転生したら、魔王様の部下の部下になりました   作:白紅葉 九

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閑話 裏の思惑(第三者視点)

── 第三者視点 ──

 

 無駄に着飾った、だだっ広い部屋。彼女はその部屋があまり好きではなく、いつも別の場所にいる。

 

 壁は真っ白で、物は机、椅子、そして書類の束以外は何もない、完全に仕事のための部屋。そして、彼女がいつもそこに入り浸るため、新しく用意された装飾が抑えられた机と椅子。

 彼女はそこで、一枚紛失するだけで一つの国が消失する重要な書類に目を通し、必要があれば部下に命令書を送って対応するよう指示を出している。

 前任者がサボり癖のある人物だったのもあり、彼女自身の許可が必要な書類以外は全て部下へ任せる体制が既にできていたので、非常時以外は割とゆったりした仕事風景となっている。

 それこそ、仕事の片手間に雑談をするくらいには。

 

「そういえば、復帰したようじゃのぉ」

 

彼女は、銀髪というより灰色の髪の毛に近い女性に話しかける。その灰色の髪を持つ女性は、彼女の秘書である。その仕事は、質、量、速度全てにおいて有能と言わざるを得ないだろう。

 

 この無骨の部屋には、その二人の女性しかいない。

 

「妖魔のソフィアですか?」

 

灰色の女性は机の上にある書類から目を離し、そう聞き返した。しかし、その手は動きを止めていない。

 

 魔王軍では、基本的にファーストネームで呼び合う。しかし、決して魔族に苗字がないというわけではない。

 フルネームを名乗らないのは、フルネームを知ることで使える魔術や呪術などを使われないようにするためだ。魔王軍の歴史は長く、過去には実際に、真名を知ることを条件とした呪術を使われて半壊にまで追い込まれたことがあった。

 それから伝統的に、魔王軍においてはフルネームを名乗らないことになったのだ。といっても、ソフィアのように、田舎出のためそもそも苗字を持っていないという者も少なからず存在するが。

 

 フルネームを呼ばない場合に不便なのが、同じ名前の者がいた場合だ。そういう不便さから、その場にいない者を示すときに、役職名や、どこの四天王の部下かを言うような風習が、魔王軍上層部には存在する。

 

「そうじゃ。アリアがあそこまで可愛がるとは、どんな人物なんじゃろうかと思ってのう。

 しかも、あのキツイ目をしたオリビアに、直接“私”の批判をした胆力のあるやつじゃぞ?」

 

「気になりますか、魔王様」

 

──魔王エマ。それが彼女の正体である。血のような赤い髪の毛を持つ彼女は、楽しそうに笑う。

 それを、灰色の髪を持つ女性であり、エマの秘書であるミアは感情の感じさせない瞳で見た。

 

 

 

 

 

 数日前、ソフィアがオリビアに啖呵を切った直後。二人の仲介に入り、ソフィアへの攻撃を止めさせたのはアリアだった。のほほんとしている姿しか見たことがない者は、あまりにも真剣な剣幕に驚いたことだろう。

 

 アリアは一度、オリビアから守るためにソフィアを五次元空間へ転移させると、オリビアに対して「場所を移しましょう」と一切の笑みも語尾の伸びもなく言った。

 四天王同士といえども、そこには力関係が存在する。書類や知略の面では他の四天王と比べて卓越した能力を持つオリビアだが、戦闘能力に関しては四天王のなかでも真ん中くらいである。逆に、アリアはその魔力量や魔術、魔法の能力だけで四天王になれるほどの人材である。

 そんなアリアから威圧されたオリビアは、数百年ぶりに本気で死を覚悟して、断頭台へ向かう囚人の気分でアリアについていった。

 

 そうして連れてこられた五次元空間で、オリビアはアリアに説教された。主に、ソフィアの発言の真意を汲み取らせる形で正論を投げかけたため、最後には「はい、その通りです、申し訳ありません」と言う機械が出来上がっていた。

 

 その後、事態に気づきエマが対応した時には、オリビアは自我が崩壊するレベルの説教を食らった後であった。

 

「くくっ、まさか、あやつが……こんなにも一人に執着するとはのう」

 

エマは楽しそうに笑う。エマの知っているアリアと、いまのアリアとの差異に、エマは笑っているのだった。

 

「楽しそうでなによりでございます」

 

ミアは冷静に言う。その言葉を受けても、エマは笑みをやめない。

 

「あれほどまで魔王軍に入るのを嫌がっていたあのアリアが、だぞ?

 くくっ……“今後は魔王軍のために働く”なんて条件を受け入れるほどの存在が、やつにできるとはのう……」

 

「……魔王様を侮蔑したにしては、軽い罰だと私は感じますが」

 

ミアの指摘にも、エマは表情を崩さない。

 

「そんなことはないのじゃ。

 アリアは普段のほほんとしておるが、あれで“我がために我が道を行く”を地で行く傲慢なやつじゃ。

 行動を縛られる条件を受け入れるのは、何よりもやつに効くじゃろう」

 

「そのような考えがあったとは……魔王様の深い見識を理解できなくて申し訳ありません」

 

ミアは頭を下げる。

 

 

 

 そうして、エマは終始楽しそうに笑みを浮かべながら仕事をし、ミアは終始無表情で書類と向き合っていた。




誤字修正
 アリアは自我が崩壊するレベルの説教を
→オリビアは自我が崩壊するレベルの説教を

Q.自我崩壊させるの多くないですか?
A.魔王軍の説教=廃人概念(どこの世紀末)

Q.たくさんの方が評価してくれましたよ!
A.ビックリしました! 本当にありがとうございます!! 嬉しくて、慌てて今話を書き上げました。まだまだこれからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします!!

Q.オリビアたちがしていた大量の書類はどうなったのですか? 他の誰かに押し付けられているのでしょうか?
A.そこは魔王軍のために働くことになったアリアが「魔王軍の書類が何やかんやうまくいきますように」と願ってくれました。つまりご都合主義。(こいついつもご都合主義にしてるな)
 裏話を話すと、オリビアたちに書類が集中していたのは、魔王様がわざとそうしたからです。オリビアが調子を崩すほど書類を処理していた時、オリビアや周りがどのように対応するか見極める、ある意味魔王様が四天王に対して行った試練のようなものでした。なので、オリビア以外の四天王は、逆に書類が少なすぎて暇をしていたくらいですので、更に書類が増えたところで忙殺されるようなことにはなりませんでした。

改めて、評価をしてくださった
アヌビスさん
さんぱちさん
佐鴉さん
寝てはいけないさん
にゃんころ餅さん
えいきゅうの変人さん
ガバチュブさん
kpfw4さん
taomiさん
但野ミラクルさん
赤い虫さん
孤狐-0217さん
わけみたまさん
たーきーさん
本当にありがとうございます!!!!
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