私なんかエロゲのラスボスの娘っぽくない?   作:黒葉 傘

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サイコレズの電波を受信したので更新します。


独占欲

 肉の蠢く不浄の城、その最上階付近の一室に私の自室はあった。

 そこは他の部屋とは違い、怪しい液体を滴らせる肉壁やのたうつ触手の姿はなく、シンプルながら豪奢な内装が広がっている。

 私の自室付近は父親にきつく言い含めて肉塊を退かせてあるからだ。

 城を覆う肉壁や触手は天使を責め立てるトラップの役割があるのだが、私の自室にそんなものは必要ない。

 そんなものがあったってヌチャヌチャ、ヌプヌプ煩くて気が散るし、そもそも肉に囲まれながらだと落ち着いて眠れねぇよ。

 小説を書いている間は絶対邪魔されたくないので、父親の配下には勝手に入らないように命令してある。

 ここは城の中で私の唯一安心できるセーフゾーンなのだ。

 …………よく考えるとこの部屋ってラスボス前のセーブ部屋なのでは?

 私を倒すとセーブポイントが出てきたりするのかな………

 まぁいいか、そんなことを考えている暇はない、私は小説を書くのだ!

 あれから囚われの天使さんもとい、アルマさんとは本を通して何度か交流を図っている。

 アルマさんはその可愛らしい容姿とは裏腹に、スポ根や熱血物が好きらしく、騎士の物語を書いたら喜んでくれた。

 なので、今日はその騎士のお話の続きをちゃちゃっと仕上げて持っていくつもりだ。

 どうだろう、今回のお話は気に入ってくれるだろうか?

 期待に胸が膨らむ、まぁこの幼女ボディはツルペタなので膨らむものはありませんが……

 いやー、読者が1人いるだけでこれほどまでに充実した創作ライフを送れるとは思わなかったよ。

 この狂った世界で、私は今までよく1人で過ごしてこれたなと思うわ。

 まともな会話相手ができて、初めてわかる魔族の異常性。

 あいつら基本脳と下半身が直結しているから、普通に話してもエロ方面に話題がズレていくんだよな。

 もうちょっと自重してくれませんかねぇ………

 その分アルマさんは人間なので価値観があって話しやすい。

 今日はどんなお話をしようか。

 あぁ、楽しみだなぁ………

 

 

 

 

 私は書き終えた本を片手に意気揚々と牢獄へ続く扉を開けた。

 

「ねぇねぇ、元気してた?続き持ってきたよ〜」

 

 牢獄の床に寝そべるアルマさんの背中に話しかける。

 

 ………?

 

 いつもだったらここでアルマさんは起き上がって挨拶を返してくれるんだけど…… おかしいな、今日は返事がない。

 お疲れなのだろうか?

 とりあえず近寄って顔を覗き込む。

 そこには目を閉じてぐったりとしているアルマさんがいた。

 顔色が悪い、といえばいいのだろうか………とにかく顔が真っ赤だ。

 呼吸もなんだか荒く不規則で、身体を震わせている。

 う〜〜む………うん……事後ですねクォレハ…

 普通なら風邪を疑うところだがここはエロゲの世界。

 艶かしい吐息、時々痙攣するように引きつる身体、完璧に事後です、ハイ。

 何やってくれてんのあの淫獣ども!?

 こんな状態じゃ小説読めないじゃねぇか!!

 クソッ、こちとら楽しみにしてたのに! あ〜あ………

 まぁ、仕方がないか。

 私は牢獄の中に手を伸ばすとアルマさんの頬をペチペチと叩く。

 

「………アァ……ぅ………ノーラ…ちゃん………?」

 

 アルマさんが薄らと目を開く。

 焦点の合わない瞳が私を捉える。

 私は彼女と()()()()()()()、言葉を紡いだ。

 

「大丈夫ですよ、すぐによくなります。ほら、今はゆっくり眠って」

 

 私の言葉が届くと、彼女の瞼がゆっくりと閉じる。

 先ほどのような、乱れた呼吸ではなく、穏やかな寝息が聞こえてくる。

 こんなものはただの気休めだ。

 でも、こんな拷問のような環境では満足に寝ることすら叶わないのかもしれない。

 アルマさんにはゆっくり休んで欲しかった。

 今だけはその安眠を私が守るとしよう。

 

 私はアルマさんの乱れた髪を整えると、あやすように頭を撫でた。

 私がこの世界に生まれてから初めてできた友達……

 彼女は友達だとは思ってくれていないかもしれない。

 それでも、彼女は唯一無二の存在だった。

 私の娯楽を理解してくれるただ1人の人間。

 あと何回、彼女に小説を読んでもらえるだろうか、好きを共有できるだろうか。

 彼女が堕落した後は、次は誰に小説を読んでもらおう?

 彼女のように、簡単には屈服しない天使がいいな………

 胸が、なんだかジクジクと痛む。

 こんな感情を抱く資格は私にはない、だって私は魔族で、どうしようもなく凌辱する側の存在なのだから。

 今までだってアルマさんの仲間が、なんの罪のない天使たちが汚されるのを黙って見てきたじゃないか。

 卑屈な考えが、私を蝕む。

 だめだな、なんかいつもの私っぽくない。

 こんなシリアス私には似合わないよな!

 暗い思考を振り払うように私は首を振る。

 

 グチュッ

 

 その時肉床を踏み締める音が聞こえた。

 

「?」

 

 誰かがこちらに来る?

 音はだんだんと近づいてくる。

 牢獄の扉が開き、大きなハエ頭が覗く。

 

「バルブブか」

 

 そこに立っていたのは堕落四将の1人、バルブブだった。

 ハエの頭部に人間の胴体がくっついた異形の姿。

 その身体にはウジが張り付き、背部からは無数の羽と触手が生えている。

 相変わらず、すっげぇキモイデザインだな!!

 堕落四将とはいわゆる魔王四天王みたいなもので、父親である堕落王フェリナスに次ぐ魔族の実力者だ。

 バルブブは私の教育係も兼ねていた魔族であり、育ての親的な側面も持っている。

 こんなグロイ見た目のやつにあやされた私の気持ちを考えてみて欲しい。

 あの頃私は確実にSAN値0だった。

 

「おやおや、姫様こんな所に何用ですかな?」

 

 声は低く、どこか威圧感のある喋り方。

 彼が喋るたび、その口から蛆虫がポトポト落ちた。

 エグすぎるううぅぅぅぅッッ!

 もうこれエロゲじゃなくてバ●オハザードだろ。

 お前、もう喋るな。

 

「別に、ちょっと野暮用……」

 

 私は平静を装って答えた。

 すると、彼の視線は私の後ろに向けられる。

 そこにはアルマさんが眠っている。

 彼はしばらくじっとアルマさんを見つめると、やがて納得したかのように1度首を縦に振った。

 

「姫様が1人の天使にご執心だという噂は聞いていましたが、こいつでしたか」

 

 背中の触手がアルマさんの首に巻きつき、持ち上げる。

 ちょっ!なにやってんの!?首絞まってるって。

 

「ぁぐ…………かヒュ……ッ」

 

 アルマさんの喉から空気の抜ける苦しげな音が聞こえる。

 せっかく安らかに眠らせてあげてたのに、台無しだよ。

 

「こいつはもう直ぐ堕とし終わりますから、少々お待ちください」

 

 触手がアルマさんの体に纏わり付き、締め上げる。

 あぁ、アルマさんの調教ってこいつが担当してたんだ………

 そんな考えが頭をよぎる。

 

「そんなにお好きでしたら、堕落後は姫様にあげましょう、好きに嬲るといいでしょう」

 

 バルブブは不快な笑みを私に向ける。

 

 ………はぁ?

 

 何が………面白い?

 不愉快だ。

 アルマさんに汚いモノで触れるなよ。

 

「おい、やめろ」

 

 気づくと、私は()()していた。

 バルブブの動きが、ピタリと止まる。

 

「おや?姫様、今私に能力を使いましたな?」

 

 彼は驚いたように私を見る。

 私はそんな彼を静かに睨みつける。

 

「おお、なんという気迫!そんな顔も出来るようになったのですね。このバルブブ姫様の成長を嬉しく思いますぞ。ですがその力、私のような力のある魔族には通じませんよ」

 

 バルブブの触手が私に見せつけるように蠢き、アルマさんに殺到する。

 苦痛と快楽に歪んだ悲鳴が牢獄に響く。

 しかし、むせび泣く口にも触手が押し込まれ、悲鳴はくぐもった音へと変えられた。

 アルマさんの目が見開かれ、そこから涙がこぼれ落ちた。

 

 ブチッッ!

 

 その光景を見た瞬間、私の中で、何かが切れた。

 

「私はやめろと言ったのだが?」

 

 自分の口からかつてないほど低い声が漏れる。

 バルブブの動きが、まるで金縛りにあったように固まる。

 

「聞こえなかったか?それともこんな簡単な言葉すら理解できないほど低脳なのか?その虫頭は」

 

「はッッ…………ク…………ぁ……ッッ……」

 

 彼は返事をしようとしたが、口が開かないようだ。

 それどころか、呼吸すらできないだろう。

 触手の力が抜け、ドチャリとアルマさんが床に解放される。

 

「もういいよ、お前………死ね」

 

 ブツブチッッッグチャッグチッッッッ

 

 肉が裂ける音が牢獄に響きわたった…………。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……む?」

 

 なんだか、階下が騒がしい。

 悲鳴のようなものまで聞こえてくる。

 

「おい、何があった?」

 

 私はそばに侍らせている下僕に尋ねる。

 

「はいっ!堕落王様、直ぐに調べて参ります」

 

 下僕はそう言うと慌てて階下の様子を探るため駆け出す。

 だが、彼が玉座の間を出ようと扉に手をかけた時、その扉が勢いよく蹴り開けられた。

 

「ぶげぇぇ!」

 

 下僕が無様な声を上げ、吹っ飛ばされた。

 そこに立っていたのは私の愛しい娘、ノーラだった。

 彼女は1人の天使を横抱きにし、よたよたとこちらに歩いてくる。

 その口には何か黒い塊が咥えられていた。

 

 ぺッ

 

 愛娘は私の前までくると、こちらに向かってそれを吐き捨てた。

 ドチャッと湿っぽい音を立てて、それが私の足元で転がった。

 血塗れの、堕落四将の1人バルブブの頭だった。

 

「ごめんなさ〜い。そいつ不快だったから、殺しちゃった〜」

 

 ノーラがいつものような明るい声で言う。

 だがその目はいつものような澄んだ青い瞳ではなく、紅く爛々と輝いていた。

 その紅い瞳が無垢で純粋そうだった彼女の印象をがらりと変え、妖艶で危うい魅力を醸し出している。

 ノーラの腕の中にいる意識を失った天使に視線を向ける、彼女は最近娘がご執心だという噂の天使だろう。

 ノーラは私の視線に気づくと愛おしそうにその天使を抱きしめた。

 

「コレ、私のモノだから。他のやつに手を出させないで」

 

 紅い瞳が、私を射抜く。

 堕落王である私に命令し、服従させようとしているのだ。

 そのあまりにも圧倒的な力に、ゾクリとした興奮を覚える。

 

「いいだろう。好きにするがいい」

 

 私はその力に逆らわなかった。

 当たり前だろう、愛する娘の可愛いおねだり、聞いてやるのが父親というものだ。

 

「え!本当〜ありがと〜」

 

 ノーラは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。

 

「ノーラ」

 

 そんな彼女に私は呼びかける。

 私は彼女に近づくとその頭を撫でながら言った。

 

「バルブブを殺したのを責めはせぬ。だが堕落四将の席が一つ空いてしまった。お前がその席をうめるのだ」

 

「え〜」

 

 ノーラは露骨に嫌そうな顔をする。

 

「フッ、そう嫌がるな。その天使を独占したいと言うのなら地位が役に立つこともあるだろう」

 

 そう言うと、彼女は渋々納得したようだった。

 私はノーラの頬をひと撫ですると、その場を後にさせた。

 ノーラは嬉しそうに天使を抱き抱えると自室へ戻っていった。

 

「ククク………」

 

 1人になった私の口から笑いが漏れる。

 忍び笑いだったそれはいつしか大きな高笑に変わっていた。

 ノーラ・キャロル、私の愛しい娘。

 私の唯一愛した宿敵、リリィナの忘れ形見。

 愛しいその娘はいつもつまらなそうな顔をしていた。

 表面上は笑っていても、その目は常に冷めていた。

 彼女は魔族を、この世界を、軽蔑していた。

 そんなことはとうの昔に気付いていた。

 彼女は浅ましい肉欲を、魔族の本能を、嫌悪し、自分がその魔族であることに絶望していた。

 そんな娘が、嫌悪する魔族の力を剥き出しにして私に挑んできた。

 たった1人の天使を手に入れるために。

 あぁ、ついにお前も……愛すべきものを見つけたのだな………

 あの時のノーラの瞳は、かつてリリィナを前にした私と同じ色をたたえていた。

 浅ましい独占欲。

 どんなに否定しようと、結局お前も魔族だったということか。

 ああ、愉快だ。

 祝福しようではないか、新たな魔族、新たな堕落四将の誕生を!!

 肉の蠢く玉座に私の高笑いがこだました………


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