ウタカタノ花~血戦編   作:薬來ままど

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一方そのころ。

 

上弦の弐、童磨と対峙していたカナヲは、圧倒的な強さに苦戦を強いられていた。

しかし突如乱入してきた伊之助によって、絶体絶命の危機は脱したものの、そこで新たな事実が発覚した。

 

童磨は、伊之助の母親、琴葉の仇だった。

 

かつて琴葉と伊之助は彼に保護されていたが、人食い鬼だと知った琴葉は伊之助と共に逃げだすも、逃げきれないと悟った彼女は、伊之助を川に投げ落としその場から逃がしていた。

 

真実を知った伊之助は激昂し、カナヲと共に戦うも、一向に衰えない童磨の血鬼術に防戦一方だった。

 

だが、しのぶが体内に仕込んでいた猛毒が童磨に発動し、大幅に弱体化させることに成功。カナヲは伊之助と協力し、二人は見事家族の仇を討ったのだった。

 

そんなこととは露知らず。鬼の毒に蝕まれていた汐は、奇妙な夢を見ていた。

 

真っ暗な空間で、誰かの声が聞こえた。

 

初めて聞くはずなのに、どこか懐かしい声。

 

汐が目をゆっくりと開ければ、そこには真っ青な長い髪の女性が一人、こちらを見ていた。

 

汐はその女性に見覚えがあった。自分と同じ青い髪、ワダツミの子で間違いはないだろう。

心なしか、少しだけ自分と似ている気がした。

 

「あんたは・・・」

 

汐が問いかけようと口を開いたとき、女性の目から涙が零れ落ちた。

その姿を見て、流石の汐も焦りだす。

 

すると、女性は汐を真っ直ぐ見据えながら、ゆっくりと口を開いた。

 

『お願いします・・・。あの方を、止めてください・・・!』

「え?」

 

汐は言葉の意味が分からず、素っ頓狂な声を出した。

 

「あの方って?」

 

汐が聞き返すと、女性は両手を握りしめながら答えた。

 

『私の知る全ての事を、お話します。私の名は――』

 

それから女性が語りだした内容に、汐は呆然と耳を傾けていた。

 

全ての話を聞いた後、汐は決意を込めた目を彼女に向けた。

 

「分かった。あなたの願い、必ず叶えるわ」

 

汐の言葉に、女性は安心したように微笑むと虹色の泡となって飛び散る様に消えていった。

 

それを見届けた汐の意識も、ゆっくりと薄れていった。

 

 

*   *   *   *   *

 

何やら辺りが騒がしい。

 

誰かの声に頭を揺らさせながらも、汐はゆっくりと目を開けた。

ぼやけた視界が段々とはっきりしてくると、そこには見慣れない天井と、見覚えのある"目"。

 

「あれ・・・?」

 

汐が口を動かすと、"目"の主は少しだけ安堵したように息をついた。

 

「気が付いたか」

 

その声に、汐の意識は一気に覚醒し目を見開いた。

 

「あんたまさか、愈史郎さん・・・!?何でここに・・・、それに、その恰好」

「よく動く口だな。本当に鬼の毒を喰らっていたのか?」

 

愈史郎はそう言うと、持っていた注射器をそっと懐にしまった。

 

「あれ?あたしどうして・・・」

「どうして生きてるのか?と言いたいのか?」

 

愈史郎は小さくため息を吐くと、汐が気を失っている間の事を語った。

 

愈史郎は珠世の命で鬼殺隊員に扮し、隊員の救護及び援護を行っていた。

 

自身の血鬼術である"眼"の札をあちこちにばらまき、場内の探索を行っていた。

 

その中で重傷を負った善逸と汐を介抱していた。

 

善逸のことを聞いて汐は息をのんだが、彼の命に別状はなく、今は他の隊士に連れられて泣きながら城内を移動していると聞いて、安堵の息を漏らした。

 

「あいつも無事なのね、よかったわ。それで、状況はどうなっているの?」

 

汐の声がしっかりしていることに、愈史郎は内心驚きを隠せないでいた。

 

汐の状態は、彼が思うよりもずっと酷かった。

 

人間なら数秒で死ぬような毒を、あれほど大量に吸い続けていたのにもかかわらず、(珠世の開発したものとはいえ)解毒剤を数本打っただけでここまで状態が回復する汐の治癒力は、愈史郎の想像を遥かに超えていた。

 

「お前、自分の状況を分かっているのか?先ほどまでいつ死んでもおかしくない状態だったんだぞ?」

「お生憎様。あたしは普通の人間じゃないからね。それはあんたもよくご存じのはずだけれど?」

 

汐が皮肉を込めて言うと、愈史郎は少し悲しそうに瞳を揺らした。

 

「兎にも角にも、上弦の弐、参、伍、陸は討ち取られ、残っているのは無惨、上弦の壱、肆の三人だ」

「参・・・、ということは、炭治郎と義勇さんがやったのね」

 

二人が無事という話を聞いて、汐は心の底から安堵した。だが、無惨をはじめ全員を討ち取るまでは、本当の安寧は訪れない。

 

汐は改めて胸に決意と殺意を宿すと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「おい、まだ薬を投与したばかりだ。無茶をするな」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。だってあたしは、奴を殺す為に生まれた、最後のワダツミの子だもの」

 

汐の自虐的な言葉に、愈史郎の胸が小さく痛んだ。

 

「ところで、例のアレはちゃんとできているの?」

 

汐がそう言った瞬間、愈史郎は目を大きく見開いた。そして、しばらく言葉を切った後、小さく「ああ」と答えた。

 

「そう。ならよかった。手駒は一つでも多い方がいいからね」

「お前のせいで珠世様の貴重なお時間が減ることになったがな」

 

愈史郎はそう言って不機嫌そうに目を伏せた。

 

「それは本当にごめんなさい。でも、あたしの無茶なお願いを聞いてくれたあんた達には、本当に感謝しているわ。だから、後は任せて頂戴」

 

汐はそう言うと、落ちていた愈史郎の眼をこっそり拝借すると、そのままある一点を見つめた。

 

(この先にいるのね、"あいつ"が)

 

汐は自分の青い髪にそっと指を滑らせた。

夢の中に出て来た、自分と同じ運命を背負った"彼女"の事を思い出しながら。

 

「助けてくれてありがとう。今度は、皆を助けてあげてね」

 

汐はそう言い残すと、足に力を込めてその場から走り去った。

 

汐が去った後、愈史郎は汐の言葉を思い出していた。

 

『私の代わりに、皆さんを助けてあげて』

 

それは、ここに来る前に珠世から掛けられた言葉。

 

「まったく、どいつもこいつも・・・」

 

愈史郎は目を伏せた後、顔を上げて先を見据えた。珠世の願いをかなえるため、自分のやるべきことをするために。

 

「珠世様・・・」

 

愈史郎は自分の愛する人の名前を呟くと、足に力を込めるのだった。

 

*   *   *   *   *

 

一方そのころ。

 

汐の師、甘露寺蜜璃は伊黒と行動を共にしていた。

不規則に動く壁や床をかわし、襲い来る鬼を蹴散らしながら進んでいると、

 

「あーーーーっ!!」

 

何かを見つけた蜜璃は、思わず声を上げた。

 

「見つけた!伊黒さん、あっち!」

 

蜜璃は伊黒を呼びながら、ある一点を指さした。そこには、壁に髪の毛を這わせ、琵琶をかき鳴らしている女の鬼が鎮座していた。

 

その顔には、肆と刻まれた大きな目が一つあった。新たな上弦の肆、鳴女である。

 

「上弦の肆だわ!!」

 

蜜璃の言葉に、伊黒は忌々しそうに顔をしかめた。

 

(上弦の肆・・・!!時透達が倒したはず。もう補充されているのか)

(私より年下のしのぶちゃんが命を懸けて頑張ったのよ。それに、どこかでしおちゃんもきっと戦ってる・・・!だから・・・!)

 

「私も、頑張らなくちゃ!!」

 

蜜璃は決意を胸に抱くと、その場を飛び出し、鳴女に斬りかかった。

しかし鳴女が琵琶を鳴らすと、二人の間に扉が出現し、蜜璃は勢いあまって激突した。

 

その反動で蜜璃の身体は下に投げ出され、鼻血を出しながら、そのまま成す術もなく落ちて行く。

そんな彼女を、鳴女は塵を見るかのような、冷ややかな視線を向けていた。

 

(はっ・・・恥ずかしいわ、恥ずかしいわ!!ちょっと焦っちゃった、力みすぎちゃった。私何してるのかしら!!)

 

蜜璃は鼻を抑えながらも、何とかこの状況を打開しようと、あたりを見回した、その時だった。

 

伊黒が素早い動きで移動し、蜜璃を抱えてせり出した部分に飛び上がった。

 

「甘露寺」

 

伊黒は蜜璃の顔を見ないまま、口を開いた。

 

「相手の能力がよくわからないうちは、よく見てよく考えて冷静にいこう」

 

淡々と話す伊黒だが、その顔には気まずさなのか、汗が浮かんでいる。

 

「・・・はい」

 

そんな彼に、蜜璃は恥ずかしさのあまり顔から火が出そうになりながらも、短く返事をした。

 

それから二人は、何とか頸を斬ろうと斬りかかるものの、建物自体を手足のように動かせる鳴女の術に翻弄されていた。

 

足場の襖が急に開いたかと思えば、床が突然せり上がり、押しつぶそうとまでしてくる。

 

何とか回避して斬りかかるも、空間に開いた扉から放り出されたりと、非常に厄介なものだった。

 

(血鬼術の殺傷能力はそれほどでもないが、煩わしさと厄介さは随一だな!!)

 

長期戦は避けられないと悟った伊黒は、苦々し気に舌を鳴らすのだった。

 

 

そしてさらに、別の場所では。

 

無一郎、玄弥、実弥、悲鳴嶼の四人は、上弦の壱の鬼、黒死牟と対峙していた。

 

皆はすでに深手を負い、無一郎にいたっては片腕を斬り落とされ、右肩を刀で貫かれ柱にはりつけにされていた。

 

それを救おうとした玄弥も、黒死牟の手で切り刻まれてしまい、激痛に喘いでいた。

 

そんな絶体絶命な状況に、玄弥の実兄である実弥や、師である悲鳴嶼も駆け付けた。

 

しかし、彼等の力をもってしても、黒死牟の着物を裂くくらいしかできなかった。

 

実弥の血は特殊で、鬼を酩酊させる効果がある。だが、黒死牟に通用したのはほんの僅かで、その後はほとんど効かない。

 

しかもとんでもない長さの刀を片手で軽々しく振るうだけではなく、予備動作もなしに斬撃が繰り出される。

 

既に柱二人の身体は傷だらけで、攻撃を避けるだけで精いっぱいだった。

 

そんな状況に、無一郎と玄弥は悔し気に唇をかんだ。

 

せめて、せめて少しだけでもあの鬼の動きを鈍らせることができたら。

少しでも、あの二人の動きをよくすることができたら。

 

自分たちが何とか出来たら、と、思っていた。

 

戦いの最中、悲鳴嶼は考えていた。

 

攻撃が速すぎる。こちらの動きをすべて読まれている。

こちらが攻撃動作をする前に、すべて読まれている。そんな感覚を感じていた。

 

相手は鬼。人を超えた力を持っていても何ら不思議ではない。しかし、鬼は元々人間が変貌したもの。

 

鬼にできることは、人間にもできるのではないか。と、悲鳴嶼は考えた。

 

だが、そこまでたどり着くにはあまりにも時間が足りない。隣で戦っている実弥も、気力だけで必死に動いている状態だ。

 

(如何にかして、この状況を打開しなければ・・・!!)

 

悲鳴嶼がそう思った瞬間。とつぜん、頭上から爆発音が響いた。

 

皆が何事かと一瞬、視線を向けた時だった。

 

――ウタカタ 伍ノ旋律・改

――爆塵砲!!!

 

頭上から衝撃波の塊が雨の様に降り注ぎ、黒死牟を容赦なく穿った。

 

しかし彼はそれを容易く薙ぎ払うと、新たに現れた襲撃者に目を細めた。

 

粉塵が収まり、黒死牟は細めた目を見開く。

 

そこには、海の底のような真っ青な髪を揺らし、同じくらいの深い青を宿した瞳の少女が、真っ直ぐにこちらを見据えていた。

 

「お前は・・・」

 

黒死牟は、目の前の光景に目を疑った。

かつて無限列車で対峙した際、汐が向けていたのは怯えと、微かな矜持。

 

だが今、自分の前にいる少女から感じるのは、はっきりとした決意とゆるぎない信念。

 

あの時とは比べ物にならない程強くなっていることを、本能で感じた。

 

そんな彼に向かって、汐は静かに口を開いた。

 

「やっと見つけたよ。上弦の壱。いや、継国巌勝」

「!?」

 

汐の口から出た名前に、黒死牟は大きく目を見開いた。

 

それは、彼が人間だったころの名前であり、数百年前に鬼となった時に捨てた名前。

その名を、何故知っているのか。微かに、空気が揺らいだ。

 

「あなたを止めに来た」

 

汐の凛とした声が、黒死牟の耳に届いたとき。彼の脳裏に声が響いた。

 

「巌勝様!」

 

その声と同時に、青く長い髪を揺らす、一人の女性の顔が浮かぶ。

 

「ああ・・・・そうか・・・。やはり・・・()()に・・・居るのだな・・・」

 

 

――みお

 

 

黒死牟がその名を呟いたとき、冷たい風が二人の間を抜けて行った。

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