私なんかエロゲのラスボスの娘っぽくない?   作:黒葉 傘

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3話しか投稿してないのに、お気に入りと評価の数がエゲツないことになっていて作者は大変混乱しています。
読者を満足させられる話を書ける自信は微塵もないので恐る恐る更新。
チキンな作者を許してくれ。


街と蠢く魔

「意味がわかりません!!」

 

 私は怒りのままにベラ先輩に噛み付いた。

 ボーバンを倒し魔族たちを撃退したその夜。

 私たち天使は勝利を祝杯し、ささやかな宴を開いていた。

 街の人々も天使の勝利を祝うために集い、街の広場で宴会を催している。

 あちこちで、ようやく訪れた平和を喜ぶ笑い声が上がっていた。

 本当だったら、私たち天使も勝利を喜び、お互いの健闘を称え合っているはずだった。

 宴の席は私と先輩の雰囲気に包まれて静まり返っていた。

 向かいの席に座るベラ先輩をキッと睨みつける。

 

「別におかしなことは言っていない。魔族の疑いのある者を街に置いておくわけにはいかない。それだけだ」

 

 ベラ先輩は感情を剥き出しにする私とは対照的に、静かに冷静に事実だけを答えた。

 それがまた私の神経を逆撫でする。

 私の隣では、同期の天使たちがハラハラしながら成り行きを見つめている。

 

「ノーラちゃんは魔族じゃない!」

 

 テーブルに身を乗り出し、抗議する。

 ベラ先輩はそんな私を一蹴すると、鼻先で笑った。

 私は悔しくて唇を噛みしめる。

 口論はノーラちゃんを街から追い出すとベラさんが言ったことから始まった。

 

 ノーラちゃん、私が魔族のひしめく洞窟から救い出し、保護した女の子。

 彼女を見た時、先輩の天使たちはものすごく動揺していた。

 その姿が、あまりにもかつての最強の天使リリィナ・シルヴィナスと瓜二つだったからだ。

 リリィナ・シルヴィナス、数々の魔族を浄化し、今なお天使たちの英雄として語り継がれる伝説の存在。

 先輩たちは彼女と肩を並べ戦ってきた。

 彼女が堕とされるその日まで……

 魔族との決戦にて彼女は堕落王に敗れた。

 可憐な天使が手折られる様子を先輩たちは見ていることしかできなかった。

 そうして天使たちの希望は堕落にまみれ、その後の消息は誰にもわからなかった。

 リリィナが堕落王に拐われて以来、天使たちは何度も彼女の奪還を試みてきた。

 でも、その試みはことごとく失敗し、新たな犠牲者を出すだけだった。

 今の天使の劣勢はその時の敗北、最強の天使の喪失が原因だとも言われている。

 そんなかつての戦友であり希望だった天使と同じ顔の子供が見つかったのだ。

 先輩たちの動揺は当然のことだったと思う。

 諦めていた最強の天使の行方の手がかりが、今更になって見つかったのだから。

 先輩たちは、ノーラちゃんを質問責めにした。

 でもわかったのは、彼女が魔族に捕らえられた可哀想な女の子ってことぐらい。

 ノーラちゃんは誰とも目を合わせずに、黙って俯くばかりだった。

 私は、先輩たちの振る舞いを黙って見ていることができず、口を挟んでしまった。

 魔族に捕らえられ、心身共に疲弊した子供に対する扱いじゃなかったから………

 先輩たちは、私の言い分に納得してくれて、ノーラちゃんを解放してくれた。

 これで、ようやく彼女も心休まる時間を過ごせると思ったのに………

 

 宴の時間になってベラ先輩がいきなりノーラちゃんを糾弾しだしたのだ。

 私はそれが許せなかった。

 ノーラちゃんはそんなことをされる謂れはないはずだ。

 

「彼女がリリィナの血を引いているのなんて見ればわかる」

 

 ベラ先輩が吐き捨てるように言う。

 先輩たちはそれを確信しているみたいだった。

 ただ顔が似ているというだけでなく、彼女の纏う雰囲気やオーラのようなものが彼女と同質なのだという。

 でもそれはリリィナ・シルヴィナス本人に会ったことのある先輩たちだからこそ感じ取れるものだ。

 彼女を見たこともない私には納得できない。

 

「リリィナの子が、人間のはずがない。あいつは、負けたんだ。敗北した天使の末路を知らないわけじゃないだろう」

 

 敗北した天使の末路………新しい魔族の戦士を生み出すための、苗床。

 私だってそのくらいは話に聞いている、知っている。

 私の同期にだって連れ去られた娘はいる。

 私たちは、人間を守るためだけじゃない、仲間を取り戻すためにも戦っているのだ。

 

「もし、彼女が魔族なら弱すぎます。戦う力のない魔族なんて聞いたことがない」

 

 私は先輩に反論する。

 ノーラちゃんの身体は見た目の通り、幼子の筋力しかない。

 先輩たちのような戦い慣れた天使と戦える身体じゃない。

 そんな出来損ないの子供を魔族たちがわざわざ生かしておくとは思えなかった。

 魔族は良くも悪くも弱肉強食だ。

 生存競争に生き残った個体のみが、魔族として戦場に立つ。

 

「あら、リリィナがどれだけ魔族から恨まれていたか知らないの?リリィナそっくりのか弱い魔族。そんなものの存在理由なんて決まってるじゃない!彼女は魔族共の慰………」

 

 それ以上は聞きたくなかった、言わせなかった。

 渾身の力を込めて机に拳を叩きつける。

 食器が音を立てて跳ねる。

 グラスが床に落ちて甲高い音を響かせた。

 立ち上がり、ベラ先輩を睨みつける。

 先輩は私の剣幕に一瞬怯んだけど、すぐに私を睨み返してきた。

 

「それがわかっていて、なんで街を追い出すっていう結論になるの?」

 

「浄化しないでおいてやるんだ、これでも温情をかけてあげてるつもりだけど」

 

 先輩の物言いにはらわたが煮えくり返る。

 虐げられた子供を荒野に放り出す、その残酷な行為に罪悪感を覚えないのだろうか。

 私が拳を振り上げようとした時、この場にそぐわない、ゆったりとした声が仲裁に入った。

 

「はいはい、2人とも熱くなりすぎだよ〜。ちょっと頭冷やしなさ〜い」

 

 声の主は私たちの部隊の隊長である、リエル先輩だった。

 いつも通りニコニコと微笑んで、私たちの間に流れる不穏な空気など気にもしていない様子だ。

 

「まだノーラちゃんが何者かわかってないのに、話を進めちゃだめよ〜」

 

 リエル先輩は私たちに座るよう促すと、ベラ先輩の方に向き直った。

 ベラ先輩はバツが悪そうに目を逸らしている。

 

「ベラちゃんがみんなのために、悪役を買って出ているのはわかるけどね。もう少し周りを見ないとダメよ」

 

 リエル先輩は諭すように優しく語りかける。

 

「別に私は………」

 

「いい?もっとみんなと仲良くしなきゃね。いい子なんだから〜」

 

 ずいぃぃとリエル先輩がベラ先輩に詰め寄る。

 今にも触れ合いそうな距離だ。

 ベラ先輩はリエル先輩の独特な空気に飲まれて、タジタジになっていた。

 ベラ先輩は先輩天使の中では一目置かれてる人だけど、リエル先輩には頭が上がらないみたいだ。

 リエル先輩はこの隊の中でも一番年上の先輩だからかもしれない。

 リリィナ・シルヴィナスに戦いを教えた天使、その事実だけで彼女がどれだけ熟練の天使かわかるだろう。

 

「ミリアちゃん」

 

 そんな天使の中の天使が今度は私に迫った。

 深い藍色を湛えた瞳が私をじぃぃぃと見つめる。

 私はリエル先輩が少し苦手だ。

 その瞳に見つめられると、全てを見通されるようで、落ち着かない。

 

「今回の戦いの功労者であるあなたを責めるのは気がひけるけど、ベラちゃんはあなたの先輩なのだから、もう少し節度を持って接しなきゃ〜」

 

 至極真っ当な正論。

 何も言えず黙り込む。

 リエル先輩の細い腕がそんな私の頭を撫でる。

 

「あなたがノーラちゃんを守りたいのはわかるわ〜。でもそれと同じくらい、ベラちゃんもみんなのことを守りたいのよ」

 

「いや、違う!私は魔族を浄化したいだけだ」

 

 リエル先輩の言葉をベラ先輩が慌てて否定する。

 ベラ先輩を見ると、恥ずかしそうに頬を染めて俯いていた。

 その態度はどう見ても照れ隠しで、リエル先輩の言葉を肯定しているようにしか見えなかった。

 

「ベラちゃんは未知の脅威から仲間を、ミリアちゃんは魔族から女の子を守ろうとしてる。お互いに優しさから出た行動なら、分かり合えると思うわ〜」

 

 私は少し、勘違いしていたのかもしれない。

 

「ごめんなさい………感情的に、なりすぎていました」

 

 素直に謝罪の言葉を口にする。

 リエル先輩はうんうん頷くと、私たち2人に握手をさせた。

 まるで子供を相手にするみたいな対応。

 まぁ、確かに彼女にとって他の天使は子供みたいなものだろうけど。

 

「ベラ、あの子が本当に危険だと判断したのなら、あなたが浄化しなさい。ミリアも、それでいいわね」

 

「「はい」」

 

 リエル先輩に言われ、私たちは同時に返事をした。

 リエル先輩は戦場や大事な局面では私たちを呼び捨てにする。

 仲間や友達としてではなく戦士として私たちを扱うのだ。

 だから、大事での彼女の言葉には重みがある。

 戦士としての命令に、私に異論があるはずもなかった………

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 うーん、不味いことになったなぁ。

 人間の街の孤児院、その一室で私は頭を抱えていた。

 なんか天使たちからすごい監視されていて、ここから抜け出せないんだけど!

 ここに連れてこられた直後は主人公ちゃんの目を盗めば脱出できると思ってたんだけど……

 考えが甘すぎた。

 私は自分の容姿について無頓着すぎたのだ。

 私の顔を見るなり天使たちは「リ、リリィナさん!?」とどよめき私に群がった。

 あ、うん………そういえば私の容姿って母親と瓜二つだったね………

 そんなわけで私は天使たちから質問攻めにあってしまった。

 いや、困った。

 天使といえばこの世界のヒロインな訳で、顔面偏差値が高いわけですよ。

 おまけに、エロゲ特有の際どいコスチュームに身を包んでいるわけでして。

 そんな女性たちに囲まれる状況を想像してもらいたい。

 エッッッッッッッッッ!!!

 身長差的にお胸がちょうど目線の位置にあるんですけど!?

 貧から巨まで選り取り見取りですね!

 いや、困る、これは困りますなぁ〜ふへ、ふへへ。

 目に毒だから私地面見てますね。

 デュフフ……おみ足も綺麗でいらっしゃる。

 

 ……………………

 

 い、いかんいかん!煩悩退散、煩悩退散。

 落ち着け私、冷静になれ。

 と内なる煩悩と戦っているうちにいつの間にか質問攻めは終わっていた。

 あ、あの、私何も答えてないけど、いいのかな?

 そう思っていると、栗色の髪をした女性が私の手を引き、そこから連れ出してくれた。

 だぁれ?

 と思って、見てみると主人公ことミリアさんだった。

 なんか髪色違くない??

 さっき白銀の髪だったじゃん、服装も地味になってるし………

 

 もしかしてこの世界ってエロゲはエロゲでも変身ヒロインものですか………

 

 マジで罪深いな、もっとマシな転生先はなかったのですか神様。

 絶望する私をミリアさんは孤児院へと案内した。

 身寄りのない私はどうやらここにお世話になるらしい。

 優しそうなシスターのおばあちゃんがミリアさんにペコペコと頭を下げていた。

 天使が保護した子供だし、孤児院も断れないよね。

 そんなわけで私は孤児院で暮らすことになったのだが、なぜか天使が絶対に1人は私のそばにいて逃げ出せない。

 なんでぇ………?

 暇なの君たち。

 おまけに私なんか警戒されてる?

 天使たちに囲まれた時デュフデュフ鼻の下を伸ばしていたのが不味かったのかな。

 私が孤児院のベットで頭を抱えていると、ミリアさんが昼食に私を呼びに来た。

 

「いらない………」

 

 ベッドの上で丸くなる私。

 ミリアさんの視線を感じるけど、それを無視する。

 本当にいらないんだけど。

 端的に言おう、人間界の食い物はまずい。

 ふかした芋に淡白なスープだけって………囚人かなにかかな?

 堕落を避けるためだかなんだか知らないけど、とにかく味が淡白なのだ。

 最初は昼食はあまり食べない文化なのかな?と思ったが、晩ごはんも同じ献立だった。

 …………

 私はそっと隣の子供に食事を分けた。

 食ってられるかこんな残飯!

 それを見たミリアさんが何か言いたげにしていたが、気にしないことにした。

 そんなわけで人間の食事はノーセンキューなのだ。

 今すぐ城に帰ってホカホカジューシーなお肉にかぶりつきたい。

 天使の目さえなければなぁ………

 ミリアさんは私を布団から引き剥がそうとする。

 

「ご飯はちゃんと食べないとダメだよ!」

 

「いらない!私は魔界に帰るぅぅ」

 

 私の言葉にミリアさんの手が、ハッとしたように離れる。

 

「そんなこと………言わないで……もうだれも、あなたを傷つけたりしない………あなたは自由なんだよ」

 

 いや、今絶賛不自由を味わっているところなのですが………

 なんか勘違いされてる気がする。

 結局私が粘り勝ちし、ミリアさんは諦めて部屋を出て行った。

 

「…………」

 

 1人になれたけど、孤児院の外にも天使の気配がする。

 だめだ、脱走できそうにない。

 天使1人なら、洗脳してどうとでもなるけど、この街には天使がいっぱいいるからなぁ………

 詰んだ、出れない。(略してツンデレ)

 娯楽もなく、メシも不味い、地獄かここは。

 私は仕方なく、お昼寝することにした。

 睡眠だけが、唯一の娯楽だよ………

 

 ……………………………

 

 …………………

 

 ……

 

「………ん」

 

 ………なんだろう……

 何か妙な気配に目を開ける。

 

「?」

 

 孤児院の男の子が、私をじっと見下ろしていた。

 覇気のないうろんな瞳が私を見ている。

 なに………?

 見つめ返すと、子供は私にゆっくりと覆いかぶさってきた。

 は?

 子供の手が私の衣服を掴み、力任せに引っ張る。

 繊維が破ける音がして、私の服が胸元から裂けていく。

 

「………何すんだ。邪魔だ、どけ」

 

 子供に向かって命令する。

 男の子はビクリと体を震わせると、私から離れる。

 その動きは緩慢で、まるでゾンビみたいだ。

 周りを見渡すと、他の子供たちもゾンビのようにフラフラと歩き、異性を見つけては襲いかかっている。

 なんだ?洗脳か?

 いったい誰の仕業だ?

 とりあえず………

 

「眠れ」

 

 見える範囲の子供を眠らせる。

 こんな小さな子供が身体を貪り合う姿なんて見てられない。

 窓から、外を伺う。

 街の住民たちが、フラフラと生気のない目で彷徨っているのが見える。

 すごいな、街全体がこうなっているのか、こんな大規模な洗脳私でもできないぞ。

 あたりから魔族の気配がプンプンする。

 昼寝する前は何も感じなかったのに、私が寝ている間に何があった。

 あまりの急展開に混乱する。

 

「うーん………あれ?」

 

 何か違和感があると思ったんだけど、魔族の気配、私の中からもするんだけど。

 お腹がドックンドックンと熱を持ったように熱い。

 すごく…………エッチな気分です。

 いや、わけがわからん。

 何かに寄生されているなこれは。

 

「なんだか知らないけど、私から出て行け」

 

 お腹の気配に対して命令する。

 お腹からは抵抗する気配があったけど、それほど力は強くないのかすぐに私の命令に屈服した。

 何かが私の中で迫り上がってくる。

 

 うえぇっ!ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ(以下自主規制

 

 私はお腹の異物を盛大に吐き出した。

 床に、消化途中の芋とスープだったものが広がる。

 その中で、液体がのたうつ。

 

「はぁ……ふぅ…ス…ライム?」

 

 無色透明な粘つく液体、私の身体から吐き出されたのはまごうことなきスライムだった。

 いつの間にこんなものが……

 

 ………食事かな。

 

 おそらく、井戸水の中に小さく分離したスライムが潜んでいたのだ。

 小さくなったスライムは食事を通して少しずつ体内に溜まっていく。

 そうして体内で一つになったスライムが内側から人間を操る。

 今街で起こっている異変の正体はこんなところだろう。

 私は、食事を拒否していた、だからスライムが集まりきれず、私を掌握できなかったのだろう。

 危ない、危ない。

 こんな大それたことができるの魔族は1人しか心当たりがいない。

 堕落四将ミュケス。

 巨大な質量を誇る人型のスライム。

 城内で一度だけあったことがある。

 うーん、スライムボスかぁ………

 凌辱形エロゲの2面か3面のボスの定番、ヌルヌルスライムおじさん!ヌルヌルスライムおじさんじゃないか!!

 

 私がアホ面ではしゃいでいる間に、寄生スライムによってこの街は陥落しようとしていた………




次回、スライムおじさんによるヌルヌルグチュグチュ、スライム姦!(大嘘)

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