Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?   作:ウェットルver.2

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その宝石言葉は

 黒咲隼とのデュエルを終えて。

 決闘の決着に応じた「ある事柄」に関しては蛇喰遊鬼は「できない」と伝えた。

 一言二言ほどの質疑応答を終えると、黒咲隼は怪訝な顔をしながらも「まあ、おまえほどのX召喚使いが言うのであれば、この次元ではそうなのだろう」と首肯して立ち去った。

 

 おなじX召喚使いとして。

 デュエルを純粋に楽しむ者が敵であるはずがない。

 であるのならば、ここは自分の戦場ではあるが、敵はLDSというわけではない。それでも目的のために赤馬零児をおびき出す必要はある。

 

 蛇喰遊鬼にとっては、そんな気はした結果だった。

 デュエルを介した説得、交渉は決裂していた。

 

 おそらく黒咲隼は赤馬零児と直接対面するためだけに、これまでどおりの行動を繰り返すのだろう。

 だからといって自分が赤馬零児を引きずり出そうとしても、自分はLDSの一塾生で相手は大企業の社長だ、「舞網市の人間」にできる()()()()()()ではアポイントメントを取ろうにも受付で断られるだろう。面会さえ叶うはずがない。

 それが蛇喰遊鬼という人間の限界だった。そして、

 

「……答えは得た。」

 

 ヴェルズの限界点。

 それは対戦相手がひとりでなければ意味がない強さを持つこと、だけではない。

 プレイヤーを直接的に攻撃できるカード、効果ダメージを与えるカードを対処できない点だ。

 

 対戦相手がひとりだけであれば、それを理由に敗北する例などそう多くはない。

 わかるひとにわかるように言えば、「レッドアイズ」カードや効果ダメージを与えるカードだけで先攻から相手のライフポイント4000点を奪い取る戦略に特化した相手に弱い。

 

 が、それを再現できる対戦相手は希有だ。

 かといって最初から《ヴェルズ・オピオン》による束縛が通じない対戦相手、黒咲隼のような決闘者である可能性を念頭に置いて戦いに挑めば、今度は《ヴェルズ・ナイトメア》を先攻で立ててターンを明け渡す程度の盤面しか用意できない。

 

 それを毎回、融合次元の手先に行えるのか?

 ただでさえ効果ダメージによる勝利を狙う戦略を軸とする融合次元の手先を相手に、オベリスク・フォース複数人を相手に、いつまでヴェルズが通用するというのか。

 

 ましてや、対戦相手がひとりではない。

 一度に三人どころか、六人、九人とスリーマンセルのチーム攻撃を一点集中でたたき込むのが、オベリスク・フォースという連中だ。

 じわじわと相手を追い詰めるヴェルズの戦い方では、一度に三人以上を相手にしきれない。

 

 それこそ、あの黒咲隼のような。

 一度に三人以上を、いっぺんに攻撃して勝利をつかみ取るような戦い方が必要なのだ。

 

「……真澄の力に、なれない」

 

 可能な人間がいるとすれば。

 集団戦闘で味方のモンスターの力も借り受けて高火力の効果ダメージをたたき込める《ジャムナイトレディ・ラピスラズリ》を操れる光津真澄。

 その彼女の補助となるモンスターなど、ヴェルズのうちには存在しない。

 途中までは彼女の力になれるだろう。

 

 だが、舞網チャンピオンシップ当日に第三回戦が始まってしまえば、もう自分がお荷物だ。

 彼女のための力など、自分たちにはない。

 

「……新しい、力さえあれば。」

 

 ここにOCGのカードがある世界であれば。

 あるいはOCGのカードを扱える人間性であれば、蛇喰遊鬼は存分に暴虐をふるえたのであろう。

 しかし、もはや彼は舞網市の決闘者である。

 そうである、という存在意義に、決闘者としての情熱を認めて受け入れた人間である。

 誰かだけが持っている特別なカードを、自分だけの特別なカードだと吹聴するほど恥を知らないわけではない。

 そんなカード、元の世界のみんなが持っているよ……などと、自分の心の中にある特別なカードを特別たらしめる記憶を、思い出を、どこかで軽んじてしまいかねない心の一線を軽々しくは越えられない。

 

 だから、「舞網市の人間」の範疇で考える。

 

 彼は願う。

 ヴェルズに新たな力を。

 しかし、彼らは応えられない。

 OCGに実在しないから、ではない。

 自分たちの主人を主人と認めていないわけではない。これまで特別に頼らず、ありふれて見捨てられたカードにこそ力を見いだした技量を信じている。だからこそ、ヴェルズも望む。

 蛇喰遊鬼に、我が主に新たなる破壊の力を。

 彼がいまだ知り得ないデュエルモンスターズのカードたち、その中にあるであろう新たなる心の闇の力を、可能性の力を。

 

 おたがいが、おたがいにないものを求める。

 

 つまるところ、どんづまりだ。

 

「……ボクから告白しようか。」

 

 それは諦め。

 じゃんけんでグーがチョキに、チョキがパーに、パーがグーに勝てるようなものだ。

 蛇喰遊鬼は光津真澄に、光津真澄はオベリスク・フォースに、オベリスク・フォースは蛇喰遊鬼に、それぞれ強い。

 そうであると直感を信じる。

 どれだけ筋を通したくても、こんな事柄に頑固になって執着したところで、もはや筋が屁理屈にしかならないだろう。

 もう、いつまで真澄を待っても意味がない。

 決闘者としての浪漫や矜持など、やはり相性という勝負の鉄則には通じないのではないか。

 

 自分と真澄との間の。

 この恋路には、関係ないのではないか。

 

「遊鬼!」

 

 かかる声。

 

「今度こそ、私はあなたに勝つ。

 ……ずっと迷っていた、でも答えを得た!」

 

 なびく黒髪。

 蛇喰遊鬼を映す、真紅の瞳。

 いつもなら魅力的な容貌にも、心のどこかで飽きを感じてしまう。

 

「私は! 

 柊柚子、彼女のためにも負けられない!」

 

 柊柚子?

 いったい何があったというのだ。

 今さら勝負を仕掛けられても、なんの意味が。

 

 もう意味などなくなりつつあるだろうに。

 

「……わかった。デュエルをしよう。」

 

 デュエルディスクを構える。

 どうせ今日もオピオンの対処に追われるのだろう?

 

 

 

 

 

 

「私は、

 レベル4の《ジェムナイト・ガネット》と、

 レベル4の《ジェムナイト・ルマリン》で、

 オーバーレイ!」

「…………えっ?」

 

 

 

 

 

 

 オピオンの前に立ちはだかるもの。

 そのカードの名前は、

 

「純粋無垢なる想いの化身。

 現れろ、《ジャムナイト・パール》!」

 

 真珠。その宝石言葉は「無垢」と「純潔」。

 邪念(ヴェルズ)に囚われる人間には程遠い、すべての始まり。

 

「私は、あなたを越えるために!

 あなたのエクシーズ召喚を、受け入れる! 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私はあなたを受け入れ、そして越えるッ!」

「……ああ、」

 

 なんだ。

 そんなことで、……よかったのか。

 知らないうちに、彼女はそんな成長を遂げていたのか。

 自分の限界を超えるために、敵の召喚法を受け入れる。ただし、今回の場合は敵ではない。

 

 恋した誰かを求めるからこそ。

 恋した誰かを受け入れてしまおう。

 

 ああ、そんなもの!

 真澄に抱きしめられるのと、どう違う!?

 

 結果は、蛇喰遊鬼の敗北。

 罠カード《ジェム・エンハンス》により、何度も《ジェムナイト・パール》が蘇り「ヴェルズ」Xモンスターを上から殴り続けたことによる、光津真澄の粘り勝ち。

 

 だが、もうそれでいい。

 自分の限界はある、だがそれがどうした。

 シンクロ召喚もある、融合召喚もある。

 蛇喰遊鬼にない力を、LDSの仲間が持つ力を、光津真澄が照らした道を選べばいいのだ。

 

 最初から、それでよかったのだ。

 差し伸べられた手を取り、改めて思う。

 

 ボクは、

 

「……好きだ。」

 

 光津真澄のことが。

 この世の誰よりも、……ずっと。

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