私なんかエロゲのラスボスの娘っぽくない?   作:黒葉 傘

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今回の話は不快に感じる人もいると思います。
なので、先に謝っておきます、すみませんでした。


真っ暗

 崩壊した堕落城、私たちはそこから湧いて出る魔族たちの軍勢を相手取っていた。

 

「下がるな!こいつらをなんとしてでも食い止めろ!!」

 

 先輩の天使たちの号令が響く。

 私たちの後ろには捕らえられていた天使がいた。

 彼女たちを取り戻そうと、魔族たちが群がってくる。

 そうはさせまいと白銀の剣を振るい、魔の手をなぎ払う。

 私たち天使も必死だ、彼女たちを取り戻せば魔族は軍隊を生み出す母体を失うことになる。

 敵の弱体化と自軍の強化、それが成せる今回の作戦、負けるわけにはいかなかった。

 

「ミリア」

 

 必死に剣を振るう私に、リエル先輩呼びかける。

 

「こっちの戦況はもういいわ〜。ついてきなさい、城に進入するわよ」

 

「ええ!?」

 

 今絶賛混戦中なのですが!?

 

「こんな雑兵どうにでもなるの。問題なのは……堕落四将と王、分かるわね」

 

 先輩のいつになく真剣な横顔に私は息を飲む。

 そうだ、確かにこの混戦に堕落四将と堕落王が加われば、それだけで情勢は魔族側へと傾くだろう。

 誰かが奴らの足止めをしなければならない。

 

「行けよ!悔しいが一番腕が立つのはお前だ」

 

 ベラ先輩が背中を押してくれる。

 振り返ると他のみんなも力強く首を縦に振ってくれた。

 みんなの期待を感じる。

 

 天使の希望、私がそう呼ばれているのは知っていた。

 私には過ぎた称号だ。

 私はいつだって、ただ必死に剣を振り続けていただけだ。

 負けたくない、汚されたくない。

 そうやって、自分を守ってきただけ。

 人類の未来とか、希望だとか、そんな大義のために剣を取ったわけじゃない。

 今代最強の天使、その地位の重みも、責任も、私には分からない。

 でも、そんな私をみんなは信じてくれる、背中を押してくれる。

 ならば、私もそれに答えたい。

 

「行きましょう!リエル先輩」

 

 先輩とうなずきあい、手を繋ぐ。

 そして、二人で空高く舞い上がった。

 光で形成した翼がはためき、加速していく。

 飛び交う攻撃、魔族の怒号、崩れ落ちる瓦礫。

 その全てを潜り抜けて、私たちは城へと突入した。

 

 

……………………………

 

…………………

 

……

 

 

 城外の喧騒が嘘みたいに、城内は静けさが支配していた。

 まるで廃墟のような寂しさがそこにはあった。

 時折聞こえるのは瓦礫の崩れる音だけ。

 魔族の姿は見当たらない。

 私たちは慎重に歩みを進める。

 少し進むと一際崩落の激しい広間にたどり着いた。

 その広間の天井には大きな穴が開き、それが遥か頭上まで続いていた。

 部屋の真ん中には瓦礫の山ができている。

 おそらくこれらが落ちて穴が形成されたのだろう。

 

「ここから、上まで行けそうね〜」

 

 先輩が、頭上を見上げながら呟く。

 私もそれに倣い見上げる。

 確かに、いちいち階段を探すより、この大穴を使った方が楽そうだ。

 

「…………ぃ…………ょ…………」

 

「え?」

 

 その時、瓦礫の山から、微かな声が聞こえた。

 とても小さな声だったけど、聞き間違いじゃない。

 

「リエル先輩!」

 

 慌てて駆け寄り、瓦礫を退ける。

 瓦礫をどかすと小さな腕が見えた。

 やっぱり!逃げ遅れた天使だろうか?誰かが生き埋めになってる。

 急いで助けないと!!

 瓦礫に手をかけ、必死に持ち上げる。

 でも瓦礫は堆く積まれていて、一つ一つどかしていったのでは、遅すぎる。

 早くしないと、埋もれている人が危ないのに。

 焦りだけが募っていく。

 

「邪魔よ、私がやるわ〜」

 

 リエル先輩にそっと肩を叩かれた。

 彼女が王笏を振るうと、光が瓦礫を包み込み、持ち上げる。

 先輩は次々と瓦礫を浮かせ、道を作っていく。

 瓦礫の下から現れたのは……

 女の子だった。

 

「っ……!」

 

 言葉に詰まるほどのひどい傷。

 その顔には目を貫くように横に一線、深い切り傷が入っていた。

 服はボロボロに引き裂かれ、露出している肌にも無数の擦り傷や打撲痕がある。

 鋭い瓦礫が貫いたのか、彼女の右腕は千切れかけ、ぶらぶらと力無く揺れていた。

 見えない瞳で、あたりを探ろうと彼女は力なく首を動かしていた。

 思わず目を逸らしてしまいそうになる。

 

「ノー……ラ?」

 

 彼女には見覚えがあった。

 あの日街から消えた少女が、無残な姿で私の前にいた。

 なんでこんな…………!

 いったい彼女の身に何が起こったのだろう。

 

「あら〜大変ね〜」

 

 リエル先輩は傷ついたノーラちゃんに王笏をかざす。

 仄かな光が王笏から溢れ……

 

 彼女の肌を焼いた。

 

 小さな口から苦悶の声が上がる。

 

「ちょっと、何してるんですか!?」

 

 王笏を掴み、ノーラちゃんから引き剥がす。

 

「何って?浄化だけど〜」

 

「浄化って!こんなに傷ついているのに、可哀想だと思わないんですか!?」

 

 リエル先輩は笑っていた。

 いつもみたいに。

 傷ついた小さな命を奪おうとしていたというのに。

 

「可哀想〜?魔族を浄化するのにそんなこと考えるの〜」

 

「え……」

 

「見た目に騙されちゃだめよ〜こんなに可愛い形をしてるけどこいつは魔族だったんだから、浄化しなきゃ」

 

 いつもの笑顔、でもその目はちっとも笑っていなかった。

 敵を前にした戦士の目つきだった。

 その目を見て、気がついた。

 あぁ…………リエル先輩は、もうノーラちゃんを敵と認定していたんだ。

 今思えば、記憶をなくしたベラ先輩を見つめるリエル先輩の目は冷ややかだった。

 目的はどうあれ、仲間に手を出した、その時点でもう先輩の敵だったんだ。

 

「先輩!ダメ!」

 

 王笏の光が増す。

 まだ、彼女の目的も、敵か味方も分かっていないのに…………!

 

「そうだよぉ、ダ〜メ、それは私の物なんだから」

 

 突如、真上から尋常ではない殺気が降り注いだ。

 とっさに、ノーラちゃんを抱え、その場から飛び退く。

 次の瞬間、私たちがいた場所に何かが着地した。

 地面が砕け、破片が飛び散る。

 視線を上げると、そこには1人のサキュバスが立っていた。

 サキュバスとは思えないほどの圧倒的な迫力、こいつは……?

 

「堕落四将、イリアね」

 

 先輩の言葉に、サキュバスは愉快そうに笑った。

 

「あら、よかったー。私のこと知っているのね、それじゃぁ自己紹介は必要ないわねぇ」

 

 彼女の身を包んでいた翼が開き、その美しい肢体が露わになる。

 女である私でもドキッとしてしまうほど妖艶な体。

 でも、そんなものに興味は引かれなかった。

 私の目は、彼女の掴んでいるものに釘付けになっていた。

 

「貴様……それを離せ」

 

 自分でも、驚くほど低い声が出た。

 彼女の掴んでいたもの、それは1人の天使だった。

 血だらけで意識を失った天使、そのお腹には大きな穴が空いていた。

 明らかに致命傷だった…………

 

「ああ、これぇ?大した力もないのに蠅みたいにまとわりついてウザかったからさぁ、だって邪魔じゃない?」

 

 そう言って、彼女は手に持った天使を投げ捨てた。

 まだ息があるのか、地面に転がった彼女は弱々しく震えた。

 視界が……真っ赤に染まる。

 

「貴様アァァァアアアッ!!!」

 

 怒りに任せ、私は敵に切り掛かった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 真っ暗だ…………

 何も見えない。

 僕はずっと真っ暗な部屋に閉じ込められているんだと思っていた。

 でも、違った。

 僕、目が見えないみたいだ。

 それが初めからだったのか、それとも何かの事故で視力を失ってしまったのか、僕にはわからなかった。

 何も思い出せない。

 目のことも、自分が誰かも。

 ただ、僕を拘束する何かから助け出してくれた女性の様子から、この部屋は別に暗くないと気がついた。

 真っ暗なのは、僕の視界だけみたいだ。

 今その女性2人はすごい音と共に現れた女の人と戦っている…………?みたいだ。

 なんだかわからないけど爆音があたりを支配している。

 見えなくて何にも分からないよ。

 

「ノー…………ラ……」

 

 声が聞こえた。

 戦闘音に紛れてか細い声が名前を何度も呼ぶ。

 誰の名前だろう?

 なんだか懐かしい響き……それにこの声もなんだか聞いたことがあるような…………

 その声がする方に、身体を引きずる。

 身体中が痛くて、うまく動けない。

 芋虫のように、地面を這いずって懐かしい声を目指す。

 やがて、温かい手が私の頬に触れた。

 

「…………ノーラ」

 

 優しい感触。

 あぁ、この感覚、知ってる。

 何か、何か思い出しそうだ。

 

「ご…………め……ん」

 

 ねぇ、なんで謝るの?

 息が、頬にかかるほど顔が近くにあるのに、見えない。

 あなたは誰?

 顔が見たい、見れば、誰か思え出せそうなのに…………

 頬に、柔らかい何かがあたった感覚がした。

 …………?

 吐息が当たる感覚。

 

「…………愛してる」

 

 あぁ………

 ……そうだ……そうだよ…………

 僕……ずっとこの言葉が聞きたくて…………

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 僕は愛されていない子供だった。

 そんなことは薄々気づいていたんだ。

 父さんは目が合うと僕を殴った。

 母さんはそんな父さんを止めなかった。

 なぜ殴られるのか分からなかった。

 僕は、何も悪いことをしていないのに。

 ちゃんといい子にしているのに、なんで殴るの?

 目が合うと父さんみたいに殴られると思って、僕は誰とも目を合わせられなくなった。

 学校に友達はいなかった。

 いつも一人ぼっちだった。

 家でも、部屋に僕を閉じ込めていない存在のように扱われた。

 幸いだったのは、母さんが僕に気を使って娯楽物を買ってきてくれたことかな。

 小説、漫画、ゲーム、パソコン。

 僕は現実逃避をするように、架空の世界に逃げ込んだ。

 その世界では誰もが僕を愛してくれた。

 

 多かれ少なかれ、子供への虐待っていうのは子供が大きくなるにつれ減少すると思う。

 体格が大きくなると反撃できるし、子供も親から逃げる術を学ぶからね。

 でも父さんの暴力は僕が大きくなるにつれより過激になっていった。

 傷が、隠せなくなってきた。

 そしてある日、父さんは警察に捕まった。

 引きずられるようにして、家から出ていく父さんの放った言葉が、今でも忘れられない。

 

「こいつは、俺の息子じゃない!汚いクズのガキだ!こんなやつ!生まれてこなければよかったんだ!」

 

 わけが分からなかった。

 しばらくして、父さんと母さんは離婚した。

 父さんは当然親権を拒んだ。

 僕は母さんと暮らすことになると思った。

 その時まで僕は母さんだけは僕を愛してくれていると思っていたんだ。

 だって、父さんの暴力でできた傷の手当てをしてくれたのは母さんだし、娯楽物を買い与えてくれたのも母さんだ。

 

「ごめんなさい、あなたを愛せそうにないわ……」

 

 そう言って、母さんは親権を放棄した。

 本当に、わけが分からなかった。

 結局両親の親権の放棄は認められず、僕の面倒は母さんが見ることになった。

 でも、そんなことは全く、なんの慰めにもならなかった。

 母さんが僕を愛していないことをもう知ってしまったから。

 別れ際、父さんが真実を教えてくれた。

 

 僕は、犯罪者の息子だった。

 とある強盗犯が侵入した家で居合わせた女性を暴行した。

 犯人は捕まったが、その女性は身篭ってしまった。

 それが新婚したての母さんだった。

 父さんも、母さんも、多分自分たちの子供だって信じたかったんだろう。

 その時点でその子供が、父さんのものか、強盗犯のものか断言できなかったからね。

 結局、お腹に宿った命を堕ろすことはしなかった。

 それが悲劇の始まり。

 僕が母さんに似てればまだよかったんだけど。

 大きくなるにつれ、僕はどんどん憎い犯罪者の顔に似ていった。

 だから、僕の顔を見るたびに、殴ったんだ。

 僕という存在を、許容できなかったんだ。

 馬鹿みたい、僕を産むって決めた時こうなる想像、つかなかったのかな?

 でも、そう思う以上に、自分が嫌いになった。

 自分の中に走る、汚れた血に虫唾が走った。

 

 それから、どうやって生きたかは、思い出せない。

 まぁ、思い出す価値のないほどくだらない人生だったんだろう。

 死んだんだと思う。

 寿命か、自殺か、他殺か、それは分からないけど。

 生まれ変わった、ということは死んだのだろう。

 そう、生まれ変わって、僕は私になった。

 今度の人生では、両親に愛された幸せな子供になりたかった。

 でも私の生まれた世界は、エロゲみたいな世界で…………

 私はラスボスの娘みたいで…………

 無理やり犯され、生せられた子供だった。

 

 また…………?

 

 吐き気が……する。

 よりによって、なぜ私なんだ?

 虫唾が…………走る。

 人の尊厳を踏みにじる、外道な生き物。

 今世の私にも、その血が流れている…………

 嫌だ…………嫌だ、嫌だ、いやだ、嫌だ、イヤダ、イヤダ…………

 全部、壊そうと思った。

 魔族はみんな、みんな……皆殺しにしようと思った。

 だから、天使の味方をした。

 魔族を…………たくさん殺した。

 そうすれば、この不愉快な気分から解放されると思ったから。

 でも魔族をどれだけ殺しても、気分は晴れなかった。

 本当は最初からわかっていたんだ…………自分の本当の望みなんて。

 彼女といる時だけ、私は心から笑えたから。

 

 

「……愛し……てるよ…………ノーラ……」

 

 

 声が、聞こえる。

 ねぇ、そこいるのはあなたなの?

 暗い、見えないよ。

 光を失った私の瞳が蠢き、脈動する。

 光を求め、手を伸ばした。

 

 …………赤?

 

 光を求めた私が捕らえたのは、赤い光だった。

 目を、瞬かせる。

 そうして私が見たのは…………

 

 

 血だらけで横たわる、大切な人の姿だった。

 

 

 絶叫が、あたりに響き渡った。




本当にハッピーエンドになるの?(疑心暗鬼)

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