突撃!!ファミコンウォーズ~煌く星の作戦記録~   作:MaZ

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最初のミサイル兵を生存させるのが地味に難しい。
なお、自分でミサイル兵を操作すると重偵察車が爆散する。


第14話   空飛ぶ戦艦

 ダスティスプリングでの防衛戦から数日後、ウェスタンフロンティア軍はついに攻勢に出る事となった。これはエキシルバニア軍の伝令の隙を突いたものであって、砂漠に位置するネロサイト採掘施設を奇襲するという大胆なものであった。

 かくして後に『ホットフラット』作戦と呼ばれる、フロンティア軍の反撃が始まった。

 

「バートン中尉だ、オースティン大佐に取り次いでくれ」

 

 サムソン・タイプC輸送ヘリが離陸の準備を終え、命令次第でいつでも出撃出来るという状態にあるフロンティア軍基地内で、今回の作戦に納得がいかない様子のバートンが電話越しに激しい剣幕でまくし立てていた。

 

『どうしたのかね? バートン中尉』

「今回の作戦、我がミサイル部隊から兵員を三名、敵地の真っ只中に降下させたそうですが」

 

 バートンの立腹はそこにあった。今回、採掘施設を守るエキシルバニア軍の裏をかき、ヘリポートに少数部隊による奇襲を敢行、戦闘ヘリを離陸前に出来るだけ破壊するという任務が、彼の部隊のミサイル兵に与えられていた。当然、エキシルバニアにとってネロサイトは重要な燃料物質である。重戦車やMG兵といった精鋭部隊を数多く揃えて守りを固めている事は想像に難くない。いくら上からの命令とはいえ、さすがに説明を欲した。

 

『彼らだけではない、重偵察車も随伴させた。脱出の際にはミサイル部隊を搭載するように伝えてある』

 

 とは返ってくるものの、今回の編成はオースティンらしからぬもので、どちらかというとハーマンのそれである。

 

『これは将軍閣下のご命令なのだ。確かめたい事があると……』

「……確かめたい事?」

 

 バートンが返すと少しの間、無線から沈黙だけが流れ、重苦しい声が返ってきた。

 

『ロイス少尉の運の良さ……本当に単なる人間の運なのかと』

 

 大佐の言葉に、バートンは首を傾げながら沈黙した。

 

   

 

「ミサイル部隊は戦闘ヘリの破壊に力を入れてくれ。敵の歩兵は僕達が片付ける」

 

 奇襲作戦に駆り出された三名のミサイル兵に、重偵察車の後部機銃席からロイスが指示を出す。もちろん、運転手はパウエル兵長で、前部機銃席にはハンター軍曹が座っている。

 

「はっ!」

 

 ミサイル兵からその言葉が返ってくると、ロイスはパウエルに発信するよう伝えた。兵長の足同然に動き出した重偵察車の前輪が砂混じりの路面を噛み、車体を前進させる。砂埃を立てないようにゆっくりと進めながら、一番最初に視界に入ったヘリポートに、群青の戦闘ヘリ、ウルヘンヴォッカーが停まっているのが目に入った。ミサイル部隊の一人が狙いを定めて一撃をお見舞いした。シルバーフィッシュがその頭がヘリの脇腹にめり込ませ、炸薬を起爆させる。機体が火を噴きながら右側に倒れ、メインローターがへし折れて弾け飛んだ。

 突然の出来事に、基地内は突如として慌しい空気に包まれた。消火器を手に駆けつけたエキシルバニア兵に向かい、ロイスとハンターが銃撃を加える。悲鳴と怒号が爆音の中にかすかに聞こえ、その向こうからMG兵が自慢の得物を引っ下げて向かってくる。

 

「タルを撃て!」

 

 全方位に旋回できる機銃を扱っているロイスは左側面の歩兵に応射していたため、ハンターに指示を飛ばした。彼女もすぐさま、弾薬の詰まった金属製のタルを見つけて狙い撃つ。一筋の火線がタルに向かって伸び、その鉛色の表面に突き刺さった。内部に詰められていた、手榴弾数個分の爆薬が一瞬にして炸裂、引き裂かれた金属片を刃として放射状に吹き飛ばし、周囲の兵の体を切り刻む。MG兵も同様に血の筋を空に走らせて倒れた。

 

「こちらミサイル部隊、二機目のヘリを破壊しました!」

 

 戦闘ヘリの破壊を担当していたミサイル兵の部隊から連絡が入る。ロイス達もヘリに乗り込もうとする歩兵を仕留めている所だった。重偵察車のボディにはいくつか弾痕が刻まれていたが、致命傷には至らない。

 

「よし、このまま敵戦闘ヘリの破壊を続行だ。敵機甲部隊が来るまで続けるぞ!」

「了解!」

 

 その答えが返ってきた矢先の事だった。一陣の風が重偵察車に吹きつけ、車体を大きく揺さぶる。あまりの衝撃に、あご紐を締めたヘルメットに、首から上を持っていかれる所であった。なんとか音の方角に振り向いたロイスであったが、先ほどまでいたミサイル兵が跡形もなく消し飛んでいる。一瞬前には炸裂音が響いていた。まさか―

 

「兵長、西へ向かって走れ! 重戦車が来た!」

 

 ミサイル兵を消し飛ばした一撃は、紛れもなくウーベルマイスター3型重戦車の砲によるものだった。ただならぬ気配を察したパウエルは重偵察車のアクセルを踏み込み、砂を巻き上げて逃走を開始した。追いすがるエキシルバニア歩兵の銃撃がガンガンとボディを打ち鳴らす。左のテールランプが砕け、赤い強化プラスチックが砂漠に撒き散らされた。

 手負いの獣に襲い掛かる野良犬の如くかじり付く歩兵を相手に、ロイスは機銃の引き金を引いた。ほとばしる火線が先頭の一人の首から上を吹き飛ばすと、それに足を止めた二人目と三人目の胴に風穴をいくつか開ける。一瞬の敵の動きの鈍りを突いて、パウエルの重偵察車はひたすら西へ向かって逃げ続けた。途中のタルや火薬庫を次々と炎上させて時間を稼ぐ。だが、どれだけ速く走れようとも、それら全てを超越した存在が自分達の頭上にいる事を忘れたわけではなかった。

 空飛ぶ戦艦――ガンシップこと戦闘ヘリが上空から自分達を狙ってミサイルの発射スイッチをいつでも押し込める状態にしているはずだと、重偵察車の三人はそうだとばかり思っていた。

 

「准尉、橋が見えました!」

 

 運転中のパウエルが声を張り上げた。確かに前方数百メートルの位置に川があり、そこには木製の橋が架かっている。だが、その橋の違和感に気が付かないフロンティア軍の面々ではなかった。異様な傾斜がついており、渡ると言うよりは登るに等しい。残り二百メートルの近くにまで来た時、その違和感の意味が理解された。

 

「は、橋が……壊れています!」

 

 ハンターが叫ぶ。いかにも万事休すといった様相で声を上げたが、殊のほかロイスとパウエルは落ち着いていた。

 

「兵長、この状況でやる事は何だ?」

「はっ、自分には准尉の考えが分かっているであります」

 

 妙にわざとらしい口調で言葉を交わした二人に、彼女は不気味ささえ覚えるほどであった。だが、その考えも直ちに霧散するほど、急激な加速で自分の体が座席に吸いつけられるのを感じた。後ろを見上げれば、後部機銃席のロイスの目許ににやけた時の独特の歪みが認められる。その目線を追って振り向けば、既に橋は目と鼻の先にまで迫っていた。その時の橋は、ハンターの目には垂直に切り立った断崖絶壁にさえ見えた。

 

「いけない、ぶつかるッ!」

 

 あまりの光景に、彼女は目をつぶって顔を伏せた。一瞬の後には重偵察車は激突して大破、衝撃と炎上の熱波で自分には当たり前のように死が待っているものだとしか、その時の彼女には考えられなくなっていた。

 

「行ける! 飛べっ!」

 

 険しい傾斜を、重偵察車Humbugが駆け上がる。幅広のタイヤが乾いた橋の木目を噛み、そのグリップ力で速度をほとんど落とす事なく、数メートルの高さにまで上り詰めた。遠くから見ているエキシルバニア軍にとっては、それは正気の沙汰とは思えない行為であり、もはや蛮勇と呼ぶのに相応しいほどであった。

 

「何やってる、撃て!」

 

 重戦車の車長が砲撃手に命じ、砲身が素早く持ち上がる。いくら距離が離れているとはいえ、まだ重戦車砲の射程圏内であった。砂嵐が若干吹いてはいるものの、それほど砲弾の軌道に影響するものとは思えない。砲口からフロンティア軍重戦車ハーマネーターに匹敵する口径の砲弾が放たれ、橋に向かって突き進んだ。砂嵐による影響もほとんどなく、弾は橋の根元に突き刺さった。瞬時にして空気が灼熱を伴って膨張し、橋をいとも簡単に瓦解させる。

 だが、その時既に重偵察車は宙を舞っており、炸裂の衝撃波が追いつく頃には対岸に着地していた。

 

「着地成功! よく重偵察車で出来たな」

 

 パウエルのヘルメットを軽く叩いて功績を称えるロイスではあったが、そのすぐ横でハンターがうずくまっているのを見た。二人にとっては以前、ツンドラ軍との戦いでひとつの任務中に三回も飛んだので慣れていたが、彼女はこれが初めての飛翔だという事を思い出したのであった。

 

「ハンター軍曹、もう大丈夫だ」

 

 ロイスが声を掛けるが、彼女は反応しない。どうやら、うずくまっているのには別の理由があるらしかった。

 

   

 

「こちらデルタウィング。機甲部隊と合流した」

『こちら司令部、先発隊の合流を待て』

「了解」

 

 遥か前方に住宅街らしき家々が見え、それを左右に分かつ大通りにはエキシルバニア軍重戦車、ウーベルマイスター3型が停まっている。おそらく、民家の影に隠れて死角になっている所にはバズーカ兵でも潜んでいるに違いない。フロンティア軍のAH-86型デューイ戦闘ヘリの後部操縦席で桿を握るスコット・カーライル曹長は、それほど多くないヘリの残り燃料を気にしながら、重戦車部隊の真上でホバリングを続けていた。

 

『こちら重偵察車、機甲部隊聞こえるか? 繰り返す、こちら重偵察車』

 

 突然、若々しい男の声が無線機ごしに響き、ヘリの機内を縦横に駆け巡った。

 

「こちらデルタウィング。機長スコット・カーライル曹長、銃撃手ダニエル・ノード軍曹」

『こちら重偵察車、運転手ビルフォード・パウエル兵長、助手席機銃手グレース・ハンター軍曹、後部機銃席エドワード・ロイス准尉。奇襲部隊は自分達しか残っていない。手はず通り動こう』

「了解」

 

 カーライルはロイスの名を聞き、あの悪運強い……と感じた。今やフロンティア軍ではちょっとした有名人となった彼ではあったが、本人にその自覚は全くと言っていいほど感じられない。早速ロイスから通信が入った。

 

『この先の住宅街に敵が潜伏している可能性がある。デルタウィング偵察に向かってくれ』

「了解、偵察に向かいます」

 

 なかなか筋のありそうな男だ、カーライルはそう心の中で念ずると、戦闘ヘリの機体を前に傾けてローターの回転数を上げた。バタバタという音が重苦しく、そしてけたたましく砂漠の空を打ち鳴らす。獣の咆哮さえも一吹きでかき消してしまいそうな、それは天を舞う竜の咆哮にも捉えられた。住宅街を分かつ通り道には、やはりエキシルバニア軍重戦車が我が物顔で陣取っており、道の狭さからフロンティア軍の重戦車も一輌ずつしか展開させる事が出来ない。戦闘ヘリとは、こういう時のために必要な兵器と言っても過言ではない存在だった。

 

「重戦車を確認。AGM-115用意……撃てッ!」

 

 機体脇から突き出た翼に吊り下げられた、AGM-115対地ミサイルの束から一本、エキシルバニア軍重戦車に向けて発射された。ブースターですぐに加速した弾頭は、重戦車の砲身の最大仰角を遥かに超える急角度から迫る。天井装甲に突き刺さったミサイルはただちに信管を作動させ炸裂、黒煙を巻き上げるようにして火柱が立った。それは一キロメートル弱後方のロイス達の目にもはっきりと映り、空飛ぶ戦艦の凄まじさを見せ付けられた。バズーカ兵が散発的に反撃を開始したが、バズーカ砲弾は動きの速い戦闘ヘリを追う事が出来ず、機銃掃射で返り討ちの憂き目にあった。

 住宅地に残っていた最後のエキシルバニア兵がその胸に弾痕の赤い花を咲かせ、赤茶けた砂の大地に仰向けになる。この先の採掘基地を守るための前線だったらしかったが、対空配備を全く行っていなかったのが彼らの敗因だろう。しかしそれも聞く者はなし。

 

「こちらデルタウィング。住宅地を制圧した」

『了解』

 

 ロイスの声が無線機越しに返ってくる。重戦車三輌と重偵察車が移動を開始し、後方から砂埃が舞い上がる。この先で味方の増援部隊と合流出来る、そこで燃料も補給してもらうか――カーライルがそう思った矢先だった。

 

『輸送ヘリが撃ち落されたぞ! 敵は対空戦車を用意しているようだ!』

 

 オースティン大佐の通信に、彼はノードと共にうんざりした顔で「了解」と声を合わせて返した。

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