うつろう夢のエレメント   作:カリフラワー

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Stage.2 勇気の卵 ~マジーネ・マジュナ~ ②

 

 

 数分後、ふと思い出されたヒキガエルの件から、話題はペットに移った。

 ハリーとロンはどちらもペットを連れてきている。

 白ふくろうのヘドウィグと、ネズミのスキャバーズ。

 ロンはポケットからぐっすりと眠る太ったネズミを取り出した。

 

「――長生きしてそうだね」

「お下がりなんだ。スキャバーズだけじゃなくて、ローブも杖も」

 

 言葉を選んだようなウィズにげんなりと返し、続けて杖を取り出す。

 年季が入った杖だ。あちこちが欠け、芯材が端から覗いている。

 

「杖は流石に自分のものを買った方が良いんじゃないかな」

「そうだよな。昨日、黄色に変えようとしたんだけど、呪文が効かなかったんだ。やってみせようか――『お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなネズミを黄色に変えよ』」

「……何も起きないね」

「杖から魔力は出てたっぽいけど」

 

 その呪文が合っているかどうかはウィズにも分からなかった。

 

「にしても、色変えかぁ。試したことないけど、出来るかな」

「スキャバーズなら使っていいよ。真っ黄色にしてやって」

 

 差し出されたスキャバーズに杖を向ける。

 錬成魔法の方向性を上手く操作すれば可能である、頭の中でウィズはイメージを組み上げる。

 と、その時もう一度コンパートメントの戸が開いた。

 

「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのペットがいなくなっちゃって」

「――さっき飼い主らしき子が来たよ。とりあえず僕らは見てないけど」

 

 栗色の髪を伸ばしたその少女の遠慮のない物言いに三人は暫し目を見合わせ、ハリーが代表して答える。

 ところがその返答は少女の耳には入っていないようだった。

 

「凄いわね、そんな長い杖。オリバンダーの店でも見なかったわ。杖の長さは長くても四十センチくらいだって本に書いてあったけど。きっと特別な杖なんだわ。魔法を掛けるの? やってみせて!」

「面白いね、君」

 

 怒涛の知識披露により二人の好感度が下がり、一人の好感度が上がった。

 物怖じしない態度から察せられる“変わった子”具合は、まさしくウィズの好みであった。

 少女の催促にウィズはイメージを組み直し、杖を振るう。

 

「ようし、黄色に染まれスキャバーズ! ジルマ・マジーロ!」

 

 呪文に応じ、杖からかすかな光が零れる。

 それに包まれたスキャバーズは見る見るうちに黄色に――全身目に痛いほどの真っ黄色に染まった。

 鼻先から尾の先端まで少しも変わらない黄色は、一色で染め上げたぬいぐるみが如し。

 もしや血まで黄色に染まっているのではないかとさえ思わせる清々しい染色である。

 

「キャハハ! ここまで黄色くなるとは思わなかった!」

「うわ、見てよ。口の中まで真っ黄色。これもしかして目玉も……」

「あはは……それはちょっと見たくないな。ウィズ、戻せる?」

「ん。マジーネ――はい、元通り」

 

 魔法を掛けられてなお爆睡しているスキャバーズを引っ繰り返したりしてまじまじと見るロンに対して、若干引いた様子のハリー。

 確かにこれは不気味だとウィズも感じていたため、ハリーの要求にすぐに応じ、解除の魔法でスキャバーズを元のくすんだ色に戻した。

 そしてそこまで口を小さく開けて見ていた少女はハッと我に返り、ウィズに詰め寄る。

 

「――私、教科書は全部暗記したわ。でも、『基本呪文集』にも『変身術入門』にもそんな魔法載ってなかった。あなた、新入生よね? それって何年生で習う魔法? どんな本に書いてあるの?」

「これが載っている本はボクも見たことがないかなぁ」

「そうなの? もしかして、魔法族の家だけで教える風習のある特別な魔法とか? 私の家族に魔法族は誰もいないの。そういう魔法って知っていないと授業で乗り遅れたりとか……」

「とりあえず落ち着こっか。はい、深呼吸ー」

 

 怒涛の勢いにドン引きするハリーとロンを一瞥し、ウィズは少女を落ち着かせる。

 

「すぅ……はぁ……すぅ……、それでさっきの魔法は――」

「はいはいチョコ食べて落ち着いてー。この魔法を知っていないと駄目なんてことは絶対にないし、安心してよ」

「んぐ……」

 

 収まる気配のない少女の口に封を開けた蛙チョコレートを一つ押し込み、話を強制終了させる。

 こうでもしないと止まる気配がなかったのである。

 

「……えっと、そうね。ごめんなさい、落ち着いたわ。魔法の世界なんて今まで知らなかったし、焦っちゃって」

「仕方ないことだとは思うけどね。ボクはウィズ・オズ。ウィズって呼んでほしいな。君は?」

「私はハーマイオニー・グレンジャー。そちらの二人は?」

「あ、うん。僕、ロン・ウィーズリー」

「ハリー・ポッターだよ」

「よろしく――ハリー・ポッター? 本当? あなたのこと知ってるわ。『近代魔法史』とか『闇の魔術の興亡』とかに書いていたもの」

 

 自身の名が知らない間に本にまで載っていたと知り、ハリーは目を丸くした。

 

「僕が?」

「知らなかったの? 私があなただったら絶対に調べるけど。三人ともどの寮に入るか決めてる? 私は断然グリフィンドール。ダンブルドアもそこ出身みたいだし、一番良い寮に違いないわ。レイブンクローも悪くないけど――って、忘れてた。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。それじゃあ、またね」

 

 本についての追及とか、寮の話の回答とか、そういうものを一切放り投げ、ハーマイオニーと名乗った少女は足早に去っていく。

 ウィズはリュックサックに杖を仕舞いつつ苦笑した。

 

「賑やかで可愛い子だったね」

「僕、どうしよう。パパもママも、上の兄さんたちもみんなグリフィンドールなんだ。あの子と同じ寮になるのはなんか嫌な気がする」

「えー、いいじゃないか。ボク、強いて希望を言えばグリフィンドールだったけど、また一つ理由が増えたよ」

 

 ロンはハーマイオニーの何がウィズに刺さったのかまるで分からなかった。

 本来あったグリフィンドールへの希望が少しだけ強くなったウィズと、逆に入りたくなくなったらしいロンの様子を見て、そういえばとハリーが切り出す。

 

「あのさ、ホグワーツの寮ってどんなのがあるの? 何が良くて何が悪いとか、少ししか聞いてないんだ」

「グリフィンドールは勇気の寮、レイブンクローは知性の寮、ハッフルパフは忍耐の寮、スリザリンは野心の寮だってさ。別に良いも悪いもないと思うけどね。スリザリンの悪名も、偏見に過ぎないと思うよ、ボクは」

「でもスリザリンなんかに入ったらパパとママになんて言われるか……」

 

 悪しき寮なんてものがあればとっくになくなっている。それがウィズの持論であった。

 とはいえ“グリフィンドール一筋の家系”にはそのイメージの払拭が難しいらしく、頭を抱えるロンに肩を竦める。

 そしてそのタイミングで三度、コンパートメントの戸が開いた。

 ヒキガエル探しは大人気か、とウィズは考えるも、やってきた三人組は先程の二人とはまた様子が違った。

 

「本当かい? このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって。汽車じゃその話題で持ち切りだ」

 

 大柄な二人の真ん中に立つ痩せた少年は見覚えがある。果たして誰だっただろうと記憶を漁るウィズの一方、ハリーはすぐに思い立った。

 洋装店で制服を買った際のスリザリン派の少年である。

 

「あー、うん。僕がハリーだよ」

「ふうん、君が……。紹介しよう、こいつはクラッブでこっちはゴイル。そして僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイだ」

 

 ウィズは顔を思い出す前に、その名前が記憶と一致した。

 笑いそうになったロンが咳払いで誤魔化すが、ドラコはそれを目敏く見咎める。

 

「――僕の名前がそんなに変かい? 君が誰だか聞く必要もないね。父上が言っていた、ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほど子供がいるってね」

 

 ただ気を悪くしただけで出てくる言葉ではない。

 そういう悪評を知った上での嫌味に、クラッブとゴイルは嘲笑を重ねる。

 その一瞬で、ハリーの三人に対する印象は悪くなった。これより下の人物なんて、ダーズリー一家くらいしかいないほどに。

 

「魔法族にも家柄の良し悪しがある。間違ったのと付き合っていると後悔するよ。僕が教えてあげようじゃないか」

「どうもご親切さま。そういう見分けは僕にも出来ると思うよ」

 

 握手に応じず、冷たく言ったハリーにドラコは目を見開く。

 ギスギスとした様子を気にしないかのように、ウィズが開けっ放しになった百味ビーンズを一粒取って口に放り込む。

 それまでハリーとロンが“はずれ”を多く引いていたのでそろそろ安全になっただろうという判断だ。土味だった。やっぱり二度と食べるもんかとウィズは誓った。

 

「……君、マダム・マルキンの店で会った子か?」

「うぇぇ……? ……ああ、それだ。ハリーと一緒に会ったんだっけ。ようやく思い出した」

 

 例えようのない表情をしていたウィズはドラコの言葉でようやく思い出す。

 

「忘れてたっていうのかい?」

「顔と名前覚えるの苦手なんだよね。うん、もう大丈夫。覚えた覚えた。ボクはウィズ・オズ。ウィズでいいよ。よろしくね、ドラコ」

 

 これから同期となるのだし、とウィズは名前を頭の中で反復する。

 礼を欠いた態度にドラコが文句を言おうとし、その名前に引っかかる。

 

「……オズ? そんな家名、聞いたことないぞ。本当に魔法族の家なのか?」

「あれ? そんなことボク言ったっけ? そういう問いには大体“人外と人外の子”って答えると思うんだけどな」

「――あまりふざけないでもらおうか。父上に聞けばすぐに調べられる。誤魔化すとためにならないぞ」

 

 苛立った様子のドラコは何をしだすか分からなかった。

 流石にハリーとロンが止めようとして、

 

「いやあ、ふざけているし誤魔化してもいるけど、嘘でもないんだなあ、これが。つまり、こういうこと」

 

 それまでずっと被っていた帽子をウィズが脱いだことで、全員の視線はウィズに釘付けになった。

 深く被ることで隠れていた耳が、そして小さな角が露わになる。

 

「……っ……」

「ドラコ、君のパパって、えっと……そう、ルシウス・マルフォイで合ってる? なら彼がボクについて知っているから、聞いてみれば良いよ。それと――」

 

 ウィズが言い切る前に、青白い顔を更に青くしたドラコは足早に去っていった。

 クラッブとゴイルもそれに続く。

 去り際にゴイルが未だ手付かずの蛙チョコレートを一つ奪取していく。

 体躯からは想像もつかない鮮やかな手管に少しだけ驚きつつ、ウィズは大仰に肩を竦めて溜息をついた。

 

「――仲良くしてくれると嬉しいなって言おうとしたんだけど」

「……君、その角と耳……」

「ん? うん。ボク、人間の子じゃないよ。詳しく説明すると面倒だけど、簡単に言うと夢魔に近いんだ」

 

 少しだけ口を軽くしたダンブルドアとの会話とは違い、要所は省いてウィズは話す。

 制服を買いに行ったとき、サイズを測るために帽子を脱いだのはドラコとハリーが帰ってからだったな、と思い出しつつ。

 呆然としている二人を交互に見て、苦笑して尋ねる。

 

「引いた?」

「……ううん、少し驚いただけ。グリンゴッツで子鬼とかを見たから、“そういう種族”もいるって知ってたけど、君がそうだとは思ってなかったから」

「うん。あー……僕も。ムマ? ってのはよく知らないけど、今のマルフォイみたいな態度にはならないよ。でもあれかな。勿体ぶって見せてくれた方が心の準備が出来たかも」

「キャハハ、ごめんごめん。でもまあ、それなら安心かな。ホグワーツの全員からドラコみたいな態度取られると、流石にちょっと傷つきそうだし」

 

 まあ、自分も最低限はやっていけそうだ。

 未だ角に注目しつつもコンパートメントを出ようとはしないハリーとロンに、ウィズは少しだけ手応えを感じた。




《マジーネ》
「魔法の効果を解除する魔法だよ。効果の強い魔法だとこれ単体だと効かないけど、これも応用性が高いんだ」
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