魔法を使えば、怪我は数日も経たずに治り、すぐ職場に復帰できることになりました。
これは、相当の量の書類が溜まっているだろうなぁと思いながら、執務室の扉を開けます。
「「ソフィア様!」」
扉を開けた途端、悪魔のオーロラさんとリブさんが私の名前を呼びました。そして、私の姿を見て安堵のため息を零しました。
案外、私もオリビア様のように部下に慕われているのかもしれません。そうだったらとても嬉しいですね。
その二人の後ろから、ティナさんが現れました。
「ソフィアさん……何事もなさそうでよかったです」
「ティナさん、全ての仕事を任せてしまってすみません。
溜まっているでしょう?」
「来て早々仕事の話しないでくださいよ!
そんなんだから書類整理の鬼とか言われるんですよ!
私はよく、魔法を使って書類整理の時間短縮を行っています。
そのため、他の人よりは書類整理を素早く終わらせることができます。そのため、悪魔の時から書類整理の鬼と呼ばれていました。
魔王軍の上層部にいるような魔族は武力的な実力でその地位を得た者が多いです。
そのため、使う魔法もどちらかと言えば戦闘に特化したものが多いのです。
私の場合はこの世に存在しない超常現象……つまり、物語上の魔法を使えるので、応用性が高く戦闘にも事務作業にも使えるわけです。
ちなみにですが、魔法と魔術の違いは簡単です。
魔法を使うには使いたい魔法に適した属性を持っている必要があります。
逆に、魔術は術式を知っていれば基本誰でも使うことができます。
噂によれば、名門の家には代々伝わる秘伝の魔術があると言われています。庶民の出である私には関係のない話ですが。
「書類は大丈夫ですよ。
さっき、オリビア様のところの妖魔と悪魔の方が手伝いに来てくれましたので」
「オリビア様のところの方が、ですか?」
「はい。
……私も不思議に思ったんですが、上司が迷惑をかけたお詫びらしいです」
どちらかと言えば、私の方が迷惑をかけた気がしますが……。
また後で、オリビア様にも謝りに行かないとですね。
相当お怒りでしたし、覚悟していく必要はありますが……こういうのは早い方がいいとも言いますし。
ひとまず、緊急性の高い書類だけ片付けて、アリア様のところへ向かうとしましょう。
肉体は魔法によって完治していたので、業務には特に支障がありませんでした。
粗方の書類整理が終わり、私はオリビア様の執務室へ行くことにしました。
正直……恐怖が抜けません。
殺されるよりも辛いような痛みや苦しみを味わって、廃人寸前まで追い込まれた相手です。
理性では平常心を心がけていても、本能がその事をトラウマのように、鮮明に覚えています。
強い者はその場にいるだけで他者に威圧感を与えます。
そんな強い者が一人に向けて殺気を放てば、それは下手な凶器よりも鋭く恐ろしいものになるのです。
これはもしかしたら、妖魔の地位にある私も気を付けるべきことなのかもしれません。
そんなことを考えていたら、オリビア様の執務室につきました。
足が震えそうになるのを何とか律しようとしますが、どうにもなりません。
【
深呼吸をして、扉をノックします。
「いま開けます!」
中から声が聞こえて、すぐに扉が開きました。
こういう扉の開け閉めなどは、四天王様の部下で一番階級が低い悪魔の役割です。私も悪魔の時はやっていました。
ただ正直、私自身が妖魔になってからは、いちいち指示するのも面倒なので近いときは自分で開けるようにしていますが。
「あっ……」
悪魔の方が私の顔を見て思わずそう声を漏らしました。
よく見れば、あの時気絶していた悪魔の方です。
その反応も仕方ないでしょう。
自身の上司と口喧嘩をして、あまつさえ重罪になる発言をした相手が来たのですから。
「突然お伺いして申し訳ありません。
オリビア様はいらっしゃいますか?」
「お、オリビア様はいま、すこし出払っていて……」
そう言いながら、その方は戸惑ったように扉のなかに視線を動かしています。
どうやら、その方によればオリビア様はいらっしゃらないようです。
……いえ、もしかしたら、私はオリビア様の執務室を出禁になっているのかもしれません。
私が来たらそう言って追い返すように、オリビア様に指示を受けているのでは。
それなら、長く居座るのはやめた方がいいでしょう。
あまり頼りたくはなかったですが、アリア様にお願いして謝罪をする機会を設けてもらうなど、別の対処をしましょうか……。
「失礼しました。
それでは、またお時間が合う時に──」
私が言葉を言い切る前に、部屋の扉が大きく開きました。
どうやら、妖魔の方が扉を開けたようです。見れば、その方もあの時の現場にいた方でした。
そうでした。オリビア様に謝ることばかり考えていましたが、その場にいた方にも謝らないといけませんでしたね……。
しかし、私が口を開く前に、その妖魔の方の口が開きました。
「ソフィア様、ラリッタリチェが失礼しました。
どうぞ、中にお入りください!」
「えっ、と……よろしいのですか?」
思わぬ提案にそう聞き返してしまいました。
「どうしているのか」と怒られる覚悟はしていたのですが……。
「はい、もちろんです。
リチェ、お茶をご用意して」
「いえ、すぐに帰りますからお茶は大丈夫ですよ」
「す、すぐに帰られるのですか!?」
私が居ても変な空気になるだけだろうという考えから来た配慮だったのですが、その妖魔の方は私の言葉に過剰に反応しました。
まるで、私に帰られたくないと言っているようです。
その想定外の反応に私が困惑していると、その方は突然落ち込んだような表情になって、意外なことを言ってきました。
「やはり、怒っていらっしゃいますか……?」
怒っている? ……私が?
いったい、何に対して怒るのでしょうか?
意味がわからず戸惑っていると、その方は私の反応を見て勘違いしたのか、悲痛そうな顔で言葉を続けました。
「そうですよね……オリビア様は、ソフィア様を殺しかけました。
当然、許してくれるわけがありませんよね……。
でも、これだけはお伝えしたかったのです。
本当に、申し訳ありませんでした」
許す? 誰が誰を、ですか?
オリビア様が私を殺しかけたのは事実です。
ただ、彼女の言う文面だと、まるで私がオリビア様を恨んでいるようではありませんか。
しかも、私に謝罪までしています。
これは、絶対に誤解を解かなければいけませんね。
「……どうやら、何か激しい思い違いをされているようですが、別に私はオリビア様を恨んではいません。
私の行動は処罰されて当然のものです。
オリビア様の行動が魔王軍において最も正しいもので、謝る必要はありません」
そう、ハッキリとものを言いました。
以前の私であれば、どこか濁すように言っていたかもしれませんが、今回の一件で私のなかの何かが大きく変わったような気がします。
一番は、私の信念の中に魔王軍をより良いものにする、という考えが現れたことかもしれません。
いままでは、組織に属しているという理由で最低限のことをやっているだけに過ぎませんでしたから。
「私の方こそ、本当に申し訳ありませんでした。
四天王様との喧嘩に皆様を巻き込んでしまいました。
仕事終わりでお疲れな時に、大変失礼いたしました」
私がそう言うと、妖魔の方はぽかんとした顔で私を見たまま固まってしまいました。
まるで、さっきまでの私の反応と同じで、何を言っているのか理解できないといった表情に見えます。
「あっ、あのっ、ソフィア様!!」
その時、扉を開けてくれた悪魔の方……リチェさんが私に話しかけてきました。
「ありがとうございました!
あの時、私たちを守るために魔術を使ってくれたって聞きました!!」
……なるほど、流石に気づかれていましたか。
オリビア様は頭に血が上っていたようで気づいている様子はありませんでしたが、妖魔の誰かが気付いたのでしょう。
しかし、上司と口論していた相手に、わざわざ感謝を伝えるために声をかけるというのはなかなかできることではありません。
やはり、オリビア様は素晴らしい部下を持っていますね。まぁ、部下に関しては、私たちのところも負けていませんが。
「その様子だと、何も異常はなさそうで安心しました」
私はそう言って微笑みました。
私の表情を見て安心したのか、リチェさんは何度も頭を下げます。
ちょっと意外です。てっきり、ここの全員から嫌われたものだと思っていましたから。
「私たちからも感謝をさせてください、ソフィア様」
「様なんて、つけなくて大丈夫ですよ。
同じ妖魔なんですから」
「……はい! ソフィアさん!」
何だか、少し妖魔や悪魔の方々とのわだかまりが解消された気がしました。
どうやら、私がやったことは無駄じゃなかったみたいです。
それが私にとっては、すごく嬉しかったです。
Q.評価してくれた方が四名に増えましたよ!
A.ありがとうございます! 今回は星5という厳しい評価でしたが、見方を変えれば「まだまだ伸びしろがあるぞ! がんばれ!」という応援メッセージだと思っています!! これからも執筆活動を頑張りますので、よろしくお願いします!!
それと、リアルが忙しいため、今作の更新が今週木曜日からしばらく止まる予定です。また気長に待っていただけると嬉しいです!
改めて、評価をしてくださった
aka65535さん
本当にありがとうございます!!!!