突撃!!ファミコンウォーズ~煌く星の作戦記録~   作:MaZ

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ウェスタンフロンティア軍の新米将校、エドワード・ロイス准尉が仲間と共に、
ツンドラ、デューンシー、コーラルリーフ、そしてエキシルバニアを駆ける!


第1話   激動の予感

 西の大陸を分かつ、ふたつの大国がこの世界には存在する。西のウェスタンフロンティアと、東のツンドラである。両者は30年に渡って国境争いに没頭、数多くの兵士がこの地で命を落としていた。しかし、最近になって両国間で取り交わされた講和条約によって、一時休戦となっていた。とはいえ、いつどこで発生するのかの予測がまったく付かないのが戦争である。国境を守る部隊はいつ、どちらの軍勢が先に攻撃を仕掛けるのか、そのタイミングを計りかねている状態であった。

 

「ロイス准尉、お電話です」

「誰からだ?」

「タイラー少尉からです」

 

 国境付近の司令部で、同じ歩兵部隊を率いる階級の仲間と談笑していたエドワード・ロイス准尉の元へ飛び込んだ一本の電話。それは士官学校からの兄貴分であり、今となっては上官となったアルフレッド・タイラー少尉からだった。

 

「もしもし、代わりました。ロイス准尉です」

『エディー、ニュース見たか?』

「ニュース?」

 

 タイラーの突然の言葉に、ロイスは思わず声を上げた。そして、部屋の仲間にテレビをつけるように言った。

 

「これは……」

 

 最初に一同の目に飛び込んできたのは、隣国ツンドラにおける、政権交代の様子であった。赤い正五角形の枠に固く握られた右の拳、ツンドラのシンボルマークが中央にあしらわれたベルトを高く掲げているのは、今までツンドラ国で実権を握っていたゴルギ大帝の息子、ノバ元帥である。そのかたわらではネリー少佐がその巨体に似合わぬ優しい笑顔で、広場に集まった国民に手を振っている。ゴルギ大帝は、この政権交代がまだ時期尚早であるとでも言わんばかりに腕を組み、そっぽを向いているのが目に入ってきた。

 

『ノバ元帥っていやぁ、ゴルギ大帝と比べて進歩的な考えの持ち主だって聞いてるぜ。今回の条約もほとんど、元帥が打ち立てたようなもんだって聞いたし。国民のために政治を改革するって言ってるらしいぜ』

「なるほど、この国境線にも何か、影響がありそうですね」

『そういう事。もしかしたら、思ったよりも早く実家に帰れるかもな』

 

 タイラーの無粋な声を聞いて、ロイスは少し落ち込んだような様子で溜め息をついた。

 

『……悪い、今のはなかった事にしてくれ』

「いえ、気にしないで下さい」

 

 ロイスの両親は彼が幼い頃に離婚し、母親に引き取られた。母子家庭に育ち、父親というものをほとんど知らないため、近所の同年代の少年達が父親と楽しそうにしているのは、今思い出しても辛い事であった。比べてタイラーの家は夫婦円満で家族仲の良く、周囲から羨ましがられるほどだ。

 

『それじゃあ、用はこれだけだ。切るぜ』

 

 そう言って、電話は一方的に切れた。彼は通話を切るボタンを押し、伝令の兵士に受話器を戻した。

 

「エディー、誰からだ?」

「タイラー少尉からだよ」

 

 そう答えて、ロイスは会話の輪の中へと戻っていった。

 

 

 明くる日、突然の召集を受けたロイスは、国境を担当する三名の司令官の元へと向かっていた。ツンドラでの政権交代による指令系統の混乱に乗じて攻撃でも仕掛けるつもりか、あの戦争好きの連中ならそれも考えられる。彼は嫌な予感が胸中から脳天までを突き抜ける感触に襲われ、お偉いさんの決定に巻き込まれるのはいつも自分達だ、とひとり思っていた。そしてその予感は半分外れていながらも、半分的中していた。

 

「実地演習……ですか?」

 

 ロイスと共に呼び出された小隊長達が口を揃えて返す。

 

「えぇ、ここしばらく実戦から離れていたでしょう?このまま勘が鈍っていくと、後々で厄介だからね」

 

 そう説明したのは、今回の演習を発案したベティー准将であった。才色兼備の将校で、若くしていながら「将」の位を冠する存在である。彼女が得意とするのは軽装甲車両や歩兵部隊を中心とした高機動力部隊で、即断即決の明朗な性格によく合っていた。情報の少なさに不安がる小隊長達を前に、ベティーは明るく微笑んだ。

 

「それほど大変なものでもないし、肩の力を抜いていいわよ」

 

 はぁ、と気の抜けた返事をするしかないロイス達ではあったが、確かに兵の鍛錬は欠かす事があってはならないと理解していた。しばらくして、ロイスは他の仲間とは離れての行動となった。国境線でツンドラ軍が不審な動きを見せているとの報告が入ったというのだ。一部の特殊部隊による、スパイ活動だと思われる。ロイスに与えられた任務は、演習を行う前に国境線の見回りをするというものだった。このくらい、軽偵察車にでもやらせておけばいいと思っていたのだが、その軽偵察車が一台、行方不明になったのだという。先行したアルファ分隊と合流し、一連の不審な動きの正体を確かめて欲しいとの事だった。

 

「それじゃ……行きますかね」

 

 ロイスは扱い慣れたH-16自動小銃を構え、見回りを開始した。毎朝のランニングとは違い、いつでも発砲出来る構えで走り出す。ツンドラとの国境は常に気候が冷涼で、この時期は雪が降り積もっていた。先行した仲間や車両が踏み均した後からも、わずかな雪が新たに積もっており、それらを踏み付ける音が耳に心地よかった。

 

「……ん?」

 

 走り出して十五分、ロイスは瓦礫の裏に奇妙な違和感を覚えた。人の気配がする。

 

「動くな、手を上げろ!」

 

 彼はH-16を構え、引き金に右の人差し指を掛けた。緊張の糸が張り詰め、瓦礫に隠れた人影が飛び出し、ロイスの銃が鉛弾を吐き出すまでにそう時間はかからなかった。ツンドラ軍の軍服に、両手に抱えた不自然な工具の山。ロイスが放った弾丸はスパイに当たる事なく地面に突き刺さったが、彼の警告を受けても止まらなかった辺りで、スパイの敵意は認められた。敵であれば無力化、もしくは殺害という選択肢が浮かび上がる。

 

「待て!」

 

 そんな事を言われて待つ馬鹿はいないが、こればかりは叫ばずにはいられなかった。さらなる一歩を踏み出した、次の瞬間。

 

「あのスパイ、集音マイクを置いて行ったわ!」

 

 インカムにベティーの声が響き、すかさず辺りを見回した。そして彼の左後ろ、寄せ集めのメカと言った風情を漂わせる集音マイクが、瓦礫を背景に鎮座していた。ロイスは瞬間的な判断で引き金を絞り、銃弾を浴びせ掛けた。粗末な材料で作られたらしい集音マイクはたちまち瓦解し、使い物にならなくなった。

 

「スパイを追うのよ!」

 

 頭に響くベティーの声を聞き、「了解」と返したロイスは、スパイの逃げた足跡を追い始めた。途中、その背中を確認する度に引き金を絞り、なんとしても動きを止めようとしたが、走る事による手元の上下と、距離の縮まらないスパイの足の速さから、なかなか弾が当たらない。

 

「ちっ……腕が鈍ったか」

 

 ロイスは訓練弾ばかりで実弾を使う事を控えていた事に少々の後悔を噛み締めた。

 

「スパイ飛行船よ!」

 

 彼の頭を揺さぶるような甲高い声がインカムから脳天に突き抜ける。慌てて前方の空に目を向けると、恐らくカメラを積んだであろうツンドラ軍の小型飛行船が、フロンティア軍基地を目指して飛び立っていた。

 

「させるかっ!」

 

 すかさずH-16を空に向ける。弾の速度と飛行船の高度を計算して、やや仰角気味に銃口を向けた。吐き出された弾丸は飛行船のバルーンを一撃で撃ち抜き、スパイ飛行船は力なく地面に叩き付けられた。もう一機の飛行船も撃墜し、スパイの背中を追って走り出す。道中に置かれた集音マイクも発見次第、即破壊に努めた。標高も下がり、雪も積もらないほどの高さまで来たが、やはりツンドラとの国境。気温の低さから息が白く濁り、吐き出されては空気中に霧散する。また数分ほどの追跡の後、ロイスは無線の備え付けられた監視小屋を見つけた。すぐ側には川が走り、必要に応じては対車両の防衛線を張る事も可能であった。だが、彼はその開けた空間に違和感を覚えた。つい数時間前、作戦室で共に状況説明を受けた小隊長が仰向けに倒れている。まさかと思ったロイスは慌てて駆け寄り、彼の様子を見た。

 

「……これは……」

 

 倒れた小隊長の眉間には小指ほどの太さの穴が開いており、赤黒い血が止めどなく流れていた。不意を突かれ、小銃を構える間もなく眉間を撃ち抜かれて即死したに違いない。ロイスは、まだ比較的新しい足跡、それもツンドラ軍靴のものを見つけ、ベティーの指示を聞くまでもなく走り出した。流れの緩やかな川を泳ぎ切り、アルファ分隊の待つテントが視界に入るまで、彼は息を切らしながらも走り続けた。

 

「あれ、ロイス准尉?」

「本当だ、どうしたんだろう」

 

 アルファ分隊の歩兵達はその顔に、遠くから迫るロイスの姿に困惑の色を浮かべた。

 

「ここをスパイが通ったはずだ、どこに行った?」

 

 彼は語勢を強めてアルファ分隊の隊員達に尋ねた。だが、誰もスパイが通り過ぎた事を確認していなかった。ロイスは思わず足下の土を蹴り、苛立ちを露にした。

 

「ロイス准尉、我々の隊長は…」

「死んだ。スパイに殺された。お前達の指揮権は自分が引き継ぐ。行くぞ!」

 

 そう言って走り出したロイスの背中に、アルファ分隊の歩兵達がついて来た。足跡を追い、スパイが乗り越えたらしい金網の扉が目の前に迫る。扉の中央は錠前で閉ざされていたが、鍵を取りに行くほどの余裕はない。ロイスはH-16を構え、錠前を鉛弾の雨で粉砕すると、扉を蹴飛ばして通過した。そろそろツンドラ軍のテリトリーに入る。さすがにそこを越えてしまえばこちらの正当性も落ちる。だが、もはやこれはツンドラ軍に非がある、そう思わせる光景に出くわしたのは間もなくの事だった。ツンドラ軍の歩兵がテントを前に見張りをしている。スパイはさらに走り去って行ったようだが、残っていた二人の歩兵はこちらに向けて発砲してきたのだった。足下に弾けた弾丸が地面をめくり上げ、土ぼこりを舞い上げる。アルファ分隊の隊員達が一瞬たじろぐ。

 

「攻撃開始!敵兵を殲滅せよ!」

 

 ロイスは今度こそ当てると言わんばかりに引き金を絞った。銃口から吐き出された鉛弾が火線を形成し、一直線に伸びて行く。彼に続いたアルファ分隊の歩兵達も援護の火線を伸ばし、やがてそれらは段幕を張る事となった。ツンドラ軍の歩兵部隊は数に押され、あっという間に蜂の巣と化した。

 

『よくやったわ、そこの火薬庫を破壊して。テント内の残存兵力を叩くのよ』

「了解、アルファ分隊、攻撃!」

 

 ロイスは部下と共に、テント脇の火薬庫に銃弾を浴びせた。乾いた炸裂音と共に、金属片が四散する。爆風によってテントも紙屑のごとく吹き飛ばされ、その中から行方不明となっていたMx-500型軽偵察車が姿を現した。ドライバーの姿が見えなかったが、スパイの行動から察するに、生きているとは考えにくかった。

 

「これで追い掛ける。お前達は先に基地へ戻れ」

 

 軽偵察車の運転席に潜り込んだロイスは、ハンドルを握るとすかさずアクセルを踏み込み、目の前の急斜面を駆け上がって行った。二速、三速、四速とギアを変え、スパイを追跡する。有刺鉄線の巻かれたフェンスをいとも簡単に突き破り、今度は下り坂にさしかかった。放射状に残像となって後方に流れる風景を尻目に走り続けたロイスは、あまりにも信じられない光景を目の当たりにして急ブレーキをかけた。広大な空き地に並んだツンドラ軍の戦車部隊、重軽問わずにかなりの数が配備されている。輸送、戦闘ヘリも頭数を並べ、歩兵部隊もやる気に満ちている。ロイスもベティーも、開いた口が塞がらないといった様子だった。

 

「な……何だこれは……」

『敗北の覚悟を決めておくんじゃな!』

 

 しわがれた老人の声がインカムから滑り込んで来る。ゴルギ大帝の声だった。ロイスは慌ててハンドルを切り、来た道を引き返していた。その日、フロンティア軍の『停戦』は終わりを告げた。

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