試合が始まり、ハウとグズマはそれぞれのポケモンを出す。
「ハウはピカチュウかあ」
ハウがピカチュウを出したが、グズマのポケモンが見当たらず、僕はグズマのポケモンを探す。
「グズマ選手、ポケモンを早く出しなさい」
審判であるハラがグズマの方を見て言う。
「ククク、見つけられねえわなあ。でも、俺のポケモンは既にピカチュウに取り付いているぜ」
「何ですと?」
グズマの言葉にピカチュウが段々フラフラしてきて、仕舞には倒れてしまう。
「ピカチュウ!」
ハウが驚きの声を挙げてピカチュウを見る。すると、小さい影がピカチュウの傍からグズマの方にゆっくり移動していく。
「あれは?・・バチュルか」
現在確認されているポケモンの中で最小のポケモンであるバチュル。それがピカチュウに取り付いて電気を吸い取ったのだ。
「やっぱ、虫ポケモンに関してはグズマさんには敵わないや」
ハウは手を頭の後ろで組んで感心したような声を出す。
「でも、でんき技じゃあ無ければ良いよね。でんこうせっか!」
腕を組むのを止めると、直ぐにピカチュウに指示を出す。ピカチュウはまだ多少フラついているが、それでも加速し続けてバチュルに『でんこうせっか』を当てる。
「いとをはく」
飛びざまにバチュルはピカチュウに向かって糸を吐き、顔の部分を巻かれてしまう。
「ピカチュウ!」
視界を完全に奪われたピカチュウはどうすることもできない。
「れんぞくぎり」
グズマの指示でバチュルはピカチュウに接近し、連続で切り付ける。何度も切り付けられたピカチュウは遂に力尽きて倒れてしまう。
「どうした?島キングの孫。そんな実力じゃあ、島キングに何てなれないぜ。お前の父親の様に島巡りから脱落してアローラから逃げ出したのと同じだ。最も、俺様はそんな伝統をぶっ壊してやりたいがな」
グズマはハウや審判をしているハラに対して言い放つ。ハウは黙ってピカチュウをボールに戻した。
「確かに、俺は弱いのかもしれない。でも、俺は強くなるって決めたんだグズマさん。爺ちゃんにも勝って、父ちゃんが果たせなかった島巡りを突破してやる」
ハウは次のモンスターボールを取り出し、中のポケモンを出す。
(ハウ・・・)
審判をしているハラは自分の孫であるハウを見ていた。そして、昔を回想していた。
「全く。弟子の多くは島巡りを達成したというのに」
ハラは目の前で落ち込んで座っている息子・ハオに向かって言う。
「自分の息子に示すために遅まきながら島巡りをしたいと言うから行かせたが、途中で試練を突破できずに脱落するとは」
ハオは俯いたまま顔を上げることができないでいる。
「島キングの息子として恥ずかしい。もうお前は儂の子供ではない」
その言葉にハオは顔を上げる。
「父さん、それは」
「もう儂はお前の父親ではない。出て行きなさい」
ハラは静かに告げ、扉の方を指差す。ハオはそれを見て号泣しながら走って出て行く。
「チコリータ、はっぱカッター」
ハウが出した二体目のポケモン、チコリータのはっぱカッターがバチュルを襲う。
「戻れ、バチュル」
グズマが戦闘不能直前だったバチュルを戻す。続いて二体目のボールを手に取った。
「ぶっ壊せ、アイアント」
グズマが出した二体目はアイアントだった。
「アイアント、こうそくいどう」
アイアントが猛スピードでチコリータの懐に入る
「シザークロス」
アイアントのシザークロスが決まり、チコリータはとばされる。
「チコリータ、つるのムチ」
空中でチコリータはつるのムチを放ち、アイアントに叩きつける。
「落ちて来た所をぶっ壊せ。ハサミギロチン」
アイアントが落ちてくるチコリータに狙いを定め、ハサミギロチンを喰らわせた。チコリータは戦闘不能を示す様に倒れる。
「チコリータ、戦闘不能。第二試合、グズマ選手の勝利」
ハラが軍配をグズマの方に向けて宣言する。
「残念、やっぱりグズマさんには勝てなかったよ」
武舞台から降りて来たハウは僕の所に来て言う。
「お疲れ、ハウ」
僕は屋台で買っておいた飲み物をハウに渡す。
「アヴァかぁ。懐かしいなぁ」
ハウはその飲み物を知っているようで一気に飲む。僕も真似をして一気に飲んだ・・・・うん、独特の苦みの後に舌が痺れるような感覚だった。
「ハウ、よくこれ一気に飲めるね」
戻しそうになりながら僕はハウに言う。
「まだエネココアで混ぜた方が飲みやすいよ。貸して」
ハウはグラスを受け取ると僕が買った同じ店に行きアヴァから抽出した汁を貰って来た。そのグラスにハウは鞄から水筒を出して中身を注ぐ
「アヴァを水などで揉みだして作った汁にエネココアを容れると苦みが和らぐよ」
そう言って差し出されたアヴァを僕は飲む。・・・うん、先ほどより確かに苦みがない。変わらず舌が痺れるような感覚はあるけど。
「舌の痺れる感覚はどうにかならない?」
「そう?俺は痺れないけど」
そう言ってハウはもう一度アヴァを飲んだ。どうやら、痺れるのは個人差があるようだ。
第三試合はスカル団のオヒア、第四試合をグラジオという人物がそれぞれ勝って二回戦に進出してきた。僕の次の相手はハウに勝利したグズマである。
「先ほどの因縁があるでしょうが、両者試合は正々堂々ですぞ」
ハラがそう言って木箱を差し出す。僕がグズマの方を見ると『お前が引け』と言いたげな目で見てくる。
「では、僕が」
そう言って木箱の中に手を入れ、掴んだ紙を取り出す。紙には『1』と記されていた。
「では、使用ポケモンは一体。両者、武舞台へ」
ハラがそう指示し、お互いが武舞台へ上がった。
「ハラはああ言っていたが、俺はお前をぶっ潰すのが楽しみだった」
グズマと武舞台で対面するなり、グズマはそう言ってくる。
「潰される気はありませんが、僕は貴方との戦いは楽しみでもあった」
「ほう」
グズマは睨むように僕を見てくるが、僕は構わず続ける。
「貴方は不良みたいな事をしているが、ポケモンには確かな愛情を注いでいる。僕の第一試合の時もヤトウモリの最後の反撃にトレーナーよりも気付いていたし、負けたポケモンを責めはしなかった」
グズマが不意を喰らったような顔になった。
「ちっ、調子の狂う奴だ」
そう言ってモンスターボールを取り出す。
「さて、ぶっ壊してもぶっ壊しても手を緩めなくて嫌われるグズマ様が相手だ」
そう言ってボールを投げる。中からはグソクムシャが現れる。僕もスーパーボールを投げた。
「ララ」
ラランテスが鎌を威嚇する様に構える。
「・・・一戦目と同じかよ」
「エースはまだ出したくないのでね」
グズマの言葉に僕が答える。
「ラランテス、にほんばれ」
「であいがしら」
ラランテスが火球を作ろうとした時に近づいたグソクムシャが巨大なツメでラランテスの腹部を突き刺した。ラランテスはよろける様に後ずさる。
「大丈夫か、ラランテス?」
ラランテスは咳き込むような動作をするが、直ぐに体制を立て直して火球を放つ。辺り一面を日差しがより強く差し込む。
「またソーラーブレードか」
一回戦と同じ状況を作り出したことに当然ながらグズマは察する。
「分かってて防げるかな?ソーラーブレード」
ラランテスが光を吸収し、鎌を腰の部分で構える。そして、一気に相手との間合いを詰めて切りにかかった。
「シェルブレード」
グソクムシャはその巨大なツメを使ってソーラーブレードを受け止める。だが、ラランテスは光の刃を伸ばしてグソクムシャに到達させた。グソクムシャはダメージを受けたので抑えている力が弱まる。
「どくづき」
しかし、グソクムシャについていた内側の四本の小さなツメがラランテスに突き刺さり、ラランテスにもダメージが入る。
「あのツメ、攻撃に使えるのか」
僕は驚いていると隣にロトム図鑑がやって来る。
『グソクムシャは六本の腕で戦うロト。あの巨大なツメに目が行きがちだけど、小さな四本の腕も攻撃に使えるロト』
「ロ~ト~ム」
『おおっと、いつも同じ手は喰わないロト』
そう言ってロトム図鑑は僕が手を届かないところまで上昇する。
『グソクムシャは見た目に反して臆病ロト。そこを狙うロト』
最後にアドバイスらしきものをくれる。
「臆病・・・・なるほど」
僕はロトム図鑑が言った事を理解し、実行に移す。
「ラランテス、こうごうせい」
先ずは失った体力を回復させることにする。そして、
「はなふぶき」
はなふぶきをグソクムシャに向かって放つ。暫く受けているとグソクムシャは自らボールに戻ったのだ。
「グソクムシャ、戦意喪失。二回戦第一試合、レーヴ君の勝利」
ハラが軍配団扇をこちらに向けて宣言する。
「グズマァ!!なにやってるんだ」
そう叫んだグズマは仰け反ったかと思うとおもいっきり武舞台に頭を打ち付けた。
「グズマさん、止めてください」
スカル団のしたっぱが慌てて武舞台に上がってグズマを止める。
「ボス、大丈夫ですか?」
スカル団の二人、オヒアとレフアも上がってきた。グズマは額から血を流している。
「オヒア、お前はまだ試合があるんだろ。残れ」
オヒアと言われたスカル団の人間は「分かりました」と言い会場に残る。グズマはしたっぱとレフアを伴って帰ろうとする。
「待つのですぞ、グズマ。まだ大会は終わっていませんぞ。最後まで応援していきなさい」
ハラがグズマを引き留めようとするが、グズマは
「俺に命令できるのは、あの人だけだ。このアローラの事を憂うあの人だけだ。それに、アンタには昔こういった筈だぜ。俺はアンタの失敗作じゃない、っと」
そう言ってグズマは立ち止まらずにリリィタウンを去っていく。
「凄いぞレーヴ。あのグズマのグソクムシャを引っ込ますなんて」
試合を見ていたククイが武舞台を降りた僕の所に来る。
「ありがとうございます、ククイ博士。それよりもロトムは?」
僕が辺りを探すと
『僕はここロト』
上からロトム図鑑が現れる。
『僕のお陰で勝てたロト。泣いて感謝するロト』
「ちょっと待ってて」
僕は屋台に走って飲み物を買いに行き、帰りに唾で涙を演出して
「あ゛り゛が゛と゛う゛。こ゛れ゛は゛、お゛れ゛い゛で゛す゛」
っとロトム図鑑に飲み物を渡す。
『感謝を受け入れるロト』
そう言ってロトム図鑑は僕が差し出した飲み物を飲み、『ボンッ!』という爆発したような音と共にロトム図鑑が暫く動かなくなった。
「ふむふむ、ポケモンも
残っていたオヒアであるが、対戦相手のグラジオに負けてグズマ達同様リリィタウンを去って行った。
「遅いですなあ」
決勝前にテント前に来ていた僕だが、相手のグラジオが現れない。
「もう時間も過ぎてますし、已むを得ませんな」
そう言ってハラは武舞台に上がった。
「決勝戦で対戦予定だったグラジオ君が指定時刻になっても現れませんでした。よって、本日の奉納試合はレーヴ君の優勝とします」
その瞬間、会場は歓声に包まれる。ハウも僕の所にやって来て『おめでとう』とハイタッチする。ロトム図鑑も『おめでとうロト』と言いながらこちらに向かってくるので、僕も手を出して待ち構える
「ん?ロトム、何でそんな勢いよく来るの?」
ロトム図鑑は猛スピードで僕の顔面に突っ込んだ。図鑑の上の部分にあるアンテナであろう尖がった部分がそれはもう思いっきり突っ込んできた。
ハウは笑っていたが、この時の喧嘩は多分出会ってから今までの中で一番激しかったと思う。
「やはり、人工的に開いているから不安定になっている」
テンカラットヒルと呼ばれる小高い丘の所に人間がいた。黒い長袖のシャツに黒い長ズボン着ている少年、服の所々にファスナーを付けて補修されている。
「実験が思ったより進んでいるようだ」
少年が金髪を掻き上げるようなポーズをしたのち、手で顔を隠すような仕草をする。
「ヌル、お前の出番が早まっているかもしれない」
ヌルと呼ばれた生物はその少年の横に来る。鳥類を思わせるような鋭い鉤爪状の前脚、鱗のような模様がある後ろ足の四足歩行、魚のような尻尾や鳥のようなトサカを持っているが、異様なのはその頭部。完全に頭部を覆っている仮面を持つ生物だった。
「それまでにもっと強くならないと」
少年はヌルと呼ばれた生物の背に跨り、移動を開始した。
「代表、先ほどメレメレ島のテンカラットヒルにてウルトラホールの反応が短時間ですがありました」
海上を飛んでいるヘリの機内で男性は代表と呼ばれた女性に話しかける。
「そう」
女性は興味なさげに報告を聞き流す。
「支部長、この確保したポケモンを使って安定したウルトラホールを形成できないの?」
代表は黒い鎖で繋がった檻を支部長に見せる。
「は、現在装置の調整中です。近いうちにそのポケモン。コスモッグを使って安定したホールを形成できるよう努力します」
支部長はそう代表に伝える。
「・・・・期待しているわ。本部に急いで」
支部長に言葉とは裏腹に全く期待している様に聞こえない声で言い、操縦手には本部に戻るよう指示を出した。