Q.恋愛脳の男は決闘で恋ができますか? 作:ウェットルver.2
「デュエル!」
こうして、ふたりの少女の声が重なった。
「先攻は私がもらう!」
そう宣言する光津真澄は周りを見渡した。
アクションデュエル。
質量を持った立体映像で戦う新感覚デュエル。
ひとびとを熱狂の渦に巻き込む、舞網市の娯楽。
単純な立体駆動では終わらず、立体映像が照射された空間に散逸するカードにより、ただ立って通常のデュエルをするだけで終わるモンスターの実体化、モンスターとのふれあいだけではない「新戦略」が楽しめるのだ。
カードの名は、アクションカード。
「見つけた、まずは1枚目!」
立体映像により実体化するデュエルフィールド。
この空間ではアクションカードを拾い、自らのカードとして使用できる。
強制発動されるアクショントラップ。
任意発動できるアクションマジック。
それぞれを念頭においた駆け引きと、デュエルフィールドの移動は、実体化されたモンスターによる戦闘をふくめたデュエリストの移動がそのままアクションカードを確保できるか、否かに影響する。
「カードは、
アクションマジック、《ハイダイブ》。
……攻撃力増強のカードか。」
しかし、おたがいに最初の1ターンとあれば、モンスターの戦闘を介した移動はできない。
アクションカードを手に入れるため、デュエルフィールドを移動可能なモンスターを召喚しながら通常のデュエルの戦術も同時に行う、という並列思考が要求される。
これがアクションデュエルの醍醐味だ。
そこまでの戦略性をもってしてデュエルをするデュエリストとなると、まさにアクションデュエルのパイオニアである榊遊勝、彼の妻である榊洋子、および子息にして弟子である榊遊矢くらいなもので、LDSの塾生を含めた中級者は総じて「自分の足で走り出して探す」行動パターンが多くなってしまう。
しかし、
「悪くないけど、今回はパスだな。
「なんですって!?」
中級者であっても。
最初にモンスターを召喚せず、自分の足で走り。
自分の体力の消耗を念頭に置いていないかのようなスタートダッシュで、いきなりアクションカードを手札に加えるなど愚かなもの。
アクションデュエルを始めたばかりの初心者の立ち回りだろう。
そうであろうとも、光津真澄はLDS融合召喚コースのエリートなのである。
「おたがいの手札のカードをすべて捨てる。
その後、おたがいは、自分の捨てた枚数分のカードをドローする!」
「うそでしょ、せっかくいい手札だったのに!」
彼女の手札は5枚から始まり。
普通に《手札抹殺》を発動すれば、手札を4枚捨てて4枚しかドローできない。
だが事前にアクションカードを加えておくことで、彼女の手札は6枚になった。
そのうちの1枚として《手札抹殺》を発動すれば、捨てる枚数は5枚。
もともとの手札を1枚も消費をせず、真澄は手札を入れ替えたのである。
「よし、来た。
私は手札から《闇の量産工場》を発動!」
すでに彼女の墓地にはモンスターが眠っている。
最初の手札5枚の中にあるはずのモンスターたちを、墓地に控えさせていたからこそ可能となる戦術とは、なにも蛇喰遊鬼がよしとする墓地へと死なせたモンスターの魂を犠牲とする戦術だけではない。
「墓地の通常モンスターを2体、手札に呼び戻す。
効果を持つデュアルモンスターは墓地にいる時、
通常モンスターとして扱われる効果がある!」
「え? なにそれ?」
きょとんと目を丸くする柊柚子。
一瞬、おたがいに不思議そうに見合う。
片方は効果の意味が理解できずに首を傾げる。
片方は対戦相手がデュアルモンスターを知らないことへ、唇を小さく開かせる。
つい、間抜けた表情をしてしまった。
「あら、デュアルモンスターをご存知でない?
なら教えてあげる。
真の輝きを秘めた原石たちを!」
そう気づいた真澄は顔を赤らめながらも、黒い長髪を払って微笑んだ。
「まず、私は墓地の!
デュアルモンスター、
《ジェムナイト・アンバー》と、
《ジェムナイト・アイオーラ》を手札に戻す!」
これにより、彼女の手札は変動する。
手札1枚の魔法カードにより、手札を2枚増やす。
1枚消費で2枚獲得、よって手札5枚から6枚に。
「へえ、やるじゃん彼女。
融合召喚に必要な融合素材、そう揃えるんだ?」
観客席でキャンディを楽しむ少年、紫雲院素良は、通常モンスターをサポートする《闇の量産工場》をもってして融合召喚の素材を揃えようとする光津真澄の立ち回り、その意図を理解した。
さきほどのアクションカードの扱いを含めても、特定の融合素材を手札に加えやすいカードを使ってデッキから引きずりだす“融合次元”の戦術とはまた異なる、手札の質を改善しながらの連続ドローには目を見張るものがあった。
あのようにして通常モンスターを融合素材に要求するモンスターでも融合召喚するのだろう。
それでもまあ、まだ大したことはない、などと、あくびをしかけて、
「さらに私は、魔法カード《予想GUY》を発動!
デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる!」
「なんだって!?」
そうやってまた、デッキから融合素材を呼び出すのか、と、眠気が吹き飛ばされた。
まだ大したことはない、なんてとんでもない。
連続ドローと融合素材の特殊召喚、これだけ見せられれば素良も理解できる。
大胆さと繊細さを兼ね備えた「融合素材の調達手段」に長けすぎている。
「さあ、来なさい!
レベル4、《ジェムナイト・サフィア》!」
本当に舞網市のデュエリストなのか。
そんなことを疑われているとは知らず、光津真澄は己の道を切り拓く。
「墓地の《ジェムナイト・フュージョン》の効果。
墓地に眠る『ジェムナイト』モンスター1体を除外し、手札に戻す。
私が除外するのは、《ジェムナイト・アレキサンド》……ごめん。」
七色に輝く騎士の魂を捧げ、融合召喚の効果を持つ魔法カードを回収する。
これにより、《予想GUY》を発動したはずの彼女の手札は6枚から変わらない。
「ありえない!
まだ1ターン目なのに手札が1枚も減ってない!」
「それだけじゃないよ、柚子!」
観客席から声を荒げるのは、融合召喚の使い手の自負がある紫雲院素良だ。
「もう融合素材になるモンスターが3枚もそろった。
手札に戻したのは『フュージョン』の魔法カード。
きっと融合召喚をしてくる、気をつけて!」
「へえ、いい融合使いの塾生もいるのね。」
真澄は観客席をみて感心しながらも、デュエルディスクを構え直し、対戦相手へ振り返る。
「ここからが、私のデュエルの本領発揮だ!
私は手札から、
《ジェムナイト・フュージョン》を発動!
手札、場のモンスターを融合する!」
これまでであれば、蛇喰遊鬼のエクシーズ召喚する《ヴェルズ・オピオン》による融合召喚封じで身動きがとれず、ならばと守備力の高い水族の「ジェムナイト」モンスターで前線を凌ぎ、度重なるデッキ圧縮で打開策となるカードをデッキから引き込もうとするのだが。
今回は先攻、融合召喚を妨害するようなカードはどこにもない。
「まず私が融合素材とするのは、
岩石族の、
《ジェムナイト・オブシディア》と、
デュアルモンスターの、
《ジェムナイト・アンバー》!」
両手を祈るようにあわせ、天を突き、
「鋭利な漆黒よ、
眠る創造の秘石よ!
光渦巻きて、
新たな輝きと共に、
ひとつとならん!」
己の胸の前まで、祈る拳を振り下ろした。
「融合召喚!
現れよ。幻惑の輝き、
《ジェムナイト・ジルコニア》!」
巨躯を誇る騎士が顕現する。
ところが、その姿は揺らいでいる。
「この瞬間、
手札から墓地に送られた《ジェムナイト・オブシディア》の効果!
墓地の通常モンスター1体を特殊召喚できる。
もちろん、デュアルモンスターは墓地にある時、通常モンスターとして扱われる。」
「まさか!」
「そう、そのまさか!
甦れ!
デュアルモンスター、
《ジェムナイト・アンバー》!」
ジルコニアを包む蜃気楼は一転、墓地に眠るはずの仲間へと姿を変えた。
「デュアルモンスターは、フィールドでも通常モンスターとして扱われる。
ただし、私が通常召喚の権利をデュアルモンスターに捧げることで、デュアルモンスターは効果モンスターとしてのあるべき姿を取り戻す。
そう、研磨された原石が、
世にも美しい宝石へと生まれ変わるように!」
やがてアンバーの御影は実体を得て、今度は自らが輝き出していく。
命の輝きだけでなく、輝石の騎士としての力さえも増し、ここに再誕するのだ。
光津真澄という腕巧みな研磨師の指先が、柊柚子の知らない境地を示した。
「さあ、アンバーのモンスター効果!
手札の『ジェムナイト』カードを捨てて、発動!
除外されたモンスターを1体、私の手札に戻す。
私が捨てるのは当然、
《ジェムナイト・フュージョン》。
そして手札に戻すのは、
《ジェムナイト・アレキサンド》!」
「えっ、……まさか、これって、」
「さらに墓地に送った《ジェムナイト・フュージョン》の効果を発動!
今度は融合素材の《ジェムナイト・オブシディア》を除外し、このカード自身を手札に戻す!」
「無限ループ!?」
「そうでもない。
残念だけど、アンバーの効果は1ターンに一度しか発動できないのよ。」
「な、なんだあ。びっくりしたぁ……!」
ほっと胸をなで下ろす柚子。
彼女は忘れていた。
安堵しているどころではない。
真澄の手札は6枚から融合召喚を始めて、3枚消費しながらも、《ジェムナイト・フュージョン》の効果により墓地から自分で手札に戻ってきているため、2枚は正体がわかっていてもまだ手札が4枚も残っているのだ。
「もう一度、
《ジェムナイト・フュージョン》を発動。
フィールドの、
《ジェムナイト・サフィア》と、
手札の、
《ジェムナイト・アイオーラ》で融合する!」
「あ゛っ。」
「なにボケっとしてるのさ、柚子!?」
そう、無限ループでなかろうとも。
状況はマシになどなっていない。より悪化する。
気づき青ざめる姿へ、素良は頭を抱えた。
「堅牢なる蒼き意志よ、
目覚める愛よ。光渦巻きて、
新たな輝きと共にひとつとならん!
融合召喚!
現れよ。不倒の輝き、
《ジェムナイト・アクアマリナ》!」
守備表示で呼び出された騎士は、静かに柚子の様子をうかがっている。
融合モンスターを2体出しても気を緩めず、
「墓地の《ジェムナイト・フュージョン》の効果。
今度は《ジェムナイト・サフィア》を除外して手札に戻す。
リバースカードを2枚伏せて、ターンエンド。」
迎撃の一手をそろえてから、真澄はアクションフィールドを駆け巡る。
油断や慢心なんて、できるわけがない。
みっともない姿では、自分で魅せられない。
ここまで至れども勝てないのが、自分を見守るエクシーズ使いなのだから。
「見てなさいよ……!」
それはデュエリストとしての挑発なのか。
すきな男へいい姿で魅せたい。
そう強く前を向き己を磨く女の意地か。
あるいは勝負も矜持も関係ない、ただ応援してほしい気持ちからか。
どれであろうと、すべてであろうと。
彼女の胸の鼓動は足を早め、背中を押している。
一方で、柊柚子は。
「こんな強い子、どうやって勝てばいいのよ!?
ううん、呑まれている場合じゃない!
遊勝塾が……!」
親の家業、自分の居場所を揺るがされている。
実力ではひとつも相手に敵わないのではないか、などと思う以上の、あまりにもスピード感のあるモンスターの連続特殊召喚と、融合モンスターの連続融合召喚に目を回し、二回りも大きく見えるシルエットへと畏怖を抱いてしまっている。
なぜこんな強敵を相手にしているのか。
なぜこんな強敵とデュエルしたのか。
思い起こされる、気に食わない沢渡シンゴを一蹴した名の知れぬ少年。
幼馴染の榊遊矢によく似ているマスクの男。
彼は何者なのか。なぜ幼馴染に似ているのか。
どんどんデュエルと関係のない事柄へと意識が向かい、現実逃避をしてしまう。
「あなた、……目が、くすんでいるわね。」
血の気を失いゆく柚子に、まぶたを伏せる。
もう少し楽しめるデュエル塾の塾生かと思えば、プレッシャーに押しつぶされて、デュエルと関係のないなにかへと意識を奪われてしまっているようだと悟る。
相手のドローをする指先は震えていた。
彼女と柊塾長の関係。
遊勝塾の成り立ちについての噂。
遊勝塾で笑いあう塾生たちの輪。
ヒントは、そろっている。
おそらく自分も、パパの家業に関わる勝負事ならば、正気ではいられないだろう。
そうであっても手加減はしない。
できない。してはいけない。
わざと負けるなど、マルコ先生にも、遊鬼にも自慢できる美談などではない。
デュエリストの研鑽を軽んじる真似でもある。
「がんばれ、柚子!」
彼女の意中のひとなのだろうか。
柊柚子は、榊遊矢の声を聞くや否や、はっ、と頬に血の気を取り戻していた。
(そう、あなたも恋をしているのね。)
立場がまったく同じだと感じた真澄は、ほんのわずかに重くなってしまっていた足が軽やかに運べると気づいて、拳をより強く握りながら走り続ける。
そう、柊柚子の恋の相手の口癖と同じだ。
お楽しみはこれからだ。
もちろん、私が遊鬼を楽しませる楽しみも。
「あら、いい声援じゃない。
だったら、なおさら負けられないわね。」
どちらが勝利するか。
どちらが意中の相手を釘づけにできるのか。
くすむ瞳に光を取り戻しつつある好敵手を前にして、己の恋を自覚する乙女は不敵に笑った。
【Q,恋愛脳の男は決闘で恋ができますか?】
【A,あなたを恋愛対象が「恋で夢見る価値をくれる相手だ」と思えれば、できます。相手の夢や希望を汲み取ったうえで、その夢を奪わず、笑わず、支え、見届けることまでできれば、その可能性は生じるでしょう。心の甲斐性です。】
【Q,なんか遊鬼の鼻血がすごいんだけど、彼、大丈夫なのかい?】
【A,そっとしてあげましょう。
強く意識している異性の魅力的な姿を1秒でも多く脳裏に焼き付けたい。これが恋する人間だとすれば、あれだけ大胆に動かれると、鈍感で異性への興味が薄い人間でもない限りは、あんな融合召喚の仕草に耐えきれません。あの仕草は異性であれば誰にでも興味を抱く思春期の少年でも見るだけで正気を失いかねません。
そのうえでデュエリストの決闘はデュエリストの本能へと訴えかけ、免疫系が活性化して体温が上昇、血の気が昂り、なおかつ原作キャラクター同士が原作と同じ状況で、まったく異なるデュエルをするのです。
決闘者やオタクとしても興奮しています。
……そっとしてあげましょう。】
・《ジェムナイト・フュージョン》
「ジェムナイト」融合モンスター専用の「フュージョン」魔法カード。
墓地に送られても手札に戻せる②の効果を持つため、1ターンに何度でも融合召喚を狙える。
つまり、どれだけ雑に扱っても手札に戻せるため、《手札抹殺》や《手札断殺》による手札交換の代償として墓地に送ることはもちろんのこと、《ジェムナイト・アンバー》を含む「ジェムナイト」モンスターの効果の手札コストとしても消費可能。
とはいえ、②の効果を使うたびに墓地の「ジェムナイト」モンスターが減っていくため、除外したくないモンスターを代償にしかねない、手札に戻すべきではないタイミングであるなど、②の効果を発動できても発動しない方が得となる状況もある。
また、考えようによっては、
「手札に通常魔法カードを確保できるカード」
「かならず墓地から任意の種族の地属性『ジェムナイト』モンスターを除外できるカード」
としても扱える有数のカードであるため、そちらを意識した運用も面白いだろう。
副題は、ライトノベル「刀語」から。