというか、飽きるなんて真似はしないと思うのだが、真澄はどうも目が曇っているらしい。

 

 あの決闘馬鹿が。

 平時では思慮から間をおいて喋る悪癖を持つ、寡黙になりがちな少年が。

 どれだけ性癖のせいで発狂しても、冷静であろうと努め続けて我慢する、普段は女の子相手でも最後は我慢できなくなるくせに「真澄だけに」恥を覚えて思慮を捨てず、真澄とのデュエルに熱中するなんて、完全に惚れこんでいる証じゃないのか?

 

「はあ?

 そんなわけないでしょ、あんな動きをする刃なんて初めて見たわよ?」

「あ、ほら、やっぱり想定内だよ、これ!

 《激流葬》にチェーンして《侵略の汎発感染》を使ってオピオンを守った!

 これで刃はシンクロ召喚ができなっ……《サンダー・ブレイク》をチェーンして《侵略の汎発感染》の効果が適用される前に破壊!?

 …………を、アクションマジック《回避》で回避!? ……する前に、今度は《ヴェルズ・サンダーバード》の効果を発動しておくのか、なるほど、巧いな。

 ……に対して、《神の宣告》で回避を無効だって!? なんだこれ!?」

 

 取っ組み合っている間にターンが進んでいたのか、おたがいに魔法罠カードを多く伏せている状態で遊鬼のターンになったらしい。

 さっきからカード効果による鍔迫り合いが終わらない。

 

「……はっ、そうかっ!

 今の《激流葬》でフィールドが空になったから、《ヴェルズ・マンドラゴ》が手札から特殊召喚できず、遊鬼が召喚権を増やせたとしても二体目の《ヴェルズ・オピオン》だけは出させないってことかい!?

 リバースカードをセットして? ……ふむ?

 遊鬼がなにもできずターンエンドか、これは面白くなってきたぞ……!」

「…………そうね、杞憂だったわ」

 

 落ち着いたのか、真澄が席に座り直し、足を組む。

 

「あ、落ち着いたの?」

「ええ。刃のあれは想定内だもの、私にだってわかる。

 ターンを進めて迎撃手段を増やし、着実にオピオンを突破する。

 その結果が伏せカードを三枚も使い、ライフを半分も犠牲にして、」

 

 彼女は胸に手を当てて、呼吸を整える。

 

「その程度なら、まだか。

 そうよね、そうよね……早く間に合わせないと」

 

 呟くと、彼女はデッキ調整を始めた。

 彼らの決闘を観戦しないのか、そう思ってふと視線を戻すと、大量のモンスターを呼びだした刃が突如呼びだされたイタチの自爆に巻き込まれて吹き飛ばされていた。

 

「え、なにあれ?」

「《イタチの大爆発》ね。

 自分のライフポイントが相手モンスターの攻撃力の合計以下の時、相手プレイヤーは相手モンスターの攻撃力の合計が自分のライフポイント以下になるまで、召喚したモンスターをデッキに戻さなければならない。刃のやつ、自分のモンスターで攻撃する順番を攻撃力3100の《XX-セイバー ガトムズ》から始めたから、攻撃力900より上の……、

 ……つまり、自分のモンスター全部をデッキに戻されたのよ。」

「うわ。そんな切り札もあったの、彼?」

 

 そんなものを仕込まれたら、ワンターンキルが自殺行為(オウンゴール)にしかならないじゃないか。

 

「あれ、カードがプレイヤーに効果の処理をさせるから、罠カードの効果を受けないカードの効果では無力化できない厄介なカード……らしいわ。

 おかげで迂闊に《ジェムナイトレディ・ラピスラズリ》の効果が使えないのよ。やるなら《ジェムナイト・アメジス》で伏せを全部剥がしてから、だから、そうね、このカードはどうしたものかしら…………」

 

 だんだん声を細めて、デッキ構築に集中する真澄。

 さきほどまでの焦燥感が嘘のよう。決闘馬鹿の熱狂を一心に受け止めようと、決闘者として勝利を掴みたいと、そして負い目なく語らんとする彼女の瞳は鋭い。

 

 なるほど、そういうことか。

 

「まったく、そのくらいの正直で彼に言えばいいだろうに」

「は?」

「あっ、ごめん、そうか雰囲気大事だよね雰囲気、ウン」

 

 そこまで真剣で御熱なら、刃の成長に思わず動揺するのもわかる。

 恋のライバルが登場します、しかも相手は異性です、とか、そんなの現実にあってほしくないだろうからね。

 

 

 

 

 

【Q,決闘馬鹿でも恋はできますか?】

【A,デュエルの趣味嗜好が原因で関心を得て、最終的に恋をする場合もあります。同じ趣味嗜好である場合もあれば真逆の趣味嗜好である場合もあり、未知の戦術を使い想定を上回る対戦相手であった場合もあります。単純な勝ち星の多さや敗北者から恋愛が始まるとは限りません。】

 

【Q,最近、女友達の視線がムカつくんだけどよ、オレなにかやっちまったか?】

【A,直接的な害を与えず、相手の趣味嗜好や尊厳を「事実だから」などという口実で侮辱していない場合、だいたいは相手側の感性や解釈による貴方への印象が原因です。悪印象を払拭するには直接的な対話で自分を知ってもらう必要はあるでしょうが、悪印象を払拭することを優先とした対話では貴方自身を見てもらえるとは限りません。なるべく相手の知人、友人であり続けましょう。関係性の改善はそこからです。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Q,……友達が好きな子と、距離、近いんだけど。】

【A,そこで余計に話題に出して問い質すと、ただの面倒な男になりますので、次に同じことがあった場合にさも初めて見たかのように距離を近づけた側へ「なぜそうしたのか」を質問しましょう。そこから先は相手の自由意思を尊重しましょう。私を巻き込まないでください。

 

 

 


今日の最強カード

・《XX-セイバー エマーズブレイド》&《XX-セイバー ガルセム》

 条件を満たせば、任意の「Ⅹ-セイバー」モンスターを呼びだせるモンスター。

 戦線維持や《激流葬》とのコンボなど、連続特殊召喚に特化したシンクロ召喚デッキとは一味ちがう立ち回りが可能となる。

 

 

 本文中には出さなかったものの、「Ⅹ-セイバー」使いが《ヴェルズ・オピオン》や《虚無魔人》および《虚無空間》を突破するならば、コンボ前提ながらも充分に視野に入るカード。

 《ブラックホール》で《XX-セイバー ガルセム》を巻き込みながら任意の「Ⅹ-セイバー」を手札にくわえることも可能なので、ソリティアによる先攻制圧を念頭に置かないデッキ構築として、本作の刀堂刃が採用した。

*1
特殊召喚すべてを封じる悪魔族・闇属性・レベル6のモンスター。《虚無魔人》自身を特殊召喚できないため、召喚は困難。




 タイトルはノベルゲーム「ひぐらしのなく頃に」から。

 無理やり刃を出したので、話運びに無理が出ています。没です。
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