私なんかエロゲのラスボスの娘っぽくない?   作:黒葉 傘

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すまぬ、久しぶりの投稿なのに少し短めなんじゃ。
短編小説書いてサボってました。
そちらもよろしく!(露骨な誘導&評価乞食)


儚い光

 堕落城に潜伏していた天使アイリ、彼女から送られてきた救援要請を受けて私たちは堕落城を目指していた。

 捕らえられた天使たちの救出。

 それは私たち天使の長年の悲願だ。

 それが叶うかもしれない。

 私たちは最低限の守りだけ残して、堕落城へと急ぐ。

 

 違和感は初めからあった。

 堕落城へと続く道の警備が薄い。

 それになんだか、堕落城のシルエットがおかしい。

 地平線にいつも見えていた堕落城、その姿が変わっていた。

 ここにたどり着くまでに聞こえてきた轟音。

 何かただならぬことが起こっていた。

 そうして渓谷を越えて私たちが目撃したのは、半壊した堕落城だった。

 城は半分以上が崩壊しており、中からは黒い煙が立ち上っている。

 まるで巨人が剣を突き刺したかのように二つ裂けた城を見て、私たちは絶句した。

 

「なに………あれ?」

 

「い、いったい何があったっていうの!?」

 

 仲間たちが叫ぶ。

 私も全く同じ気持ちだ。

 圧倒的な力で君臨する堕落王、その城が今無残な姿を晒してる。

 この城で、戦闘があったのは確かだ。

 でも………一体誰の仕業なんだろう?

 これほどの破壊をもたらす天使を私は知らない。

 ということは、魔族?

 でもなんで、自分たちの本拠地である堕落城を破壊したのだろうか………

 攻撃による被害を考える余裕がないほどの相手だった?

 嫌な想像が、頭によぎる。

 

「いつまで呆然としているのかしら〜」

 

 手が叩かれる。

 リエル先輩の声で私たちは我に返った。

 

「私たちは何をしに来たの〜?よく見なさい」

 

 リエル先輩が指を差す。

 遠くで誰かが戦っている。

 キラキラと瞬く加護の光が見える。

 そうだ、私たちは………囚われた天使たちのために来た。

 アイリは今も天使たちを逃そうと戦っている。

 

「行きましょう、みんな」

 

 リエル先輩が、ふわりと微笑んだ。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ノー………ラ……」

 

 あたしは崩壊した城の中で、床に空いた大穴を呆然と見つめていた。

 穴は下の階層まで続いており、そこへ落ちていったノーラは…………瓦礫に埋もれてもう見えなくなってしまった。

 落ちていく彼女の姿が脳内にフラッシュバックする。

 切り裂かれ、血塗れになった顔、光を閉ざされた瞳が、あたしを探していた。

 そうして伸ばされた手。

 あたしはその小さな手を、掴むことができなかった。

 咄嗟のことに対応できなかった、傷ついた身体が思うように動いてくれなかった…………言い訳なら、いくらでもできる。

 でもそんなことしたって、結果は変わらない。

 ノーラを、助けられなかった。

 それが絶対的な結果だ。

 肉に塗れ、堕ちきったあたしに手を差し伸べてくれた女の子。

 あの時差し出された手に、今のあたしは応えられなかった。

 涙が溢れてくる。

 自分の無力さに腹が立つ。

 昔は天使になって、みんなを救うと息巻いていた。

 でも現実は、自分に寄り添う小さな女の子ひとり救うことすらできない………

 

「あっれ〜、もしかしてぇ、2人とも死んじゃったのかしら」

 

 その時、陽気な声が聞こえてきた。

 

「え?」

 

 振り返ると、蝙蝠のような翼と捻れた角を持つ、半裸の女が浮いていた。

 サキュバス………?

 でもサキュバスにしては纏う雰囲気が異様だ。

 

「だれ…?」

 

「あら?私を知らないの?そぉ………」

 

 サキュバスはにこりと笑う。

 その笑顔のまま……唐突にあたしの腹に蹴りがめり込んだ。

 一瞬呼吸が止まり、意識が飛びそうになる。

 なんとか踏み止まるけど、激痛におなかを抑え膝をつく。

 

「ア……ぐぅ……」

 

 今度は後頭部に強い衝撃が走った。

 地面に叩きつけられ、視界が歪む。

 

「知らないなら自己紹介してあげる、姫様のお気に入りさん。私はイリア、最後の堕落四将だよ」

 

 頭を踏みつけられながら、自己紹介をされる。

 堕落、四将………満身創痍のあたしがどうにかできる相手じゃない。

 どうしようもない絶望感に心が蝕まれる。

 

「あんたのご主人様には手を焼いたよ。まさか堕落王様を裏切るとはねぇ。相性の悪いバロムをけしかければどうにかなると思ったけど………相打ちとはねぇ。さすがは腐っても王の娘ね」

 

 え…………?

 バロムをけしかける?

 それは、どういうこと。

 あたしが作戦を開始してすぐにバロムが介入してきたのは………もしかしてこの女の仕業………?

 あたしをダシにして、ノーラをおびき寄せた?

 そんな……

 

「ノーラ様もバロムも戦線離脱、まぁ結果的に私の一人勝ちね」

 

 そう言うとイリアは肉の塊に手を突こんだ。

 そうしてしばらく何かを探すように、手をかき回すと……ずるりと巨体を引き抜いた。

 それは肉に引き摺り込まれたバロムだったものだった。

 立派な黒い鎧はひしゃげ、ボロボロになっていた。

 あたしと対峙した時の圧倒的な風格は、もうそこにはない。

 その無残な巨体をイリアは軽々と持ち上げると、まるで愛おしいものであるかのように抱きしめた。

 

「うふふ、い・た・だ・き・ま・す」

 

 ずぶりと尖った八重歯がバロムの首元に突き刺さる。

 

「え?」

 

 鮮血が溢れ出し、首元に紅い花が咲く。

 そのまま彼女は首から血を吸い上げ始めた。

 絞り込むようにその巨体をぎゅうぎゅうと締め付け、血を啜る。

 その姿は、サキュバスと言うよりバンパイアのそれだった。

 巨体が、みるみる萎んでいく。

 バキッ!

 細くなった身体が彼女の熱烈な抱擁に耐えきれなくなったのか、二つに折れた。

 イリアは折れた身体を抱え上げ、さらに身体に力を込めて折っていく。

 そうして巨体を折りたたんでいき、雑巾を絞るようにその身体から血を吸い尽くした。

 最終的に、バロムの身体は、イリアの掌に収まるほどの小さな肉塊となってしまった。

 

「ふぅぅ〜、やっぱ不味いわねぇ」

 

 そう言って肉塊を投げ捨てた彼女はありえない程の力をその身に宿していた。

 堕落四将バロムを前にした時より、さらに大きいプレッシャー。

 初め彼女を目にした時の違和感、サキュバスにしては異様な気配の正体はこれか……

 血を喰らい、その力を取り込む。

 これが……本当に同じ種族なの? いくらなんでもサキュバスという枠組みを逸脱している。

 まるで巨人と対峙したかのような強大な存在感に震えが走る。

 死ぬ………殺される。

 でも、イリアは床に這いつくばって震えるあたしを一瞥するとつまらないものを見たかのように鼻を鳴らした。

 

「堕ちかけの天使如き、もういらないわね」

 

 視線があたしから外される。

 助かっ……た?

 目前に迫っていた死が遠のいた安堵感に身体が脱力する。

 あたしから興味を失ったイリアは床に空いた大穴を覗きこんだ。

 

「ノーラ様はこの下かしらぁ?」

 

 ノーラを探している………?

 ノーラの血もバロムにしたみたいにして喰らうつもりなのだろうか?

 ノーラの小さな身体に牙を立てて、命を吸い尽くすの?

 

「堕落王様の血を引く魔族………さぞかし力に溢れているんでしょうねぇ……………」

 

 イリアの顔に凶悪な笑みが浮かぶ。

 

「その力を手に入れれば、私は王さえ超える器になれるかもしれない」

 

「…………ダメ」

 

 いつの間にか、あたしは立ち上がっていた。

 震える手に力を込めて光弾を作り出す。

 加護なんて、もう空っぽになっているはずだった。

 身体だってもうズタボロで立つことも難しかったのに。

 なぜか力が湧いた。

 

「ノーラ……には、指一本触れさせない!」

 

 掴むことができなかった手。

 今度こそ、あの子を守る、守って見せる。

 そんなあたしをイリアは可哀想な子を見るかのような目つきで見つめた。

 憐れむような瞳は、あたしを小馬鹿にしているようでもあった。

 

「そんな搾りカスみたいな力でどうするつもり?ねぇ命は大事にしなよぉ、言っとくけど、それを私に放った瞬間、殺すわよ」

 

 殺気が、あたしに突き刺さる。

 先ほどの恐怖が、蘇る。

 分かってる、あたしがどんなに力をふり絞ったってイリアには敵わない。

 バロムにすら勝てなかったあたしがバロムの力を取り込んだこいつに勝てるはずがない。

 ……………でも違う、勝ち負けじゃないんだ。

 

 あたしは、ノーラには戦って欲しくなかった。

 あの子には、ずっと笑っていて欲しかった。

 大好きな物語を好きなだけ書いて、いつものように無邪気な顔であたしに読ませて欲しかった。

 優しい彼女のままでいて欲しかった。

 でも、彼女は味方に牙を剥いた。

 狂気に身を墜とし、戦いにその身を投じた。

 

 ………………それはなぜ?

 

 あたしが…………あたしが、守られる身分に、甘んじていたから。

 身体を汚されてしまったから………

 加護がもうないから………

 あたしにはもう何もできない………

 そうやって、何も考えずに、ノーラに守られて安心し切っていたから。

 その安らかな生活の裏で、ノーラが何をしていたかなんて考えもしなかった。

 

「あたしが…………戦わなくちゃ、ダメだったのッ!」

 

 戦って、心配する必要はないって、理解させてあげなくちゃ駄目だった。

 あなたは、戦う必要はないんだよって。

 魔族のことは天使が、あたしがどうにかするから………あなたは、ただ笑っていればいい。

 そうやって安心させてあげなくちゃ………駄目だったのに……!!

 

「もう戦わなくていい!あたしが………戦う…から」

 

 光弾を放つ。

 それは今にも消えそうな儚い光だった。

 でもあたしは、確かに戦いの意思を示した。

 

「あっそう………死ね」

 

 圧倒的な力があたしに襲いかかった。

 濃密な死の予感があたしを包む。

 でも、ちっとも怖くなかった。

 もう決めたから………あたしは最後の瞬間まで、ノーラのために戦うって………

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 痛い

 

 苦しい

 

 真っ暗

 

 ここどこ?

 

 わからない

 

 痛い

 

 痛いよ

 

 どうして、こんなことになったんだっけ?

 

 …………わからない

 

 思い出せない

 

 ()()…………誰だっけ?




ノーラちゃん視点がないとギャグ成分が不足してしまう。
ノーラちゃん生き返れ……生き返れ……

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