突撃!!ファミコンウォーズ~煌く星の作戦記録~   作:MaZ

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ウィンドブレーク山、一つの通信基地をめぐる両軍の激突。


第3話   再会

 ウィンドブレーク山、ツンドラからの冷たい風の流れを断ち切る山岳地帯。現在はチャーリー分隊が通信基地を守っている。だが、度重なるツンドラ軍の攻撃によって、兵力が少しずつ削られているのが現状であった。今回ロイスに下された任務は、アルファ分隊を率いて基地の小隊と合流、アルフレッド・タイラー少尉の指揮下で行動する事だった。この戦闘を指揮しているのは、割と慎重なオースティン大佐である。

 

「ロイス准尉がアルファ分隊を?」

「はい、先の事件でアルファ分隊は隊長を失っており、ロイス准尉が後継に適任と判断されたそうです。また、先の戦闘でブラボー分隊にかなりの被害が出た為、再編成が行われた事も関係しているようです」

 

 そうか、と返し、幼馴染みのロイスが一端の部隊を引き連れてやって来る―どこか懐かしく、もどかしい感情に駆られたタイラーは、早く来ないものかと待ちわびるように時計に目をやった。

 

「よし、見張り交代だ。お前ら、敵が近くなったらタルを狙え。爆風で足止めくらいは出来るだろう」

 

 タイラーは見張りに就く歩兵達によく言い聞かせ、自分は川からつながる緩やかな傾斜の見張りに向かった。

 

「……やばいな」

 

 彼の目に映ったのは、ツンドラ軍の重偵察車二輛に追われるアルファ分隊だった。圧倒的な戦力差と言っても過言ではない。川の浅瀬に差し掛かったところで、遅れた一人が足を撃たれて転倒し、逃げる間もなく前を走る重偵察車に轢かれる結果となった。振り返った兵が、一瞬動きの止まった重偵察車の前輪を狙って射撃するも、車載の機関銃がその体を引き裂く方が遥かに早かった。

 

「まずいぞこれは……ベルクマン、オークス、マイヤー、行くぞ!」

 

 タイラーは自慢の対戦車ロケットランチャー、H-1を携え、部下を連れて坂を下り始めた。なんとか三人は生き残ったものの、下手に動けば瞬時にして蜂の巣と化す現状は変わりようがなかった。

 

「させるかよ……!」

 

 照準器の白い十字線の中央に、前の重偵察車の姿を捉えたタイラーは、鉄鎚に等しき一撃をお見舞いした。ロイスは前方から勢いのある噴射音が聞こえ、白い尾をなびかせた何かが後方に流れ去るのを感じた。まさか、今のは―考える間もなく、彼の体は後方から押し寄せる熱と爆風によって突き飛ばされ、うつぶせになって倒れた。何が起きたかを推し量るより前に、もう一度爆風が巻き起こった。

 

「エディー、大丈夫か?」

 

 聞き慣れた声がロイスの耳を打つ。インカム越しにではなく、電話の受話器越しにでもなく、直に届いている。

 

「ベルクマン軍曹、生存者は?」

「はっ。ロイス准尉、モーガン軍曹、ジャスティン一等兵です」

「二人やられたか……」

 

 タイラーは苦い顔で浅瀬に目をやり、炎上を続ける二輛の重偵察車と、それに隠れているはずのアルファ分隊の戦死者を見た。どちらも人としての原型を留めていない、焼け焦げた肉塊と化しているのは想像に難くない。

 

「タイラー少尉、自分の任務は……」

 

 タイラーは、ロイスが立ち上がっている事に気付き、申し訳なさそうな顔の彼に目をやった。

 

「失敗ではない。成功とも言い難いが……まあ、歩兵部隊だけで救援に向かえと言うのも無理のある話だ」

 

 彼はロイスが何を考えているのか分かっているため、その気持ちを汲むように言葉を選んだ。その後、ロイス達アルファ分隊は、タイラー率いるチャーリー分隊に守られながら、ウィンドブレーク山の通信基地へと向かった。

 

   

 ウェスタンフロンティア軍のシンボルカラーである深緑色に塗装された通信基地は、この前線からツンドラ軍の動きを監視、状況に応じて最も有利な部隊を送り込むために配置されていた。そのため、ツンドラ軍はこの基地を陥落させんと躍起になって攻撃を仕掛けてくる。この部隊を率いているのは、ゴルギ大帝の抜け駆けをやむなしと認め、本格的に軍を動かしたノバ元帥の部下であるネリー少佐だった。

 

「つまり、ツンドラ軍は今回の条約違反による侵攻を認める……という事ですか」

「そうだ。フロンティア軍の上の方々……特にハーマン将軍は、戦争が出来るとはしゃいでいたようだがな。この前もオースティン大佐が言ってた。ツンドラ軍の宿営地を爆撃機と戦闘機で強襲したってな」

「将軍は、ツンドラ軍への航空部隊の強さを見せつける事で無意味な攻撃の抑止を図った、とメディアは報道してます。しかし、近くにロイス准尉の部隊がいた事を見ると、あれは明らかに……」

 

 タイラーの副官、ケビン・マイヤー軍曹が途中まで言いかけて口ごもった。あくまで前線の最高司令官であるハーマンの悪口など、言っていいはずがないからである。だが、ロイスはマイヤーが何を言おうとしたのか、瞬時にして理解した。あれは自慢であった、捕虜がいるはずの敵陣を爆弾と機銃弾でかき回した。彼は苦い顔で考え込むような視線をテントの天井に投げ掛ける。そして、溜めに溜めた息を吐き出した。

 

「最近は、生きてるのが奇跡みたいな任務ばかりですよ」

 

 ロイスは皮肉混じりに言った。

 

「運も実力のうちだ。お前は生き残る運の持ち主って事だ」

 

 分が悪くなるとすぐ皮肉を言ってはふて腐れる、幼馴染みの癖を知り尽くしていたタイラーは、当たり障りのない言葉をかけた。その時、外で見張りをしていたアルファ分隊のクレス・モーガン軍曹がテントに駆け込んで来た。

 

「敵襲! ツンドラ軍です!」

「応戦準備!」

 

 タイラーの複謡が基地全体に伝播するかのごとく響き、通信基地に緊張が走る。森林地帯につながる広い入口にはMGバンカーが配置されている。タイラーは素早くそれに歩兵を潜り込ませ、攻撃に備えた。守備隊の目の前には針葉樹がまるで剣山のごとく立ち並び、ツンドラ兵はそれを利用して、木の影に隠れながらの前身で近付いて来た。

 

「来るぞ……!」

 

 MGバンカーに乗り込み、機関銃の引き金に指をかけていた歩兵が、少しずつ迫るツンドラ兵に狙いを定める。自分の体温がぎっしり染み込んだはずの手袋から、外気に触れた引き金の冷気が忍び寄ってくる。

 

「射程に入った!」

 

 基地の入口を守る二つのMGバンカーから、凄まじい勢いで鉛弾が吐き出される。たちまちそれらは火線から弾幕を形成し、ツンドラ兵に襲いかかった。MGバンカーを守るように隊形を組んだロイスは、タイラーに歩兵部隊の指揮統率を任された。オースティンの言葉によると、川の方面から重軽の偵察車部隊が、基地内の歩兵を駆逐するために向かってくると言うのだ。タイラー達バズーカ部隊は、そちらに回っている。

 

 

「岩影に隠れておけ。通り掛かったら一気に出るぞ!」

「はっ!」

 

 タイラー以下、バズーカ部隊は固唾を飲んで偵察車部隊が来るのを待ち受けた。彼らの視界に赤茶けた車両が入る。

 

「撃て!」

 

 タイラーの声が走り、最初にバズーカを撃ったのはマイヤー軍曹だった。砲弾は一直線に重偵察車の横腹へと向かって突き進み、狙い通りに左のドアに突き刺さった。起爆した炸薬が車内で膨張し、車体を前後に引き千切る。運転席と助手席にいた二人のツンドラ兵は即死、車上の機銃席にいた一人も爆風で吹き飛ばされ、岩場に叩き付けられたきり動かなくなった。黒煙と赤い炎が周囲を埋め、それらは互いの視界を遮るカーテンとなっていた。H-1は一度撃ってからの次弾装填に時間が掛かる。当てずっぽうに撃つ事は出来なかった。だが、偵察車の機銃は話が違う。煙幕の向こうからでも散々に撃ち掛けてくるのだった。

 

「伏せろッ!」

 

 タイラーは頭を抱えるようにして伏せ、隊員もそれに従ったが、コンマ数秒遅れたベルクマン一等兵が機銃弾をまともに受け、首から上を吹き飛ばされた。敵の機銃掃射は生半可な勢いではなく、明らかに目の前の標的全てを葬り去ろうとしていた。伏せた彼らの背中には、削られた岩の破片がパラパラと降り注ぐ。

 

「ちっ……食らえ!」

 

 オークス一等兵が立ち上がり、火線の伸びてくる根元を狙って引き金を引いた。直後に押し寄せた鉛弾の嵐に彼は倒されたが、砲弾は軽偵察車を一撃にして粉砕した。残るは重偵察車一輛、タイラーは狙いを定めずにバズーカを発射した。当てずっぽうな砲弾は重偵察車のフロントガラスをビリビリと震わせながらも、川の向こうまで飛んで行った。直後に猛反撃の火線が煙幕を貫いたが、手応えがなかった。やがて煙幕も晴れ、周囲の視界が開けた頃、自分達を奇襲したバズーカ兵部隊の生き残りは姿を消していた。後部座席の射主が辺りを見回していたが、敵の姿が見つからない。代わりに、上から突如として影が差し込んできた。この日の天気は晴れ。岩場を見上げると、そこにはバズーカを構えたマイヤーが引き金を引いた姿で立っていたのだった。豪速で直進してくる対戦車砲弾は重偵察車のボンネットをベニヤ板のごとく貫き、エンジンを爆発させる。放射状に広がる熱が重偵察車を引き裂き、乗組員全ての命と共に溶けて無くなった。

 

「……戻るぞ」

 

 部下二人を失ったタイラーは、残されたマイヤーを連れて、来た道を戻って行った。

 

 

「輸送ヘリか! 奴らの狙いは通信基地の占領だ! 阻止しろ!」

 

 ロイスはアルファ分隊と共に、基地がフロンティア軍の下にある証の軍旗を引きずり下ろさせまいとしていた。たちまち敵味方入り乱れての銃撃戦となり、誤射の可能性が高いMGバンカーは攻撃を見合わせ、飛び去ろうとする輸送ヘリに銃弾を撃ちかけた。今、この輸送ヘリを撃墜するメリットは今一つだが、この後になってまた歩兵部隊を送り込んでくる可能性もある。敵の数を減らしておく事に、損する事はないと踏んでいた。

 

「踏ん張れ! ここを陥落させるな!」

 

 ロイスはH-16のマガジンを入れ替え、新たな弾を装填し直すと、旗に群がるツンドラ兵に向けて引き金を引いた。占領旗に取り付いた兵を次々と黙らせ、下がりかけたフロンティア軍旗を高々と掲げ直す。負傷者の確認と手当てをしながら一息つこうと思った矢先、ロイスの頭上を輸送ヘリが飛び回っているのを見つけた。

 

「味方の増援か……」

 

 妙に機敏性に欠けるヘリが、よたよたと着陸した時、誰もがその理由を理解した。後部扉が開き、現れたのは前の任務でも活躍した軽戦車だったからである。周囲の歩兵部隊から歓喜の声が上がった。

 

「軽戦車、バズーカ部隊、先ほど大佐から通信が入った。川を渡ってツンドラ軍の軽戦車部隊が迫っている。基地に入られたらおしまいだ。来られる前に仕留める。行くぞ!」

 

 タイラーは早速、増援の軽戦車とバズーカ兵の部隊を率いて、川へとつながる斜面に再び降りて行った。

 

 

 ツンドラ軍軽戦車T-23はフロンティア軍のそれと比べて火力、装甲共に劣るが、その分軽量なため、機動性は若干優れている。後部には火炎放射器も備えた強敵だ。だが、最新型の兵器で身の回りを固めたフロンティア軍の前には、その粘り強さなど意味を持たなかった。タイラーのバズーカが火を吹き、放たれた砲弾はツンドラ戦車の砲塔に突き刺さり、装填前の砲弾を誘爆させた。そして、虎の子ハーマンMk.5の主砲が頼もしい轟音を響かせるともう一輛の軽戦車もその装甲を軽々と破られ、見るも無残な鉄くずと化した。

 

 ウィンドブレーク山の攻防はフロンティア軍の勝利に終わった。だがチャーリー分隊、アルファ分隊にもかなりの死傷者を出した事は、今後の課題となって小隊や分隊の長にのしかかる事となった。そして、本格的戦闘が始まる少し前に消息を絶ったという報告が入った軽偵察車。フロンティア軍とツンドラ軍の戦いはまだ、序章を終えたに過ぎなかった。

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