私なんかエロゲのラスボスの娘っぽくない?   作:黒葉 傘

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2人は幸せなキスをして終了

「ねぇ、本当に戻るつもりはないの〜」

 

 リエル先輩が不満そうに唇を尖らす。

 人々が往来する城下町、そこにあるこぢんまりとしたパン屋に私たちはいた。

 私はパン屋の店員、先輩はお客さんとして。

 

「戻るつもりはありませんよ。あの日私の剣は折れましたから」

 

 私は先輩の問いかけにゆっくり首を振る。

 先輩は時々こうやって店に来ては私の天使としての戦線復帰を勧めてくる。

 まぁ、そのついでにいつもパンを買っていってくれるので私に文句はない。

 パンが目的ではないにしても、こうやって定期的にパンを購入してくれるのだから、彼女は一応常連客だ。

 

「折れたって……あなたの剣は加護で生成してるのだから作り直せばいいじゃない〜」

 

 はぁ…………わかっていないなぁ。

 あの日、私の剣は折れたのだ。

 私の自信も責任もプライドも、天使として築いてきた何もかもと共に…………

 

「戻らないですよ、何度も言わせないでください。それに、私本当はパン屋さんになりたかったんですから。父も、私が後を継いでくれて喜んでますし」

 

 加護を授かってしまうまで、私はこの小さなパン屋を継ぐのだとずっと思っていた。

 特別なことなんて何一つもない、平凡なパン屋の娘だったのだ。

 やっぱり、白銀の天使なんて私の柄じゃない。

 この小さなパン屋が私の居場所だ。

 この店に戻って、それを実感した。

 

「堕落王が死んだって、まだ魔族が全滅したわけじゃない。私たちの戦いは終わっていないのに〜」

 

 先輩はそう愚痴りながら店のカウンターに突っ伏す。

 あの…………他のお客様の邪魔になるのでほどほどにしてくださいね。

 確かに、堕落王も堕落四将ももういないが、魔族はまだ存在しその被害も出ている。

 でも、その程度なら別に私じゃなくても、ベラ先輩やリエル先輩が対処してくれるだろう。

 天使の勝利は時間の問題そうだった。

 

「まだ堕落王を殺したノーラも、それに従う堕天使も見つかってないのよ〜」

 

 バンバンとカウンターが叩かれる。

 先輩……怒りますよ?

 私が睨むと先輩はすごすごと引き下がった。

 

「彼女たちは敵じゃないと思いますよ」

 

 魔王の娘ノーラ、そして天使を離反したアルマ、2人は姿を消し、あの日から消息がわからない。

 堕落王を打ち倒すほどの力、確かに先輩たちが危険視するのもわかる。

 第二の堕落王になってもおかしくない実力だ。

 でも、あの2人に限ってそれはないと思う。

 お互いのことしか見えてなさなそうだったし………

 

「楽観的ね〜」

 

「楽観的なのは先輩の方では?」

 

 天使と魔族との戦いは続いている。

 でも、その終わりはもう目と鼻の先だ。

 その先のことも想像した方がいいと思うんだけどなぁ。

 

「神の加護も、いつまであるのかわかりませんよ?戦いも終わったら国からの支援もなくなるでしょうし…………そうしたら先輩たち無職ですよ」

 

「え゛?」

 

 先輩の目が見開かれる。

 加護を失うことなんて想像もしていなかったようだ。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………この店って、アルバイトとか……雇ってない?」

 

 それが堅実な選択だと思いますよ。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「はい、これ読んで」

 

 私は一冊の本を差し出した。

 

「なになに?新しい物語」

 

 アルマさんは嬉しそうに本を受け取る。

 読んだことのない物語を期待しているみたいだけど、残念ながらこれは違う。

 

「んーん。前書いたやつ書き直したの」

 

 私の言葉にアルマさんは首を傾げる。

 今更なんで物語を書き直したのか、疑問なのだろう。

 よろしい!その疑問に答えてやろう。

 私は胸をはり、天に向かって指を突き立てた。

 

「この小説で、私は天下をとる!!」

 

「ん?……うん、頑張ってね」

 

 アルマさんはよく分かっていないのか、曖昧に微笑んだ。

 今は分からないでもいいさ、いずれ驚かせてやる。

 今、私たちはとある城下町にある家を借りて、穏やかに暮らしていた。

 姿をくらます際、お城から貴重品をぶんどってきたので、当面の費用には困っていない。

 とはいえ、それも無限ではない。

 最近アルマさんが働き口を探しているのを目撃してしまった。

 嫁にばかり働かせるわけにはいかない!

 私も何かしなければ……と考え出した結論。

 私の書いた小説を売りに出す。

 今、魔族たちとの争いも終局に向かいつつある。

 にわかに平和になり始めた人間界。

 そこで必要になってくるのは…………やっぱり娯楽でしょ!

 いままで人々は娯楽に興じる余裕もなかった。

 でも堕落へと誘う魔族がいなくなれば、食も娯楽も発展していくだろう。

 そこで小説というこの世界にとって新鮮な娯楽を提供して一大旋風を巻き起こすのだ。

 完璧な計画だね!!

 

「というわけで、アルマさんからの客観的な感想が…………

 

「ねぇ!」

 

 話を続けようとしていたら唐突にアルマさんに遮られてしまった。

 なに?

 とアルマさんの顔を覗くと、彼女は頬を膨らませて不満そうな顔をしていた。

 え、何?なんか怒らせるようなこと言ったっけ……

 

「あたしのことは呼び捨てで呼んで欲しいって言ったじゃん」

 

「あ…………」

 

 あの日から、私たちは関係を改めた。

 堕落王の娘にして堕落四将のノーラ、天使にして魔族の捕虜のアルマ、その関係はもう捨てた。

 ただのノーラとアルマ。

 お互いを思う2人の存在として私たちは手を取り合った。

 その関係の第一歩としてまず呼び方を改めた。

 改めた…………んだけど。

 まだ……恥ずかしい、恥ずかしいんですけど!

 

「ん!」

 

 アルマさんが催促するようにこちらを見る。

 えー……呼ばなきゃだめ?

 ………………

 だめですか……

 

「ア……アル…マ」

 

「よろしい」

 

 アルマさんは満足そうにうなずく。

 もうやめちくりー。

 おじさんのライフはもうゼロよ。

 顔が熱い。

 きっと真っ赤になっているだろう。

 私は手でパタパタと熱くなった顔を仰ぐ。

 そんな私を見てアルマさんはクスリと笑った。

 

「ノーラって思った以上に奥手だよね」

 

 奥手で悪かったな!

 こちらと前世のトラウマとか色々あるんですよ。

 

「いつになったらあたしを襲ってくれるわけ?」

 

 ……はぁ?!!!!?

 え?

 うんんん??

 ちょっと?何言ってるんすかアルマさん!!!???

 聞き間違い?聞き間違いカナ?

 あ、あはははは…………

 アルマさんは潤んだ瞳で私を見つめる。

 な、何その目?

 いきなりどうしたの?

 なんでこんな真っ昼間から発情しているんですかこの娘は。

 一歩、アルマさんが私へと近づいてきた。

 私は思わず後ずさった。

 

「………………」

 

 一歩また近づいてくる、私も一歩下がる。

 また一歩、もう一歩、さらに一歩…………

 背中が、壁に当たった。

 ドンッ!

 ひぇ……

 アルマさんの手が壁をついて私の逃げ道を防ぐ。

 いわゆる壁ドンというやつだ。

 誰だアルマさんにこんなこと教えたやつは。

 魔族か?魔族なのか!?

 

「君の方から来ないなら……あたしの方から行くよ?」

 

 アルマさんの顔を近づいてくる。

 ちょっ……

 まだ心の準備が…………

 

 

 

 ……………………………あっ

 

 

 

 その後どうなったのか、深くは語るまい。

 2人は幸せなキスをして終了、それでいいだろ!

 

 終わりだよぉ!!!!




この物語はこれにて完結です。
いきなりの超展開の数々、読者を配慮しない駆け足のストーリー展開、不満が出るのは分かっていました。
それでもなんとか完結まで漕ぎ着けました。
完結した、そのことに価値があると作者は思っています。
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