突撃!!ファミコンウォーズ~煌く星の作戦記録~   作:MaZ

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眼前に広がるツンドラ軍主力部隊、破られた停戦、ロイス准尉の戦争が始まる。


第2話   開戦

 ツンドラ軍の宣戦布告から数日後、ロイスは前線に立たされていた。しかもたった一人で。軍令部は何を考えているのかと内心憤ったが、命令を下された以上は従うのが軍人の定め。仕方ない事とあきらめ、ハーマン将軍が輸送ヘリで送ってくれるという、援軍のブラボー分隊を待つ事となった。けたたましい音を立てながら回転する前後のローターが特徴的な、ウェスタンフロンティア軍の輸送ヘリ、サムソン・タイプCがロイスの前方数十メートルに舞い降りた。後方のハッチが開き、四名の歩兵が降ろされた。

 

「ブラボー分隊か、エドワード・ロイス准尉だ。よろしく頼む」

「はっ!」

 

 返事からも頼もしさを感じさせるブラボー分隊の歩兵達が、さっそく何かを発見したようだった。

 

「准尉、前方にツンドラ軍の物と思わしきテントが見えます」

「そうか、よし、囲むぞ。いつでも攻撃出来るよう、警戒怠るな。」

「はっ!」

 

 いちいちうるさいほどの返事であったが、前回の任務で頼りにならなかったアルファ分隊よりかはマシだと思ったロイスは、テントを包囲するように動き始めた。H-16の銃口をひたすら赤茶色の幌に向け、異常あれば即座にそれをボロ切れに変えるように、部下と息を合わせていた。

 

「出ました!」

「動くな!」

 

 テントの入口から這い出て来たツンドラ軍のスパイ、その背中は突然の事態に慌てており、こちらの声も届かぬ様子で走り去ろうとしていた。ついでに覗いたテントの中には、集音マイクや飛行船のパーツが散乱している。

 

「撃て!」

 

 ロイスの命令が飛び、ブラボー分隊がすかさずH-16の引き金を絞る。スパイの背中には幾筋もの火線が迫り、無数の弾痕を刻み付けた。そして、うつ伏せに倒れると、そのまま冷たくなって生命活動を終えた。

 

「よし、行くぞ」

 

 スパイを始末した彼らは、この先のツンドラ軍前線基地を目指して走り出した。道中、数名の歩兵と斥候として遭遇したものの、誰一人として帰す事はなかった。

 

「うあっ!」

「大丈夫か!?」

 

 岩陰に隠れていたらしいツンドラ軍歩兵のKA-57から放たれた銃弾が、ブラボー分隊の一人に直撃した。左の腰を撃たれ、身動きが取れなくなったらしい。すぐさま残った四人の弾幕によって、そのツンドラ兵は仕留められた。

 

「参ったな……とりあえず、迎えのヘリを呼ぼう」

 

 三人の歩兵が周囲を警戒する中、ロイスは負傷した兵の手当てを始めた。だが、それが徒労に終わると気付くのは、少し目を離した瞬間に、暴力的な炸裂音によって負傷兵の体が弾き千切られてからであった。

 

「MGネストか……!」

 

 坂の上、近くの釣り橋を守るために置かれていた機関銃座をツンドラ軍に取られてしまったのだ。伏せろと叫び、二名がそれに従ったが、反応がわずかに遅れた一人が、先ほどの負傷兵と同じ運命をたどった。身を伏せ、短連射をMGネストに浴びせ掛ける。狙いは備え付けられた機関銃ではなく、それを扱う兵だった。身をよじりながら撃った弾の幾つかが歩兵の胸を射抜き、赤い軍服をさらに赤く染め上げた。撃たれた兵を引きずり出し、交替で乗り込もうとしていたツンドラ兵にも同じ運命をたどらせる。結局、橋を通過する頃にはこちらの兵力は三人になり、それまでに八人のツンドラ兵を仕留めていた。

 

 

 ツンドラ国は針葉樹の生い茂る冷帯の国で、良質の木材で世界的に有名であった。また、同時に粘り強さでも世界にその名を轟かせてもいる。事実、物量作戦を得意とするフロンティア軍を長年に渡って食い止めていたのだから、その実力は高く評価されている。これはひとえに、ゴルギ大帝の手腕であった。

 

「准尉、この辺りは森林地帯です」

「そうだな…敵の待ち伏せや潜伏に注意しろ」

 

 訓練しているとは言え、やはり実戦とは緊張感も何もかも違う。一瞬の後には死んでいるかもしれないというこの状況で、ロイスはひたすら足を前に動かし続けた。前に進まない事には、何も進展しないからだった。

 

「前方に、敵陣発見!」

 

 分隊の兵が声を上げた。監視小屋にMGネスト、土嚢で守りを固めた即席の陣地が数百メートルの先にある。双眼鏡を覗き込むと、火薬の詰まったタルと、有刺鉄線の巻かれたフェンスに囲まれ、手を上げたまま動けないでいる歩兵達が目に入った。簡易フェンスの近くには火薬の詰まったタルが無造作に置かれている。

 

『チョイ待て!』

 

 ハーマンの声が聞こえたのはその時だった。腹の底から揺さぶるような重低音が頭上の遥か彼方から響き渡る。

 

「空爆……!? 伏せろ! 巻き添えを食うぞ!」

 

 B-58バレンタイン、ウェスタンフロンティア軍が世界に誇る最強の爆撃機が腹の扉を開き、十個弱の爆弾を投下した。捕虜がいるはずの敵陣を爆撃とは、ハーマン将軍は何を考えているのかと心の底から憤慨したが、今はそれどころではない。一撃必殺の燃料気化爆弾が生み出す暴力的な爆風に吹き飛ばされまいと、ロイスは腕を後頭部に回して地面に突っ伏していた。上を見上げればツンドラ軍の戦闘機、MiDGE-21に追われ始めたB-58が見える。だが、それを追い回そうとした戦闘機は、フロンティア軍の主力戦闘機であるF-19ポルターガイストによって撃ち落とされた。

 爆撃によって混乱の最中にあるツンドラ軍の陣地に分け入ったロイスは、今度こそ取られまいとしてMGネストに潜り込んだ。先ほどは同胞を冥府に叩き落とす悪魔の咆哮、しかし今は敵に恐怖を与える頼もしい味方となっていた。機関銃から吐き出される人差し指大の銃弾が、ほんの数発でツンドラ兵の肉体を引き裂いてゆく。ついでに無傷だったタルを撃ち抜き、破裂させる。その衝撃で有刺鉄線のフェンスが破れた。

 

「こっちだ!」

 

 解放された歩兵達に、ロイスが叫ぶ。幸いにも武器は取り上げられていなかった。捕らえられて時間が経っていなかったのだろうか、そんな事を考えながら彼は引き金を絞った。ロイスはひたすら、薬莢で足の踏み場がなくなるまで、弾倉の弾がなくなるまで、MGネストにかじりついたまま機関銃を連射し続けた。

 

 十分に満たない銃撃戦の末に、ツンドラ兵七人を討ち取ったフロンティア軍は、六人で残る前線基地の制圧に乗り出そうとした。だが、この人数で基地の制圧とは少々無理があると、誰もが思い始めた、その時だった。

 

「准尉、何か聞こえませんか?」

 

 ブラボー分隊の一人がロイスに話しかけてきた。確かに、先ほどの爆撃機と同様に腹を揺さぶる重低音が聞こえてくる。

 

「輸送ヘリだな、ハーマン将軍が援軍を送ってくれたのだろう」

 

 そう言った彼の目の前に、本日二度目の輸送ヘリが舞い降りる。だが、その中から出て来たのは四人の歩兵に加えて、彼にとって最も頼もしい存在であった。主力軽戦車、通称ハーマンMk.5。緑色の装甲は重戦車のそれには劣るものの、偵察車の比ではない。火力、装甲、機動の三点に富んだ、バランスのよい戦車であった。

 

「これは……良い物を送ってもらえたな」

 

 ようやく戦いが有利になると踏んだロイスは、さっそく前身命令を繰り出した。戦車らしい、独特のエンジン音が周囲の空気を激しく揺さぶり、キャタピラが地面をえぐるようにして蹴ると、その車体がずいと前に出た。目の前には深い川が横たわり、それを渡る唯一の手段は頑丈な橋を通過する事。しかもそれは対岸に備え付けられたMGタワーによって、厳重に守られていた。だが、走る砦とも称される戦車を前にしては、それらの守りはただ蹴散らされる存在でしかなかった。軽戦車の100mmシングルキャノンが火を吹き、その砲弾は川を飛び越えて、片方のMGタワーに突き刺さる。砲弾の炸裂と共にタワーが瓦解、もう片方のタワーで機関銃を構えていたツンドラ兵が驚いて振り向いた頃には、その足下に超音速の弾をめり込まれていた。慌てて動員された軽偵察車も張り子の虎で、主砲の一吹きでスクラップと化した。

 

『准尉、敵陣にバズーカ兵の姿を確認!』

「よし、軽戦車、下がれ。ブラボー分隊、攻撃開始!」

 

 川辺の茂みに隠れながらツンドラ軍の陣地を偵察していた兵が、無線で報告した。さすがの軽戦車でも、対車両攻撃に特化したバズーカ兵の一撃を受けてはただでは済まない。ロイスはすぐさま歩兵部隊による攻撃を決断し、橋を渡って後退する戦車に追いすがるバズーカ兵に、H-16の短連射をお見舞いした。ツンドラ軍バズーカ兵が用いる対戦車ロケット、RPG-1の威力は確かに高いが、ひとたび攻撃すると次弾の装填に時間が掛かるというのが欠点であった。そのため、狙いを定めるにもやや時間が掛かる。つまり、手数で歩兵に敵わないという意味である。

 

「准尉、敵バズーカ兵の全滅を確認しました。後は歩兵と軽偵察車だけです」

「よし、敵陣に突撃する。全部隊、攻撃開始!」

 

 割と事務的な報告を受けつつ、ロイスは先陣を切ってツンドラ軍の陣地に切り込んだ。軽戦車も待ってましたと言わんばかりにエンジンをフル稼働させ、一息に橋を渡り切ると対岸の陣中で暴れ回った。装甲は小銃や機関銃の弾などものともせず、乾いた音を立てるばかり。お返しにと放った戦車砲弾がツンドラ軍の軽偵察車を鉄くずに変えた。ツンドラ軍陣地はたちまち混乱の渦中に叩き落とされ、駆けずり回る兵が次々と倒れたきり、動かなくなった。まるで水を打ったような静寂が、戦闘の終了を告げる。

 

「よし、制圧完了だ。ブラボー分隊は軽戦車と共に司令部に戻れ。自分は次の任務を待つ」

 

 ロイスは九人の兵と一輛の戦車を迎えの二機の輸送ヘリに載せると、自分の迎えがそろそろ来ると思い、待機した。

 

 

 案の定、軽偵察車に乗った伝令兵が任務を伝えに来る。

 

「オースティン大佐からの任務です」

 

 あの仰々しい堅物か、ロイスは口中につぶやいたが、三人の中では一番まともな思考回路の持ち主が次の指揮官だけに、心底安心していた。ハーマン将軍が援軍として送った航空部隊、戦闘ヘリによるピンポイントの攻撃ならまだしも、爆撃機でじゅうたん爆撃に出るとは―

 

「で、次の目的地は?」

「ウィンドブレーク山です」

 

 ロイスは黙ってうなずくと、軽偵察車の後部機銃席に飛び乗った。人使いの荒い連中だと、上に立つ者を選べないのは敵も味方も同じだと感じていた。戦争は、まだウォーミングアップに過ぎない。

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