Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか? 作:ウェットルver.2
一時間後、遊勝塾にて。
不機嫌をごまかせず、目をするどくさせた真澄が北斗を見つめていた。
「そ、そんなに彼がいないのがイヤなのかい?」
「べつに。」
少年、志島北斗は、
「おまえが負けたのが気に食わない。」
「
なんだって理事長は遊鬼を選ばなかったのか。
代表者にしないにせよ、同行させないのは、なぜ。
おとなの事情もあるだろう。
だが、こどもの事情も考えてほしい。
などと思いながらも、さきほどの敗北を思い返して歯噛みする。
きっかけは沢渡シンゴが襲われた暴行事件。
犯人は榊遊矢だ、その証言に何を思ったのか。
理事長は榊遊矢の所属する遊勝塾へとデュエルスクール対抗デュエル三本勝負を申し込むべく、そのための戦力として各召喚法コースのジュニアユース塾生の中でも、選りすぐりのエリート塾生をひとりずつ選ぶところから始まった。
そう、遊勝塾への吸収合併をかけた三本勝負は、最初から「やる前提」でLDSの内部では話が進んでいたのだ。
いきなり塾生に参戦を呼びかけて、塾生の予定が当日に噛みあわず招集できない、なんて滑稽なことをするほど赤馬日美香は甘くない。
よきライバルである蛇喰遊鬼が選ばれない件については、自分も納得できていない。
どうせなら。
いざ尋常に、と。
彼との勝負をもって、春季最強のエクシーズ使いを決めたかったのだ。
ところが理事長は不服を聞かず、また他コースの真澄や刃の意見も聞かない。
「襲撃犯の榊遊矢は、ペンデュラム召喚の開祖。
またエクシーズ召喚の使い手の可能性もある。
であれば、エクシーズ召喚の使い手同士のデュエルで戦績が最もよいデュエリストを選ぶのが筋というものではありませんか?」
その評価、僕個人としては嬉しいが。
彼のライバルとしては納得ができない。これでは「LDS最強のエクシーズ使い」が決まらないじゃあないか。
おかげで三人全員、不満足かつ不完全燃焼なまま三本勝負に臨んでしまったのだ。
このうえで。
LDSのエクシーズ召喚も知らない榊遊矢をどこか心の中で舐めてかかったからなのだろう。
それともライバルの代わりに、そしてライバルのためにも「LDS最強のエクシーズ使いのひとり」として肩筋を張りすぎたせいなのか。
榊遊矢に勝てなかった。
カードさばきの調子が悪くなってしまっていた。
おかげで真澄のご機嫌は氷のように冷たい。
「次、おまえの番だぜ。」
「わかっているわよ。」
刃も気まずそうだ。
おたがいに今以上は余計なことを言わぬように、真澄の逆鱗に触れないようにと気を遣っているのか、最低限の言葉で「戦いに臨むように」と、簡素な物言いでけしかける。
さながら《万能地雷グレイモヤ》を踏み抜かぬようにするときの緊張感。
自分の態度が
そう気づいたのだろうか。
バツの悪そうな真澄は場の空気を引き裂くように、こわばった肩で風を切り、デュエルコートへ出ていく。
気のせいか、彼女の靴音があまりにも強い。
いらだちが伝わってくる。
おいどうすんだよこれ。
勝っても負けても後が怖いぞ。
そう語りあう男同士の目線に目もくれず、理事長は舌なめずりでもするかのように、
「ですが、我がLDSの融合召喚での勝負では、彼のようにはいかないでしょうね。」
などと、余計なことを言っていた。
やめてくださいよ理事長。
それ、遠回しに、エクシーズ使いの遊鬼まで悪く言ってませんか。
そいつ、僕と肩が並ぶ実力者なんです。
真澄の恋の相手なんですよ。
ああ、彼女が握り拳を作っちゃったじゃん。
気位の強い彼女に、遠回しに彼女が勝ちたい相手を、男友達の僕ごとコケにされたら、よけいに頭に血が昇るに決まっているじゃないか。
「なあ北斗。」
「なんだい刃?」
「これ、真澄も負ける気がする。気のせいか?」
「奇遇だね、彼女の目がくすんだ気もするよ。」
だって彼女、目つきが怖かったし。
ましてや相手は融合召喚を使わないであろう同性の女の子で、いくら遊勝塾の塾生でもある榊遊矢が僕に勝ったからとはいえ、眼前の彼女もペンデュラム召喚を使うかは怪しい。
名高いエンタメデュエリストのひとり、柊修造の娘とはいえども、だ。
つまり、そのへんのデュエル塾の塾生と大差ないくらい弱い。たぶん。
これで油断せず、理事長にも相手の塾生にも想い人をコケにされたかのような空気に包まれながら、真澄は最後まで冷静にデュエルをするだなんてできるのだろうか。
『それでは、アクションフィールド、セッ――』
どたどた、と。
柊修造塾長のアナウンスを遮るように、駆け寄る音が近づいてきた。
「……つい、た!
真澄のデュエル、終わった!?」
「えっ、遊鬼かい!?」
噂をすれば影とは聞くが。
噂する前にくるやつがいるのかい。
「おまえ、どうやってここまで?」
「……チャリで、きた!」
「うっそだろおい!?」
刃も同じことを思ったのか、本気で驚いている。
かりにも、僕たちは車で送迎された身だ。
普通に自転車で追いかけたとしても、車の移動速度についてこれるとは思えない。
がんばっても、車に置いていかれてしまう。
僕たちがどこに行ったのか、なんて見当もつけられなくなるはずだ。
「どうやって居場所がわかったんだい?」
「……いく前に、真澄が、ごめんなさいって言って、それで、」
「落ち着きなよ。どれだけ飛ばしてきたのさ。」
とはいえ、今のでわかった。
真澄がなにかしら行き先を伝えていたのだろう。
「なぜ、実力のふさわしくないあなたが此処に?」
しかし、彼と真澄の関係性が想定外だったのか。
理事長が遊鬼へ、何かを言った気がするけど。
残念ながら、不機嫌さであれば先約がいる。
「真澄!
彼だ、遊鬼がきたよ!」
この一言で、もう十分だろう。
「そ、そう。」
いかにも「私は気にしていませんよ」という声色で、背中を向けたまま言葉を返す真澄のつま先は、リズムを刻むようにデュエルコートを鳴らしていた。間違いない、機嫌を直している。
あれだけ
彼女の後ろ姿は、もういつもの気の強い女デュエリストのものになっていた。
『なんだかわからんが、ん熱血だあっ!』
「おとうさん! なに相手を褒めてるの!?」
柊親子のやりとりもあってか、場が和やかなものに染まっていく。
なるほど、これが遊勝塾のエンタメデュエルの極致だとすれば、彼らへの評価を改めるべきかもしれない。デュエルの腕前と関係なく周囲の雰囲気や精神状態をコントロールしている。
これだけでも脅威だ、ようやく理解できた。
将来の商売敵、勉強にさせていただこう。
「戦いに集いしデュエリストたちが!」
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」
柊柚子の口上に追従して、真澄も口上を唱える。
ぜえぜえと息を乱す遊鬼は、そんな真澄の姿に微笑みを浮かべた。
「フィールド内を駆け巡る!」
「みよ、これぞデュエルの最強進化系!」
「アクション……!」
ほかならぬ乙女の頬も柔らいでいる。
うんうん。それでいいんだよ、君たちは。
【Q,恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?】
【A,ちゃんと相手の晴れ舞台を応援できるのならば、けっして不可能ではありません。
応援するための努力も、実際の応援も、いずれも甲斐性のひとつです。
デュエルの内容への批評だけは避けましょう。相手の間違いや弱さを話題の種にして1アウト、ついうっかりでも頬を緩ませて笑ったら2アウトです。
デリバリー デリカシーは、だいじ。】
【Q,なんかちょっとうらやましいんだけど。いや私が遊矢と“そういう関係”になりたいわけじゃないっていうか、いえなりたくないわけじゃあないんだけれども、でも私にだって遊矢がそばにいて応援してくれるし負けてないし、べつに。ううん“そういう関係”に勝ったとか負けたとかあるわけじゃなくて、遊矢、
……そういえば遊矢にそっくりな彼、いったい何者なの……?】
【A,あなた、目がくすんでいるわね。】
・《万能地雷グレイモヤ》
相手の攻撃宣言時、相手のモンスター1体を破壊するカード。
これだけであれば《聖なるバリア ーミラー・フォースー 》より弱いが、このカードの強みは、
①対象を取らないモンスター破壊の効果。
②もっとも攻撃力の高い相手モンスターの除去。
③4枚目以降の破壊効果をもつ、攻撃反応タイプのカード。
という点にあり、攻撃力の低い順で戦闘を行いがちな中級者以上のデュエルにおいて、攻撃順を問わず「もっとも攻撃力の高いモンスター」を除去されかねない厄介な効果を持っている。
とはいえ、令和の遊戯王界隈においてはバリア系トラップカードの量も質も変わってしまったため、あくまでも遊戯王ARC-Vまでの世界観においては有用なカードである、とだけ覚えておけばよいだろう。
亜種カードではコンボ性の高い《グレイモヤ不発弾》が存在する。
どちらもカードイラスト、カード名のビジュアルがたいへんよろしく、陸軍っぽい。
《パイナップル爆弾》、《鎖付きダイナマイト》なども実在するぞ。
副題はライトノベル「扉の外」シリーズと、ゲーム「