Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか? 作:ウェットルver.2
そんな因縁など、
ではあった、のだが。
この男、そんな数日先の未来よりも!
今の光津真澄に!
「……
ってか
折れていた。
なに?
などと突っ込まれそうなほどのヘタレ加減ではあるが、原作の決闘者にも人生がある。
ほかにも数多くの名だたる決闘者たちにも、決闘者である以前に一個人の人生がある。
そのため、黒咲は動揺していた。
大切な親友がゴーグルを売り払ってでも、自分のためにくれた路銀で食べるバーガーには、言葉で言い表せない特別な味と感慨がある。
親友が時に自分の妹『黒咲瑠璃』について、しょぼくれた顔になって語る姿がどんなものだったのか、瑠璃の兄としてもよく覚えている。
気落ちした、丸い後ろ姿。
理由はわからないが、瑠璃とひと悶着あった時の姿。
それによく似ていた。
彼の親友……ユートを思わせるLDSの塾生によって今、黒咲隼は懐かしい味も感じた。
黒咲は隣の席を選び、水が入ったコップとバーガーを机のうえにおいて、席に座る。
「LDSについて知りたい。
言っておくが、入塾希望者ではない」
「……でしょうね。あなたの目は、狙った獲物を探す目だ」
「ほう、それがわかるなら話は早い。
俺は赤馬零児を探している。ヤツを捕まえれば、俺たちの戦いに区切りはつく」
「……大企業の社長を? 彼はなにを?」
「なにも。だが、やつの父親には用がある」
「……それ、息子さんが1人前だからこそ、息子さんは見捨てられるんじゃあ?」
「親が子を裏切ると言うのか?」
「親が子を信じる、とも言いますよ。」
「……そういうものか。」
残念ながら。
少年、黒咲隼は
そのため、自分ならば家族である瑠璃を人質を取られれば怒りに囚われるであろうと考えはしても、黒咲は相手がおなじような感情に囚われる、という前提で自分の思いつきを信じてしまう。
だからこそ、「そういうものか」としか思えない。
ああ、家族の気持ちを裏切る人間もいるのか、と。
ならば、
「貴様は、そいつを信じるのか?」
「……いえ、まったく。」
「赤馬零児のことではない。
LDSの塾生である貴様の仲間の話だ。」
こいつはどうなのだ?
悩むほどの誰かがいるのか。そいつを裏切るような人間なのか。
「……放ってはおけないです。」
「そうか」
聞いた覚えがある気がする言葉に、眉根を深める黒咲。
「平和だな」
「……そうですね。
しょうもない話を悩めるくらいに。」
「気は晴れたか」
「はい。」
かつての自分たちのようだ、と。
しょうもないことで悩み、しょうもないことに時間を費やし、けっきょくは仲間に支えられて前に進む。形はどうあれ、敵だ、……いや敵
そんなことをしている場合ではない。
「俺とデュエルしろ。
貴様もLDSならば、デュエリストとしての戦う意志くらいは持っているはずだ」
「……余計な挑発はいりませんよ、店を出ましょう。
できれば目立たない場所、……路地裏とかどうです?」
「元より、そのつもりで来た」
かたや、気分転換で。
かたや、持ち前の面倒見でなんとなく。
それぞれの腹の中で思い、考えることこそ
日の当たる明るい商店街から、薄暗い路地裏へと舞台を移す。
「デュエル!」
二人の声が響き渡ろうとも、だれも気付くことはない。
「俺のターン。
俺は手札から、《
黒咲隼のカードから解き放たれるモンスターは、己の肉体と機械を一体化させた猛禽類のモンスター。排気口らしきノズルから煙を吹き出し、灰色の翼を形成して舞い降りる。
「《
手札から同名のカード、《
二体目のバニシング・レイニアスを特殊召喚。二体目の効果も発動。三体目のバニシング・レイニアスを特殊召喚。」
仲間を呼び、群れを成す。
編隊を組み、敵を睨む。
たったそれだけの行為から殺気を浴び、ようやくスタンダード次元の人間は通常のデュエルではありえない対戦相手、『敵』なのだと無意識に悟るのだが、
「カードを二枚伏せ、ターンエンド。
さあ、貴様のターンだ。」
「……ボクのターン。ドロー。」
さて、では。
殺気を直に浴びていた決闘馬鹿はどうなったのか。
「……ボクは手札から《予想GUY》を発動。
デッキのレベル4以下の通常モンスター、《ヴェルズ・ヘリオロープ》を特殊召喚する。続けて、あなたのフィールドのほうがモンスターが多いため、手札から、
《ヴェルズ・マンドラゴ》を特殊召喚。」
どうにも態度は変わらなかった。
地面から、にょっき! と、跳ねあがるように生えてきたマンドラゴ。とことこ、と、音を鳴らして召喚者に近づき、それは両腕を広げた。
抱きしめる、それが無理である―――アクション・デュエル用の設定ではないので、リアル・ソリッドビジョンが機能していない―――ことを思い出すまで、数秒。
すかっ、と空振りした腕。
生ける召喚者のぬくもりを感じない体。
丸い目をより大きく広げて、なにもない腕を見つめた。
それを見た遊鬼は薄く微笑みながら、「どんまい」と言うかのようにマンドラゴの肩に手を置くような仕草をした。納得できないと、ぶすっと頬を膨らませたマンドラゴはモンスターゾーン(に相当する召喚された位置)へと戻る。
「……まだ通常召喚の権利が残っている。
よって、手札から《ヴェルズ・カストル》を通常召喚し、効果を適用。
召喚に成功したターン、通常召喚にくわえ、一度だけ『ヴェルズ』モンスターを召喚する権利を得る。けど、」
蛇喰遊鬼が見つめる先には、1枚のリバースカード。
「……バトルフェイズ。
みんなで《RRーバニシング・レイニアス》たちへ攻撃する。」
純粋な攻撃力なら、自分のしもべが勝る。
ならばと基礎に立ち返り、モンスターたちへの突撃命令を出す。
近づく3体の影。デュエルを楽しむ者の笑顔。
相手を遊びで狩る、3人の影。
「くだらん。
トラップ発動!」
つまらないものを思い出した。
黒咲は脳裏に浮かぶ幻影を振り切り、デュエルディスクに触れる。
「《威嚇する咆哮》を発動した。
これを発動したターン、おまえはモンスターへの攻撃宣言を行えない。」
「……
《威嚇する咆哮》。
発動タイミングを自由に選べるカード。
似た効果を持つ《和睦の使者》と異なり、バトルフェイズに戦闘を発生させないことで効果の発動や適用をも封じうる《威嚇する咆哮》は、彼が敵とする者たちのカードに対して、戦闘の
そしてそれは、蛇喰遊鬼にとっては、かつて故郷で猛威を振るった歴戦のカード、「剣闘獣」カードに対する最適解のひとつである。
「……場のカストル、マンドラゴ。
二体のモンスターでオーバーレイ。
《キングレムリン》。」
それに対する答えは、バトルフェイズの放棄。
黒咲本人からの殺気に気圧されて涙目になったマンドラゴが、カストルにおぶられて銀河の渦へと消えていく。銀河の爆発と共に生まれたモンスターもまた、あまりに古くて歴史の長いカードゆえに、存在を忘れられがちなカードであった。
「……《キングレムリン》の効果。
《ヴェルズ・アザトホース》を手札に。
ここで《ヴェルズ・カストル》の効果で得た追加召喚の権利を行使し、『ヴェルズ』モンスターである《ヴェルズ・アザトホース》を表側表示で召喚する。
この方法ではセット行為を禁じられているため、この子のリバース効果は使用できないけど……これで、」
「レベル4のモンスターが、さらに2体か」
「……そのとおり。
アザトホース、ヘリオロープでオーバーレイ。
行こう、ランク4。」
多種族で構成された闇属性デッキ。
【ヴェルズ】デッキの強みを活かせるカードの1枚である《キングレムリン》を補佐として、連続のX召喚。黒咲の故郷ではめずらしくもないコンボだが、だからこそスタンダード次元の人間の中では異質だ。
そこまでの領域に、たったひとりでたどり着いた(ように見える)のだから。
黒咲は認識を改め、敵の強さを見定める。
「……
攻撃力では物足りない。
モンスターの頭数では足りない。
相手ターンの動きを
「……リバースカードを2枚セット。
ボクはこれでターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
身構える。
なるほど一筋縄ではいかない。そう納得した黒咲は、次なる一手へと知略をめぐらせ、ひとつの結論を出す。
「俺は2体の《
現れろ、ランク4! 《
蛇喰遊鬼とおなじ選択。
銀河の渦から舞い降りた天空の賢者、フォース・ストリクス。
「フォース・ストリクスの効果発動!
1ターンに一度、X素材をひとつ取り除き、デッキから『
俺は《
俺の場に《
それはX素材である光の
「さらに俺は、
レベル4のバニシング・レイニアスとファジー・レイニアスの2体でオーバーレイ!
再び現れろ、フォース・ストリクス!
再び、俺は2体目のフォース・ストリクスの効果を―――」
そう、
増援を何度も呼ばれては困る。
「……そこだ!
《ヴェルズ・ナイトメア》の効果発動!」
「なに?」
だからこその《ヴェルズ・ナイトメア》。
円卓を構えた
「X素材をひとつ取り除き、特殊召喚されたモンスターを裏側守備表示にする。
ボクは2体目の《
眠りについた賢者に、知恵を働かせる時間はない。
主君より求められた務めを果たした騎士は、剣についた雫を払った。
「「……。俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「……よし。
硬直。
圧倒的な軍勢の差でもなければ、圧倒的な暴力でもない。
相手の手の内を探りながら、相手の出方を注視し、一気呵成に叩き込むための下準備を進めていく。おたがいの殺気を積み重ね、時に殺気さえも
そのための増援を呼ぶカード。そのための妨害を行うカード。
「……《キングレムリン》の効果発動。
最後のX素材を使い、デッキから爬虫類族モンスター《カゲトカゲ》を手札にくわえる。続けてリバースカード、オープン。
マジックカード、《化石調査》。
デッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを1体、手札にくわえる。この効果でボクは《ヴェルズ・サラマンドラ》を選択。」
「……。」
手札調整。ブラフ。
1枚のカードに
「《ヴェルズ・サラマンドラ》を通常召喚。
効果を発動。ボクの墓地の仲間の魂を捧げ、300ポイント攻撃力をアップする。
この効果は1ターンに二度発動でき、発動ターンのエンドフェイズまで持続する。
よって、墓地の《ヴェルズ・カストル》と《ヴェルズ・ヘリオロープ》を除外し、その攻撃力を2450へと上昇させる。」
「なに?」
たかが下級モンスターで、それほどの攻撃力を出せるものなのか。
小さく驚き、気づく。相手は《カゲトカゲ》の効果を発動していない。
あれはX召喚のうえでは、簡単にランク4をX召喚するための素材として有用なカードだったはず。わざわざそれを使わず、X召喚よりも、この《ヴェルズ・サラマンドラ》の通常召喚を優先したのか、と。黒咲は目を細めた。
「……バトルフェイズ。
《キングレムリン》で、表側の《
本来、フォース・ストリクスには第二の効果がある。
それは自分フィールドの「RR」モンスターの数に呼応して、その攻撃力と守備力を上昇させるというもの。しかし今は仲間が《ヴェルズ・ナイトメア》により眠らされており、それぞれが元々の守備力をさらしてしまっている。
グレムリンにたやすく羽根を散らされて消えるフォース・ストリクス。
さて、実は先ほどのターン、蛇喰遊鬼が呼び出されるフォース・ストリクス1体ずつを毎回裏側守備表示にさせたところで、ターンが進めば進むほどに黒咲隼が逆転のカードを引き当てる可能性は高まっていく「劣勢」にあることに変わりはなかった。1ターンごとに1体ずつフォース・ストリクスを黒咲隼が出せば、蛇喰遊鬼は対処に追われて1ターンごとのドローを許してしまうのである。
1ターンに一撃必殺、いや二撃必殺でフォース・ストリクスを可能な限り倒せなければ、どんな逆転のカードを黒咲隼がドローしてしまうか、わかったものではなかった。
この勝負においては、「可能であること」が必ずしも「確実に勝てること」を意味していなかった。
それほどまでの強さが黒咲隼にあるのだと、蛇喰遊鬼は信じた。
「……《ヴェルズ・サラマンドラ》で、裏側守備表示のフォース・ストリクスに攻撃。」
「そのバトルで破壊されたことにより、X素材となっていた《RRファジー・レイニアス》の効果で、俺は《RRファジー・レイニアス》を手札にくわえる……だが、」
当然、仲間の死を黙って見ているほど、黒咲隼は愚かではない。
「この瞬間!
俺は速攻魔法、《
「……っ!」
「戦闘で破壊されたXモンスターを素材とし、ランクがひとつ上のXモンスターをX召喚する。俺はランク4の、《
ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」
鉄の意志。
仲間を奪われても取り戻す、鋼の強さ。
「《
蛇喰遊鬼に知り得ないカード。はるか未来に「黒咲隼のカード」として製作される故郷のカードは、舞網市の住民となった異次元人にとって、時間を超越した「黒咲隼本人」による
このデュエル、彼の瞳からは―――感じられるはずの
であれば、《
今の彼ならば、こちらを選ぶのだ、と。
「……くっ。リバースカードを1枚伏せる。
ターンエンド……!」
「俺のターン、ドロー!」
つまり、ここからは。
蛇喰遊鬼の知らない、人間「黒咲隼」の生き様なのだ。
「俺はブレイズ・ストリクスの効果を発動。
X素材をひとつ取り除き、俺のデッキから『
俺が選ぶカードは《
鉄の意志、鋼の強さと例えるように。
己の激情という炎で己の鋼鉄たる理性を溶かし尽くすほどの、自分を見失うほどの敵意に操られてしまえば、無差別に目についたカードを破壊するだけの戦術をよしと考えてしまう。
「このカードはXモンスターをランクが2つ上のXモンスターへとランクアップさせる。
俺は、ランク5の《
ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」
そのような、宿敵への激情よりも勝るもの。
これほどまでに怨敵へと義憤を抱く、原初の想いを解き放て。
「現れろ、ランク7!
《
瑠璃。ユート。
妹や親友を含めた、彼にとっての仲間との絆。
彼にとっての、ハートランドという故郷たるX次元世界。
すべてを収める、
「バトルだッ!
俺は《
「……リバースカード、オープン!
速攻のマジックカード、《禁じられた聖杯》!」
決闘者を象徴するカード。
それはなにも、わかりやすいアタッカーや強力なカードだけではない。そのカードの効果を知っているがゆえに、なるほど彼らしい選択だと蛇喰遊鬼は納得がいった。彼ならば、この瞬間は「そうするはず」だったのだ、と。
ブレイズ・ストリクスなるカードに対して使い、たかがランクアップをする手段のひとつを封じる程度の反撃では《禁じられた聖杯》の強みを活かせても、黒咲隼の狙いまでは見抜けない。
見抜くためならば、このカードは温存しておいて正解だったのだ!
「このカードは、
モンスター1体に聖杯の奇跡を与え、その攻撃力を400ポイント上昇させる。
ただし、モンスターの効果は無効となり、この魔法効果はターン終了時に消失する。
ボクが与えるモンスターは、
攻撃力2300の《キングレムリン》!」
「なんだと!?
馬鹿な、そんな効果ならば、なぜブレイズ・ストリクスの効果を無効にしない!」
「……なにをきみが狙ったのかは知らない。
知らないからこそ、
カウンターだ、《キングレムリン》!」
めぎり、と重苦しい音を鳴らし、アーセナル・ファルコンの頬が陥没した。
熱い拳に魂を委ね、天空の熱き賢者をも撃ち抜く
機械で改造された肉体をもってしても、
「ならば、アーセナル・ファルコンの効果を発動。X素材を持つこのモンスターが破壊されたことで、俺のエクストラデッキから、新たな『
蘇れ、アーセナル・ファルコン!
アーセナル・ファルコン1体でオーバーレイ!」
ならば俺も見せてやろう。
負けじと天空へ飛び立つアーセナル・ファルコン。
空の果てにて渦を巻く銀河へと身を投じ、新たな仲間を呼び覚ます。
「究極至高の隼よ。
数多なる朋友の遺志を継ぎ、勝利の天空へ飛び立て。
ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れろォッ!
ランク10! 《
今、この瞬間の彼が呼びだせる、最高ランクのカード。
神の領域に達するレベル10、ランク10のXモンスターの威圧に感じ入るものがあったのか、《ヴェルズ・サラマンドラ》は空を見上げ、かつての自分たちの最期を思い浮かべて涙を流した。
「アルティメット・ファルコン!
やつの《ヴェルズ・サラマンドラ》を攻撃しろ。エターナル・アベンジッ!」
「……1050っ!」
丸い。
ああ、ここでも俺たちは。
そう無念を強めながら、あらがえずに散っていく。
実際には「キングレムリンじゃなくて俺ぇ!?」などと涙を流してワタワタと暴れているだけなので、そのへんの哀愁は召喚者以外には伝わっておらず、ジュラックの
「バトルを終了する。
俺はカードを1枚伏せ、エンドフェイズ。
俺の場のアルティメット・ファルコンのモンスター効果が発動する。
このカードがX召喚されたターンのエンドフェイズ、相手フィールドのモンスターの攻撃力を1000下げる。貴様の場の《キングレムリン》と《ヴェルズ・ナイトメア》の攻撃力を下げさせてもらう……!」
はるか高みよりの
「俺はこれでターンエンド。
さあ、貴様のターンだ」
「……ドロー!
…………《キングレムリン》を守備表示に。」
圧倒的なランクの差が地に
「……マジックカード、《忍び寄る闇》を発動。
墓地に眠る闇属性モンスターの魂を捧げ、四つ星の闇属性モンスターをデッキから1体、ボクの手札にくわえる。《ヴェルズ・カストル》と《ヴェルズ・サラマンドラ》の魂を捧げる。」
「応援を呼ぶつもりか。
だが、俺のアルティメット・ファルコンを突破できるモンスターではないようだな?」
「……今はね。
手札にくわえるしもべの名前は、
《ヴェルズ・ケルキオン》」
新しいモンスターを呼び込む。
ただし、召喚はしない。「できない」と「しない」は異なる。
少なくとも、今この瞬間に召喚までやるカードではない。
「……リバースカードを1枚セット。
ターン、……エンド。」
「俺のターン、ドロー」
そう判断した詩弦は、ターンを明け渡した。
「バトルだ!
ゆけ、アルティメット・ファルコン!
《ヴェルズ・ナイトメア》を攻撃しろ!
エターナル・アベンジッ!」
「……ごめんね、ナイトメア。活躍できそうな相手じゃあなかった」
返された返事は、親指。
親指を立てたまま、《ヴェルズ・ナイトメア》は黒い粒子へと姿を変え、砂の山のように崩れながら消滅していく。
「……ありがとう。
だからこそ君は、ヴェルズ最強のドラゴンの怒りに触れた!
トラップ発動!
「馬鹿な、そのカードは!」
ある条件を満たせなければ発動できず、なおかつX召喚ができない決闘者では発動すらできないカード。そう言われがちであるカードのうちの1枚。
そんなものをスタンダード次元の人間が最初から持っているはずはない。手に入れたとしても、対戦相手次第では使いこなせない……黒咲隼の故郷であるX次元であれば、なおさら使いどころがむずかしいカードゆえにデッキに入れるはずがない。
だからこそ、黒咲隼は初めて、
「Xモンスターが戦闘により破壊された場合、おなじランクのXモンスターを
「その攻撃力の数値で効果ダメージを決定する、
そうか、貴様が《キングレムリン》をデッキに採用していた理由は、X召喚を確実に行うためではなく、このカードのためのもの!
『攻撃力2300を活かす』、そのためか!」
純粋に、スタンダード次元の人間に対して、
「……本来は囮、やられ役。
そうであっても、
それが
驚かされ、
「ボクが公開するカードは!
こいつだッ! ランク4ッ!」
「
《ヴェルズ・ウロボロス》ッ!」
いつかにありえた、故郷でのデュエル。
命を賭けず、だれも奪われず、だれも失わない。
ただそれだけの、融合召喚などない、
「ならば、
雌伏の隼よ。
逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼ひるがえせ!
現れろ、ランク4!
《
「……その瞳に映る、すべての熱を消し去れ。
「
すべての敵をッ、引き裂けェッ!
ブレイブ・クロウ・レヴォリューションッッ!!!」
かたや、冷たい息吹で敵を薙ぎ払う、絶対零度の邪竜。
かたや、炎を纏い突進する、太陽か不死鳥かの
「……ライズ・ファルコン、撃破!」
太陽をも凍らす吹雪に復讐の炎が呑まれていく。
「だが、これで《ヴェルズ・ナイトメア》にうなされることはなくなった。
思う存分にX召喚ができる。いくぞ!」
それでも鉄の意志は砕けない。
両雄の幻影が消え失せ、カードは元のエクストラデッキへ戻される。
ここからが眼前の敵を、
「俺は手札から、
《
俺が戦闘・効果によるダメージを受けたとき、手札からこのモンスターを特殊召喚できる。
バトルフェイズを終了とし、さらに!
手札からファジー・レイニアスを召喚ッ!」
まずは戦況を立て直す。
「俺は、場のレベル4モンスター2体で、オーバーレイ。X召喚、ランク4ッ!
何度でも天を舞え、
《
その効果により、X素材となったファジー・レイニアスを取り除き、デッキから『RR』を1体、手札にくわえ、墓地に送られたファジー・レイニアスの効果により、さらに最後のファジー・レイニアスを手札にくわえる!」
再び
黒咲隼は
「カードを1枚セット。
俺はこれでターンエンド。
さあ、……貴様のターンだ!」
「……ボクのターン、ドローっ!」
であれば、蛇喰遊鬼も追いかける。
地を這う病は、天空にだって蔓延するように。
鳥類を媒介として、いかなる島にも感染をもたらすように。逃げ場などない。
異星の邪念が這い寄る。あるじの右腕に宿り、
「……来たか。
ボクは手札から、
《レスキューラビット》を通常召喚。
効果を発動、デッキから四つ星の通常モンスターを2体、特殊召喚できる。
出でよ、《ヴェルズ・ヘリオロープ》たち!
レベル4の《ヴェルズ・ヘリオロープ》2体でオーバーレイ・ネットワークを構築。
ランク4ッ! X召喚、《カチコチドラゴン》ッッ!」
「今度はそのカードッ……だと!?」
「……手札からマジックカード、
《一騎加勢》を発動!
このカードは、対象モンスターの攻撃力をターン終了時まで1500アップさせる。
《カチコチドラゴン》の攻撃力を3600まで上昇、さあ、バトルだ!」
いつかの未来。
光津真澄が呼び出した「ジェムナイト」モンスターを越えるため。
奇しくも彼の恋心は、黒咲隼が呼び
「……まずは、《カチコチドラゴン》。
攻撃力3500のアルティメット・ファルコンを攻撃!」
「そうはさせんッ!
手札から《
「……カウンター戦術!」
彼の記憶、失せた
脳裏に浮かぶは、熱い拳のX召喚使い、七皇の―――!
「……ならっ、こっちもカウンターだ! カウンタートラップ、
《エクシーズ・ブロック》を発動!」
「なんだとッ!?」
「自分の場のX素材をひとつ取り除き、モンスターにより発動された効果を無効にし、さらに発動したモンスターを破壊する!
《カチコチドラゴン》のX素材を使い、アベンジ・ヴァルチャーの効果を無効にする!」
褐色の青年の姿をした幻影は「一対一の
「……これで戦闘が成立。
今度こそ《カチコチドラゴン》で、アルティメット・ファルコンを攻撃!」
「……………ッ!」
「さらに、さらに!
この戦闘破壊に成功した時、《カチコチドラゴン》のモンスター効果を発動!」
最後のX素材たるモンスターの魂を捕食し、
「《カチコチドラゴン》は続けて攻撃ができる!」
さらなる力を解放する。
「だが、その効果は一度限り。
俺への攻撃はできない。そうだろう」
「……知ってたの?」
「当然だ。だが、……昔の話だがな」
かつて、彼はプロデュエリスト養成学校の生徒だった。
その過程で、Xモンスターである《カチコチドラゴン》を知る機会には
「……ボクは、《カチコチドラゴン》で、
ワイズ・ストリクスに攻撃!」
それ以上を問うのも、語らうのも不要。
「……続けて、攻撃力1300の《キングレムリン》でダイレクト・アタック!」
「トラップ発動!
《
このカードは俺への戦闘ダメージ、または効果ダメージをいちどだけ無効とする!」
「……《エクシーズ熱戦!!》の時に使わずに、このタイミングまで温存を?」
あの瞬間に発動すれば、2650の効果ダメージは受けなかった。
自分のライフを半分以上も削るダメージを無効にせず、なぜ今の瞬間、自分が負けるか否かの瀬戸際で発動したのか。
「貴様が一筋縄ではいかない相手であることは理解した」
黒咲隼という決闘者であれば。
自分が負けるか否かの瀬戸際が見えているからだ。
すでに、そして常に、デッキを構築する段階から気づく。
己のデッキの弱点を見極め、かといって、かならずしも弱点ばかりを狙ってくるわけではない対戦相手に対して、己の弱点を守るばかりのカードを使っていれば勝てるというわけがなく。
「であれば、あれの次の一手は直接攻撃による勝利を狙うはず」
対戦相手もまた、おなじ境地から彼我を見据えうる。
なにが対戦相手の弱点になるかは、実際に相対する対戦相手ごとに変わる。ならば、できるだけ汎用性の高いカードを1枚ずつ、
であれば、眼前の少年の戦略は「効果ダメージばかりを狙う戦術」ではあるまい。
「連続して効果ダメージによる勝利を狙えば、対策となるカード1枚を発動されるだけで戦略が破綻する。もはや弱点にも等しい……そして、」
もしも本当に、効果ダメージによる勝利のみに固執していれば、
「その
「……っ!」
効果ダメージへの対策ひとつで敗北してしまう。
特化された戦略は局所的な対策や想定外の結論に負ける。ただそれだけの真実を、敗因を、理不尽を受け入れ、己を鍛えあげた者同士でしか伝わらない熱意が此処にあった。
「……ボクはこれで、ターンエンド。
この瞬間、《一騎加勢》の効果が切れ、《カチコチドラゴン》の攻撃力は3600から元の2100へとダウンする……今度こそターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
デッキからカードという爪をひく。
捕らえるべき
「―――来たか。俺は手札から、
マジックカード《ディメンション・エクシーズ》を発動!」
「……えっ」
ただし、それは。
異世界人「蛇喰遊鬼」が納得できるか否かを問わない。
「俺の場、手札、墓地の同名のカード3体でX召喚する。
俺は、墓地の《
あくまでも、この世界は。
黒咲隼が生きた、四つの次元の世界なのだから。
「雌伏の隼よ!
逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼ひるがえせ!
X召喚! ランク4、《
純粋なる想いをひとつに束ね。
限界を超え、勝利を掴むために。
どこまでも高く、雄々しく飛翔する《
「ライズ・ファルコンの効果を発動。
このカードは相手の場の特殊召喚されたモンスターにいちどずつ攻撃することができる。
さらに、X素材をひとつ取り除き、相手の場の特殊召喚されたモンスター攻撃力を、すべて吸収する!」
特殊召喚されたモンスターは、攻撃表示のまま硬直する《カチコチドラゴン》と《キングレムリン》。
「ライズ・ファルコンの攻撃力は3500となる。
連続攻撃で与えられるダメージは3600までだが、貴様のライフを狩り捕るには十分!」
「!」
そう、すべて攻撃表示。
すべての特殊召喚されたモンスターに攻撃できる《
「バトルだッ!
ライズ・ファルコンッ!
すべての敵を、引き裂けッ!
ブレイブ・クロウ・レヴォリューションッ!」
もはや、小細工は無用。
火の鳥となりて突撃するライズ・ファルコン。
爆炎に包まれた敵陣の中に、蛇喰遊鬼の立つ影が見えるはずもない。
「終わったか。
悪くないデュエルだった。」
この状況を解決できるカードなど、この時代の舞網市には存在しない。
異次元人であった蛇喰遊鬼だからこそのこだわりが、今回も彼を追い詰める。
もう勝敗は明らかだ、彼を見定めるまでもない。
「……でも、」
「ボクたちの決闘は。
戦いのロードは、まだ終わっちゃいない!」
そう、見定める必要などない。
「なにッ!?
馬鹿な、確かにライフは刈り取ったはず!」
「ボクは最初に《カチコチドラゴン》が破壊される瞬間、その戦闘時に手札から、《スモーク・モスキート》の効果を発動していた!」
相手がOCGに存在しないカードを使うのであれば、追いつくためには平行世界のカードを使うしかない。
苦肉の策、生き汚さ、勝利に執着し横着した選択。
自分らしくもない。光津真澄のためにも奮起したデュエルと、今回のデュエルは違う。
……だとしても。
「……ボクが受ける戦闘ダメージを半分にして、このターンのバトルフェイズを強制終了する」
蛇喰遊鬼は、まだ、黒咲隼に負けたくない。
もっと相手の全力を受け止めたい。
攻撃力を変更する《ダーク・オネスト》のような力あるカードを選べず、デュエルを長引かせる《スモーク・モスキート》で決着を先延ばしにさせ、煙に巻き、この世界の可能性を味わいたい。そのなかで、自分のできることを確かめたい。
叶うならば。
自分に勝ってみせた光津真澄。
彼女と同じような輝きに屈したいのだ。
「なんだと?
くっ、ライズ・ファルコンの効果は、俺のエンドフェイズまでしか力を維持できない……!
ターンエンドだ!」
「……ボクのターン、ドローっ!」
攻撃力が元の100に戻った《
適当なモンスターで殴るだけでも突破できるが、その程度で負ける実力であれば黒咲隼の鋼の強さとは呼べるはずがない。
「ボクがドローしたカードは、
レベル4、《ヴェルズ・ケルキオン》!
これでボクのデッキの最強ドラゴンを呼び出す、すべての条件がそろった!」
「貴様のデッキの、最強ドラゴン……」
油断できるわけがない。
だから、
「―――まさか!」
黒咲隼の脳裏に浮かばせる。
彼のデッキの最強ドラゴン、《ヴェルズ・ウロボロス》の姿を。
「このカードを召喚、攻撃表示!
《ヴェルズ・ケルキオン》の効果により、墓地の《ヴェルズ・ナイトメア》の魂を捧げ、墓地の《ヴェルズ・カストル》を手札に戻し、効果により攻撃表示で召喚する!
……まずは、2体の四つ星『ヴェルズ』モンスターでオーバーレイ。行こう、ランク4!」
最強の力を、より深きに誘うため。
「……
新たな破滅の
その効果によりX素材をひとつ取り除き、デッキより速攻のマジックカード《侵略の汎発感染》を手札にくわえる。
……ところで、」
最愛のドラゴンの献身をもって、勝利を掴んで見せよう。
「君がランクアップを繰り返すのなら。
ボクは、ヴェルズ最強のコンボを使わざるをえない。」
蛇喰遊鬼は、一枚のカードを天に掲げる。
「
リバースカード、オープン!
魔法カード、《エクシーズ・シフト》!
自分の場のモンスター・エクシーズを書き換え、同じランク、種族、属性の条件を満たすモンスター・エクシーズへと再構築する!」
「ランクが変化しないエクシーズ・チェンジ?
馬鹿な。そんな召喚方法が、このスタンダード次元にあるとでもいうのか!?」
「あるのだよ!
ランクアップを伴わないエクシーズ・チェンジが!
さあ、行こう、ランク4ッ!」
我が身をめぐる
今、命を越えた
《
その身に宿る
「
ランク4ッ!
ボクが信じる、ヴェルズ最強のドラゴン。
《ヴェルズ・ウロボロス》ッ!!」
天高く顕現するは、無限の竜。
ヴェルズにおいて最高の攻撃力を誇るドラゴン。
「《ヴェルズ・ウロボロス》の効果、発動!
X素材をひとつ取り除き、みっつの効果から選んで発動する。
ボクが選ぶのは第一の効果、『相手の場のカードを1枚選択し、手札に戻す』。
君のリバースカードを手札に戻してもらう!」
「そうはさせん!
トラップ発動、《反転世界》!
おたがいの場のモンスターの攻撃力と守備力を入れ替える。これで俺の《
だが、貴様の《ヴェルズ・ウロボロス》は攻撃力を1950へとダウンさせ、俺のライズ・ファルコンをバトルでは突破できなくなる!」
黒咲隼の革命の炎は尽きない。が、
「いいや!
その効果の適用を、許可しないッ!」
蛇喰遊鬼の滅びへの冷気もまた尽きない。
「カウンターマジック、速攻の!
《侵略の汎発感染》を発動!」
「さきほど手札にくわえたカードか!」
「このカードは、『ヴェルズ』モンスターへのマジック、トラップの効果を無効化する!」
たとえ
それが蛇喰遊鬼の信じる、ヴェルズたちの最強ドラゴン。
「バトルフェイズ!
《ヴェルズ・ウロボロス》で!
きみの《RRーライズ・ファルコン》へ攻撃!」
それぞれの攻撃力は、
《ヴェルズ・ウロボロス》が2750。
《
「ー――見事だ。」
「
勝利を掴むカードは、蛇喰遊鬼の《ヴェルズ・ウロボロス》。
「……続けて、
《キングレムリン》で攻撃。
攻撃力は《反転世界》により2000、君のライフは300。なにもなければ、ボクの勝ちだ」
「俺の墓地にある《
黒咲隼の手札に残っていたカードは、通常マジックである《
自分のライフを半分払うことで、墓地のモンスターでランクアップできる代わり、エンドフェイズにX召喚したモンスターの攻撃力分のライフを失う、諸刃の剣。
自分を守るカードとしては使えない。
「俺の負けだ。
まさか、スタンダード次元の人間であるおまえを『弱く』見なかったことが、この結果に繋がるとは思いもしなかった」
ライフポイントの消失の音に続けて、決着のブザーが鳴り響く。
決着は蛇喰遊鬼にとって、ある終わりを実感させるに足るものだった。
☆《エクシーズ熱戦!》
自分のXモンスターが戦闘で破壊された場合にのみ発動できる、効果ダメージを与えるカードだ。
EXデッキのXモンスターの攻撃力が高ければ高いほど、相手に与えるダメージは他の「効果ダメージを与えるカード」の中でも《
また「エクシーズ」と名のつくカードの一枚でもあるので、デッキや墓地から手札にくわえる手段はそれなりにあること、なおかつ自分からXモンスターを戦闘破壊されに行っても発動できることを意識すれば、その使い勝手が劇的に変わる点も見逃せない。
戦闘で破壊されたXモンスターとおなじランクのXモンスターの攻撃力を参照するため、できるだけ自分の使いこなすXモンスターとおなじランクを持つXモンスターの中でも採用しやすく高い攻撃力を持つXモンスターを1枚は採用する必要はあるので、できるだけ汎用性の高いパワーあるXモンスターを選ぶのがおすすめだ。
今回の話は?
-
いいね!
-
まだまだだね…