うつろう夢のエレメント   作:カリフラワー

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・本作はハリポタシリーズと魔法戦隊マジレンジャーのクロスオーバー小説となります。
・基本的にはハリポタの原作沿いが主体となります。
・多くの独自設定が含まれます。
・マジレンジャーにおける魔法が登場します。また、マジレンジャーの呪文法則に沿ったオリジナル魔法が登場します。
・マジレンジャーの用語や魔法については本編や後書きに解説を入れます。未視聴でも問題のない作品とするつもりですが、マジレンジャー本編のネタバレが含まれますのでご注意ください。
・大変励みになりますので、よろしければ感想・評価をお願いいたします。


Stage.1 旅立ちの日 ~ジルマ・マジーロ~ ①

 

 

 狭苦しい路地を歩くその姿は、怪しい風体でない方が珍しいノクターン横丁にあって一際異様であった。

 

 後ろめたい魔法使いが後ろめたい店を求めてうろつく夜の世界は、当然ながら子供が歩き回るような場所でもない。

 保護者同伴であったとしても、ふとした拍子にはぐれてしまえば身の保障は出来ない危険地帯。

 もしもそうなった場合、子は保護者を探すでもなく、まずは走ってダイアゴン横丁まで辿り着くのが最善である。

 決して、見せかけだけの親切に応じてはならないのだ。

 

「お嬢ちゃん、パパとはぐれちまったのか?」

「んーん。元から一人だよ」

「どこから来たんだ?」

「あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。小銭稼ぎなんて場所選んでられないでしょ?」

 

 彼女に声を掛けたのはそんな中でも希少な、ほんの僅かなり常識を残した男だった。

 ノクターン横丁に入り浸るようになって数ヶ月。バレれば捕まるようなことは既に山ほどやってきたが、幼子を騙すほど落ちぶれてもいないその男は、彼女が求めるならばダイアゴン横丁への案内くらいはしてやるつもりであった。

 ――時刻は深夜。表通りに出たとてまともな店など開いていない時間帯。

 ノクターン横丁の方が明るいような時間に、向こう側に出てから先まで面倒を見るつもりはないが。

 

「なんだ、お使いか?」

「れっきとした商売だよ。この辺に来たのは久しぶりだけど、やっぱ売れるね」

 

 しかし、その少女は助けを請う様子など一切見せない。

 寧ろこの場所に来て良かったと言わんばかりに、成果があったことを喜んでいる。

 

「なあ、お嬢ちゃん――」

「そうだ。事情は知らないらしいけど、せっかく声を掛けてくれたんだし。これも何かの縁だ」

 

 少女は男に向き直る。

 百四十センチは間違いなくないだろう小柄な体躯をぶかぶかの袖付きローブと大きな三角帽子に包む。それだけであれば、少し背伸びした魔女の卵。

 そんなイメージと真っ向からぶつかる、横幅が少女の倍はある大型リュックサック。

 合っていないサイズの装備に隠れ、なおも目立つのは、腰まである髪。

 黒にも紫にも見える不思議な色のそれは大した明かりもない路地で光を放っているような、一際目を引く魅力を持っていた。

 帽子の中から二つの黄金が男を見上げる。

 なんの魔法を使っている訳でもない。ただ目を合わせるだけで、男はその少女にさらに引き込まれる感覚に陥る。

 

「――イイ夢を見てみない? 四ガリオンで」

 

 少女は右手の指を四本立てつつ、左手を男に差し出す。

 その言葉が何を意味しているのか。少なくとも、このノクターン横丁においては一つしか考えられない。

 そして、それを十歳やそこらに見える少女が誘っている異常事態――しかも相場と比べて安すぎる――を、男は頭で理解していた。

 だが、懐から金貨を四枚取り出し、少女の左手に乗せるまでに掛かった時間は短かった。

 受け取った金貨をローブのポケットに突っ込んだ少女は、毎度あり、と無邪気に歯を見せて笑った。

 

 

 

 誰もが寝静まり、動くものが自分しかいないダイアゴン横丁の大通りを、少女は鼻歌を歌いながら歩いていた。

 身の丈に合わないリュックサックを重たいと感じている様子はない。

 昼間の人で賑わう大通りでこれを背負って歩けば邪魔に思うものもいようが、今の大通りは少女が我が物顔でど真ん中を歩ける状態である。

 スキップでも始めそうなほどに上機嫌な少女にとって、次の瞬間に掛けられた声は完全な不意打ちであった。

 

「こんばんは。良い夜じゃの」

「とわぁっ!? ……びっくりした。なんの気配もなかった筈なんだけどな。やるね、お爺さん」

「ほっほ。なに、年の功というやつじゃよ」

 

 通り過ぎようとしていた箒店の陰から姿を見せた老人に、少女は跳び上がった。

 それなりに気配の感知には自信のあった少女にとって、如何に割と油断していたからといって不意を突かれるのは珍しい体験だった。

 背の高い老人だ。銀色の髭と髪を伸ばしに伸ばし、半月型の眼鏡を掛けている。どこかで聞き覚えのある特徴だな、と少女は記憶を掘り起こしつつも指を立てた。

 

「それで、どうしたの? 夢を買うなら四ガリオン、一晩寝場所と朝ご飯をくれるなら二ガリオンだよ」

「ふむ。楽しい夢を見るのも良いが、今夜は別件で君に会いにきたのじゃよ、ウィズ・オズ」

 

 少女――ウィズは首を傾げた。こんな最高位の“普通な”魔法使いに因縁をつけられる覚えはない。

 どこかで父か母かが作った負債の取り立てだろうか。それとも請求書に勘定ミスでもあってそれを問い質しにきた魔法省の役人か。ウィズは考えられる可能性を洗い出していく。

 老人の言葉を待ちつつ、当然のように心に入り込もうとした彼の精神を追い払った。

 

「開心術は勘弁してほしいな。ボクの天敵なんだ。それってイギリス魔法界の流儀?」

「これは失礼。どうも君が綺麗さっぱり忘れてしまっている様子で、演技かどうか気になっての」

「ボクに会ったことある? 人の顔とか名前、覚えるの苦手なんだよね」

「ここ最近同じ手紙が届いておらんかの? そう、ホグワーツについて」

「――あぁ。それ」

 

 よっこいしょ、とウィズはリュックサックを地面に下ろした。

 そして中から顔を覗かせていた、ウィズの身長を超えるほどの長い杖を引っ張り出す。

 明らかにリュックサックの中に入っていた長さがリュックサック自身の背の高さと見合わないが、老人はそれ自体には驚かず、杖の長さのみに関心を示した。

 文字通りの意味で身の丈に合っていない杖の先端をリュックサックに向け、ウィズは唱える。

 

 ――熟練の魔法使いだろうと扱えない魔法の呪文(スペル)を。

 

「ジンガ・マジ・ジジル」

 

 バサバサと紙同士がぶつかり合う音が暫し辺りに響いた。

 リュックサックから飛び出した封筒は百ずつグループを作り、束になっては地面に下り立つ。

 グループごとに整列したものが七つと、少しだけ背の低いグループが一つ。

 また、老人は少なからず驚いた。この手紙全てを持ち歩いていたこと。そして、全て開封済みであることに。

 

「七百八十回も同じ手紙を読まされる身にもなってほしいな」

「全て読んで、保管していたことが驚きじゃよ」

「別のことが書いてあって困るのも嫌じゃない? というか、もらったものはちゃんと読むし、捨てないよ」

「ふむ。であれば、返事も欲しかったのう。イエスにしろ、ノーにしろ」

 

 百ではなく、八十のグループのてっぺんの封筒から手紙を取り出し、ウィズはもう一度流し読みする。

 

「……つまり、返事の期限である七月三十一日が迫っているわけだ」

「慧眼じゃ。より正確には、十五分ほど前に七月三十一日になったのじゃが」

「ふーん」

 

 興味なさげに相槌を返すウィズ。

 気に留めるのは大まかな季節と、精々が特別な行事くらいなウィズにとって、七月の最終日など教えてもらわなければ意識しない日であった。

 

「それじゃあ、お爺ちゃんはこの手紙に書かれている名前のどれかなんだね。つまり、ホグワーツ、アルバス・ダンブルドア、マーリン、ウィズ・オズ、ふくろう、ミネルバ・マクゴナガルの」

「せめてホグワーツと君自身の名前とふくろうは候補から外してほしかったのう」

「ボクの名前を挙げたのは単なるジョークだよ」

「ふくろうもジョークであってほしかったのじゃが」

 

 キャハハ、と声を上げて笑うウィズに老人も釣られて微笑む。

 老人には安堵があった。ウィズほどの境遇であれば、もっと暗く、心を閉ざしていても仕方がなかったのだから。

 

「わしはアルバス・ダンブルドア。形式上、手紙には余計な称号が並んでおるが、この場で重要なのは一つだけじゃよ」

「魔法戦士隊長?」

「ホグワーツ魔法魔術学校の校長じゃ」

 

 降参の意を込めてウィズは両手を上げた。

 

「それで、その校長先生は暇なの? ホグワーツとやらの生徒でもないボクにわざわざ会いに来るとか」

「手紙の返信が一向にない新入生候補を訪ねるくらいには、この時期は暇での」

 

 黄金の目が細められる。

 指で髪の先を弄りつつ、ウィズは面倒の解決法を模索する。

 

「返事がないのは拒絶を意味しているんだよ」

「理由を聞いても?」

「分かるものだと思うけどなあ」

 

 結局、シンプルかつ最も手っ取り早い方法を選ぶことにした。

 ただ単純に嫌だからと言うより、よほど説得力が増すと判断したのだ。

 

「ホグワーツは“人でなし”も受け入れるわけ? ボクのような生徒はいるの?」

「例は少ないが、人ではないものを片親に持つ生徒がいたこともある。そうした子であっても、資格さえあればホグワーツの門は開かれるとも」

「そりゃ半人くらいならいるだろうさ。ボクからすれば半人なんて半純血と変わりないよ。そうじゃなくて、魔法史レベルで忌まれる話のこと。つまり――」

 

 ウィズはそこで言葉を一度切り、三角帽子を脱ぐ。

 長い髪から覗く、先の尖った耳と、その少し上から生える二本の小さな角。

 人ではあり得ない身体的特徴を指差し、ウィズは中断した言葉を再開した。

 

「天空聖者と冥獣人の子。人をやめた魔法使いの成れの果てと、世間一般で言う地獄の化け物、それらが交わって生まれた“人もどき”を受け入れるなんて正気なのかってこと」




《ジンガ・マジ・ジジル》
「遠くにあるものを集めて整頓する魔法だよ。基本形は『ジンガ・ジジル』だけどね。あんまり手紙の数が多いから、強化しないといけなかったんだ。……いや、多すぎだって。七百八十枚って。紙の無駄でしょ」

『天空聖者』
「聖なる属性(エレメント)の力を持った高位の魔法使いだよ。他の天空聖者から力を借りた魔法使いが成長して魔力が高まると、存在が昇華されるんだ。天空聖者になるとその魔法使いは人であった頃の記憶をなくしてしまうんだって」

『冥獣人』
「地底に棲む怪物――冥獣の上位種だよ。言葉を発せない冥獣と比べて知能が高く、個体ごとに名前も持っているんだ」
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