ある日突然ゴムのように 作:Dの一族
大きな蹴音とともにやつは俺の目前へと接近する。
俺は少し後ろによろけつつも、奴の踏み込みから放たれる尻尾の一撃を屈んで避ける。
そしてそのまま拳を振るって奴の腹に一撃を叩き込む。
ただの一撃、ゴムの反動を使っていない普通の攻撃だ。
当然ながら、人獣型の奴には通るわけがない。
「そんなもの……
俺を突き放すように奴は蹴りを放つ。
腹にその一撃が突き刺さるが、近くの壁に吹き飛ぶだけでこれといった傷も付かずに済む。
ただ威力だけははっきりとわかる、普通の体ならば今の一撃で気絶していただろう。
ゴムの体で助かった、と言うところか。
(どうする……もっと近距離で、確かな狙いを持って、簡単に……!)
攻撃を、と考えるもその一手が思いつかない。
ゴムゴムの
それにその一撃を確かに当てる正確さ、威力に関しては勢いで稼げるはず。
とにかくそれらをもっと簡単に短縮できる方法があれば、俺でも奴を相手に戦うことが可能だ。
だからこそ考えを張り巡らせるのだが。
(攻撃避けるので、精一杯ッ!!)
次から次へと降りかかってくる奴の攻撃。
蹴りと尻尾から繰り出される連続攻撃には恐怖しかない。
それを必死に避けるだけで精一杯だ、と言うか正直なところ、避けれてるだけでも奇跡みたいなものだ。
「邪魔すんじゃねェッ!!」
壁際で少し身を屈めた瞬間、尻尾の一撃がぶつかり壁が大きく凹み割れる。
俺はそこに向けてアッパーを繰り出すが意味はない。
ダメージはほぼ通っていないようで、俺の頭上にかかと落としを繰り出す。
頭がぶちゃっ、と言った感じに潰れるが、奴が足を退けると元に戻る。
それを見て奴は舌打ちをして少し後ろに下がる。
「……クソッ! 刃物が欲しい!」
「残念だったな! 俺に物理攻撃は通らねェ!」
奴が離れたところ見計らって壁際の手すりを掴んで走り出す。
そして少し奴に接近したところでパッと離し、拳を握って全力で叫んだ。
「『ゴムゴムの
拳は一直線に飛んで行く、今回も上手くいったようで奴の顔面めがけて飛んで行く。
だが奴は少し足を後ろに下げると声を荒げる。
「ンなもん……効くかァッ!!」
奴に拳が当たる瞬間、奴は大きく足を上げて拳を蹴り上げる。
軌道は大きくズレて二階部分の奴の後ろの壁に拳が突き刺さった。
そして同時に奴は俺に向かって走り出す。
目前で飛び上がり、攻撃されると思い目を瞑るが、奴は俺を乗り越え後ろに行った。
そして手すりの棒を一本、壁を破壊しながら抜き取ると、壁から腕を抜き取り手元に戻した俺を押し倒す。
そして左手を無理やり床に叩きつけると、手のひらにその手すりを突き刺した。
刃物のように尖っていないからダメージが入ることはなかったが、手は眼前に床に固定されて動かなくなってしまった。
「な……テメェッ!!」
俺は左手を上げようとしたり、右手で棒を引き抜こうとするもビクともしない。
無理やり左手で引き抜こうとすれば、ただ腕が伸びるだけだった。
「……猿田、お前はクリアちゃんを捕まえた後に相手してやるよ。取り敢えずあいつらに……ん?」
突然誰かのスマホから音が鳴り響く。
と言っても、ここには二人しかいないから、俺ではない以上誰のスマホかははっきりしている。
笑貌はもがく俺から離れ、懐からスマホを取り出し電話に応答する。
「なんだ。ああ……その件か、分かっている……クリア・ザルフェンの食った悪魔の実の話だろう……おい、ちょっと待て。切るな。
何か怒りのまま応答し電話を勢いよく切る。
そして何か盛大にため息をつきながら、俺の元に戻ってくる。
「取り敢えずお前は連行だ。その悪魔の実はちゃんと回収しなきゃいけないんでな」
「……なぁ、一ついいか? お前らって、いつから活動してるんだ?」
「いつから……さぁな、俺も知らねェ。だが、悪魔の実は昔っから存在した。最近になって大量に増えだした、ってだけの話だ」
そう言うと体育館裏に向かって歩き出す。
(まずい! どうにかしないと、見つかってしまうッ!)
俺はもう一度、無理やり引き抜こうと腕をあげる。
しかし当然ながら、ビクとも動くことはない。
「く、そおおおおおおおおおッ!!!」
「いくらもがいたってムダだ。どう足掻こうたってな、仲間が来ねえ限りは……」
そこまで言って、突然驚いたような顔をして振り返る。
向いた先は体育館のステージ、裏倉庫がある方面だ。
そして奴がそっちを向いたと同時に、体育館内は
「ソコ、退いてくだサイ……!」
「……クリア……ザルフェン! お前……分かっているのかッ! それを使うことの意味をッ!」
「よく、知っていマスよ……だからこそ、デス。猿田さんはなにも知らナイのに、私のことを助けてくれマシた。だから、だからコソ……私が動かなきゃダメなんデス!!」
「く、クソッ!! テメェえええええッ!!!」
笑貌は何かに激昂して走り出す。
俺は身を乗り出して彼女に逃げるよう叫ぼうとした。
だがその前に体育館は、
文字通りの意味だ、比喩でもなんでもない。
笑貌を巻き込み氷像にして、体育館は一種の冷蔵庫のような状態になっていた。
そして俺を固定していた棒は完全に凍りつき崩れ壊れた。
「……これは、まさか……ヒエヒエの実……!」
俺は立ち上がって体育館をぐるりと見渡す。
もはや運動ができるような場所ではないことだけは確かだった。
(ザルフェンさん、ヒエヒエの実を食べたから狙われていたのか……?)
と考えながら、彼女の方を見る。
彼女は酷く辛そうに息を吐きながら、体の半分が凍りついていた。
どうやら彼女もまた、その能力を完全にコントロールできていないようだった。
「ざ、ザルフェンさん!!」
俺は急ぎ彼女の元へ行く。
倒れる彼女を無理やり腕を伸ばしクッションにして、なんとか倒れる寸前のギリギリで抱きかかえる。
「大丈夫か!? 冷たい……と言うかすげぇ寒い!? 普通の体温じゃねェ!」
多分普通の人間ならば、死んでいるような温度であることは間違いないだろう。
どうするか一瞬悩んだ末、俺は急いで彼女を抱きかかえたまま体育館の外へ向かったのだった。