慌てて書きあげた理由は……制限改定のせいです。では、ごゆっくりどうぞ。
──―ここは軍貫処『
カウンターに五席とテーブルが三つしかない小さな寿司屋……もとい、軍貫屋。
表情の変わらない無愛想な店主が確かな腕で握る絶品の軍貫。それを求め訪れるのは、日々の戦いに疲れたモンスター達。
さて、本日のお客様は……?
「いらっしゃいませー! ご予約の方ですか?」
「ああ。2名で予約している
煌びやかな装飾に、名前に恥じない黄金の体。胸元にはまるで血を固めたような真紅の巨大な宝石が怪しく輝いている。
「卿」を名乗るということは、どこかの国のお偉いさんなのだろうか、とエクレシアは心なしか緊張した面持ちになる。
「かしこまりました。もう1人の方は後から来られるのですか?」
「いや、ここに……」
と、『黄金卿』が振り向いた先には誰もいない。
「なっ!? ついさっきまでここに!!」
上擦った声を上げ、彼が扉の外に飛び出すと同時に、外から甲高い女の子の声が聞こえてきた。
「
その声に反応し、全身の重厚な装飾をものともしない速度で、黄金卿は駆け出した。
「申し訳ない……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。では、2名様ですね。カウンターにどうぞ〜」
「はぁーい!」
黄金卿の隣に立つ少女は元気に泥だらけの手を上げ、駆け出そうとするが黄金卿に首根っこを掴まれ猫のように持ち上げられる。
「待て、お前は手を洗ってこい。……手洗いはどこに?」
「それなら、私が案内しますよ! 黄金卿様は先に座っておいてください」
苦しそうなので降ろしてあげてください〜、とエクレシアは続けて、女の子の手を取る。
「そうか? では、よろしく頼む。すまないな」
「お気になさらずに! じゃあ、行こっか……えっと……お名前、教えてくれるかな?」
顔を見つめるエクレシアに、女の子は
「私はドラゴンメイドのラドリー! よろしくね!」
そう言って大きく開けた口からは、「ドラゴン」の名前に相応しい牙が覗いていた。
今日の客は『黄金卿エルドリッチ』、そして『ドラゴンメイド・ラドリー』の二人。
黄金卿は胸に輝く魔石「エリドリクシル」の強大な呪いの力を、彼の持つ常人離れした欲望で制御することで我が物とした。その力で黄金郷を征服し、やがては外界をも手中に収めようと画策しているらしい。
「ドラゴンメイド・ラドリー」は、この世界で最高の奉仕を受けられると名高い「ドラゴンメイド」の一人。
『最大級のおもてなしでお出迎え致します』をモットーに、彼女たちは日々奉仕をしている……のだが。
「騒がしくてすまない、おまかせで2人前頼む。ひとつはサビ抜きで」
「あいよ」
「……1つ、相談を良いだろうか」
「私に答えられることなら」
「アーゼウス、だったか。そなたは成功と失敗の振れ幅が大きい部下はどう扱っている?」
「それは……」
シャリを握りながらアーゼウスは思案する。そもそもこの店を開いてこの方、部下などエクレシア以外に持ったことがないし、彼女は元々仕事のできる人間だった。素晴らしい成功もするが、失敗した時は目も当てられない。そんな部下を自分なら……。
「私なら……外すと思いますね。私はどちらかと言えば安定を求めたいので」
「そうだな。そなたはどこからでも安定して飛んで来るしな」
「恐縮です。うにの軍艦お待ち」
「褒めてないぞ。いただきます」
ううむ……どうしたものか……。と、ウニの軍艦を味わいながら黄金卿が考えを巡らせるうち、手洗いからラドリーが戻ってきた。
「あーっ! サーずるい! 先に食べてる!!」
「寿司というものは鮮度が大事なのだ。出されたら直ぐに食す、常識だ」
「ふーん! 今日のデュエルで私が失敗したから意地悪してるんでしょ!」
「なっ……! 失敗したのなら少しはしおらしくしたらどうだ。小さい方のメイドラゴンが!」
「はぁーっ!? 小さい方が好きだから雇ったんでしょ! この悪趣味卿エルドロリッチ!!」
「お客さまぁ〜〜? お静かにお願いしますね??」
音もなく背後に立ったエクレシアが静かに、しかし迫力のこもった声で2人に告げた。
その剣幕と振り上げられたお盆に押され、小さくなるメイドラゴンと悪趣味卿。
「失敗する部下というのは、その子の事でしたか。いくらお待ち」
「そうだ。今日のデュエルで大きなミスをしてな。仕方ないと言えば仕方ないのだが、負けに繋がるミスだっただけに……」
「しょーがないじゃん。もぐ、あんなに固まってると思わむぐむぐ、なかったし……。普段はちゃんとぐァつぐァつ、部下さんたちを墓地送りにしてるんだから許してよ」
「飲み込んでから喋れ。読みにくい」
「大将、なんか物騒な言葉が聞こえませんでしたか??」
「墓地で効果を発動する者がいるのはよくある事だ。アンデット族やそれに属するカードなら特に顕著だな」
エルドリッチの属する『黄金卿』『エリドリクシル』などのカード郡は、本人も含めて墓地に存在することで効果を発揮するため、いかに墓地に送るかが鍵になってくる。
そこで白羽の矢が立ったのが『ドラゴンメイド・ラドリー』。彼女の召喚、特殊召喚の成功時にデッキトップを3枚墓地に送ることが出来る。エルドリッチは召喚権をあまり使わない為、それを活かしつつ墓地を肥すことの出来る彼女は相性がとても良かった。……はずなのだが。
「失敗って、何をしちゃったの? ラドリーちゃん」
「特に墓地効果のないカードが3枚墓地に行っちゃったの〜。まさか部下さんたちを1枚も落とせないとは思わなかった。もぐもぐ」
「そっかあ。大事なカードなの?」
「むぐ、むぐ、ごくん。うん。直接展開には関係ないけど、置いてればすごく強いの。それが落ちちゃって」
「そんなに大事なカードなら、確かに反省しないといけないかもしれないな」
しらうおを2人に出しながら「休暇も兼ねて、一旦抜けてもらうのも良いのでは?」とアーゼウスは黄金卿に言う。
「むう、やはり少しの間外しておくか……」
「ごめんなさいー!! 外さないで! 暇になっちゃう!! 家の掃除なんかしたくないー!!」
「言い切ったな。お前は曲がりなりにもメイドだろう」
「ちなみに、何を落としちゃったの?」
エクレシアの問いかけにラドリーは指折りながら答えた。
「えっとねー。『
「「……」」
「まったく、大切なカードだというのに。とりあえず、1週間は休みをやるから……」
「「黄金卿!」」
二人の声に黄金卿はびくりと身体を震わせた。
「なっ、なんだ声を揃えて。びっくりしたぞ」
「「彼女を外すのは早計だと思います!!!」」
「えぇ……?」
「多少の失敗がなんですか! 彼女はまだ育ち盛り! これからもっともっと活躍してくれるはずですよ!!!」
「この先、いくつも積み重ねる勝利の前では多少の敗戦など微々たるものです。ここは、彼女の成長を見届けるべきだと思いますね」
「アーゼウス? お前は安定を取りたいと言ってなかったか……?」
首を傾げる黄金卿を尻目に、2人の矛先はラドリーへ向かった。
「「ラドリー(ちゃん)!!!!」」
「へっ!? はっ、はい、なんですか……」
「「いいぞ、もっとやれ!!!」」
ここは黄金卿御用達の名店『天霆號』。
近くに立ち寄った際には是非一度のれんをくぐることをおすすめする。