「──あなたは、アリア様の敵ですか?」
私は四天王の一角、死属性のメラニー様に尋ねます。
改めて、死属性って怖すぎませんか。殺すことに特化した魔法じゃないですか。
それでも、私はこの問いを聞かなければいけません。
彼女がアリア様の敵になるのかどうか、それが私にとっては何よりも重視することです。
私は魔王軍に使える身ですが、それ以前にアリア様に忠誠を誓う身です。
魔王様の前で言えば不敬罪になりますが……私の優先度は魔王軍よりもアリア様の方が上です。
このよくわからない実験で、アリア様に危害が及ぶようなことがあれば……。
「……へぇ」
──その瞬間、重苦しい殺気が私に降りかかりました。
まるで死神の鎌が首に当てられて死の宣告をされているかのようです。死が寸前まで迫っている恐怖心で私は身動きが取れなくなります。
クビを回避したと思ったら、やっぱり私は首になる運命なんですか……!?
「おー、これでもまだ耐えるんだね!
悪魔なら泡を吹いて気絶したのにさ!」
メラニー様は楽しそうに笑いながらそう言いますが、正直私にはそれを呑気に聞いていられるほどの余裕はありませんでした。
刃を首に当てられた状態で落ち着くのも難しいでしょう。
でも、その刃が幻想だというのはわかっているので口を開きます。
「こた、えて……くださ、い。
あなたは、アリア様の敵ですか?」
声が震えます。刃が首を落とす幻想が見え、まるでそれが現実であるかのように錯覚しかけます。
「敵って言ったらどうする?」
敵なら──
私は深呼吸をします。
「──最速で亜空間から出させていただきます」
あまり使いたくない手でしたが、仕方ありません。
【
ちなみに、【
改めて、この空間は亜空間です。亜空間とは、言い換えればメラニー様の魔力が隙間なく敷き詰められた空間とも言えます。
つまりは、相手の腹の中ということです。そんなところで反抗するのは物凄く危険ですが、逆にいかなる場所に居ても直で攻撃できるというメリットもあります。
というわけで、現実世界と亜空間を隔てている壁のようなものを【
「ひゃー! 気持ちがいい壊しっぷりだねぇ。
でも残念、壁は九つあるよ」
「九つ程度なら、変わらず壊せますよ」
「そっかぁー、うんうん! いいね!」
……この人、止めるどころか喜んでいるのですが。
一つ壊すごとに内臓を抉られるような苦痛があるはずですが、平然と笑っています。
内臓が抉られた程度じゃ普通に過ごせるのでしょうか、四天王様は……。
「うーん、それじゃあこれはどうかなぁ?」
声と共に、壁が変容したのを感じます。もう一度壊してみると、今度は壁が分裂しました。
なるほど、壁を壊せば壊すほど壁が増えていく仕様に変わりましたか。
しかし、【
「あははっ、面白い面白い!
それじゃあ、次が最後にするね」
またしても、壁が変容したのを感じます。
「あ、最後の壁は壊す前にちゃんと見ることをおすすめするよ」
……警告に従いましょうか。【
……そういうことですか。
「どうする? ねぇねぇ、どうするの?
君は『壊したら、自分の中からアリアの記憶が四分の一消える壁』を壊すの? 壊さないの?
“最速で
メラニー様はワクワクとした様子でこちらを見ています。
私がアリア様と出会ってからそれほど時は経っていません。
ですが、大切な思い出はたくさんできました。
その大切な思い出が、消去される四分の一の記憶に含まれている可能性は高いでしょう。
特に、私がアリア様を崇高するようになった部分の記憶を忘れれば……。
私はアリア様への忠誠心さえ、なくしてしまうかもしれません。
もしも、そんなことになれば……私は……。
「あははっ、すごく魂がシュワシュワしてる!!
もっと考えて、ほらっ、もっともっと!!!」
……ああ、でも、難しく考えすぎなのかもしれません。
記憶を消すか、記憶を残すか。
その二択で考えていたからいけなかったのです。
アリア様の忠臣として、さっさとあるべき場所へ帰るだけです。
それに、忘れてもきっと大丈夫です。
だって、アリア様は私に何度でも惚れさせてくれる人格者ですから。
「【
「──また、私の大切な部下は無茶しているのね」
体が暖かい何かに包まれます。
これは……魔力でしょうか?
それはとても暖かく、どこか安心できるぬくもりです。思わず魔法を中止してしまいました。
そして、かかった声はとても耳馴染みのある声でした。
それは、私が敬愛している方の声でもありました。
「……アリア様」
顔を上げ、宙に浮かぶアリア様を見上げます。
私は知っています。
アリア様は真剣な時、伸びるような口調ではなくなるのだと。
「ソフィア……あなたに、私の思いは届いていないのかしらぁ?
私がどれだけあなたを思い、あなたの身も心も大切にしたいと思っているのか」
「えっ……?」
「いえ、知っていたのなら、こんな無茶をするはずがないわよねぇ」
アリア様はどこか刺々しい言い方をします。
……もしかして。
「……怒って、らっしゃいますか?」
「ぷんっ!!」
アリア様はわかりやすく顔を背けました。どうやら拗ねられているみたいです。
何がそこまでアリア様を怒らせてしまったのでしょうか。
もしかして、部下が上司のあずかり知らぬところで問題を起こすと監督不行き届きになるからでしょうか。
……アリア様において、それはないような気がしますが。
いや……もしかして、アリア様は純粋に私が傷つくのを心配してくれているのでしょうか?
一介の部下にすぎない私にそんな心遣いを……。
しかし、私の死罪を回避するために体を張ってくれたアリア様ならばあり得ます。
アリア様はとても心優しいお方ですから。
「申し訳ありません、アリア様。
ご心配をおかけしました」
私が頭を下げて謝罪をすると、少しだけアリア様の雰囲気が和らいだ気がしました。そんなに私のことを気にかけていてくれたなんて……。
アリア様は柔らかくも真剣な表情で私に語り掛けます。
「ソフィア~、よく聞きなさい~。
私はあなたに傷ついてほしくないの~」
私は魔王軍での長い社畜生活で、つい自分を卑下してしまう癖ができました。
ですが、魔王軍にまだ染まり切っていないアリア様は、私個人を見てくれているように感じます。
「あなたのことがとても大事なのよ~。
部下としても~、仲間としても~」
アリア様の言葉に胸が暖かくなります。
涙が枯れるほど長く生きていてよかったと思いました。若い頃だったら、その言葉で涙を流していたことでしょう。
改めて、私が忠誠を誓った相手がアリア様で良かったと、心の底から思いました。
「だから~……もしも~、次また傷ついたら~……ふふっ」
「アリア様!?
いったい、何をされるおつもりですか!?」
アリア様は何も答えません。
いや、本当に何をするつもりですか!?
精霊王のアリア様が含みを込めていうと洒落にならないのですが!! あの!!?
これは私のため、ひいては魔王軍のためにも、傷つかないように気を付けた方がいいかもしれませんね……。
Q.【
A.ふんわり物事を理解したい時に使う魔法です
Q.メアリー様って悪いやつですか?
A.いいえ、ただシュワシュワが好きなだけです。たぶん、「珍しいシュワシュワがあっちにあるんだ」と言えばどこまでも付いて来てくれます。ただし、嘘だとバレたら首にされるのでご注意ください。
Q.作者冬眠したってマジですか?
A.もう……たべられ……ないよぉ……(Zzz……)