Avengers of AGITΩ   作:紅乃 晴@小説アカ

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05.賢者

 

 

「どうした!もっと本気にならないと死ぬぞ!」

 

ミラーディメンションとは便利なものだな、というのがリング・トリビューナルの杖を振りかざすモルドと戦っているアギトの感覚だった。ミラーディメンションは現実世界とは隔絶された別次元、とエンシェント・ワンが言っていたことが事実ならば、これがあれば夜な夜な現れる化け物を相手取っても、無関係な人たちに被害が及ぶことを考慮しなくても済む。

 

軽やかな動きで回転を生かした攻撃を繰り出すモルドに対し、アギトは最小限の動きや、上半身のみのスウェーバッグによる回避術でモルドの繰り出す変則的な攻撃を避けてゆく。だが、多節棍を扱うモルドの方が間合いや武器の打撃性能で一歩先にゆくのが実情だ。肉弾戦のみに限定した場合、時間かければ不利になりかねない。

 

だったらこれだ。そう決断してから行動は迅速であった。アギトはオルタリングの左スイッチを押すことで、ベルトに埋め込まれた青色のドラゴンズアイが発光。すると、オルタリングの中央部が黄金色から青色へ変化。発光と共にアギトの左半身の外骨格が黒と黄金から、青い鎧へと変貌した。

 

「ほう……」

 

その様子を興味深く見るエンシェント・ワン。隣ではミアが今まで見たことないアギトの姿に驚いている様子だった。

 

「左腕が青くなった……?」

 

次の瞬間、ミアは言葉を無くした。オルタリングの中央部から武器が発現、アギトがそれを掴むと1メートル弱ほどの長さの武器が何もない場所から召喚されたのだ。

 

アギト・ストームフォーム。風の力を左腕に宿した超越精神の青。

 

金属の擦り合う音と共に刃先が展開された薙刀、ストームハルバードを見てモルドは呆れたような、困ったような顔をしてスタッフを構える。

 

「性質を変化させたのか。ますます厄介だな」

 

言葉を終えると同時にモルドがスタッフを振り上げて迎撃をするが、それよりもストームフォームのアギトの方が早かった。強化された身体能力はミラーディメンションで形成された食堂の床を踏み抜き、後方へ瓦礫を散弾のように打ち放ちながらアギトの体を前へと押し出した。

 

「ハァッ!!」

 

スタッフの横なぎをストームハルバードで受けながし、そのままサイドフリップの要領で飛んだアギトは呆気に取られたモルドを縦に打ち倒した。

 

斬られた。そう確信していたモルドだが、その身にストームハルバードの刃が刻まれることはなく、展開状態から刃を折りたたんだ状態のハルバードが、倒れたモルドのぎりぎりのところで止められていた。

 

「……なぜ、トドメを刺さない」

 

確実に殺せるはずなのに。あえてモルドが問うと、アギトはストームハルバードをゆっくりと上げて、倒れているモルドから距離を取ってから答えた。

 

「アンタは悪者じゃない。それがわかる」

 

どちらかといえば、こちらを試しているかのような素振りも見えた。モルドが律儀にレリックのことや、リング・トリビューナルの杖の説明をしてくれたからアギトは戦う戦略を立てられたし、そもそも彼らが自分の命を狙うと言うなら、夜な夜な戦っている時の隙を狙うなど……もっと確実な方法があったはずだ。

 

にも関わらず、こうやって正攻法できたと言うことは、エンシェント・ワンや目の前のモルド自身にこちら仕留め切る意思はないと直感的に判断をしていたのだ。

 

モルドが立ち上がると、一部始終を見ていたエンシェント・ワンがパチパチと拍手をしながら椅子から立ち上がる。二人の戦いで傷ついた場所や、アギトが踏み抜いた鏡面世界の傷もエンシェント・ワンが手をかざすとたちまち修復されていった。

 

「アギトの力を制御しているようですね、Mr.ツガミ」

 

戦う意志も意味もないと判断したアギトはその変身を解き、人間体へと姿を戻す。

 

「エンシェント・ワンさん……貴女は何を望んでいるのですか」

 

「……いいでしょう。私の目的は近くやってくる破滅的な未来への懸念を確かめるためです」

 

そう言うと彼女は虚空に手を広げて魔法陣を展開した。幾何学模様の魔法陣は輝くオレンジ色の光を発しながら複雑化してゆき、魔法陣を生成してゆく。両手をぐるりと反転させたエンシェント・ワンが、パンッと手を叩いた瞬間、形成されていた魔法陣がミラーディメンションへと広がり、さっきまで食堂だった空間は鮮やかな星々が照らす宇宙空間へと変貌した。

 

「……魔法ってすごい!」

 

「ふふ、ミアさん。貴女は素質がありますね」

 

ぶっちゃけ考えることを放棄しただけのミアにエンシェント・ワンが微笑む。彼女が手をかざすと宇宙空間は目まぐるしく景色を変え、やがて一つのイコン画へとたどり着いた。空を天使のような羽を生やした者たちが支配し、地上では大勢の何かが戦っているその画は、引き寄せるような魔力を持ちながらも、どこか不気味さもあるものだった。

 

エンシェント・ワンは、このイコン画は無限にあるマルチバースの中で唯一の場所にしか無かったと前置きをした。

 

「オルタリング……我々魔術師はワイズマン・リングと呼ぶ物。伝説上、光を有する神が人に与える奇跡と伝承に残されています。この地球の神なのか、それとも宇宙の神なのか、はたまたこのマルチバースの神か……。定かではありませんが、しかしそれは実在する」

 

アギト=ショウイチ・ツガミが存在する以上、それはもはや伝説上で語られる空想の産物ではない。エンシェント・ワンは印を構え、腕を交差させると彼女が胸からぶら下げていたレリック、アガモットの目が開き、そこから緑光を発する〝ストーン〟が姿を見せた。

 

「これはソーサラー・スプリームが守護するタイムストーンです。貴方が未来で深く関わる〝インフィニティ・ストーン〟の一つ。その一つに匹敵するものが貴方の中にある」

 

「我々はそれをワイズマン・ストーン、賢者の石と呼んでいる」

 

補足するようにモルドはショウイチを指差しながらそう言った。オルタリングには彼らが言うように〝賢者の石〟が内包され、左右にドラゴンアイが備わるベルトだ。彼らの目的はその賢者の石、あるいはワイズマン・リングの捕獲、あるいは封印、破壊が目的であったと語った。

 

だが、その必要はもうないと身構えるショウイチやミアにエンシェント・ワンがそう告げる。

 

「貴方の本質が悪であれば、我々魔術師が総力を持ってシンギュラリティである貴方を倒す……つもりですが、その必要はないようですね」

 

そもそもの話、完全なるアギトの力は純粋な魂と意志にしか宿らないという伝承もある。ショウイチがアギトとなり、過去の記憶の全てを失ったのも、その力の代償の一つなのかもしれませんと彼女は言った。

 

「教えてください!彼が戦う化け物は何ですか!?アギトの力を狙っているんですか!?」

 

ミアは思わずそう問いかけた。S.H.I.E.L.D.でもない頂上的な力を用いる彼女たちなら、あの化け物の正体を知っているのではないか?そこからショウイチが戦う運命も何かわかるのかもしれない。そんな希望めいた予感は、おおよそ的中していた。

 

だが、あの化け物はアギトに導かれたものではない。

 

「あれはアギトの力には関係のない存在……言うなれば、このマルチバースが生み出した危機感による防衛本能の実体とでも言うべきでしょうか」

 

簡単に言えば風邪をひいた体を治そうとする抗体みたいなものですよ、とエンシェント・ワンは答えた。伝説ならアギトの力は魔術のそれとも隔絶した代物。その対局に位置するものが現れれば、今フィラデルフィアに現れている化け物など雑兵に過ぎなくなる。

 

そして、その対局に位置する者たちもまた現れるだろうと彼女は言った。アギトが現れた以上、それは避けられない運命なのだから。

 

「Mr.ツガミ。貴方がどうであれ……ストーンを待つ者である以上、この世界と未来に無関係ではいられません。貴方と言う存在が現れた。それがこの世界にとっての福音になることを私は祈ってます」

 

それだけ言うと、彼女は開いていた魔法陣を消し去る。ミラーディメンションも縮小を始め、黄色のフードを被り直したエンシェント・ワンはスリング・リングを身につける手をかざし、エルドリッチライトで形成されたゲートウェイを開いた。

 

「ま、待ってください!破滅的な未来って……なんですか?」

 

ゲートをくぐり研究施設を後にしようとするエンシェント・ワンにそう呼び止めたショウイチ。彼女は振り向くことなく答えた。

 

「それもまた、委ねればわかることです。さようなら、Mr.ツガミ……いえ、アギト」

 

また、未来で会いましょう。その言葉を最後にエンシェント・ワンとモルドは痕跡に一つ残さずにこの場から消えて、ミラーディメンションから帰還した二人は喧騒に包まれる食堂に戻ってきていたのだった。

 

 

 

 

 

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