Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか? 作:ウェットルver.2
これは、ティータイムを彼、
LDSエクシーズ召喚コース、ジュニアユースの午後の部。
アクションデュエル実習で最後の番として呼ばれた僕、
おたがいにエクストラデッキにいたはずの仲間たちを失い続け。
ようやく純白の騎士《セイクリッド・プレアデス》を三度召喚できた僕と、死せる者たちの集合体《ヴェルズ・タナトス》を維持し続ける彼との決闘は佳境に入る。
「さあ、《セイクリッド・プレアデス》の効果を発動!
キミの《ヴェルズ・タナトス》を、デッキに戻してもらおうか!」
僕が何度も倒したはずの《ヴェルズ・タナトス》。
それをあらゆる手段で何度もエクシーズ召喚し、アクションマジックとのコンボで僕の布陣に穴を空け続けた遊鬼はつぶやく。
「……よし、アクションマジック、だ……!」
僕の“プレアデス”の力が通じにくい、漆黒の騎士“タナトス”は馬を繰りながら主を運び、アクションマジックのある場所を共に探していたようだ。
星空の輝く神殿の物陰から姿を現し、その手に持つ「A」の略称が刻まれたカードを扇状に展開された手札へと加える。主が馬から飛び降りると、空中で待つ“プレアデス”めがけて“タナトス”は馬を走らせ、そのまま騎士“タナトス”が愛馬の背から飛びあがる。
僕のデッキは、モンスターの連続召喚からエクシーズ召喚に繋げる。
この点においては彼の戦法に近い。彼もまた通常召喚からエクシーズ召喚を狙うので、よほど欲張らなければ彼の切り札《ヴェルズ・オピオン》で完封勝ちされる敗北はまずしないし、元より使うモンスターの効果のうえでも僕が有利だ。
基本的な戦い方が同じなら、カードの性能で決着がつく。
―――そのはずなら、僕は彼との決闘を楽しんだりはしない!
「……《ヴェルズ・タナトス》の効果を発動。
……エクシーズ素材を取り除くことで、このターン、モンスター効果を受けない」
「だが、攻撃力は僕のプレアデスが強い!」
剣をぶつけあう、僕たちのモンスターたち。
だが彼の“タナトス”は剣を這わせるように“プレアデス”の剣へと絡ませ、“プレアデス”の篭手の近くまで刃を寄せると、
「…………手札のアクションマジック、《ナナナ》を発動!
……《ヴェルズ・タナトス》の攻撃力をアップ、迎え撃てッ!」
己のマスターから与えられた魔法の力に任せて、薙ぎ払い、押し克つ。
力を失い、空中へと舞い、無防備に胴体を晒した僕の“プレアデス”。
どこからか「好機を見逃すな」と馬が嘶き、飛びだし、“タナトス”のまたぐらに首を突っ込んで持ちあげ、改めて人馬一体の《ヴェルズ・タナトス》へと姿を戻して駆けだす。
「忘れちゃ困るね!
僕が、すでにアクションマジックを拾っていたのを!
アクションマジック発動、《ティンクル・コメット》! 相手の攻撃力をダウン!」
だが、僕の“プレアデス”も諦めない。
僕の支援を受けて姿勢を制御し、“タナトス”から受けた剣戟の勢いを無力化し、流星となって空を舞う。
「…………そこっ! カウンタートラップ、」
その背を追うように、“プレアデス”の影が這い寄る。
「……《マジック・ドレイン》!」
“プレアデス”と似て非なる影法師、蛾の羽根を携えたドッペルゲンガーが、“プレアデス”に与えた魔法の力を吸い取らんと覆いかぶさる。
「……君のアクションマジックを無効にする。
……ただし、君は手札に魔法カードがあれば、これを捨てて無効にできる」
「おっ、面白いカードを使うねぇ!?
なるほど、アクションマジックと魔法カード、どちらか一方を確実に潰すカードってわけかい。だが、僕の手札にはコレがある!」
僕が掲げたカードの光を受け、先ほどよりも強くなる“プレアデス”の輝き。
そうさ、星の輝きを塗りつぶすほどの闇なら、より強く輝けばいい!
「通常マジック、《ティンクル・セイクリッド》!
このカードを代償に、僕は“プレアデス”を呪いから守る!」
「…………っ!?
……手に入れたの? ……それ!」
同じコースの塾生同士、彼も存在は把握していたらしい。
元より入手が困難なことも知っていたのか、心の底から驚いた顔を向けてくる。
「なぜだろうね。『まさか』と思って温存しておいたのさ。
想定よりも、とんでもない方法で対策をしてくれたけど……(財布と戦術の)無茶はするものだね。これで、“プレアデス”がキミの呪縛から解放される!」
研ぎ澄まされた決闘者の眼差しが、かえって僕に野性的な勘を育ませてくれた。
あるターンのドローの瞬間にだけ細められた彼の目を見て、そのカードに何かがあることを察することができた。見た目の身振り手振りではない、いわば強い意志の輝き。
おだやかな夜に降り注ぐ、どこまでも遠い星の
「いけ、“プレアデス”!
彼の“タナトス”を切り裂け!」
その輝きで浮かびあがる影の騎士に向かい、剣を大上段に構えて振りおろす。
“タナトス”よりも早く、彼の馬よりも速く通り抜ける“プレアデス”の剣の一閃が、白い輝きの軌跡を描きながら大地をも貫く。
「“プレアデス”の攻撃力は2500のまま。
キミの“タナトス”の攻撃力は2350から変動し、3050から2050へ。
戦闘に負けて受けるダメージは450、ただし、アクションマジック《ティンクル・コメット》の効果により、すでに君は500のダメージを受けた。つまり、」
「……合計、950。
……まいったな、……ボクの、負けか……」
僅差の攻防のすえに掴み取った勝利。
ここまでやっても、「これはアクションデュエルである」という前提が、さきほどの彼が発動した《マジック・ドレイン》の存在により、完全勝利とは言い切れない苦みを残す。あまりにも予想外すぎる奇策。アクションカード対策にもなる危険な罠。
“プレアデス”も同じ畏怖を抱いたのか、剣を握る拳を強め、衝撃に倒れ伏した彼から眼を離そうとはしない。
ゲーム環境ひとつ。決闘者の本能から訴える“勘”を信じるか、否か。
なにかが異なれば、彼と僕の間にある実力差が何度だって変動する。
そのうえで、僕に負けても強敵だと察してしまう、敗北に苦しもうと獰猛に笑う狂戦士。凄みを隠せない優男は、立ちあがるだけでも闘志をあふれださせる。
「……いい、デュエルだった」
「ああ。僕も実感したよ。
今のが、キミが昔に言った“決闘者の勘”かい?」
「……うん。楽しかった」
そう言い切ると、ほにゃ、と、普段のやわらかな笑みを浮かべてくる。
緊迫とした空気が霧散し、本当に決着がついたと周囲に伝わったのか、同じエクシーズ召喚コースの塾生たちが喝采をあげ、投影されたリアル・ソリッドビジョンが消失する。
「キミは、もう休憩に入るのかい?」
「……うん。授業のコマ、開けてあるんだ」
彼の物静かな声色は、観客席から僕への黄色い声にかき消されそうで、それでいて耳に残る。彼も彼で同じように声をかけられてもおかしくないと僕は思うのだが、独特の鬼気迫る決闘への姿勢が原因なのか、彼の場合は同性からの激励がよく届いていた。
恐ろしい魔剣を収めた綺麗な鞘。そんな性格にも見えるからね、彼。
決闘とあれば突如抜刀して居合切りする。決闘が例え談笑の結果だとしても。そういう切り替えの早さが目立つから、女の子としては恐ろしさを秘める彼よりも、僕のほうが好感を抱きやすいのだろう。
彼の使う「ヴェルズ」モンスターが、おどろおどろしい昆虫の特徴を持つ、既存のモンスターから生まれた合成生物であるという外見的特徴と、特殊召喚であればなんであれ妨害はできる脅威の効果を持つ点は、たぶん関係ない。
召喚したモンスターを手札に戻させる僕のほうが、印象は悪くても変ではないし。
まあ、結果的に、その恐怖心が彼女たちの成長を鈍くさせるのかもしれない。
実際、彼に気がある子にかぎって、どういうわけか戦術が陰湿ながら凶悪だったり、女の子同士だと全然決闘に興じないというか、自由時間での決闘には誘われないくらい遊びがない子だったりするし。
真澄の強さなんかもわかりやすい。
彼女が僕たち以外のだれかと決闘をしたなんて、見たことも聞いたこともない。
LDSで次の舞網チャンピオンシップに出場が見込める塾生を振り返っても、彼女以外にどんな女の子が該当するのか、思い出すのもむずかしい。印象も薄い。
そのくらい「強い女の子へと挑戦する女の子」は、めずらしいのだ。
負けの醜態を問わず、何度も立ちあがる勝気な女の子もまた、めずらしい。
……そろそろ、見どころのある塾生が出るといいのだけれどもね。
真澄のような、芯の強い女の子にかぎって。
すごく綺麗な目をするものだから、思わず惚れそうになる。
ああいう子が声援を送ってくれるなら、それはとても喜ばしいのだけども。
残念ながら、彼のほうが機会は多い。声には出されないだけで。
「いつものティータイムか。
沢渡に悪絡みされて疲れないかい?」
そう訊ねると、彼は目を背けた。
「……まあ、ろくでもないときもあるけど、うん……いいかなって。」
「ティータイムは諦めないのかぁ……」
なにが彼をこだわらせるのだろうか。
お茶会と聞けば目を輝かせ、ティータイムに用事があると聞けば本気でいやがる。
ルーティンワーク、というやつなのかもしれない。あの時間になれば
癇癪持ちの沢渡と、決闘中の評価点から成績が伸びる遊鬼とでは、休憩の意味合いが異なる気はするが。沢渡、彼の場合、ケーキを食べられない日では些細なことでも我儘を言うらしいし。
「―――うん?
いや待てよ。確かに日曜日だ、ならおかしくはない、が、」
「……どうしたの?」
「
「…………うん。ボクも知らない」
「やれやれ、午後の部から授業を受けているってことかい?
まあせっかくの日曜日だ、日が暮れるより前に遊べるなら、それに越したことはないと思うけれど。いや、案外寝ている可能性もあるかもねぇ?」
「……それはない。前の日曜日、女の子むけのお店でなにか選んでた」
なぜか眉間にしわを寄せて、彼は思慮にふける。
「……たしか、お昼でバーガーショップに行く途中に……うん、間違いなくそう。そういうとき、女の子って友達と一緒だったりするんだけど……なんか、そうじゃなかった。
……日曜日、ひとりで用事を済ませるのかも。だから、たぶんちがう……」
「あ、そうなの?」
やっぱり真澄も女の子か。
ストイックな姿勢が見て取れる彼女のことだから、そういうのは普段から最低限の買い物で済ませているようにも見えるのだが、日曜日にわざわざ買うだなんて。
「……でも、
……いや、うん、それはとにかく、先生が呼んでる。
……スタジアムから出よう。授業が中途半端で終わる……」
「そうだね、それは僕もいやだ」
スタジアムの扉に手をかけ、そのまま舞台を後にする。
このあと僕は偶然、きびきびと歩く真澄の姿を見かけることになるのだけれども、
やけに唇を気にしているというか、怒っているのか別の気持ちなのか、はっきりしない表情で口元に手をかざしていたのが不思議だった。
見ようによっては、やはり物思いにふけっているようにも見えて。ただ、それ以上は彼女の様子を探るわけにもいかず、とりあえず次の授業のある部屋へと僕は向かった。
その先で。
顔を赤くしてトイレにむかった遊鬼をみたら、だれだって勘違いするだろう?
ことの次第を沢渡に訊いて安心したよ。
まさか僕たちの友人関係が拗れたかも、なんて思わずに済んだし。
それでも、ちょっとは嫉妬する。
ああいう距離感であれ、あの距離感で話せる女の子、まだ僕には、ね。
真澄と僕のそれは男女の友情であって、恋が関わるものではないし。
最初、「男女の友情とか男には苦痛だろ?」って思っていたんだけれども、いざ人気者になってみるとありがたいんだよねぇ。愛だの恋だの
キャラを着飾る女の子の、全員が。
いちいち相手をしていると笑えないくらい疲れるんだよ、ホント。
あー! いいなぁーっ!
決闘で手のかからない、
そういう子とさあ、愛だの恋だの、してみたいなあっ!
【Q,恋愛脳の男は
【A.女性側の決闘意識によっては、フリー対戦を常に要求される場合もあります。フリー対戦用のデッキ、大会環境用のデッキなど複数のデッキをお持ちの場合、女性側の要求に応じて決闘をすることは可能です。ただし、決闘ができる、という男性プレイヤーの効果に対して、恋愛の対象となる、という女性プレイヤーの効果が発動されるか否かにつきましては、ターンプレイヤーとなる女性側の任意効果となっております。】
【Q,(男が)望まず効果対象に選ばれる場合、どうすればいいのですか?】
【A,自分でがんばってください。】
タイトル名は電撃文庫の小説「ソードアート・オンライン」から。
自分は「ます×ほく」派ですが、同時に「男女の友情」説も推したい。
あのやりとりが恋愛関係での俗にいう夫婦喧嘩へと最終的に収まるのだと断言するには、男友達に対する自然体での毒舌にも聴こえる(ツンデレ、クーデレとは聞こえにくい)のが理由のひとつ。どっちかっていうとオカン真澄とお調子者の北斗って感じ。
たぶん本当にカップル成立したら凸凹コンビで見ていて楽しい。
夫婦喧嘩を路上で見れそうな感じ。おばさんオッサンになっても仲良さそう。おたがいに「なんでこんなやつ好きになったんだろ……!」とか言いながら最後にイチャイチャしてそう。
一方で、なかなか実現せず、男(北斗)のほうが恋愛前提で動けば壊れかねない「男女の友情」のほうも推したい。ダイヤモンドは砕けないけど傷つきはするのよね。
強火の長文失礼しました。