手元の資料を捲る。そして目の前にいるコダックの肌を見比べる。少し艶が落ちているようだ。もう少し水ポケモン用の保湿剤で手入れをしてあげた方がいいだろう。
お腹を触る。柔らかい。資料に書かれた体重は平均のコダックよりもかなり重い。体長は平均値。
「食べ過ぎですね」
「いえいえ、その子にはもう少しバトルか運動をさせて上げてくださいね。少し肥満気味です。ご飯は何を?
ふむ、ならこういったポケモンフーズがオススメですね。味もそこまで変わらず太りにくいです。あと量は程々にお願いします。満腹まで食べさせるのはあまり良くないので腹八分目くらいの量を意識して上げてください。
後は少し肌の艶が落ちているようなので、水遊び後やお風呂上がりに軽く保湿剤を使うことをオススメします。
まぁそのくらいですかね。病気は一切なく健康です。食べ過ぎて気分が悪くなっただけのようですね。
一応薬も出してもらうようポケモンセンターの方に連絡しておきますので後で取りに行って下さいね」
静かに診察を受けていた青いコダックにご褒美としてポケアメイチゴ味を渡す。それを嬉しそうに受け取ったコダックに表情が思わず緩む。
「ではまた何かあれば何でも言いに来てくださいね。お疲れ様でしたー」
ふぅ、とお客さんを見送った後に一息つく。ここは病院じゃないんだけどなぁ…
あんなことをしていたが、俺はドクターではない。一応博士である。一応『色違いのポケモン』をテーマに研究している。
色違いは何故通常個体と色が違うのか、何故色違いのポケモンは1種類の色しかないのか、色違いになることによって体の異常は発生するのか…数えればキリがない。分野としてはかなり人口が少なく、まだまだ分からないことだらけだ。
理由は一重に色違いの個体数の圧倒的少なさなんだけども、まあそれはそれでやり甲斐はある。
閑話休題
で、さっきわざわざ博士である俺が医者の真似事をやっている理由だが、それには深い理由がある。
それは俺がポケモンに好かれやすいという体質があるからだ。
基本的に色違いのポケモンは希少であり、欲深い人間から常日頃狙われている場合が殆どだ。人の手持ちでも、無理やり奪い取ろうとする犯罪者が存在する。例えばロケット団とかロケット団とかロケット団とか。こういうこともあり、色違いのポケモンは警戒心が人一倍高く、相手がジョーイさんであっても中々心を開かない。
だが俺だけは例外。色違いに限った話ではないが、警戒心が高いポケモンであっても何故か俺にはすぐ懐く。
心無いトレーナーから暴力を受け捨てられたゴルバットを保護した際には1日で懐かれてしまい、さらにはなつき進化までしてクロバットになってしまう始末。洗脳かな?その時から少し自分が怖くなった。
まぁこういった理由で色違いのポケモンを持つトレーナーは、ポケモンのストレスが溜まらないように俺の研究所に来ることが多いのだ。俺の祖父がナナカマド博士だということも多いのだろう。
あの爺さん博士界隈の中でも大御所でありネームバリューも凄い。そんな祖父を持つ俺の所なら安心だ、という親の七光り的なポジションに俺はなっているのだ。親ではないけど。
学会に出席すれば同業者からもおべっか使われるから苦手。そういった面から言えば対等に話してくれるプラターヌ博士やククイ博士のような人達の存在は本当にありがたい。
話が逸れた。
まあそんな訳で結構な頻度で色違いのポケモンを観察する機会があるため研究はかなり順調に進んでいる。次の学会に間に合うようにまたレポートを作成しないといけない。
「お邪魔するわ!」
バタンと研究所の扉が勢い良く開け放たれる。視線を移せばそこにはシンオウ地方元チャンピオンのシロナが腕を組んで佇んでいた。
シロナ。彼女は爺さんの教え子であり、俺が現役のトレーナーだった頃、共に旅立ち競い合った仲である。シロナにはせっかくチャンピオンになったのにたった数時間でチャンピオンから引き摺り落とされてしまった苦い思い出がある。
カントー地方の方でも少し前に同じようなことがあったらしい。奇遇だなー。
「シロナか、何か用か?」
「別に?用事がないと来ちゃダメなの?」
「ダメです。今日はレポート書かなきゃだから忙しいの。暇ならドダイドスと中庭で遊んできな」
「つれないわねー、普通こんな美女が尋ねてきたら鼻息荒くして茶菓子の一つや二つくらい用意するものよ?」
「自分でそれ言うか…」
まぁ美人さんなんだけどなぁ。正直彼女は妙に距離が近いから苦手なんだよなぁ。嘘です。すごいドキドキして勘違いしそうだから本当にやめて欲しい。いや、苦手ということは嘘ではないか。もう既に長い付き合いだが未だに慣れない。
ちなみにドダイドスは子供の頃からずっと一緒にいた親友であり相棒である。この子も色違いなため、昔から人と人とのいざこざに巻き込まれ、俺と俺の家族とシロナ以外には一切心を開かない。俺の手持ちのエースであったが、シロナとのチャンピオン防衛戦の時にガブリアスとの一騎打ちにて足を負傷、そのまま引退してしまった。だが俺もドダイドスもそれを後悔していない。全てを出して、燃やし尽くして、全身全霊戦って敗れたのだ。負けた時は悔しさと共に清々しい気分だった。
「ところで明日、イッシュ地方に遺跡巡りがてらバカンスに行く予定なの。カズも来ない?」
「いきなりだな。普通に無……すまん、ちょっと電話」
唐突なバカンスのお誘いに困惑していると、ロトムスマホがケテケテとコール音を流す。誰かから電話が来たようだ。
スマホを耳に当て電話に出る。
どうやらイッシュ地方のアララギ博士(女性)からだ。内容はこの前学会で会った時に依頼した作業が終わったとの事だ。流石に仕事が早い。それにしてもイッシュ地方か、それなら明日シロナと行くのもありよりのありかな?
「ありがとうございます!明日ちょうどイッシュ地方に行く予定があったのでそちらに着き次第伺わせていただきます。
いえいえ大丈夫です。はい、はい、失礼します」
電話を切って振り返る。
「なぁシロナ、やっぱり行うぉッ!?近い近い!?」
振り返るとすぐそこにシロナの顔があり変な声が出てしまう。息が顔に当たる距離まで近づいて来ており、心臓が高鳴る。
「今の女…誰?」
シロナの綺麗な銀色の瞳が真っ黒に淀み、何だかグルグルしている。雰囲気が多少怖くなるが、距離が近くなったことで花のような香りが鼻腔をくすぐる。
心臓がドクドクと悲鳴を上げるように激しく鼓動する。心臓に悪すぎるんだよなぁ。
「アララギ博士だ。自然保護区へ行く許可がおりたからわざわざ連絡してくれてたんだよ。だからちょっとだけ離れて…!」
「ふーん、それで私とイッシュ地方に行きたいって?
…まぁいいわ、その代わり私もアララギ博士のとこについて行くから」
「えぇ…別にいいけど…」
「よし、じゃあ決まりね」
シロナはいつの間にか元に戻っており、そのまま出口へと歩いていく。
「明日の昼頃に迎えに来るから準備しておいてね。じゃあね」
軽く手を振りシロナはトゲキッスに跨り帰って行った。
「はぁ…」
ため息を吐く。嵐のようなやつだったな。それにしても明日はイッシュ地方か。
いそいそと外出の準備を始める。まぁ振り回されるのも今更のことだし、別に悪いことではない。正直シロナと出かけるのは楽しいし。
「とりあえずジュンサーさんとヒカリちゃんに出かけるの伝えとくかな」
久しぶりの休暇だと思えば悪くはないか…
・カズナ
ナナカマド博士の孫でありシロナとは同期。名前の由来はホザキナナカズラから。没名はザキ。
元チャンプで現ポケモン博士。ポケモンの色違いをテーマに活動しており、『国際孵化』を提唱し、ナナカマドの孫という肩書もあり界隈では注目されている。
ゲームではダイパに出てきて色違いのポケモンを譲ってくれる。プラチナではバトルも可能で、レベルも強化シロナより少し低い程度でかなり高い。
リメイクではどちらのイベントも用意されているという設定。