ウタカタノ花~血戦編   作:薬來ままど

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時は遡り。

 

元兄弟子であり師の仇である獪岳と対峙した善逸は、雷の呼吸と血鬼術による猛攻に、全身がひび割れるほどの重傷を負っていた。

だが、その中で善逸自身が独自に編み出した、雷の呼吸漆ノ型 火雷神で獪岳を退けた。

 

その反動で善逸も死の淵に立たされたが、師の言葉と鬼殺隊士に扮した愈史郎の賢明な処置により一命をとりとめたのだった。

 

更に時は遡り。

 

産屋敷の別邸では、父輝哉に代わり当主の座に就いた産屋敷輝利哉が、愈史郎の血鬼術の札を貼りつけた鴉から送られてきている情報元に、無限城の見取り図の作成に励んでいた。

 

その傍らでは珠世が作った人間に戻る薬を投与された禰豆子がおり、その護衛に鱗滝、宇髄、槇寿郎がついていた。

 

鱗滝の心臓は早鐘のように打ち鳴らされていた。禰豆子が人間に戻れば、無惨の目論見は潰える。

だが、それは前例のないことであり、何が起きるか誰にも分からない。

 

鱗滝は思い出していた。鬼になった妹も戻す為に鬼殺の道を選んだ炭治郎。

そして、旧友の娘であり、生まれる前から鬼と戦う宿命を背負っていた汐。

 

彼等が現れたことにより、運命は一気に大きく動き始めたような気がした。

 

(負けるな、禰豆子。負けるな、炭治郎。負けるな、汐)

 

鱗滝は三人の無事を、強く、強く願った。

 

 

*   *   *   *   *

 

――ウタカタ 壱ノ旋律

――活力歌!!!

 

初めに仕掛けたのは汐。歌が響き渡り、炭治郎達の身体を強化する。

 

だが、間髪入れずに猗窩座が飛び出し、炭治郎に向かって拳を振り上げた。

 

――ヒノカミ神楽

――火車!!

 

炭治郎はその攻撃を紙一重で躱すと、その刀を猗窩座のもう一方の腕に向かって振り上げた。

 

(行け!!行け!!行け!!)

 

刀が猗窩座の鋼のような筋肉に深く深く食い込む。

 

(腕ぐらい斬れなきゃ、頸なんて斬れない)

 

一瞬硬直する猗窩座に向かって、義勇と汐は援護しようと躍り出た。

 

炭治郎は全身に力を込めて刀を振り上げると、その太い腕を見事に斬り落とした。

 

(斬れた!!攻撃も躱せた!!汐の力の力も合わさっているから、通用する、戦える!!)

 

しかし頸は狙えておらず、致命傷は程遠い。しかも、炭治郎の着地の瞬間を狙って、猗窩座のもう一本の腕が彼の眼前に迫った。

 

――海の呼吸 壱ノ型

――潮飛沫

 

汐がすぐさま飛び出し、猗窩座の頸に向かって刀を振るう。しかし、刃が届く前に猗窩座は汐を蹴り飛ばそうと、そのままの姿勢で足を振り上げた。

 

――ウタカタ 肆ノ旋律

――幻惑歌

 

 

汐の姿は煙のように消え、その代わりに炭治郎の刃が迫った。

だが猗窩座は全く慌てる様子もなく再び炭治郎に拳を振るう。

 

――ヒノカミ神楽

――幻日虹

 

拳は空を切り、目を見張った猗窩座の後方に炭治郎は降り立つと、すぐさま刀を構えて振り返った。

 

その瞬間、猗窩座の頭部から血の雫が舞い上がった。

 

(炭治郎・・・)

 

その雄姿に義勇は思わず言葉を失った。

 

(格段に技が練り上げられている。大海原の歌のせいもあるだろうが、それでもここまで動けるとは・・・)

 

先程の汐の反応速度と言い、炭治郎の動きと言い、義勇は自分の弟妹弟子の急成長に驚きを隠せないでいた。

 

初めて二人と出会ったあの日。禰豆子以外の家族を殺された炭治郎は雪の中で絶望し、頭を垂れて命乞いをするしかなかった。

だが今は、命を、尊厳を奪われない為に、自分の力で戦っている。

 

そして汐も、あの日最愛の父親を自分の手で討ち、憎しみと殺意に捕らわれていた。

だが今は、愛する者を守るため、自分の運命に決着をつける為に戦っている。

 

それは猗窩座も同じだったらしく、炭治郎と汐を交互に見やると表情を緩めた。

 

「"この二人は弱くない、侮辱するな"」

 

猗窩座が呟いた言葉に、二人は聞き覚えがあった。それは、かつて煉獄が対峙した時に放った言葉だった。

 

「杏寿郎の言葉は正しかったと認めよう。俺は本来、女と戦う趣味はないが、お前達は確かに弱くなかった。敬意を表する」

 

猗窩座は汐と炭治郎を交互に見据えると、畳が砕ける程強く足を踏み込んだ。

 

――術式展開

 

猗窩座の足元に、雪の結晶のような陣が展開され、鬼の気配が強まった。

 

「さあ、始めようか。宴の時間だ」

 

猗窩座は嬉しそうに口元を歪めると、すぐさま動き出した。

 

二人は身をひるがえし、その攻撃を躱すが衝撃で汐の身体は吹き飛び、壁に叩きつけられた。

 

「汐!」

 

炭治郎が叫ぶが、その隙を突き猗窩座が大きく飛び上がり、炭治郎の頭を踏みつけた。

しかしそこには何もなく、土煙がもうもうと上がっているだけだった。

 

――水の呼吸 参ノ型

――流流舞い

 

次に動いたのは義勇。無駄のない動きで猗窩座を翻弄し、同時に汐達が身をかわす隙を作った。

 

「水の柱か。これは良い!遭遇したのは五十年ぶりだ」

 

猗窩座は興奮したように声を上ずらせると、標的を義勇へ移した。

 

――破壊殺・乱式

 

猗窩座は目にも留まらぬ速さで、拳を連続で義勇に打ち込んだ。凄まじい衝撃が広がり、畳が砕け舞い上がる。

 

――水の呼吸 拾壱ノ型

――凪

 

しかし義勇の間合いに入った攻撃は全てそれ、周りへと散らばった。

それを見た猗窩座は、更に目を見開き、顔を高揚させた。

 

「見たことがない技だ。以前殺した水の柱は使わなかった」

 

猗窩座は雄たけびを上げながら義勇に躍りかかった、その時だった。

 

――ウタカタ 陸ノ旋律

――重圧歌

 

汐が歌を歌い、猗窩座の身体を地面に叩きつけ、その上から炭治郎が躍りかかった。

 

「何だこれは!身体が重くなるとは!!」

 

しかし猗窩座はすぐさま立ち上がると、炭治郎の一撃を躱し視線を汐に向けた。

 

――破壊殺・空式

 

猗窩座は汐に向かって拳を突き出し、空気の砲弾を放った。

 

――海の呼吸 陸ノ型

――狂瀾怒濤

 

汐も負けじと刀を振り、荒れ狂う波のような斬撃が砲弾を全て叩き落し、その一発を猗窩座に向けてはじき返した。

 

空気の弾が猗窩座の右肩を抉り、血柱を打ち上げる。

 

「さっきの一発、のし付けて返すわ」

 

技を撃ち返された猗窩座は、女の隊士がここまで食らいつくことに驚き、そしてさらに気分を高揚させた。

 

「汐と言ったな!お前が人に生まれてこなかったことが、至極残念で仕方がない」

「ほざいてろ、ボケ!そのよく回る舌を千切りにしてやるわ!!」

 

汐は大声で挑発しながらも、指文字で炭治郎に動きの指示を出した。それに気づいた炭治郎は、すぐさま義勇と目を合わせて合図をする。

 

猗窩座は瞬時に汐との距離を詰めると、手を伸ばし首を斬り落とそうと試みた。

 

――海の呼吸 伍ノ型

――水泡包み

 

汐は猗窩座の盲点に入り込み、その存在を一瞬だけ消し、猗窩座が怯んだ時を狙って義勇が動いた。

 

――水の呼吸 弐ノ型

――水車

 

――ヒノカミ神楽

――炎舞

 

義勇が猗窩座の右腕を斬り飛ばし、炭治郎が左腕を斬り飛ばし、そして

 

――海の呼吸 漆ノ型

――鮫牙

 

汐が死角から入り込み、猗窩座の頸に向かって刃を振るった。

 

「素晴らしい!!」

 

猗窩座の甲高い声が響き渡ったかと思うと、すぐに腕を再生させ、義勇と炭治郎を吹き飛ばした。

そして汐の斬撃を躱すと、その足を汐の頭に向かって振り上げた。

 

だが、その一撃は空を切った。汐は身体が真っ二つになりそうなほど大きく身体を逸らし、それを回避した。

そしてそのまま、両足を猗窩座の腕に絡ませると、思い切りへし折った。

 

「行け!!」

 

汐の鋭い声と共に、土煙の中から炭治郎と義勇が躍りかかった。

 

「汐、離れろ!!」

 

汐が離れると同時に、二本の刀が振り下ろされた。しかし、猗窩座は両腕を思い切り振り、斬り落とされながらも二人を再び吹き飛ばした。

 

炭治郎は衝撃のあまり鼻血が吹き出し、義勇の頬にも数かな傷がついていた。

 

「流麗!!練り上げられた剣技だ。素晴らしい!!」

 

猗窩座は義勇に目を向けると、容赦のない猛攻を叩き込み始めた。義勇も刀を振るい、その攻撃をいなしていく。

 

「名を名乗れ。お前の名は何だ!!覚えておきたい!!」

 

興奮しきっている猗窩座の問いに、義勇は表情を変えずに口を開いた。

 

「名乗るような名は持ち合わせていない。俺は喋るのが嫌いだから話しかけるな」

「そうか。お前は喋るのが嫌いなのか。俺は喋るのが好きだ。何度でも聞くぞ、お前の名を!!」

 

猗窩座は義勇の話を全く聞かず、大きく雄たけびを上げると力を貯めた。

 

(いけない!)

 

猗窩座の背後に倒れていた汐は起き上がり、すぐさま動き出す。

それと同時に、猗窩座は技を放った。

 

――破壊殺脚式

――龍閃群光

 

猗窩座の右足が目にも留まらぬ速さで動き、義勇に向かって行く。

 

――ウタカタ 伍ノ旋律・転調

――爆塵歌!!!

 

足が食い込む瞬間に汐が滑り込み、衝撃波を至近距離で放った。その衝撃で両者は吹き飛び、義勇と汐は壁を貫き、遠くまで飛んで行ってしまった。

 

「義勇さん!!汐!!」

 

炭治郎が思わず名を叫ぶと、その耳元で猗窩座の声が聞こえた。

 

「そうか。あいつは義勇という名前なのか」

 

炭治郎はすぐさま距離を取り、ヒノカミ神楽を放とう構えた。

 

――ヒノカミ神楽

 

だが、それと同時に猗窩座も拳を振り上げた。

 

――破壊殺

 

――鬼芯八重芯

――灼骨炎陽

 

二つの技がぶつかり合い、部屋中に衝撃波が広がりあちこちを砕き、破壊していった。

 

 

*   *   *   *   *

 

 

一方。

 

猗窩座に吹き飛ばされた汐と義勇は、美しい絵が描かれた襖に囲まれは部屋まで飛ばされていた。

 

「無事、義勇さん?」

「ああ。お前のお陰で助かった」

 

義勇はそう言うと、汐の手を引いて立ち上がらせ周りを見渡した。

 

「だいぶ飛ばされたようだな。すぐに炭治郎と合流するぞ」

「言われなくても」

 

汐が返事をし、足を踏み出そうとした瞬間。鬼の気配が汐の身体を突き刺した。

しかも普通の鬼ではない、上弦の鬼の気配だ。

 

「どうした、大海原」

 

義勇は気が付かないのか、怪訝そうな顔で汐を見た。

汐は一つため息を吐くと、顔を伏せて言った。

 

「義勇さん、先に炭治郎の所へ行って」

「何を言ってる?」

「上客が来てしまったみたいなの。多分、あたし宛にね」

 

義勇は怪訝な顔のままで汐の顔を見て、ハッと息をのんだ。

 

汐の目は鋭く、炭治郎がいるであろう場所とは別の場所を睨んでいる。

 

この表情に義勇は覚えがあった。

 

それは、初めて刀を握り、鬼となった玄海と対峙した時に見せた、覚悟を決めた表情だった。

 

「だからお願い、先に行って炭治郎を助けてあげて。あたしの、あたしの大切な人なの。死なせないで」

 

汐の気迫に義勇は渋々折れ、小さく「分かった」と返事をした。

 

「あ、ついでに炭治郎に伝えて。"あたしの分まで、あの野郎をぶちのめせ"って」

 

女らしさの欠片もないその言葉に、義勇は呆れたような表情を浮かべつつも頷いた。

 

「分かった。だが、俺からもお前に伝えることがある。いや、きっと炭治郎もこう言うだろう」

 

――絶対に死ぬな。生きて戻って来い、汐。

 

汐は義勇に初めて名前を呼ばれたことに驚きつつも、にっこりと満面の笑みを浮かべて言った。

 

「大丈夫。いい女はそう簡単に死にやしないのよ。だからさっさと行く!」

 

義勇は汐をしばらく見つめた後、踵を返し、炭治郎の元へと向かった。

 

一人残った汐は、迫りくる気配に鳥肌を立てつつも刀を握りなおした。

 

(来る・・・!)

 

汐は殺意を全身に纏い、気配に備えて大きく息を吸った。

 

すると襖が音もなく開き、そこから一つの影がぬうっと姿現した。

 

その影に汐は息をのみ、目を大きみ開いた。

 

「ア゛・・・・ア゛・・・」

 

そこにいたのは、全身がズタズタに斬り裂かれ、腐った水のような悪臭を漂わせる奇妙な生き物がいた。

 

「タス・・・ケテ・・・!タスケ・・・テ・・・!」

 

その生き物は懇願するように両腕を汐の方に伸ばし、目のあたりからは涙をこぼしていた。

 

「まさか・・・、まさかあんたは・・・!!」

 

汐は体中をぶるぶると震わせると、思わず口を動かした。

 

「絹・・・・?」

 

汐がその名前を呼んだ瞬間。

 

轟音が響き渡った。

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