転生したら、魔王様の部下の部下になりました   作:白紅葉 九

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第五話 オリビア様との邂逅

 廊下を歩いていると、対面からオリビア様が小走りで歩いてくるのが見えました。

 私は廊下の端へ寄って、“立ち止まってから”頭を下げます。

 

 上下関係に厳しい魔王軍では、当然廊下ですれ違った時のマナーもあります。

 しかし、本来四天王様とすれ違った時、妖魔は“立ち止まって”頭を下げる必要はありません。

 なぜなら、それは悪魔が行うことで、妖魔の場合は多少首を下げる程度でいいからです。

 

 しかし、私の場合は悪魔上がりの妖魔なので、下手に妖魔のように振舞うと「傲慢だ」と陰口を叩かれる可能性があります。

 なので、懸念点を減らすためにも“立ち止まって”から頭を下げました。

 

「あなた、アリアのところの妖魔だったわね」

 

突如、オリビア様が話しかけてきました。

 こうなると、元悪魔としてではなくアリア様の妖魔として振る舞う必要が出てくるので、顔を上げて四天王様と目を合わせました。

 そして、オリビア様の問いに答えます。

 

「はい、ソフィアと申します」

 

「元悪魔といえども、今は第一妖魔なのだから相応の振る舞いをした方がいいと思うわ。

 アリアの指示だと言うのなら別だけども」

 

驚きました。オリビア様は、私が元悪魔だと知っていたようです。

 

 実績も経歴も不透明な他の四天王様に対して、オリビア様はもともと妖魔として活動していた方です。

 ですが、私とは一切関わりがありませんでした。そのため、ただの悪魔でしかなかった私のことを認知していただいていたとは思ってもいませんでした。

 

 そして、オリビア様の指摘にも納得します。

 たしかに私は元悪魔ですが、それ以上にアリア様の第一妖魔です。第一妖魔が悪魔のような振る舞いをしていれば、他から舐められる可能性があります。

 それをわざわざオリビア様は指摘してくださったのです。その指摘をしたところで、自分には何一つとして得がないというのに。

 

「いえ、私の自己判断です。

 ご指摘ありがとうございます」

 

私が本心から感謝を伝えると、オリビア様は私に微笑みました。

 

 改めて、オリビア様の様子を観察してみました。どこか急いでいるような、何かに追われているような様子に見えます。

 今世の我が家の家訓には、“恩や仇は十倍にして返せ”というものがあります。

 オリビア様から受けた親切を、何らかの形でを返したいと思いました。

 

「オリビア様、お忙しい様子に見えますが何かありましたか?

 よろしければ、なにか私にできることはないでしょうか」

 

「あなた……いえ、アリアの部下を勝手に使うことはできませんわ」

 

「仕事はすべて終わらせましたし、もし緊急の用事があればすぐに私の耳に入るようになっていますから、ご安心ください。

 それに、忙しいということ自体は否定されませんでしたよね」

 

「……わかりましたわ。

 正直、ゴブリンの手も借りたいくらいですので、手伝っていただけますか?

 詳しくは歩きながら説明しますわ」

 

「かしこまりました。

 お隣を失礼させていただきます」

 

そうして、私はオリビア様の横に並び、廊下を歩きました。

 

 説明、といっても状況は単純でした。

 仕事が大量にあり処理が追い付いていないらしく、火の車のような状況のようです。

 

 おそらく、本来アリア様や他の四天王様に行くはずの書類が、全てオリビア様に行っているのでしょう。

 他の四天王様のことは詳しく知りませんが、アリア様の部下に関しては未だに妖魔や悪魔が増えていません。必然的に、人数が集まっていて元妖魔として信頼のおけるオリビア様に仕事が割り振られるのも納得できます。

 

 四天王様の仕事の割り振りは魔王様が行っています。

 その仕事を四天王様が妖魔へと割り振り、妖魔は悪魔へと割り振ります。

 もちろん、部下へ割り振らなかった仕事を四天王様や妖魔が自ら処理することもあります。全部を部下に割り振ったら、部下が過労死してしまいますからね。

 

「つきましたわ」

 

そうして案内されたのは、オリビア様の執務室でした。

 オリビア様が扉を開けると、同時に中から重苦しい魔力が充満した空気が外へ放り出されれました。

 

 妖魔の自分でも、一瞬顔を顰めそうになるほどの魔力です。

 基本、魔物は戦闘中など意識を集中させたい時に魔力が高まり、濃縮された重苦しい魔力が放出されます。それらが空気に混じっているのでしょう。

 ですが、そんな空気になるのも仕方ないと納得できます。その、まるで壁のように積み重なった書類たちを見れば。

 

「短い時間で構いませんわ。

 なので、どうか少しでも手伝ってください」

 

そう言って、オリビア様は頭を下げました。

 四天王様が頭を下げるなんて!!? 首が飛んでしまいますよ!! 私の!!!

 肝が冷えて、慌てて言葉を投げかけます。

 

「あ、頭をお上げください!!

 微力ではありますが、私にお手伝いさせてください!」

 

「ありがとう、ございますわ……」

 

オリビア様は本当に追い詰められたような表情で、そう感謝の言葉を言いました。

 

 ようやく、魔力で張り詰められた空気に慣れてきた私は、空いている机を借りて書類の処理を始めました。

 この書類量……数日で終わる量ではないでしょう。だから、他の魔族も魔力、もしくは魔法を使って処理をしているから、こんなにも空気に魔力が満ちているのです。

 

 この書類の量が滞納されているとなると、魔王軍の中枢で働く者たちのもそれなりに悪い影響が出ていそうですね。

 それはつまり、魔王軍全体の仕事が停滞しているという意味です。

 

 下っ端から成り上がった身として、それは決してあってはならないことだと感じます。

 

 ――【伝説の労働者(ブラック・サラリーマン)】……それと、【それは上から裁定する(アブソルート・バランス)】。

 

 私の魔法を使い、自身の労働能力の向上と、判断能力の向上を行いました。

 正確にはもう少し細かい能力なのですが……それは今はいいでしょう。

 

 この書類の中にはオリビア様の部下じゃないと処理できない書類もあるでしょうし、それ以外の書類は全て片付けてしまいましょう。

 定時までに……終わりそうにないですね、これは。




誤字修正
 妖魔は“立ち止まって”頭を下げる必要はあります。
→妖魔は“立ち止まって”頭を下げる必要はありません。

s-cReamさん、誤字指摘ありがとうございました!



Q.投稿が遅くなったことについての言い訳は?
A.り、リアルが忙しくて……(汗)

Q.【】のやつって何ですか?
A.主人公の魔法です。詳細についてはいつかまた
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