ある日の事。
ハルカは上納品を買いに行くと、首輪を着けた学生を見かけた

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誕生日

 

 

 ……私は道端に生えている雑草です。数だけは多くていつも皆さんの邪魔ばかりをして、終いには私を捨ててしまう。

そんなみすぼらしい私を先生はキレイだと言ってくれました。必要だと言ってくださいました。

 

 ……私は先生にこのご恩を返さなければいけません。

 

 

「今回の……上納品です」

 

 指定した建物の屋上。そこで私は今週の分を差し出す。上納品の中身は雑草を植えた鉢。

 

 私の秘密の場所を知った先生はあの後、改めて育てている雑草が欲しいと言ってくださりました。何度も失敗している私にその言葉は恐怖と喜びが同時に溢れてしまいそうです。

 

「ありがとう、ハルカ」

 

 だから……先生

 

「っ……い、いえ、その」

 

 どうか、私をーー。

 

 

――

 

 

 数日後。私は上納品を買いに街の中を歩いていました。毎回同じ物だと先生に拒否されてしまうので、今度は違う物を上納品として捧げたいと思います。

 

「確かこの辺のお店に先生の好きな物が……」

 

 チリンチリン

 

「鈴の音? 」

 

 チリンチリン

 

 辺りを見渡すと1人の生徒が首輪を着けて街道を歩いています。周囲の人(猫や犬)はそれを見てヒソヒソと遠巻きに見ていました。

 

『やだ。またあの子よ』

 

『本当に噂通りだったのね』

 

『当番って大変らしいわ』

 

 謂れのない言葉が彼女の耳に届いているはずなのですが、本人はあまり気にしないで歩んでいきます。しかし私は彼女の容姿よりも、もっと大切な事を聞いてしまいました。

 

「あ、あの! 少し、聞いてもいいですか」

 

「ん? どうしたの? 」

 

「さっき、当番と言いましたか? 」

 

「……まあ、シャーレの事? 」

 

「はい……」

 

 私が会話中の主婦に聞いてみると、その人達は周りを気にして話し始めます。

 

「そうねぇ、あくまで噂なんだけど……シャーレには先生がいらっしゃるでしょう。

その先生、表向きは優しくていい人だけど、裏では生徒に変な事してるらしいわよ」

 

「……」

 

「もう行っちゃったけど、ほら。ウサギ耳の子がいたでしょ。あの子に付いていた首輪、先生が付けたらしいわ」

 

「っ! 」

 

 首輪。その単語を聞いた私の鼓動は激しく高鳴ります。先生は首輪を付ける意味を知っているのでしょうか。

知っていたら……。

 

「……」

 

 強い吐き気を覚えた私は、何も言わずに立ち去って近くの公衆トイレに向かいます。

 

「それでね、他にもあるのだけれど……ってあら? 」

 

「いつの間にかいなくなってるわね……」

 

……。

 

 

 誰もいないトイレ。中に入って鍵をかけた私は、嘔吐を繰り返す。吐く事で息苦しさと胸の痛みを誤魔化そうと、胃を傷つけていきました。

 

「はぁ…はぁ…っ……先生…」

 

 先生……先生は私を…必要と言ってくれました。だから…大丈夫です……大丈夫なはずです。

 

 少し休憩して落ち着いた私は、持ってきた水筒でうがいをします。まだ息苦しさは残っていますが胸の痛みは消えていきました。…早く先生への上納品を買いに戻らないと。

 

 

「ありがとうございましたー」

 

(…か、買えました)

 

 これで先生にご恩を返すことが出来ます。上納品を両手で持つようにして、私は明日の事だけを考えて走って帰りました。

 

――

 

 人が滅多に来ない屋上。先生は忙しいのにも関わらず、私のお願いに応えてくれています。今日の上納品もそのお礼も兼ねて良い物を買いました。

ですがこれまでの恩返しが無駄になって捨てられると思うと……。

 

「ハルカ?」

 

「は、はい! …先生いつの間に、考え事をしていて気づきませんでしたすみません!」

 

 私は何てことを。

 

「いやいや、そんなに謝らなくて良いよ」

 

「で、ですが……」

 

「いいって。それよりも……考え事をしていたんだよね」

 

「はい……」

 

「ハルカさえ良ければ、聞かせてもらえるかな」

 

「それは……」

 

 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。

先生に悩んでるって言ってしまいました。考え事が先生の事なんて言ったら、迷惑をかけてしまう。それは。

 

「い、…嫌です」

 

「嫌なの?」

 

「……」

 

 ああぁぁぁ嫌われた嫌われた嫌われた……謝らなきゃ、早く謝らなきゃ。

 

 あっ、先生の手が私の方に向けられてる。

 

 私は目を瞑って先生からの罰を受け入れる準備をしました。

 

ポンポンッ

 

「えっ……」

 

「少し深呼吸して、あそこの席に座ってみよう」

 

 先生は私の髪を撫でて微笑んでくれました。

 

 

……。

 

 席に座って何分か経ちましたら落ち着きました。私は俯きながら、上納品を買いに行った時の話をしてしまいます。

 

「なるほど……首輪」

 

「……」

 

 首輪の事を話すと先生は気まずい顔をしました。もしかして私、捨てられるのでしょうか。

 

「そうだね。あの子、ミユの事を少しだけ話していいかな」

 

「? 」

 

 ……先生が言うにはミユという人は存在感が希薄で、他人とぶつかってしまったり自動ドアが開かない事が日常らしいです。

なので鈴を着ける助言をした所、偶然あった首輪を着けて……。

 

「あ、あの先生」

 

「ん? 」

 

「その後、首輪は外してもらったのですよね……」

 

「あ、ああ。実はその後鈴と人間用の首輪を買いに行ったよ」

 

「何で人間用の……? 」

 

「私も分からなかったけど、ミユが欲しいと言ったからついでに……」

 

!? それはつまり、あの人は……「そうだ。ハルカにプレゼントがあるんだった」

 

「えっ、わ、私ですか」

 

 私は先生に何もしていないのに?

 

「うん。まあ便利屋の人から、色々と助言を貰ったけどね」

 

 先生はそう言うとプレゼント用の箱を渡しました。今開けた方がいいのか悩んでいると、開けてほしいと先生が言います。

 

中にはチョーカーが入っていました。

 

「……着けてみてもいいですか」

 

「いいよ」

 

 着けてみると首が窮屈にならない長さで、私から見てもおしゃれな物です。

 

「先生、何で私なんかにこんな物を……私、先生に何もしてあげてません……」

 

「今日がハルカの誕生日だからだよ」

 

「っ!? 」

 

 先生に言われて気付きました。

 

「でも何でチョーカーなんですか? 」

 

「ああ、それはね……実はアドバイスをもらったのはいいけど、カヨコ以外難しくて」

 

「カヨコさんは何て言いました?」

 

「その人が本当に欲しい物と言ったから、少し悩んでしまってね」

 

 欲しい物……先生が私のために……。

 

「先生」

 

「ありがとうございます」

 

 私、今日の事、絶対に忘れません。

 

 この後、先生は便利屋が開いた私への誕生日パーティーにも参加してくれました。


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