Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか? 作:ウェットルver.2
突然の校内放送だった。
『赤馬日美香理事長より連絡があります。
ジュニアユース 融合コース「光津真澄」。
ジュニアユース シンクロコース「刀堂刃」。
ジュニアユース エクシーズコース「志島北斗」。
以上の三名は至急、最上階の理事長室まで来てください。』
「ん?」
『繰り返します――』
「なにかしら、こんな時に。」
蛇喰遊鬼とのデュエル、2ターン目。
彼の操る《ヴェルズ・オピオン》の支配をくぐりぬけ、複数回の手札交換を繰り返し、下級モンスターの戦闘をサポートするカードを引き当てた彼女の頬がさがった。
「期末の結果を渡す日に、わざわざ?」
今、彼女のコンボは進行がよかった。
墓地に任意の「ジェムナイト」モンスターを送り、《ジェムナイト・フュージョン》などの墓地から発動できるカードを埋葬しておき、そのうえで任意の攻撃力増強のカードを獲得できている。
発動したカードは《手札抹殺》と《手札断札》。
彼女のデッキにおいて強力な手札交換のカード。
もしアクションデュエルであれば、アクションカードごと捨てられるので手札も増やせる。
通常のデュエルでも通用する戦術で彼からの制圧をくつがえせば、彼女は自分自身の実力で、アクションカードの引き運に任せることもないまま勝利の糸口を掴めるというもの。
実現できれば、あとは融合召喚し放題だ。
大逆転への狼煙があがる直前となれば、気位あれども余裕の足りなかった表情も緩む。
戦乙女らしい凛々しさを溶かし、頬を緩ませる。
ああ、強さを認めた彼へ、今度こそ堂々と向き合えるのだ。
そう思った矢先に呼び出し、デュエルの中断とあれば、熱が冷めて苛立つのも当然か。
雰囲気も何もあったものではない。お邪魔虫がいないかと思えば、これだ。
「……いってらっしゃい。」
驚いて振り向く。
ほわほわとした表情を浮かべながら、意中のひとは待っていた。
「え、……えっ?」
これは現実か。
あるいは夢か。
そう疑い、思わず目を擦りかけて、やめる。
中学生とはいえ、化粧っけがないわけではない。
母親の真似をしようとして濃ゆい化粧をしてしまう、という初心者らしい間違いこそ犯してはいない……似たような間違いをしたクラスメイトがいたので反面教師にしてはいる……が、もとより肌色の濃ゆい光津真澄にとって、ほんのわずかでも自分を磨くための努力をおっかなびっくりで、のんびりとやったつもりはない。
少なくない手間をかけているのだ。
アイラインを含めた化粧もそう。
舞網市民の中では、褐色肌は目立つものだ。
黒い紙を色の黒みが強い絵の具で塗るのと、色の白みが強い絵の具で塗るのとでは、白い紙に着色する場合とちがって見えてしまう。
白肌であれば白みの強い化粧は紛れてくれるが、黒肌であれば化粧の白さが露骨なものとなってしまうのだ。
褐色肌の場合、褐色に近いほど自然な影や蛍光を作りやすい。
もちろん唇の色と艶にも個人差があるので、リップクリームひとつをとっても、自分に合うものを探して試す過程が大変だ。
ましてや学校の教師にバレないように済ませるとなると苦労も数倍。
ここまで頑張って仕上げたものを、こすって台無しにしたくない。
そんな彼女にとって、まさか。
遊鬼に唇の変化を気づかれるとは思えず。
女の努力を「よいものだ」と動揺で伝えられるとは悟れなかった、数日前での何気ない語らいと同じく、まるで自分を迎え入れてくれるかのように、素直に「いってらっしゃい」と。
すなわち、今のデュエルをふくめても、ふたりきりの空間が「帰ってきていい居場所なのだ」と伝えられるとなると、
「え、ええ、いってきます……?」
頭での理解は追いつかず、照れ隠しをする暇もなく。
冷静になって「いってらっしゃいってなによ?」と返す余裕も奪われて、ただ翻弄されるままに、ぼうっとのぼせる頭と顔の微熱に従うように、ふらりと少年から背を向けて立ち去るほかがなかった。
女心と秋の空。
暖かくなったかと思えば、まもなく冷める。
なのに、冷めたかと思えば、急に心躍り、ほんわかと暖かくなるのも秋の空らしいものである。
【Q,恋愛脳の男は
【A,相手を対等のデュエリストだと認めていれば、可能性はあります。相手が弱いからなにかをしてあげよう、相手の弱さをなくそうという『強者ゆえの姿勢』は得てして、相手の自由意志を問わない言動に繋がるものです。】
【Q,これ、もう、私の彼氏よね?】
【A,
・《手札抹殺》
おたがいに手札をすべて捨て、捨てた枚数分ドローできる通常魔法(制限カード)。
相手の手札の内容さえわかれば、事前に相手の手札のカードを墓地に送らせて妨害やコンボを破綻させたり、相手の残りデッキ枚数をゼロになるまで相手にドローさせて勝利したりなど、状況に応じた攻め方さえも選べるようになる。
まさに、どんなデッキにも採用可能なカード。
それでも発動の際には「手札抹殺以外のカードを墓地に送ってドローする」ため、
①自分から発動すると手札が1枚減ってしまう。
②相手に手札誘発のカードをドローさせかねない。
③相手に蘇生可能なモンスターを埋葬させかねない。
など、なんの考えもなく発動できるカードというわけでもない。
いにしえからある由緒正しき読み合いができるカードの1枚。
その奥深さは、けっして「ただ古いだけ」ではないのである。
モンスターを墓地に送ることで勝利を掴みやすいデッキもあるので、相手も自分とおなじ種類のコンボ使いだった場合は発動するタイミングをよく考えてから発動しよう。
相手が【暗黒界】だった場合は御愁傷様だ。
副題は漫画「からくりサーカス」、および漫画「燃えよペン」シリーズにおけるパロディ作中作「からぶりサービス」から。