転生したら、魔王様の部下の部下になりました   作:白紅葉 九

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第六話 リスタート、もしくはエンド

 現在定時を過ぎ、夜中の十時手前です。

 やっと執務室にある書類のほとんどが終わったので、ようやく一息を入れることができます。

 

 それと同時に、魔力の回復をするために魔法を解除します。

 さすがに二つの魔法を同時に使うのは疲れました。二つの魔法と言っても、同じ属性ではありますが。

 

 四属性のオリビア様が火、水、土、風という四つの魔法を扱うように、私も複数の魔法を操ります。といっても、私の扱う魔法は、それで言うと十や百は余裕で越えるのですが……。

 

「皆様、お疲れ様でしたわ……!」

 

オリビア様は疲れを感じさせないように、そう声を張り上げました。

 しかし、明らかに疲労が感じられる目も含めて、空元気であることは簡単に見抜くことができます。

 

 しかし、オリビア様の声に呼応するように、部下たちも空元気で声を上げます。

 “仕事が終わった”。そういう雰囲気で、未だに残った優先度の低い書類や明日になったらまた増えるであろう書類から目を逸らして。

 

 ……これはいけませんね。

 しかし、私が軽々しく口を出していい問題でもないでしょう。

 

 それでも、お節介を掛けたくなる辺り、私も魔王軍に対して愛着が湧いているのかもしれません。

 忠誠。誓ったものを何事よりも優先すること。ようやくその意味がわかったかもしれません。

 

「オリビア様、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」

 

「構いませんわ!

 何でしょうか?」

 

「ここでは何ですから、別室で話しませんか?」

 

私がそう言った瞬間、オリビア様から殺気の混じった魔力が私へ向けて放たれました。

 

 これはッ……ずっと受けていられる自信は、ありませんね。

 まるで流れの強い川の上で立っているような、風の吹き荒れる渓谷の中心で飛行しているような、そんな感じです。

 

 当然、それほどの魔力ですから、部屋にいた魔物全員がこちらを見ました。

 中には、私よりも苦しそうな表情をしている悪魔の方もいます。

 

 長時間話すのはダメそうですね。

 それは、魔力を直接受けている私も同じですが。

 

「ここでは話せないこと……という意味ですか?」

 

「……いえ、そういった意味ではありません。

 では、失礼ながらこの場で話させていただきます」

 

私がそう言うと、多少向けられる魔力が軽くなりました。

 思わず安堵の息を吐きたくなりましたが、今は我慢します。

 

 しかし……オリビア様には現状が見えていないのでしょうか?

 自分の部下でもない私に対して親切心を向けるくらいですし、本来のオリビア様は優しい心の持ち主なのでしょう。

 ですが、現在は心身の疲れからか、周りを見る余裕さえなくなってしまっているようです。

 

 私が別室を提案したのは、もちろんそれ以外の意図もありましたが、仕事終わりで疲れている皆さんを巻き込まないためでもありました。

 疲れている方たちの前で、四天王様と妖魔の私が魔力のぶつかり合うような話し合いをすれば、私以上に悪魔たちが疲労するでしょう。

 

 私は元悪魔ですが、実力でここまで成り上がった身分でもあります。

 優秀な種族に生まれたとか、権力や人脈を駆使してここまで来たようなボンボンたちよりかは強い魔力を放てるでしょうから。

 

「単刀直入に申し上げさせていただきますが――この書類の量は、異常ではないでしょうか」

 

「続けなさい」

 

空気が張り詰めます。うまく空気を吸えません。

 これなら、吸わない方がいいでしょう。

 私は人間ではなく魔族なので、空気を吸わなくても数十分は持たせることができます。

 

 明らかに、オリビア様は私に対して憤怒しています。

 いやぁ……これでは話し合いをやめた瞬間、何度首が飛ばされるかわかりませんね。

 まるで、「最後の言葉は何がいい?」と問いかけられているようです。

 

 それもそのはず、オリビア様の書類の量を批判することは、その仕事を割り振った魔王様を批判することに直結します。

 ははは……これでは首が何十回飛ばされるのか、わかったものじゃありません。

 

「オリビア様やオリビア様の妖魔、悪魔の方々は、ここ最近しっかりとした睡眠を取ることもできていないように見えます。

 このような健康状態が続けば、仕事でのミスが増えたり、仕事の能率が悪くなったりする可能性があります」

 

うまく隠してはいますが、全員が目に隈をつけています。

 おそらく、執務室を出た後も自分の部屋で仕事をやるのでしょう。

 全員が全員、周りに悟らせないように、“周りに”心配を掛けさせないように。

 

 ……いや、正確には“周りに”ではなく、“オリビア様に”でしょうか。

 

「続けなさい」

 

とんでもない威圧感が私を襲いました。

 そのまま膝をついて倒れなかったのが奇跡だと思えるほどです。

 

 いえ、もしかしたら、既に恐怖に対して体が屈服してしまっているのかもしれません。

 なぜなら、もう指先一つ動かせる気がしませんから。

 

 続けなさいという言葉がなくなった後、私は何百回首を飛ばされるのでしょうか。

 怖くてたまりませんね。

 【走馬灯後の悪あがき(トゥルー・エンド)】……まだ、口を動かすことをやめてはいけません。

 

「っ……私たち上層部の処理が滞れば、影響を受けるのはそれ以下の者たち全てです。

 そうなれば、魔王軍、ひいては今代の魔王様に対する印象を悪くしてしまう可能性があります」

 

「──続けなさい」

 

──それが最後だと、本能的に気づかされました。

 

 口の端から血が流れ落ちます。オリビア様の魔力に支配された外気に触れるだけで、肌が強烈な痛みを発しています。

 これではもう、どうやっても助かる気がしません。

 

 首が何千……いや、何万回飛ばされるのでしょうか。

 【無敵無双状態(ミニット・ミュージック)】……残り数分の命なら、有効活用しないといけませんよね。

 

 体を壊すのなんて死の前じゃ誤差ですから、無理矢理にでも回復させてしまいましょう。

 【超肉体改造術(リスタート)】。これで、普通に話すことができます。

 

「オリビア様が、現状を魔王様に伝えていらっしゃるのかは、わかりませんが……。

 もし、魔王様が現状を知っていて放置なさっているのであれば……

 

 

 

 ──今代の魔王様に、魔王を名乗る資格はないでしょう」

 

 

 

あーあ、言っちゃいました。

 まるで他人事みたいに、そんな思考をしてしまいます。

 

 魔王軍において魔王様への批判は大罪で、即死です。

 ははは、これでは弁解のしようもありません。いったい、首が何億回飛ぶのでしょうか。

 

 

 

 

 

「――貴様は許されないことを言った」

 

 

 

 

 

オリビア様激おこです。

 まぁ、規範や伝統を重んじる性格のオリビア様が、魔王軍や魔王様を大事に思っているなん、考えるまでもなくわかることですが。

 首が何億回……──いや、こうなれば、もう自分を誤魔化す必要もないですよね。

 

 

 

 ──知っていましたよ、そりゃあ。

 首を何万、何億と飛ばす程度の“甘い罰”で許されるわけがないなんてことは。

 

 首を飛ばすだけなら、痛いのは一瞬です。

 魔法が存在するこの世界で、そんな楽な死で大罪が許されるわけがないのです。

 

 身体から力が抜けて、床に倒れこみます。

 流石、四天王様が相手では妖魔が束になっても勝てる気がしません。なぜなら、ただの魔力の圧だけで妖魔を戦闘不能にするのですから。

 

 ふと、視界の端に悪魔が気絶しているのが見えました。

 そりゃあ、こんな魔力が濃縮されたような空気、直接向けられていなくてもその場にいるだけで辛いですよね。

 巻き込んでしまってごめんなさい。【犠牲を出さずに勇者になれるか(ノー・デス・アールピージー)】。

 これで、ちょっとは楽になったはずですから。

 

 

 

 

 

「 そ の 命 を 持 っ て 償 え 」

 

 

 

 

 

その瞬間、激痛と共に走馬灯が脳裏を過った。




Q.魔法の名称ってどうやって考えているんですか?
A.ほとんど思い付きです。下書きの時、【無敵無双状態(ミニット・ミュージック)】の読み方はスターでした。無敵無双状態とスター……あとは察してください。

Q.主人公死にました?
A.次回、ソフィア死す──(一度言ってみたかっただけ)
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