私なんかエロゲのラスボスの娘っぽくない?   作:黒葉 傘

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エロゲに転生する小説が、最近増えてきた気がする。
かなりニッチなジャンルなので流行れとは思わないが………
作者は嫌いではないぞ(性癖に正直)


生まれ落ちたらエロゲでした

 肉が蠢く姦しい音がする。

 その湿っぽい音とともに耳につく甲高い嬌声も、もはや聴き慣れた………聴き慣らされてしまった。

 仕方ないことだ、なにせここは恐らくとあるジャンルのゲームのラストダンジョンだろうからね。

 

 私はノーラ・キャロル、この肉の城の主である堕落王フェリナスの一人娘だ。

 私は俗にいう異世界転生者というやつなのだが………

 転生した世界に問題があった。

 まず、生まれ落ちてみたら、周りは触手だらけ、母親は今なお凌辱の真最中という感じで……正直あり得ない状況すぎて度肝を抜かされたよ。

 こんな地獄のような状況で生まれた転生者は私ぐらいなものだろう。

 ビックリしすぎて途中で産声を止めちゃったもんね。

 そんな生まれ方をしたもので、私は早々に自分の生まれた世界の異常性を認識した。

 この世界では堕落を司る魔族と愛と正義を司る天使が人類の未来をかけて争っている。

 天使とは天より加護を得た清らかな女性であり、人類を堕落させる魔族をその天の力で浄化する。

 魔族は天使の身体を穢すことによってその加護の資格を剥奪し、堕落させるのだ。

 天使は敗北したが最後、その力を奪われ、魔族を生み出す苗床として生きることとなる。

 

 うーん、それなんてエロゲ???

 

 私は自分が転生したのはエロゲの世界だと確信した。

 それも凌辱系でハードなヤツだと。

 神様!もっとまともな転生先はなかったんですか!!!

 

 唯一の救いは私は敵サイドの魔族だということ。

 魔族を滅ぼすだろうと言われていた最強の天使のリリィナ・シルヴィナス、彼女を負かした父親が凌辱の限りを尽くした末に生まれたのが私である。

 不定形で知性のなかった他の兄弟たちとは違い、私は人型であり母親のリリィナによく似た金髪碧眼の少女だった。

 うん、我ながらすっごい美人さんなのだ。

 私前世は男だったんだけど………

 いや、辱められる側の天使の少女よりかはマシだけどさ………なんで男じゃないのぉ?

 この世界に魔族と人間のハーフというものは存在しない。

 そもそも魔族が人間と子をなす前提の生き物だし。

 魔族の格が強すぎるのか、人間と魔族から生まれるのは純度100%の魔族である。

 だから、私はこんななりをしているが立派な魔族なのだ。

 よって魔族に襲われる心配はない、それだけはマジで助かる。

 おまけに父親は母親を思い起こさせる私の美貌をたいそう気に入っており、私は王の溺愛する娘として大事に大事に育てられている。

 やったね!深窓の令嬢だよ(周りは魑魅魍魎)

 ちなみに母親は私を産んでからしばらくして衰弱死したそうだ。

 ふえぇぇえん、救いがないよ〜。

 

 それにしても……ラスボスの娘でかつての最強の天使と瓜二つの魔族か………

 これ、四天王的なポジションで出てきて主人公に憧れだった天使の末路を見せつけるやつじゃん!絶対そうだこれ!!

 きっと「リリィナさん!?なんでこんなところに……?」とか勘違いしたセリフを言われるんだろうな〜。

 うわ〜、目に浮かぶわ。

 まぁ、私は魔族とはいえ前世の倫理観があるので凌辱なんてしないけどね!

 

 

 

 

 

 蝶よ花よと育てられている私だけど、私も魔族なので人類を堕落させる使命がある。

 父親も過保護とはいえ、私には立派な魔族になって欲しいようで定期的に私は天使狩りに駆り出される。

 でもねぇ……天使を辱めて堕落させろと言われましても、やっぱり私には前世の倫理観がありまして、ちょっと………きついというか、嫌です。

 もう、周りの魔族が天使に酷いことするのは慣れたし止めようとも思わないが、自分でそれをするのは流石に抵抗がある。

 というわけで………

 

「お前たち、頼んだわよ」

 

 私の護衛についてきた魔族に毎回やらせている。

 そんなガバ作戦で父親にバレないのかと思うかもしれないが、私には魔族としてのチート能力があるのだ。

 力の強い魔族は特別な能力を有していることが多い。

 最強のラスボスの血を引く私も例外ではなく、能力を有している。

 私の能力、それは洗脳。

 相手を私の意のままに操ることができる。

 その力は凄まじく、命令すれば逆えず、さらに目を合わせれば完全洗脳となり、記憶や常識すら書き換えることができるのだ。

 うん、エロゲでよくある、嘘を付けなくして淫らな言葉を吐かせたり、常識を改変してエロいことに抵抗をなくすアレだね………

 これにより私は護衛の手柄を私のものと記憶を書き換えて、あたかも私が堕落させたかのように報告させているのだ。

 今日も今日とて私は天使の相手を護衛に任せ、自由時間を満喫している。

 自由時間に何をしているかというと………小説を書いてる。

 ちょっと言い訳させて欲しい。

 この世界ま〜〜〜じで娯楽がないんだって。

 ファンタジー世界だからネットもない、テレビもない、ゲームもないの三拍子。

 魔族の娯楽は天使を凌辱することなので、娯楽文化が全然発展していないの。

 人間界も堕落を恐れて禁欲的な生活を送っているせいか、娯楽らしいものが見当たらない。

 本はそこそこあるんだけど、なんかこう、聖書みたいなお堅い本ばっかり。

 私は!夢に溢れた小説が読みたいの!

 でもどこにも見当たらないわけで…………

 無いなら自分で作るしかねぇよなぁ!!

 というわけで虚しく自家発電しているわけなのだ。

 ………こうして書き物をしていると、誰かに読んでもらいたくなるね。

 自分1人で完成させたものだと、客観視できなくて面白いかよく分かんないや。

 でも魔族は小説なんか絶対興味ないしなぁ。

 城にいる天使はみんな堕落し切ってアヘアヘ言っているだけで、小説は読めなさそうだし。

 どこかに小説の面白さを共有できる人間が転がってたりしないかな〜。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……ッ、はぁ……っ……はぁ……」

 

 牢獄に、あたしの荒い息が反響する。

 肉でできた悪趣味な檻にあたしは閉じ込められていた。

 先ほどまで受けていた仕打ちのせいで、身体が熱い。

 あたしは天使なのに………こんなところで、堕落するわけにはいかないのに………

 そんな自分の意思とは逆に身体はすでに屈しかけていた。

 そんな自分の現状が、惨めで涙が頬を伝う。

 

「あ〜いたいた!あなたが噂の天使」

 

 そんなあたしに場違いなほど明るい声がかけられる。

 

「誰!?」

 

 慌てて涙をぬぐい、声をした方を睨む。

 魔族にあたしの弱っている姿なんて見られるわけにはいかなかった。

 でも、そこに立っている人を見てあたしは困惑した。

 

「………人間?」

 

 そこに立っているのはどう見ても人間の少女だった。

 艶やかな金髪に澄んだ青い瞳、整った顔立ちの少女があたしに向かって微笑んでいる。

 こんな魔族の巣窟には似つかわしく無い純粋無垢な姿だった。

 

「失礼だね、私は立派な魔族だよ」

 

 そう言って彼女は胸を張る。

 人間の姿をした魔族………今までラミアやサキュバスのような人間に似た魔族とは戦ったことはあるが、ここまで人間に近い魔族は初めて見た。

 

「あなた、どんなに穢しても堕落しないって本当?」

 

「当たり前だ。あたしは誇り高き天使!お前たち魔族なぞには絶対負けない。快楽に屈したりはしない!!」

 

 彼女の問いに、あたしは強がりで答えた。

 もう、身体は限界だというのに………負けを、認めたくなかった。

 あたしの答えに、少女はどこか妖艶に微笑んだ。

 

「うっわ、テンプレ〜。どうせ「くっ、殺せ!」とか言ったんだろうな〜」

 

「………はい?」

 

 テンプレとはなんだ?

 それになぜあたしの言ったことを当てられた?

 困惑するあたしに一冊の本が差し出される。

 

「はい、これ読んで」

 

「なんだこれは、貴様らの言うことなど聞くものか!!」

 

 この少女も、どうせあたしを辱めに来たのだろう。

 そんな奴の言葉など聞いてたまるか。

 

「読んで」

 

 少女の目が赤く輝く。

 気がつくと、あたしは本を手に取っていた。

 なぜだろう、この少女に逆らえない。

 手が勝手に本をめくり、目が文字を追う。

 それは、なんというか………平和な物語だった。

 森の動物たちが仲良く暮らしていて、時々人間や魔物がやってくるけど、みんな仲良しで楽しく暮らしているという……

 絵空事みたいなほんわかした話。

 ?????

 これが一体なんだというのだ。

 いつものように魔族に凌辱されると思ったら、意味のわからない綿菓子みたいな甘い甘い物語を読まされている。

 これを読んであたしにどうしろと!!??

 

「どう?どう?」

 

 少女がニコニコしながら感想を聞いてくる。

 いや、どうと聞かれても………

 

「平和で、まるで現実味がない……この物語になんの意味がある」

 

「え〜、現実に無いから、憧れるし面白いんじゃん。だいたい小説というものは………」

 

 少女はなにやらくどくどと語り始めた。

 何がしたいんだこの魔族は、他の魔族とはあたしに求めていることが違う気がする。

 あたしを辱めるつもりはないのか……?

 少女は一通り語り終えると、あたしにこう尋ねてきた。

 

「ねぇ、面白かった?」

 

 あたしは回答に困る。

 面白いとも、つまらないとも言えない、不思議な感覚だったからだ。

 

「…………さぁ?」

 

 あたしは首を傾げて曖昧に答えるしかなかった。

 少女の顔がへにゃっと歪む。

 

「だめか〜。結構自信作だったんだけどな〜」

 

 自信作?もしかしてこの本は目の前の少女が書いたのだろうか…………?

 

「ほのぼの系は需要ないのかな?次はもっとハードなのを書くか……」

 

 少女はまたぶつくさと喋っている。

 次?また何かあたしに本を読ませるつもりなのだろうか。

 

「うん!また今度、本を持ってくるから、堕落しないでいてよね!私はちゃんとした感想が聞きたいんだから〜!」

 

 少女はそう言うと、ご機嫌な様子で去っていった。

 なんだったんだ……あれは。

 貴様にそう言われなくともあたしは堕落するつもりは毛頭ない。

 

 ……………

 

 ………嘘、本当は、限界だった。

 あたしは今日、堕落するんだと思っていた。

 他の天使みたいに屈服して、天から見放されるのだと、ぼんやり考えていた。

 でもあの可愛らしい魔族は、あたしを辱めなかった。

 あたしが堕落するのを、望まなかった。

 地獄みたいな牢獄で見つけた、小さな味方。

 まだ………がんばれそうだった。

 負けられない理由が、一つ増えた。




読者さんも、堕落しないでちゃんと感想書いてよね!(感想乞食)

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