私なんかエロゲのラスボスの娘っぽくない?   作:黒葉 傘

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前半のヒロピンはただの作者の性癖です。
ネットに性癖を投稿して大勢の人に読んでもらって………
作者はいったい何をしているんだろう………(正気度減少中)


侵略するスライム

「はぁ………むぐぅ……ぐ、ぐ…………」

 

 街が、何者かによって侵食されていく中、私は必死にもがいていた。

 でも、もがいてももがいても、私を押さえつける液状の拘束はビクともしない。

 まずい……このままでは……

 異変に気づいて外に飛び出した時にはもう手遅れだった。

 掌握される住民たち。

 そして私たち天使も………身体の内から出た正体不明の液状生物によって拘束され、自由を奪われていた。

 

「もがっ………んーんんん!」

 

 口いっぱいに液体が広がり、呼吸すらままならない。

 天使の姿へと変身できていれば、まだ反撃の機会もあったかもしれない。

 でも現実は非情で………

 私たち天使は変身する前にその身体を掌握され、変身を許さぬ責め苦にあっていた。

 呼吸すら満足にできないまま、身体を締め付けられれば、変身する集中力など保てるわけがなくて。

 加護もない非力な女の子のまま、その身体を甚振られていた。

 ゴボッ……ゴボゴボ…………

 

「んっんむ!?」

 

 私が悶える中、街の広場に設置された噴水が泡立つ。

 噴水の水が意思を持つように集まり、巨大な塊となる。

 水の集合体は人型を取り、その姿を露わにする。

 

「ふぅむ、天使といえど変身前を抑えればこの程度か」

 

 それはスライムだった。

 人の形を取った、粘液でできた魔族。

 それが私の目の前にいた。

 こいつが、この街を襲った犯人!?

 必死に変身しようとするけど、その度に身体を締め付けられ肺の空気が抜ける。

 

「はっ、これが天使の希望?白銀の天使?拍子抜けだな。リリィナレベルを期待したが、これでは期待外れもいい所だ」

 

 スライム男の腕が私の髪を鷲掴みにし、無理やり顔を上げさせる。

 

「むぉ………う…うぅぅ」

 

 痛い、苦しい、悔しい。

 加護さえあればこんな奴に負けないのに…………!

 涙を流す私を、スライム男はニヤついた目で見つめる。

 私にまとわりつくスライムとスライム男が同化していく。

 

「まぁいい、せいぜい楽しませてくれよ」

 

「は…ひゅっ!!」

 

 い…や……

 頭の中に敗北した天使の惨劇が浮かぶ。

 私も……あんな風になるの?

 いやだ、嫌だ!

 私はまだ戦ってすらいない。

 戦いもせず負けたくない、変身できれば、剣を握れれば、こいつに一矢報いてやるのに。

 

「…………あ」

 

 ぬるりと粘つく液体が服の中に侵入する。

 肌の上を液体が這いずる感覚に背筋がゾワリと震える。

 体の内側も、外側もスライムにまみれ、私は無力だった。

 ………た…すけて………

 その瞬間、私の戦士としての矜持は砕け散った。

 無力な女の子に成り下がった私は魔族の前で震えることしか、できなかった。

 

 

 

「何してるのかしら〜」

 

 突如、光の柱が降り注ぎ、私を拘束していたスライムを浄化の光で焼き払う。

 光の柱はそのままスライム男に殺到し、その身を焦がす。

 

「この娘は私たちの希望なのよ〜。簡単に辱められると思ったら困るわ〜」

 

「ぅ……ッッ………リ゛エル、先…輩ぃ………」

 

 私を庇うように現れたのはリエル先輩だった。

 助けに……来てくれたんだ。

 先輩はスライムに侵食されることなく、天使の姿で堂々と立っていた。

 人類最後の障壁。

 彼女がそう呼ばれ始めたのはいつからだっただろう。

 最強の天使リリィナ・シルヴィナスが敗れ、数多の天使が魔族に屠られても、彼女だけは屈しなかった。

 今みたいに堂々と魔族の前に立ち塞がり、抗い続けた。

 リエル先輩が戦い続けたから、天使は今も負けずに戦い続けている。

 天使の礎、その頼もしさに私の砕け散った戦士の心がまた息を吹き返すのを感じる。

 そうだ……諦めちゃダメだ。

 リエル先輩のように、最後の瞬間まで足掻いて足掻き切らなきゃ、恐怖に震えて涙を流している暇なんてない。

 私は震える身体に鞭打って体を起こす。

 リエル先輩は油断なく構えていた。

 彼女の武器である王笏が敵を浄化せんと光り輝く。

 光の柱によって形を崩し、地面に散らばった液体が集まっていく。

 

「ふぅぅむ?この街の人間全員にワタシの分身を寄生させたはずなのですが………なぜあなたは変身できているのかなぁ」

 

 スライム男は平気な顔をして元の姿に再生した。

 

「あなたたち魔族って、媚薬とか寄生だとかワンパターンなんだよ〜。そんなもの体内を浄化すれば意味ないのにね〜」

 

「くはっ!体内を浄化?そんな曲芸聞いたことがない。さすがは人類最後の障壁、芸が多彩だな」

 

 体内浄化、それはリエル先輩のみが使える離れ技。

 私たち天使の加護は、対魔族に特化した攻撃手段であり、決して癒しの光などではない。

 自身を傷つけずに、浄化の力だけを体内に浸透させる、そんな離れ技ができるようにはできていないのだ。

 リエル先輩には、毒も媚薬も洗脳も効かない、彼女が絶対に屈さない最後の障壁たる所以。

 彼女はその技をみんなに伝授しようとしているけど、いまだに習得できた天使はいない。

 

「あら〜。私を知っているの?あなたはだぁれ?」

 

 そう問いかけながらリエル先輩は光弾を放つ。

 頼もしいその光は圧倒的な質量の液体により、すり潰されて消えた。

 噴水から狂ったように水が吹き出し、スライム男と融合する。

 家一つ分ほどの巨体となったスライム男は勝利を確信したようにニタリと笑った。

 

「ワタシは堕落四将ミュケス。天使の希望も最後の障壁も、等しく我が身体に包まれその法悦に身を堕とすがいい」

 

 ミュケスの全身から触手が伸び、リエル先輩を襲う。

 リエル先輩はその全てを王笏で打ち落とし、逆に光弾を放ち反撃をする。

 だけどスライム男も光弾を全てを飲み込み、攻撃が届いている様子はない。

 

「くっ!はぁああああ!!」

 

 一際大きな光の柱がミュケスを貫き、その半身を消しとばす。

 でも、いくら浄化しても噴水からスライムが補充され、その身を再生されてしまう。

 長期戦になれば、こちらが不利だ。

 それがわかっているのか、リエル先輩は大技を連発している。

 でも先輩の火力では、決め手にかけていた。

 先輩の頬に汗が伝う。

 ジワジワと追い詰められていく。

 

「はぁ……はぁ……私、前に出て、戦う……タイプじゃ……ないのよね〜…」

 

 リエル先輩が肩で息をしながら苦しそうに呟く。

 そう、リエル先輩はいつも後衛として支援を行う立ち位置にいた。

 こんな風に、魔族と正面切って戦う人じゃない。

 私を………庇っているんだ。

 ……私が、私が戦わなきゃ!

 先輩が私を助けに来てくれたように、今度は私にできることをしないと!

 

「ぐ……がぼ……」

 

 必死にえずく、身体を拘束していたスライムは先輩が浄化してくれたけど、体内のスライムはまだ私を蝕んだままだ。

 体内浄化でもなんでもいい。

 とにかく変身して戦わないと。

 それができなければ、私たちの負けだ…………

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 うーん久しぶりの開放感。

 私は天使の監視の目から解放され、シャバの空気を存分に味わっていた。

 どうやら寄生スライムの脅威は天使にまで及んでいるらしく、街の天使たちはスライムに体内から掌握され、地面でビクビク震えている。

 つまり、私が何しようと止められる状態じゃないってこと。

 このまま街から脱出、と行きたいところだけど、その前に現状を確認しなければならない。

 現在この街は魔族によって侵略されている。

 侵略者の名はミュケス、私と同じ堕落四将の1人だ。

 スライムごときに主人公ちゃんが遅れをとるとは思えないけど、万が一負けちゃうと困る。

 ミリアさんは私の幸せな将来設計の要なのだから、存分に働いて貰わなきゃね。

 堕落四将の一角だ、ここで退治してもらって魔族の弱体化を進めよう。

 

 コソコソと隠れながら、ミリアさんの様子を伺う。

 …………あれ?

 なんか………押されてない?

 巨大な体躯のスライムの繰り出す攻撃を、先輩天使のリエルさんが光弾で相殺している。

 でも、明らかに捌き切れていない。

 攻撃の何発かは彼女の体をかすめ、その身体に浅くはない傷をつける。

 彼女の纏ったコスチュームはもうボロボロで、晒された彼女の柔肌は擦り傷やアザで彩られていた。

 もう満身創痍じゃん。

 肝心のミリアさんは変身もできずに彼女の後ろで苦しそうにえずいている。

 え?え?大ピンチじゃない?

 スライムおじさん鬼強ええ!

 逆らう天使全員ぶち犯していこうぜ!

 じゃないんだよ!!

 こんなところでガメオベラしてもらっちゃ不味いって。

 天使たちのピンチ、とはいえ私が直接助けに出るのは駄目だ。

 今は天使とも魔族とも明確に敵対するつもりはない。

 何かないかと必死に辺りを見渡す。

 私のすぐ近くに、スライムに纏わりつかれた天使が横たわっていた。

 む、私をやたらと敵視していた、ベラとかいうお姉さんじゃないか。

 よし!こいつを使おう。

 

「スライム、そいつを解放しろ」

 

 彼女に群がるスライムに命じて、彼女から引き離す。

 

「がはっ……ぐ……お…おま、え……やはり魔族、か……?…」

 

 ベラさんが何か囀っているけど、無視。

 あー、あー、聞こえませーん。

 どうせぜんぶ忘れるんだから、君が何を言おうと関係がない。

 ベラさんの頭を掴み、私の方を向かせる。

 彼女の瞳をジイィッと覗き込む。

 そうして、ベラという人間の根幹まで侵入する。

 

「お前は私を見ていない。そもそも、お前はノーラという少女など知らない」

 

 彼女の常識を書き換える。

 そうして、私は彼女に2つのお願いをした。

 現状を打開する、一手だ。

 

 私の命をうけ、ベラさんが動き出す。

 彼女はリエルさんとスライムおじさんの戦場を掻い潜り、ミリアさんに駆け寄る。

 

「ベラ、無事だったの!?」

 

「むぅ?新手か」

 

 リエルさんとミュケスがそれぞれ反応する。

 でも、そんな2人をガン無視してベラさんはミリアさんへと直進する。

 そしてそのままの勢いで、ミリアさんを、思いっっきり、蹴り上げた。

 

「あぐぅぅぅうううぅッッ!!!??」

 

 渾身の蹴りがお腹に炸裂し、ミリアさんが身体をくの字に曲げる。

 

「「は?」」

 

 そのあまりの所業に敵も味方も一瞬惚ける。

 でもそれでいい、それが、いい。

 お腹を圧迫された事により、スライムがミリアさんの口から吐き出される。

 スライムの全てが吐き出されたわけじゃない。

 それでもこれなら……

 

「けほっ……キツい一撃をありがとうございます、ベラ先輩。おかげでなんとかなりそうです」

 

 ミリアさんがふらりと立ち上がる。

 スライムは彼女が呼吸できるほど量を減らしていた。

 口の端からスライムの粘液を垂らしながらも、その表情には先ほどまでの苦しみはない。

 代わりに決意に満ちた顔つきをしていた。

 

「救いを求める乙女に救済の加護を……邪なる魔に断罪の光を……光の加護よ!ここに集えッ!!」

 

 変身のための詠唱。

 それと共に、ミリアさんの全身が光に包まれる。

 そして、白銀の天使、反撃の希望が世界に顕現した。

 

 ふぅ……

 まぁ、これでなんとかなるでしょ。

 私がベラさんに命令したのは2つ。

 ミリアさんのお腹を蹴り上げスライムを吐き出させる、そして用が済んだら戦闘の邪魔にならないように隅っこで気絶する、だ。

 側から見ればベラさんが最後の力を振り絞り、ミリアさんに賭けたように見えただろう。

 完璧な采配だね!

 ミリアさんの前衛とリエルさんの後衛コンビなら、スライムおじさんに負けることは無いだろう。

 さて、これで一安心だし私は街を脱出するとしますか。

 堕落四将ノーラはクールに去るぜ。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ぐ……おのれ…おのれぇ……」

 

 ワタシは傷つきすり減った身体を引きずり、荒野を逃げていた。

 後もう少しで、天使どもを一網打尽にして、その身体を味わえるところだったのに……

 どこで間違えた、ワタシの計画は完璧だったはずなのに……

 そもそも何故体内を浄化できる天使がいる?

 いや、問題はそこじゃない、白銀の天使に変身を許したのがそもそもの失敗だった。

 リリィナほどではないが、ワタシを凌駕する力、ヤツが天使となってからの戦いは一方的だった。

 こうして核だけ先に街の外に逃していなければ、ワタシは死んでいただろう。

 せっかく住民全てに分体を寄生させたというのに、命令を出す本体がこの様では意味がない。

 

 

「ミリアァ…」

 

 その名前を忘れはしない。

 失った肉体が再生し次第、嬲り殺しにしてやる。

 だが、損失は余りにも大きい。

 今まで増やし続けてきた身体の大半を失ってしまった。

 元の体積に再生するには年単位の時間がかかるだろう。

 何より、小さく無様になったこの身体を堕落王様の前に晒さなければいけないと考えると……絶望的な気分になる。

 あの方にだけは、失望されたくなかった、それなのに……

 怒りが我を忘れそうになった時、明るい声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある、少女の声だ。

 

「あー!いたいた。やっぱり念の為見張っておいて正解だったよ」

 

「姫…様?」

 

 そこにいたのはワタシの敬愛する堕落王様の一人娘、ノーラ様だった。

 何故、姫様がこんなところに……?

 

「いやー、スライム系って核を潰さないと倒せないとかよくある設定だし、もしかしたら仕留め損なうこともあるかなーって思ったんだよね!」

 

 何を……言っているんだ?

 仕留め損なう?

 誰が?……誰を?

 ノーラ様がいつものようにその顔を綻ばせて近づいてくる。

 何故だろう、その笑みに、恐怖を感じる。

 

「ノーラさ……

 

「死んでもらわなきゃ困るよ、君にはさぁ」

 

 敵だ。

 理由はわからないが、この方はワタシの死を望んでいる。

 

「動くなよ」

 

 逃げようとした私の身体が、ピタリと止まる。

 まるで、身体が石でできているみたいに動かない。

 ノーラ様は私の目の前で止まると、しゃがみ込んで私に顔を近づける。

 ニコニコとした笑みが、視界いっぱいに広がる。

 

「へぇ…これがスライムの核?なんか真珠みたいで綺麗!」

 

 核が、命の源が、指で摘まれ引っ張られる。

 止めろ!!

 と大声で怒鳴りたいのに、身体は一向に動かない。

 ノーラ様は小さな指で懸命にワタシの核を引っ張る。

 核が身体から離れれば、ワタシは死んでしまう。

 私の身体は死に抗おうと懸命に抵抗した。

 

「結構人間界に長居しちゃったからさー、アルマさんにお土産用意しようと思ってたんだけど、これでいいかな?」

 

 ノーラ様が、ふざけたことを言った。

 今、なんて……

 ワタシの命を土産にするだと!

 ふざけるな!巫山戯な!!フザケルナ!!

 だが、死に抗い、懸命に生にしがみ付くワタシに残酷な命が下る。

 

「ねぇ、この核ちょーだい❤︎」

 

「ああアアァァぁぁアあァァァッ!!!!」

 

 ブチブチブチッとワタシの命が身体からもぎ取られる。

 

「きれいー!指輪にはちょっと大きいから、ネックレスにしようかなぁ」

 

 そんなふざけた言葉を聞きながら、ワタシの意識は闇に沈んでいった……


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